54 私の世界
怪我をしてた頃、何もかもが上手くいかなかった時の話だ。
「辛抱強く頑張ったら、きっと上手くいくよ!」
「辛いだろうけど、ここを乗り越えたらきっと良くなるよ!」
「不安になる気持ちは分かるけど、今は我慢の時よ。」
友達、先生、親、私を励まそうとした人達の言葉だ。
きっと皆は優しさからそういう風に声をかけてくれてたんだと思う。
でも、どれも私の心に響いたことは無い。
我慢も辛抱もどれも嫌いだ。心が挫けたり、心が壊れたりするほどの出来事が自身の身におきたとき、その人自身が余程脳天気な人物でないかぎり、その時点で人生は詰んでいると私は思う。
心にできた傷は、たとえ治ったとしても傷跡が未来永劫残る。
私の傷も、何一つ治っていない。けれど、前を向けてるのは、立ち止まるのが勿体ないと思ってしまうような人が前に居てくれるから。
その人は、自分自身も沢山傷ついているはずなのに、後ろにいる私を気にして一緒に前へと手を差し伸べてくれた人。
しつこすぎるほど差し伸べられた手ではあるが、今はその手をとても大事に握り返している。
言葉だけじゃなく、行動で救ってくれた人。だから、私もそうする。
彼が辛そうにしていたら強引にでも彼の世界に割り込んで、無理矢理救ってみせる。彼が楽しそうにしていたら、そこに私が居たらより良い。
我慢せず、躊躇わないこと。これまでも、これからも。そうやって前にいる人に、いつか隣に並び立つことができたら私は嬉しい。
それ以外の関係なんて、今はどうだっていい。
―
朝起きるといつもすぐに支度をする。
「今日はどっち着ていこうかな。」
部屋の鏡の前で先日買った服を見比べる。可愛いと思って買ったのはいいが、結局最後まで決断つかず朝の時間帯になってもまだ迷っている自分に呆れる。
今は朝の五時半。今日は夏輝と九時に待ち合わせをしている。夏輝が起きるのは七時だ。弁当やらを用意することを考えると迷ってる暇はないのだが、やはり褒められたいという気持ちもあり、中々決められずにいた。
「うーーん、こっちでいっか……」
服の選びは本当に難しい。それが終わるとすぐに弁当の支度をする。毎日被らないように細心の注意をはらいながら作っているが、これもまた難しい。
「よし、行くか。」
それらが終わったら夏輝の家へと行く。できるようになるまで練習が必要だったが、今では二階の窓の鍵を開けるのは一番簡単な作業になった。
後は夏輝が起きるまで夏輝の部屋でくつろぐだけ。私の朝の日常はこうやって始まる。
「ふふ、今日もよく寝てる……」
他の人に比べると、少しだけ思い切った行動が多いとは思うが、私はこれでいい。結果論になってしまうが、お互い破滅的だった時に出会った私達には、これぐらいの少し変わった関係が良かったのかもしれない。恐らく、普通に出会っていたら付き合うとまではいかなかっただろう。
もう自身の本当の気持ちを隠し、一人辛抱するなんてしない。そもそも、辛さを抱くと書いて辛抱という言葉が私は大嫌いだ。
まだまだ足りない。気持ちを伝えあって尚膨らむこの気持ちを伝えるには、時間がまだまだ足りない。
「今日は、どんな日になるかな。」
私の日常は、確かに良い方向へ変わりつつあった。




