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59 納得のいかない不満

それは、彼女が初めて自分についての不満を口にした瞬間だった。

当然、今までも喧嘩やちょっとした誤解で言い合ったことはあったけれど、それはお互い受け入れているところがあったからで。


「夏海と話さないでほしい。」


その日、片瀬と話をしたその日の夜に、突然いつものように家にやってきた狂花に言われた言葉だった。

彼女の言葉は真剣で、どういう気持ちでそれを言っているのかというのも声だけで伝わってくるほどに真っ直ぐと伝わってきた。


「どうして?どうして話せるの?あんなことをされたのに……」


何故と問われた。自分でも異常だとは思っている。本当なら自分をいじめていたやつとなんて会いたくもないだろうし、ましてや話すなんてありえない話だろう。


「あんな奴突き飛ばしてやればよかったんだ……突き飛ばして、もう二度と関わってくるなって言えばいいだけなのに……分からない。今の夏輝の気持ちが私には分からない。」


狂花の表情は変わらない。ずっと真剣なままで、でもどこか悔しそうにも感じれるような言葉で。


「少しは、夏輝の気持ちが理解できてきたのかなって……最近は思えてきてたんだけどね……うーーん、難しいねやっぱり。」


納得いかない。そういった意思を感じる表情になった。


「これは私の勘違いかもしれないけれど、夏海は多分、私が分からない夏輝の苦しい部分を理解しているような気がする。正直言って悔しいけれど、それは……まだいい。許せないのは、夏輝が話しやすそうにしているところ。」


事実ではあった。お互い吹っ切れているのと、お互いの事情を自分の事のようによく知っているからこそ、気を遣わずに狂花とは違った言い合いができる存在。それが片瀬夏海だと自分も認識している。

恐らくは、当事者同士で加害者と被害者という仲を分かった上でお互い今からの仲を作ろうとしているのだから、その点に関して言えば自分の事以上に分かりあってる部分はあるかもしれない。


「話しやすい……確かにそうかもしれない。けど、それは狂花が思っているような意味じゃない。お互いが嫌っていてそこで吹っ切れているからこそというか……」


「それは違うよ夏輝。うん違う。だから、納得いかない。彼女とはもう、話さないでほしい。夏輝がどうして夏海を許そうとしているのか分からないけれど、アレを許しちゃ駄目だし、許さないでほしい。」


「俺が今片瀬と話しているのは、許すか許さないかを決めるためじゃない。今が幸せという前提がある上で、今が幸せだから、過去の悪いところと向き合えている。ただ単に、向き合ってるだけだよ。」


「私じゃ夏輝を変えることはできないってことでしょ?それができるのは、夏海だけ。分かってる。二人の問題だもんね。結局は当事者同士が一番。分かってるけど……納得いかない。だから、それがとっても不満だと私は言ってるの。夏輝。」


この日の夜、俺たちは出会って以来、初めて怒りではなく、今までのような軽口とかでもなく、お互いの言葉と感情を、はっきりと否定的な言葉と感情で、ぶつけあったのだった。

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