30 特別な存在
今まで、誰とどんな時間を過ごしていても、心のどこかには必ず自己犠牲的な考えと気持ちが常にあった。
何かに困っている人がいたら、自分にできることがあったなら自分に損なことが起きると分かっていてもそれを実行する。ノリや空気、例え周りが笑っていたとしても、誰かが悲しんでいたらその会話や空気をぶち壊す。
やられたままじゃ嫌だったからという仕返しの意味もあったその行動のおかげで、孤独といじめはより過激化したわけだが、後悔はしていない。
その結果、知らず知らずのうちにやばい考え方だというのが自分の中で薄れていき、幼馴染を心配させ、悲しませてしまった。酷い言葉も沢山言った。
考えが変わった今では、その問題だけが解決しておらず、心残りとして胸の中に残る結果となってしまった。
「……うーん。」
自室で一人考える。結局考えが変わったと伝えたあの後、いつものように話し、笑い、解散という何気ない日常を過ごして一日を終えようとしてしまっている訳だが、やはり何もなしというのは自分が納得いかなかった。
「ごめんなさい……が、正解なのか?嫌、でもいきなりそんなこと言われてもだろうし、ありがとう……は、今日一応伝えたしなぁ。」
まさか自分が狂花との絡み方でこんな風に頭を悩ませる日がくるなんて考えもしなかった。自分の中では、心配だから放っておけないぐらいの存在だったものが、今ではほとんどの時間を一緒に過ごし、考えてしまうほどの人になってしまっているのだから、人生は本当に何があるか良くも悪くも分からないものだ。
「……やっぱり、多少重いと想われてしまったとしてもちゃんと一から、謝って伝えるべきだよな……」
どう考えても、救ってくれてありがとう、一緒にいてくれてありがとう、酷いこと言ってごめんなさいをちゃんと伝えたいという考えが頭から離れないので、結局悩みぬいた結果、直球で伝えるという結論に至った。
そしてそうと決まれば、明日の朝にでも伝えようと携帯を探したその瞬間。
「別に、もうちゃんと伝わってるからそんな事しなくても平気よ。」
自分の座っている後ろ、閉まってるはずの自室の窓から入る風の音と空気が肌に触れる感触、そして一つの声が聞こえてきて
「……さっき解散したばっかじゃねえか。」
一体いつからそこに居たのか、振り向くと、窓から侵入してきていた夏和狂花の姿がそこにあった。
「だって、今日は特別な日でしょ?」
「特別?」
「うん。お互いが分かり合えて、変われた日。だからっ!」
「えっ?!おい!」
そういった彼女が、抱きしめるかのように腕を広げ、前方から物凄い勢いで飛びついてきた。当然、その衝撃を受け止めることはできずに後ろへ倒れ込んでしまい、上へ乗られるような姿勢になってしまう。
「だから、少しだけ特別な時間を貰いに来た。」
その状態で、小さな声でそう話す彼女の言葉が聞こえる。
「……俺のプライベートはどうなってるんだ?」
相変わらずの窓開けの技術もそうだが、何より気づいたら居るというのが当たり前化してきているところに、疑問を感じずにはいられなかった。
「安心して?私がしっかり管理してるから。」
「いや、怖ぇよ。お互いが分かり合えて、変われた日じゃなかったのか?これじゃあ変わってなくないか?」
「変えない方がいいこともあるのよ。私のこの積極性は変わらない方がいいと思うの。だからこそ、心の距離も縮まったわけなんだし……そうでしょ?」
「いや、もう少しやり方というものをだな。というか、心の距離どころか物理的な距離も縮めてきてないか?」
「どちらも特別な関係だから許されるのです。」
特別とはなんて便利な言葉なのだろう。そんな訳あるかと思いつつ、こうやって話しているとまた忘れそうになるので、また雰囲気で言えなくなる前に
「……酷いこと言ったり、強くあたったりしてきてごめん。」
「懐かしいねえ。」
「一緒にいてくれてありがとう。今までも……できれば、これからも……」
「こちらこそだよ。」
そう言い合った後、少しだけ、狂花のこちらを抱きしめる腕に力が入ったところで、こちらも少し恥ずかしかったが、抱きしめ返すように腕を彼女の背中へとまわした。
言えた。言った言葉が取り消しになるわけではないが、自分の心の中にあったモヤが、ようやく消えた瞬間だった。
「今夜はもう、帰さないから。」
「いや、俺の家なんだが?帰らないつもりか?」
「今日は特別だから。」
「またそれか。便利だなあ。」
「ふふっ、特別な関係性上の特権というやつだよ。」
許可した覚えは無いが、どうやら今夜はそういうことらしい。相変わらずの行動力と積極性だ。とはいえ、なにか目に見える形でお互いの関係性が変わったわけじゃなかった。会話も、行動も、距離感も、今までとあまり変わらない。
けれど、確実にお互いの認識、意識は変わった日となったのは間違いない。お互いが認識し、お互いが気にかけている壁のある関係ではなくなったのだ。これからは、もっと別の関係となる。
それがどういう関係になっていくかはまだ分からないけれど、一つだけ言えることがあるとすれば
俺の青春と日常は、特別な幼馴染と共にあるということだ。




