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57 片瀬夏海

悪意があったわけじゃない。


「冬川、嘘の告白をしたって勇気をだして相談をしてくれたこの子が、嘘をついてるって言いたい訳?」


「狂花っていったけ。バスケ部の。あの子最近ノリ悪いよね。感じが悪いというか。」


どちらも、特に後先考えることなく日常の会話として友人に言った言葉だった。その後にあんなことになるなんて思っていなかったんだ。


「冬川、また違う子に嘘の告白したらしいよ……酷いよね。ね?片瀬さんもそう思うよね?」


「うん、そうだね。」


一つは、知らない噂が広まり、いじめのようなものが始まった。私の知らないところで、冬川の嘘か本当か分からない悪い噂が流れるようになった。


「狂花、今日もみんなに冷たい態度をとったらしいよ。片瀬さんの言う通り、あの子冷たいよね。片瀬さん、あの子前からそうだったの?」


「えっ……あっうん。そう……だった。」


もう一つは、夏和狂花という一人のクラスメイトの評判をどんどんとと下げていき、孤立させてしまった。


本当に、悪意があったわけじゃない。何気ない日常の会話で、勢いで言ってしまった言葉だった。


(なに……私の……せい?)


冬川夏輝の姿がどんどんと病んでいくのを見て、夏和狂花が全く部活に行かなくなったのを知って、もうどうしていいのか分からなくなった。

悪意がなかったとしても、きっかけを作ったのは私で、でも今更どうしろというのか。

流れはできてしまっていて、それに逆らったらどうなるかなんてその流れを作った私が一番理解している。


(……上手く、上手く立ち回らないと……)


だから、悪い奴になりきった。冬川と狂花のことを心配してしまうと、心がどうにかなってしまいそうだったから。自分を肯定して、自分も流れの一部だと思うようにして、悪い奴になりきった。

そうしている間に、後悔を更なる後悔で上塗りしたまま、中学生活は終わりを迎えた。


「疲れた……」


被害者面をするなと思われるだろう。それでも私は、自責の三年間で疲れ果ててしまった。だから、誰もいないであろう少し地元から離れた高校へ行くことにした。


「そこで上手く立ち回ろう……」


人の悪口を言うのも、陰口を言うのも、もう懲り懲りだ。だから今度は良い人になろうと、優しい人になろうとした。


「片瀬さんって、八方美人だよね。」


「分かる。何言ってもなんかその場に合わせた言葉?って言うのかな。自分がない感じの、ずっとヘラヘラしてるよね。」


だが、そんな都合のいい話になるはずがなかった。因果応報というのだろう。私はすぐに孤立し、皆に悪く言われることのしんどさを身をもって知ることになった。


「はは、当然……っちゃ当然よね……」


そこでもう駄目だった。我慢ができず、帰りの道の途中にある公園で、今まで考えないようにしてたことも全て溢れ出してきて、泣かずにはいられなかった。

そしてそこを冬川にみられた。ここでまた、何かを言われるに違いないと思った。そうされるべきだと。いや、そうしてくれと願った。


「笑ってくれていいぜ。高校デビューって笑われようが、俺は変わるって決めたからな。もう性悪女のことなんてなんとも思っちゃいない。」


それなのに、冬川は私に対しそう言った。夏和狂花も、同じく前へと進んでいた。

二人は、私のせいでうけた理不尽な現実を乗り越えていた。


(何か……何か……何かないだろうか?)


二人とは時々会うようになって、笑ってる二人をみて、私は二人に何かをしなければいけないのではないかと感じた。

それが何なのかは分からない。でも、もう自分の罪から逃げたりなんかしない。彼と彼女とここでもう一度出会い、関わりを持てたことには必ず意味があるはず。


「い、一旦落ち着こう2人共!そうだ、片瀬はどうして今日、俺の家に来てたんだ?何か俺に用でもあったんじゃなかったのか?」


だからこれは自己満足だ。自分勝手で最低な私が、彼と彼女に謝りたくて、勝手に向き合うだけの、ただそれだけの時間だ。


許しはいらない。ただ伝えたい。この後悔と謝罪を。




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