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騎士隊長と悪魔尋問官  作者: 連星れん
より先なるものから

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32/54

大陸暦1526年――03 薬品店の特定3


「ですが獄吏官長」マルルが控えめに手を上げた。「非合法に出回っている薬を購入したという可能性はないのでしょうか? 通常よりもお値段は張りますが、そちらのほうが足が付きにくいかと思います」

「犯人像からしてないかなー。この手の人間はできるだけ法を犯したくないと考えるだろからー。それにただでさえ人を殺しちゃってるんだからーほかのことはきちんと守ろうとするよー」


 マルルが納得するように頷く。


「しかし、先日お前はこの一連の事件の前にも、犠牲者が存在している可能性があると言った。もしそうだとしたら、薬を購入する間隔がまたズレてしまうのではないか?」

「おーレイレイにしてはいいところ突いてくるねぇ」


 珍しく褒められる。……褒められたのか?


「そうだねー今回の連続殺人事件以前にも薬を試したかしてーそれが直接的な原因ではなかったとしても人が死んでるのはもう間違いないと思うー。なのになぜー犯人は遺体を遺棄しなかったでしょー?」


 犯人は女性を尊重してるがために、危険を冒してまで遺体を遺棄しているとラウネは言った。女性に星還葬(しょうかんそう)をさせてあげるために。しかし、一人目以前はそれができなかった。できない理由があった。それはなぜか。


「……協力者?」小首を傾げて考えていたマルルがぽつりと(こぼ)すように言った。

「その通りー」ラウネが手を叩く。「ホルホルー偉いねぇ」

「ありがとうございます!」


 マルルが嬉しそうに答える。……なんとなくラウネの部下教育の仕方が分かってきた気がする。


「犯人には協力者がいるんだー。そしてその協力者が遺体を遺棄するのを嫌がったー」

「だから犯人は遺棄したくてもできなかったというのか。しかし、それなら後からそれが許された理由はなんだ」

「自分で殺したか殺していないかの違いだよー。二人組の殺人犯だとー殺したほうが遺体の主導権を握る場合が多いんだー。たとえばー殺してないほうが埋めようと言ってもー殺したほうがこのまま放置すると言えばー大抵の場合は殺してないほうはそれに従ってしまうー。これはどんな犯罪でもー犯罪以外にも言えることなんだけどー人間っていう生きものはー協力してなにかを成し遂げたときーその中でどれだけの働きをしたかによってその場の上下関係が無意識にできあがってしまうものなんだよー」

「つまりは見つかっていない被害者は協力者が殺したと」私は言った。

「そうーそしてそれが変わり目になったー」

「変わり目」

「前に言ったよねぇ? 一人目から犯行が完成されすぎてるってー」

「ああ。だからそれ以前に犠牲者がいる可能性があるとお前は言った」

「そうー。でも最初から殺し目的ではなかったとわたしは思うんだよねー。おそらく犯人はーなにかしらの目的のためにー協力者にまさに協力してもらって女性に薬を飲ませていたー。だけどーそのときにいざこざがあってー協力者が人を殺してしまったー。絞殺でねぇ。それを見てしまったー女性を尊重している気の弱い犯人はどう思うかなぁ。きっとなんてことをしてしまったと思うよねぇ。後悔するよねぇ。そうするとーどういう行動に出ると思うー?」


 遺体は協力者に反対されて遺棄することはできなかった。となるとあとは――。


「証拠隠滅か。そこで一度、薬を破棄している」


 そう私が言うと、ラウネは満足そうに笑った。


「分かってきたねぇ。その通りー犯人はそこでもう止めようと思ったはずだー。でもー彼は止めることができなかったー。だからまた薬を揃えて今度は自分の手でそれを行なったー」

「なぜ、そこで止められなかったんだろうか」


 自分の手を汚しさえしなければ、まだ戻れただろうに。


「協力者が人殺しをしたのを見たときー彼の中のなにかが満たされてしまったんだろうねぇ」

「満たされる」

「そうーだから殺しかたが完成されているんだよー」


 ……細かいことを抜きにしたら筋書きは通っている。

 だが、やはり理解はできない。

 なにが切っ掛けであれ、なにが理由にせよ、自分の欲求のために女性を殺し続けている犯人を理解するつもりはないし許せない。

 それでも、本当に犯人がラウネの言うような人物像に間違いなく、最初は人を殺すつもりがなかったのならば、彼は苦しんでいるのではないだろうか。

 罪を犯し続けている自分を恐れ、苛んでいるのではないだろうか。

 それならば早く止めてやらなければなるまい。

 ラウネの推論が正しければ犯人は犯行で薬を使い切った場合、翌日には購入していることになる。

 喉渇きの薬はまだ一回分残っているので補充しないが、一度に三回分ほど販売されるという興奮剤ならば、今回六人目の被害者に使用したことで薬が切れている。

 私は手元にある資料に目を向けた。

 喉渇きの薬が売れた時間はまちまちではあるが、最初の犯行前に三種の薬が売れた時間は日が暮れたあと、喉渇きと痺れ薬が切れた五人目の犯行の翌日にその二種が売れたのも同時間帯。つまりは。


「今日の夜、買い足すと思うか?」


 確信を得るために私はラウネに訊いた。

 ラウネはこちらを見上げると、締まりない顔で笑った。


「思うよぉ」


 ならば、することは決まっている。



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