46 仲の悪い奴だが、仲はある
嫌なことは連続しておこる。一体誰が言いだしたのか知らないが、日頃からよく痛感させられる言葉であり、とても嫌な言葉だ。
特に、これから嫌なことがおきると分かっている状態での連鎖的不幸ほど精神的に疲れるものは無い。
「……マジかよ。」
今だってそうだ。火曜日、帰り道には昨日の月曜日と全く同じ光景が目の前にある。暗くなった空に、少し先にある公園のブランコに、よく見ると肩を震わせている女子高生が一人座っている。
その女子高生のことはよく知っている。名前を片瀬夏海。遠回りになるが帰り道を変更せずこのまま進めば、昨日と同じくめんどくさい事になるのは火を見るより明らかなこの状況。
(何も言わず、何も見ず、こっそり横を通り抜けるか。)
昨日は不意の出会いだったのもあって立ち止まってしまったが、今回はそうはならないよう、極力横を見ずに歩いてやり過ごすことにした。
(絡んで昨日みたいにぶん殴られるのは勘弁だし……)
そうして赤の他人のように横を通り過ぎようと横を通った時だった。
「ひっぐ、うう、どうして、どうしていなくなっちゃたの……一人は寂しいよぉ……」
感情を隠す気のない涙声で、そんな言葉が聞こえてきた。
(あぁ、耳を塞いどくんだった……)
どれだけ嫌いな奴だったとしても、知っている仲で、これを聞いてそのまま放ったらかしにして帰るのはできなかった。
罪悪感をいい感じに煽られ、気づいたら彼女の前まで歩いていってしまっていて
「ん。はぁ、クソ。どうしたんだよ、昨日も泣いてたろ。」
気づいたら俺は、彼女にティッシュを渡してしまっていた。
―
「うっ、うう。ごめんありがとう。」
「別に。あんだけ近くで泣かれたら誰だってこうなるだろ。」
これが本当に見ず知らずの赤の他人なら何も言えず、何も見てなかったかのように通り過ぎることができたのだろうけれど、どうやら俺は、赤の他人以上となるとそれができなくなるらしい。
「それで?どんな悲しいことがあったんだ?」
隣のブランコに腰かけ、昨日に引き続き今日も号泣するほどの出来事に対し、何か言ってやれる自信があったわけでもなかったが、俺は彼女にそう直球で聞いた。
すると、彼女はポケットから携帯を取り出すと、一枚の写真を見せつけてきて
「私の大好きな……配信者さんが引退しちゃうの……」
「……は?」
そこに映っていたのは、全身を黒ローブで身を包み、水晶玉を左手に持った胡散臭さが滲みに滲みまくっている占い系配信者で
「でも、フォロワー七人でしょ?こんな話、誰にも相談できなくて……うぅ私、悲しくて悲しくて……」
「……ごめんティッシュ返してくれる?ついでに俺の優しさも。」
「なっ!どうしてよ?!」
「心配して損したって言葉、こういう時に使うんだろうなぁ。いやぁ、帰るわ。」
「はっ、はぁ?!コレは一大事件よ?!冬川には分からないわよ!推しが……あぁ、思い出したらまた涙が……うぅ。」
この状況を、中学生の俺が知ったらきっと大笑いすることだろう。それだけ、片瀬という人間のイメージが変わった瞬間だった。
「お前、中学生の時から性格変わり……いや、知らなかっただけでこれが素なのか?まさかあの片瀬がこんなことで公園で泣いてるなんて……ふ、ふふ。」
「冬川のくせに何笑ってんのよ。」
「いや、ぷっ、ふふ。こうなっていくんだなって思っただけだ。」
「はぁ?意味分かんないんだけど……」
片瀬夏海。夏和狂花と同じで、自分の人生を大きく変えたもう一人の人物。もう一度出会った時、何を思ってどんな風になるのか、色々と考えていたが、答えはそれのどれよりも単純な結果となった。
「赤の他人以上、仲の悪い奴未満って事だよ。」
「……はぁ?はは、なにそれ。本当訳分かんない。」
許す許さない、好き嫌いでは無い関係。向こうは忘れているのか、気にしていないのかどちらか分からないが、これが、俺と片瀬の新しい関係の始まりとなった。




