58 変わってほしくて、変わってほしくなくて
片瀬夏海について、思うところは沢山ある。
まず一つは、何故、冬川夏輝に対してあそこまで執拗に攻撃をしたのか。ありもしない噂で攻撃をした理由は何か。
「夏輝、ちょっと外に行ってくるね。」
片瀬夏海が夏輝の家に来て数十分。夏輝と会話をさせたくなくて、私は夏輝にそう言って彼女を外へと連れ出した。
「どういうつもり?正直、もう夏輝にも私にも関わってほしくないんだけど。」
「……まだできない。まだ何もしてないから。」
「意味がわからない。言いたいことがあるならはっきり言ってよ。何回も何回も関わろうとしてきて、一体何がしたいわけ?ありえないから。」
「だろうね。知ってる、ありえないって。でも少しだけ、我慢してほしい。何かが、言えそうなの。」
「……は?あんた本当に何言って……」
そこまで言って、途中で言葉が止まる。我慢したわけじゃない。ただ、正面に立つ彼女の腕が微かに震えているのが見えて、そっちに意識がいってしまっただけのこと。
「……最悪。好きにすれば?でも、私はあなたを絶対に許さないから。」
問い詰めて相手を怖がらせ追い詰める。自分が嫌なことをしているという事実が、私を引き下がらせた。
「ありがとう。」
彼女はそう言うと、頭を下げたあと夏輝の部屋へと戻っていく。
(夏輝は……どう思っているんだろう……)
本当に自分が嫌になる。散々と夏輝が前を向くことを願い、そうなる様に行動してきた。
(なのに……)
どれだけ時が経っても嫌な記憶は消えない。前を向く、と夏輝は言って私は喜んだけれど、前を向くのに重要な流れを夏輝も私もしていない。
消えない嫌な記憶との向き合い。そこに対する自分なりの満足のいく答えがお互いまだだせていない。
だからこそ、今の状況にとても腹が立っている。その過去の向き合いに彼女、片瀬夏海の存在は必要不可欠だからだ。
きっと話し合えば変わることは沢山あるだろう。きっと自分なりの満足のいく過去への答えも見つかることだろう。
「嫌だ……」
片瀬夏海と話し合ってほしくない。許してほしくない。ずっと怒っていてほしい。私を頼い続けてほしい。
だって、私と冬川夏輝の関係を繋いだのは、片瀬夏海の行いがあったからなのだから。
もし、話し合った結果、綺麗すっきりさっぱりと彼の中で答えがでてしまった時、私と彼の関係を力強く繋いでいた過去という糸はきっと切れてしまう。
幸せになってほしい(私で)。報われてほしい(私と一緒にいることで)。ずっと傷口の近くで寄り添っていてほしい(私と共に)。
「……うん、このままでいい、このままで、いいの。」
片瀬夏海を威勢よく呼び出したものの、自分のことが、またより一層嫌いになっただけで終わってしまった。
そして、それと同時に自分の中で、道が一つになったのを感じた。
「そうだよ、悪い虫がまたよってこないよう、私がちゃんとしなきゃ。私と、夏輝だけの関係なんだから。しっかりしろ私!」
そして私も、二人のいる部屋へと戻った。




