21 自称幼馴染について4
最近、自分の中で幾つもの変化がおきている。
一つは、学校からの帰り道に愚痴を言わなくなったこと。恐らく、その原因としてあるのは当たり前のように私の家の中にいる、ある幼馴染のせいだろう。
「おう、おかえり。」
「……帰るのはやいのね。」
「慣れた。」
「私の家だけどね。」
もはや怒ったり突っ込むことすら面倒に感じるやり取りをするのは、自称、私の幼馴染である冬川夏輝だ。いきなり絡んできたかと思えば、その次は学校を一緒に登校しようとしてきたり、挙句の果てには、こうやって私の家に、私の部屋に勝手に侵入するようにもなった。
勿論、私が許可した訳では無い。事の発端は二週間前の事だ。いつものように学校から帰宅すると、見慣れない靴が玄関に並べられていた。
「……あれ?静花?」
初めは、部活をズル休みした妹がいつもよりはやく帰ってきて友達でも呼んでいるのかと思った。だが、その想像は想像以上の返答によって私に衝撃をあたえた。
「おう、おかえり。ちょっとあがらせてもらってるわ。」
玄関から少し先にあるリビングに通じる扉が開き、顔をだし、そう返答してきたのは、何故か、制服で私の家にいる冬川夏輝だった。
「え……?はぁ?!きも!!死ね!!」
「おいおい、それは驚いているのか怒っているのかどっちなんだ?」
「どっちもよ馬鹿!!なんであんたが居んの?!てか、どうやって入ったわけ?!警察呼んでいい?!呼ぶわね!」
「落ち着けよ。何もしてないだろ?大丈夫だ。俺は無害だ。」
「説得力ないから!怖いから!!」
恐ろしかった。嫌、本当に恐ろしかった。あまりの恐ろしさに手に持っていた水筒を奴の顔面に投げつけたほどだ。
「うう、警察呼んでいいか?」
顔面に直撃し、鼻を抑えうずくまる冬川夏輝が、私にそう言ってくる。
「……はぁ。あのねぇ、あんた本当にどうやって入ったわけ?返答によっては、警察じゃなくて私が直接この場で罰を与えることになるんだけど。」
「一つ、いいか?」
「なに?」
「この家で一番危ないのは俺じゃなくて、間違いなく君だ。」
「そうね。温厚で優しくて女神のような微笑みを持つ私が、思わず危険な行動をとってしまうぐらい、あなたはやばい人よ。」
一体どの口で言ってるのか。冬川夏輝は、私の想像を毎日超えてくる。
「で?どうやって入ったの?何を言っても怒るから言ってみなさい?」
「死刑宣告じゃないか。でも、本当にに信じてくれ。怪しい理由は無い。」
「問題なのは理由じゃなく行動なのよ。で?早く言いなさい。言わないと水筒で歯を全部へし折るわよ。」
「あーー!!分かった分かった!話すから!ふざけないから!」
一応冗談で言ったつもりだったのだが、そこからは冬川夏輝は真面目に話してくれた。
「たまたま外にいたら、狂花のお母さんを名乗る人に会って、事情を話したら入れてくれたんだよ。」
「……あぁなるほどってなると思った?あなた、お母さんに何話したの?」
「えっ?彼女がお世話になってますって……そしたら普通に入れてくれたぞ。あっ、お母さんを名乗る人はごゆっくりって言ってお菓子を買いに行ってくれてるぞ。」
「はぁ?!ま、本当に言ってんの?!あなた!や、やばすぎるにも程があるわよ!ストーカーを超えた大犯罪者じゃない!」
「やめろよ。人聞きが悪い。未遂じゃないか。」
「現行犯ですけど?!あなた、どういう神経してるわけ?!てか、お母さんもやばくない?!」
理解が追いつかなかった。冬川夏輝もやばいが、うちの母親も相当やばいのではないかと思った瞬間だった。
「おっ、狂花の好きなチョコ買ってあるから食おうぜ。」
「あっ、ありがとう。丁度食べたかったの。」
それからというもの、朝は学校に行き、帰りはこうやって私の部屋で軽いお茶会というか、遊びというか、そんな時間を過ごすようになった。初めはなんでいるんだ?と思っていたが、恐ろしいことに慣れるものだ。
怪我をしてから一人の時間が多く、周りと衝突する機会も増え、孤独に自分から向かっていってしまった頃と比べて、愚痴を言ったりネガティブにならなくなっているのは、なんだかんだこの何でも話し合える時間ができたからかもしれない。
そして何より、私の中で一番大きく変わったのは、孤独の時間、何かを一人で考え込んでしまう時間が、無くなったことだった。




