40 俺の青春と日常は、破滅的な友人達と共に
学校が好きだった。だった、になったのはつい最近のことだ。
「紫川ってさ、最近ノリ悪いよな。」
学校の放課後、トイレから教室へ戻る最中に、教室の中からそんな声が聞こえてきた。自分が所属しているグループの友人達だった奴らが、何やら自分の陰口を頑張っている最中だったらしく、運悪くその状況の中で教室のすぐ手前まで戻ってきてしまった。
「分かる。最近、勉強がー、とか、なんとか理由つけて断ってくるよな。」
「もう誘わなくていいんじゃね?」
「だなっ調子乗ってるし。」
丸聞こえだ馬鹿。そう言って教室の中へと入ってやろうかと思ったが、当然そんな度胸はなく、ただ立ち尽くすしかなかった。
(あーー、やっぱり勉強しといてよかったわ。)
中学二年生の後半から、つるんでいた友人達の遊びが過激化していき、段々とついていけなくなっていた。どこかのタイミングで抜けようと考えた結果、高校を全く別のところにしようという考えになり勉強を始めたが、もしかするともう必要無くなったのかもしれない。
「こっちから願い下げだっつーの。アホらし、帰ろ。」
友人関係というのは、いい仲間だったとしても意外と簡単に崩れていくものだ。
「あーー、うざ。もう絡んでくんな。」
教室に入り、心の中でそう言って荷物だけ取り速攻帰った。何故悪口を言われていた側の俺がこんな想いをして帰らないといけないのか。
嫌いだ。多数派が正しいみたいな気色の悪い狂った空気が嫌いだ。
「やっぱり……皆が知らないようなところで、ゆったりと新しい人達と絡んでみるのもありなのかも。」
高校は友人がいて、極力家から遠くないところを選ぼうと思っていたが、たった今そんな考えも変わってしまった。無理しない素の自分でゆったりできる高校にしよう、俺はそう決めた。
「普通の高校で、やばい奴らじゃなく普通の友人も作って……うん、それがいいな。」
勉強した日々を無駄にもしたくない。故に、少し頑張って自分のレベルよりもやや高い高校を受けることにした。
「……楽しみだなあ。」
新たな高校生活を夢見て、俺はただひたすらに勉強を頑張った。
―
月日は流れ、俺は無事志望校に合格することができ、何とか高校生になることに成功した。
ここから、理想の高校生活が待っていると思っていた。だが、それは突然やってきた。
「はぁ……どうしてこんな事に……」
クラス発表から、自身の教室へ行き席に座った時のことだ。
「あれ?紫川……陽君だったよね?紫川君も同じ高校だったんだ!」
後ろの席から聞き覚えのある女性の声が聞こえ、振り向くとそこには見覚えのある女性が座っていた。
「千川?!この高校だったのか?!」
「知っている人が二人も!よかったぁ。新しいクラス少し不安だったんだあ。よろしくね!」
「あ、ああ。よろしく。」
千川晴。一番めんどくさい片瀬グループにいた女子。クラスが一緒になったことがないため、絡みはほとんどなかったがまさか高校が一緒だとは。
「冬川も一緒なんだよ?しかも私の隣!」
「えっ?!そうなの?!」
「今は、狂花ちゃんに連れ去られてこの教室にいないけど、もうすぐ戻ってくるんじゃないかな?」
「冬川と夏和も?!」
あまり知っている人がいないであろう高校を選んだのだが、まさか後ろの席二人が既に同中の人間だとは思わなかった。それに、夏和狂花と言えば数々のやばい噂を聞くやばい女子だという噂のヤバ女子じゃないか。
「あーー、疲れた。」
そこで、そんなことを話していると、丁度冬川夏輝が席へと戻ってきた。
こちらも女子への嘘の告白などであまりいい噂を聞かない男で、やばい男子だという噂のヤバ男だ。
「今日も大変そうだったねえ。」
「ああ、全く笑えない最悪の朝だった。」
冬川と千川がよく分からない話で何やら盛り上がっていた。
「あぁ、冬川。そう言えばほら、紫川君も同じ高校だったんだよ。」
二人で盛り上がっていたはずのに、急にこちらへと千川が話題を切り替え
「うっ?!あー、よ、よう!よろしく!」
つい勢いで、挙動不審な感じで挨拶をしてしまい恥ずかしくなる。
「ああ、よろしく。陽でいいか?俺も夏輝でいい。」
「お、おう!よろしくな夏輝!」
同じ中学だったとはいえ、絡むのはこれが初めてのことだった。いや、冬川夏輝に関しては、俺だけじゃなくほとんどの人間が絡んだことがないだろう。
女子への嘘の告白。この噂が流れ始めてから、冬川夏輝には皆絡むなよという空気が学年でつくられていたからだ。彼は独りだった。その事はその空気の一部だったからよく知っている。
「はぁ……どうしてこんな事に……」
誰もいないはずの新しい高校を選んだつもりだったのに、気づいたら訳アリの同中の人間ばかりが周りにいた。
だが、真に悩める種は、その後の授業からだった。
「であるからして……」
学校の説明、それが担任によって話されている時のことだ。
「夏輝ーーー!!来たわよーーー!!」
その声と共に一人の女性生徒が思いっきり教室へと入ってきた。一応は授業中だ。授業中の中で同じ制服着た、これもまた見覚えのある顔がだ。
「な、なんだね君!授業中だぞ!」
「えっ?」
「だ、誰?」
先生と生徒はパニックだ。だが、その女性生徒、否、夏和狂花はそんな状況を気にもせずこちらへと寄ってきて
「え?え?待って待って俺何かした?!」
明らかにこちらへと一直線に向かってきており、急に怖くなってくる。
だが夏和狂花は横を通り過ぎていき、俺の横の一つ後ろである席で止まり、しゃがんで笑顔で
「全然来ないから、待てなくて来ちゃった。」
「誰も会う約束なんてしてないし、チャイムもまだ鳴ってないぞ狂花。」
「夏輝と私の問題に比べたら、チャイムなんて些細な問題よ?」
「狂花、学校ってどういうところか知ってるか?あと早く戻ってくれ。注目が凄くて恥ずかしい。」
「学校は青春ができる唯一無二の場所。それができないのは大きな問題よ?」
驚くことにこの二人、イチャイチャし始めたのだ。
「えっ?どういう事?」
戸惑いだった。なにがおきたのかよく分からないが、ただ一つ分かるとすればこの二人は正気ではないということ。いや、三人だ。この皆が黙り込んでるこの状況下で、ただ一人大笑いしているやつがいる。
「ぷっ、あはははは!狂花ちゃんって本当最高!!」
後ろの席の千川晴だ。頭がおかしいとしか言いようがない。
クラスは混沌としていた。急にイチャイチャし始めたカップルに、それを見て大笑いする女子、唖然とする生徒、そして青春っていいなあ等と言いながら泣いている何一つ注意しない先生。良いのか、それでいいのか先生。
(俺の……普通の……普通の学校生活……)
壊れた。しっかりと壊れる音がした。こいつらはヤバい奴らだとしっかりと本能が察知した。
(いや、まだだ!まだ諦めには早いぞ俺!きっと急展開過ぎて、皆止められない空気を読んでるだけだ!俺が一言言えば、学校っぽく機能してくるはず!)
明らかな異常なクラス空間の中、俺は大きく空気を吸って
「おい夏和!皆の迷……って痛っ!!」
だが、その先の言おうとした瞬間のことだった。左手首を何かに強く握りしめられ、激痛がした。一体何があったのかと左を向くと
「駄目だよ紫川君。この二人の邪魔しをしちゃあ。駄目、駄目だよ?分かる?分かるかな?」
「えっ……」
その痛みの正体は千川晴だった。先程の笑顔はどこにいったのか、とても狂気的に思える顔でこちらの手首を強く握りしめており、続いてただただ恐ろしいことを言ってきた。
「一緒に見守ろ?ね?」
「あっ、はい。」
手の力を緩めず、目が笑ってない笑顔で、圧をかけられ、もう黙るしかなかった。
(どうしよ……やべぇ奴しか居ねえ……入学するとこ間違えたかも……)
クラスは、混沌としていた。混沌としていった。そして俺は、それに段々と巻き込まれることになっていくのだった。




