27 破滅的な青春と日常の終幕
その日、いつものように彼の部屋に侵入すると、珍しく彼が目覚めており
「ん、あぁおはよ狂花。」
「あっ……うん。おはよう夏輝。」
いつもは眠ってる彼を見て、今日はどんなリアクションをとってくれるかと一人考えるのが日常だったので、その日の朝は呆気にとられた。しかも、ただの日常ではなく夏休みだったのもあって余計に驚かされる。
「起きてたのね。今日、朝早くからの用事でもあった?」
「いいや、なにも。ただ早く起きたから、たまには毎朝やってくる不審な幼馴染を驚かしてやろうと思っただけだよ。」
「……なんかムカつく。」
「たまーーには、逆転の展開もありだな!」
少し嬉しそうに笑う彼を見て、余計に悔しさが湧いてきた。次からはもっと早く、なんなら深夜辺りにはもう侵入して布団に入っといてやろうかと、思ったところである違和感に気がつく。
「……ねぇ夏輝、本当にただ早起きしただけ?」
毎日、毎朝来ていたからだろうか。なにも、いつも通りの部屋と彼を見て、普通なら何も思わないだろう。でも、何かが変わっているわけでもないその空間で、私は確かに何かいつもと違う、何かを感じた。
「何か……あった?」
何か。私はその違和感の正体を知っている。過去にも同じように感じる時があった。その時も、同じような感覚があった。一見、なんともない彼の心の中にある不安が、直接伝わってきたかのような、そんな、心配になる気持ち。
「何かって?」
分かりやすい、とぼけた言い方だ。彼は誤魔化すのが下手だ。彼が隠し事をする時はいつだって、私はこんな気持ちになるからすぐに気づく。
自分がしんどい時にずっとそばに居てくれて、今は逆にずっとそばに居るからこそなのか、私は彼のそういうところに凄く敏感だ。そしてそれは、彼もよく分かっていることで。
「……いや、言ったところで無駄か。」
「うん、無駄。何かあったなら、話してほしい。」
彼は顔を下げ、下を見た。あの時と同じように、それで全てが分かった。彼に違和感を感じた理由、その心当たりが、そのままの答えだったのだと確信する。
「……昨日、あいつらに会ったんだよ。何も変わってなかった。」
「……そう。それで?」
予想していた通りの内容だった。夏祭りが終わった直後のことだったから、何かあったのだとしたらそれだろうと分かっていた。内容は恐らく、あの時と同じだ。
「狂花……俺の考えは凄く変わった。凄く変わってたんだ。自分でも驚いているんだけど、理由は分かってる。狂花が、俺のそばに居てくれたからだ。」
ただ、彼からの答えは違った。それは、あの時の言葉とは全く違う、私がずっと求めていた言葉で
「ありがとうずっとそばに居てくれて。どうしようもない考えをしていた俺を救ってくれて、本当にありがとう。」
「……それは、本当?」
「ああ、俺はもう前を向けたらしい。どこかのやばい特別な幼馴染のおかげでね。」
笑ってそう行ってくる彼に、私は心から安堵し、喜んだ。それが嘘偽りのない笑顔だって分かったのと、特別なという言葉が聞けたのがとにかく嬉しかった。
「だから……言ったじゃない。人は変わられるし、私が助けてあげるって。」
「助け方が尋常じゃないやり方だったけどな……でもま、それだけを伝えたかったんだ。」
「こうでもしないと変わらなかった癖に。」
「ああ、本当にそう思うよ。狂花だったからだと思う俺が変われたのは。だから、うん。これからもよろしくって話!」
「これからも……ね。当然でしょ!覚悟しなさい!これからも、私があなたのそばに居るんだから!」
そこには、私のみたかった笑顔があった。作られたものじゃなくて、本当の意味での笑顔だ。
ようやく、ようやく、彼との関係が終わった。そしてようやく、彼との関係が始まった日でもあった。昔の破滅の関係はここで終わりを迎えたのだと。歪な二人の関係の終わりを、二人は笑った。今思えば、とても変な関係だったなと。ただ二人だけが知っている、訳ありの歪な関係を笑った。
そして、たった今から、私達の青春は新たな関係へと変わっていくことになる。
それはもう破滅が追いつけないほど、劇的に。




