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騎士隊長と悪魔尋問官  作者: 連星れん
より先なるものから

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24/54

大陸暦1526年――02 薬の種類4


「ホルホルよくできましたー」

「ありがとうございます!」


 マルルがいつもの明るい笑顔を浮かべた。


「では、なにが目的なんだ」私は訊いた。

「そんなの想像すれば分かるじゃんー」

「普通は分からないんだよ」


 そう。普通の人間に、殺人者の思考が推しはかれるものならなにも苦労はしない。


「やだー普通ぶっちゃってー」


 ラウネが(こぶし)を握った両手を顎の下に並べて体を揺らす。はったたきたくなる仕草だ。


「ぶってない。私は普通の人間だ。お前と違ってな」

「そりゃー私は悪魔だもんー」

「そういう意味ではない。お前は普通の人間よりそういうことに長けてるという意味だ」

「だから悪魔――」

「違う。お前は人間だ」


 言い切るとラウネは不満そうに頬を膨らませた。

 こいつは隙あらばすぐに自分のことを悪魔にしたがる。士官学校時代にその悪名が学内で広まってからというもの、自ら進んで自称しようとする。そんなラウネを私はその度に否定してきた。だからこのやり取りもいつものことだ。

 頬を膨らませたラウネが睨んでくるので、仕方なくそれを受け止めていると、その様子を見かねたのかマルルが取り成すように間に入ってきた。


「ほんとお二人は本当に仲がいいですよねぇ」


 いや、取り成してないな。私たちの気持ち次第では煽ってきているな。それ以前に睨み合っているこの状況を見て、なんで仲がいいだなんて思うんだ? あれか? 喧嘩するほど仲がいいという文言に(なら)っているのか? それに関しては前々から疑問に感じていたのだが、そもそも喧嘩ばかりしていたらそれはもう仲がいいとは言えないし、本当に仲がよければ喧嘩もしないと私は思うのだが……。


「仲よくないもんー。こんな頭がカチコチな人とはもう絶交だもんー」


 こっちはこっちでなんか子供みたいなこと言っているし……。

 私は内心でため息をつく。普段ならこのまま(ほう)っておいてもラウネの機嫌は勝手に直るのだが、それまで待っていたら一時間は足止めをくらってしまう。時間的にもそろそろ話を終わらせて星城(せいじょう)に向かいたいし、それになにより私が話の続きが気になる。

 ……全く、仕方がないな。


「私が悪かったから、話を続けてくれ」


 ため息交じりにそう言うと、ラウネが疑いの半眼を向けてきた。


「本当に悪いって思ってるー?」

「思ってる」


 思ってないけど。そもそも喧嘩したつもりもないし、なにに対して謝っているのかもよく分からない。だが、こういうときは自分に否があるようにしておけば、大抵の物事は丸く収まるというものだ。

 ラウネはじーと私を見たあと「仕方がないなぁ、許してあげよー」と言った。なにを許されたんだ私は。


「それで、犯人が薬を飲ませるのはなぜなんだ」私は話を戻す。

「わざわざ致死性のない薬を選んでるところからしてー苦しませるかーもしくは苦しむのを見ることが目的だねぇ」

「ですが獄吏官長」マルルが言った。「それでしたら三つの薬を混ぜ合わせなくとも、最初から致死性がない毒を一つ飲ませたほうが早いのでは」

「そうそこー」ラウネがマルルを指さした。「三つの薬を組み合わせたのにはーなにか(こだわ)りが感じられるんだよねぇ。ただ苦しませたいだけじゃない(こだわ)りがー。一貫して絞殺してることにもねぇ」


 ラウネが手を組んで天井を見る。


「実に興味あるなぁ。どういう心理でそれを行なっているのかぁ」


 その表情はまるで恋する乙女のようだ。もう完全に犯人に心を奪われている。

 普通では考えられないような行動をする犯人に会ってみたくて、中身を知りたくて仕方がなくなっている。

 それ自体は悪いことではない。ここまで来ればもう、途中で(ほう)り出すことはないからだ。犯人に会うために、ラウネは必ず最後まで協力してくれる。

 だとしても私には理解できなかった。

 ラウネが異常なものに興味を持ち。

 普通ではないものに心惹かれる気持ちが。

 私には……理解できない。


「ともかくにも、その薬を売っている店を捜せばいいんだな」

「それとー事件前からの販売記録もー。半月分は欲しいかなぁ」


 ラウネが文書を差し出してくる。


「分かった」私はそれを受け取り出入口へと向かう。

「あー分かったら教えてねー」

「ああ」


 それを背で聞き、私は部屋を出た。



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