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私らしい魔王討伐

作者: がじょう

ちょっと長めの話になりました。


楽しんでもらえたら嬉しいで〜す!


「ラナ! これヤバいって!! 早く逃げよう!」

「え〜? こんなに大歓迎してくれてるのに??」

「それが異常なんでしょ!? 魔王城に来た勇者を魔族が大歓迎してんだよ? 何でそれが異常だと思わないのさ!?」


白いモフモフ。もといチカからいつものように盛大につっこまれた。


おかしいなぁ。

別にボケたつもりは無いんだけど……。


ーーーーーーーーーー


私の名前はラナ。

なんの因果か、勇者なんかをやってる。


いや、なんの因果か〜とか言ったけど、なった理由ははっきりしてるんだけどね?

私的には勘弁願いたい。

はっきり言うなら、もう辞めさして欲しい。


私が『勇者』になったのは『預言者』が『予言』をしたから。

ただそれだけ。

なりたくてなったわけじゃない。


この『預言者』と言うのは世界の理を読み解き、その結果を『予言』として人々に与える人。というか職業だ。

各国に必ず数人は居て、才能があり頭もす〜っごく良い国家資格を持っためっちゃ偉い人。

それが『預言者』。

そんな彼らから『今日からあなたが『勇者』です。世界の安寧のため世界を守るため『魔王』を倒して来てください』とか言われて喜ぶ人間がいるだろうか?


いや、もしかしたらいるのかもしれないけど……。

少なくとも私は違う。

聞いた瞬間は『は? 何言ってんだこの人??』としか思わなかったし、理解してからは『マジで勘弁してくれないかな?』だったよ。


住んでた街では尊敬と敬愛と畏怖と恐怖 の目で見られた挙句、『勇者』だ『救世主』だのなんだのと祭り上げられて魔王討伐の旅に出ざるを得なくなった。


もーねー『頑張ってね!』とか『応援してるから!』とか笑顔で言われてさ、どこの誰が拒否できるのさ?

少なくとも私は言えなかったよ……。


…これ、地味にショックだったんだよ?


だって、誰も心配してくれないんだもん!!


なんで誰も心配する言葉すらかけてくれなかったのさ!?

みんなして行くのが当然みたいな顔で激励しやがって!!

ちょっとは心配ぐらいしよーよ!?

私、一応、女の子なんだけど!??


あ。

思い出したらなんかムカムカして来た。


チクショー覚えてろよ、街のみんな!! 

次に会った時には『誰だっけ?』って言ってやる〜!!!


っと、まぁそんなこんなで魔王討伐の旅に出てはや1年。

今日、やっと魔王城まで辿り着いたんだけど……。



なぜか私は魔王城の扉を開けた瞬間、熱烈大歓迎を受けた。



もう少し詳しく言うと、クラッカーを鳴らされ、おそらく魔王城付きのメイドや執事、果ては明らかに魔族の貴族じゃね? みたいな人たちに『ようこそ! 魔王城へ!!』と大合唱されたのだ。


確かにチカの言う通り異様な状況ではある。……あるんだけど……。


どの魔族もニコニコとしており、全くとして敵意を感じない。

異常な光景ではあるけど逃げようとは思えないぐらい、みんないい笑顔なのだ。

意味は分からないけど、ここで逃げたらなんか、とてつもなく間抜けな気がする!


そして冒頭に戻る。


ーーーーーーーーーー



「ラナ。まさか『これが魔族の普通なのか〜』とか思ってないだろうね?」


ジトリと私を睨むチカに私は苦笑する。


あ。

言い忘れていたけど、このモフモフした白い毛玉は聖獣・フェンリル。

名前はチカ。

ツッコミ気質の私の相棒。


ちなみに性別はオス。

お嫁さん募集中。

短気でお節介でとっても優しい自慢の相棒だよ!


「流石にそれはない」

「なら良いけど……。ラナはこういう時とんでもない解釈するから気が気じゃないんだよね」

「う〜わ。失礼じゃない?」

「失礼って……。だって本当の事じゃん」

「まぁ、そうだけど……」

「……自覚あったんだ……」


いや、自覚というか。

こういう時必ずチカからツッコミが入るおかげで、最近ちょっと『あれ? 人と感覚ズレてるのかなぁ?』と思わなくもないってだけ。


「警戒しなくて大丈夫だよ。『勇者』……ちゃん? さん?」


いきなり声をかけられた。

何この声。メッチャかっこいいんですけど!?


「いや別にどっちでもどうぞ?」


声の方を向くとちょうど青年が奥の階段からゆっくりと降りてくる所だった。


うわぁ。美男子。

美男子って実在するんだね?!

御伽話の中だけの存在だと思ってたよ!


「そう? なら勇者ちゃんって呼ばせてもらおうかな。かわいい女の子だし」


うわー!!

あの顔面とイケボでそのセリフはヤバい!!

破壊力が酷い!!

普通の女の子なら恋に落ちちゃうね!!


私?

私は大丈夫。

だって愛とか恋とか無縁過ぎて、すでに何それ美味しいの?状態だからね!!


……自分で言ってて悲しくなって来た……。



って、んん?

アレ、魔王じゃね??

私の記憶が間違ってなければだけど……。


長いストレートの黒髪に白色の長く細いツノ。

聞いてた魔王の特徴にピッタリなんだけど……。


「はじめまして勇者ちゃん。僕が今代の『魔王』だよ」


あ。やっぱそうなんだ。


「あ、どうも。勇者です。お邪魔してま……す……?」


アレ?

この挨拶でいいのかな?


「ラナ……。魔王との会話の第一声目がそれは、勇者としてどうかと思うよ……」

「うん……。私もそう思う……」


力なくそれでも律儀につっこんでくれるチカに同意する。

こんなに締まらない勇者の名乗り、未だかつてあったのだろうか?

きっとなかっただろうなぁ。


クスクスと楽しげに笑う魔王と、まるで微笑ましい光景を見るかのような妙に温かな視線がいたたまれない。


み、見ないでくれない?!

自分でもちょっと失敗したと思ってるんだからさぁ!!



「ようこそ魔王城へ。歓迎するよ。勇者ちゃん」



ーーーーーーーーーー



とりあえずお茶でもしようと言う魔王に連れられて、やって来たのは広いサンルーム付きの豪華な部屋だった。


「ここは僕のお気に入りの部屋なんだ」


席に座るとメイドさんらしき人や執事らしき人がテキパキとした無駄のない動きで、あっという間にお茶の用意をしてくれた。

ちゃんと椅子も引いてくれてエスコート?もバッチリだったよ。


うーん。

ここ魔王城の中、だよねぇ??


「さぁ。どうぞ」


ニコニコとした笑顔でお茶とお菓子を勧められた。

魔王から。


……チカではないが……おかしいよね!?

何で敵に美味しそうなお茶とお菓子を勧めてんだろう? この人。


チラリと魔王を盗み見るとなんか嬉しそうに笑いかけられた。


顔がいいので眼福ものだけど! それはともかく!!

これ、どうしたらいいの!?

食べていいの? 

いいなら遠慮なく食べるよ?

だってめっちゃ美味しそうなんだもん!


困ったので今度はチカの方に視線を流す。

困った時はチカに聞くのが正解。

なんたってもの凄く頼りになる相棒だからね!!


ちなみにそのチカは私の膝の上にいる。

そこがベストポジションなんだそうな。


「チカ……」

「食べちゃダメだよ、ラナ。どんな罠があるか分からない」


ほらね。

こうやって答えをくれるんだ。


それにしても、やっぱりダメなのかー。

でも……


「でも、美味しそうだよ?」

「ダメだって! 毒でも入ってたらどうするの!?」


毒!

そうか。その手があったっけ。

じゃあ食べるわけにはいかないか……。

え〜。でも美味しそうなのになぁ。


「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。毒なんか入ってないから」


会話が聞こえていたのだろうか? 

……多分聞こえてただろうな。テーブル挟んですぐ目の前に座ってるんだし。

いくら小声で話してても筒抜けだよねー。


「……口ではどうとでも言える。それをどうやって証明する気?」


チカが低く唸るように言う。


警戒心むき出しだね。

私もこうしなきゃいけないんだろうけど……。

なにぶん相手に悪意も敵意を感じないからそこまで警戒できないんだよなぁ。


「んー。あ。なら僕が先に食べれば……って、そうか。魔族の僕が大丈夫でも信用できないよね。どうしよう……」


困ったように考え込む魔王と目の前のお菓子を見比べる。


毒を仕込んでいるかどうかの見極めと証明……。


ん? 

『鑑定』すれば一発じゃない??


『鑑定』というのは私のスキルの一つ。

知らない物や怪しげな物の正式な名称やら状態やらを教えてくれる便利能力。

ここで使わずいつ使うと言うのか!


と言うことで『鑑定』。

……うん。

普通に美味しいお茶とお菓子だ。

しかも高級品!

これを食べないって選択肢はないでしょ?


「これ。本当に食べていいんですか?」

「え? あ、ああ。もちろん。君のために用意してもらったものだからね。食べて欲しいけど……」


そこまで言われちゃしょうがない!

勇者たる者、相手の厚意を無下にはできないもんね?

これはしょうがない。しょうがないんだよ!

食べましょうとも!!

高級お菓子!!!


「ラナ? 何する気? って、ちょ、ちょっとラナ!?」


早速手を伸ばした私を咎めるようにチカが振り向くがもう遅い。

私は勇者の技能を使って素早く速やかにお菓子を口の中に放り込んだ。


止められる前に食べる!

これが勇者の技能の正しい使い方だ。


……チカには『違う!!』って毎回言われるけど……。



「ん〜〜〜〜〜〜!!!!」

「ラナ!!」


身悶える私にチカが慌てて私の顔に前足をつけて覗き込む。

焦ってる顔が見えてるけど、ごめん。今はそれどころじゃないんだよ!


「美味しい!!」

「は?」

「これ! めちゃくちゃ美味しいよ!! チカも食べなよ! はい。あーん」

「ちょ、待ってラ……っング!」

「ね? 美味しくない?! すごいよねー」


すごい美味しいお菓子だった!


一口大に切り分けられチョコや生クリームや果物なんかで飾り付けられたケーキみたいなの。

なんかスポンジがとんでもなくふわっふわだったんだけど!?

何コレすごいよ!!


次々と口に入れて咀嚼する。


全部美味しいってどういうこと?! 

何ここ。天国?? 

お菓子天国とか?? 

何それ。最高すぎるんだけど!!


「ちょっとラナ!! 何考えてるの!? 人の口に勝手に物入れないで!! って、いや違う!! そもそもそれ以前に、毒かもしれない物を口にしないの!!!!」


口の中のお菓子を飲み込んだチカが盛大にツッコミを入れてくるけど、自分だって飲み込んでるじゃん?


「いまひゃら?(今更?)」

「口に食べ物詰めたまま喋らないの!」


仕方ない。

もぐもぐ、……ごっくん。

飲み込んだよ? コレで怒られないでしょ。


「今更?」

「今更だとしても! 言わないとラナ、また次も同じことするでしょ!?」


うーん。

言われたからってやらないかどうかは別問題な気もするなぁ。


「まぁまぁそんなに怒らないでよ。美味しかったでしょ?」

「味は関係ないんだってば! 身の安全を最優先に考えようよ?! ラナは不用心すぎ!!」

「失礼な! 考えてるよ。安全第一でしょ?」

「安全第一の人は毒入りかもしれない食べ物を迂闊に食べたりしないよ!!」

「ちゃんと『鑑定』してから食べたもん! だから迂闊じゃないもん!!」


ギャーギャーと言い合う私たちを驚いたように見ていた魔王がクスクスと笑い出した。


どうしよう……。

この魔王、そこらの女の子なんて目じゃないぐらい可憐な笑い方してるんだけど……。


口元を両手で覆い隠し、下を向いて笑うのを我慢しようとしてるのかプルプル震えてる。

努力の甲斐なく笑い声は漏れてるけど。

綺麗な顔も合わさってとても可憐だ。



……負けた……。

なんか、女として色々負けた気がする……。



「……参りました……」

「?」

「ちょっ、ちょっとラナ?! 何で突然降参したの??!」


素直な気持ちを口に乗せたら焦ったようにチカがツッコんで来た。

ちなみに魔王はキョトンとしてる。

その表情もかわいい!


「だぁっ〜て、この魔王。……さん、私なんかよりよっぽど可憐なんだもん!」

「それはそうかもしれないけど……」


あ。そこは否定しないんだ?

ってことはチカから見てもかわいいってことだね。

だよねだよね!? どう見てもかわいいよね!!


「だからって何で降参するの! ラナが負けちゃったら世界の安寧が壊れるんだよ?!」

「それは……。そうかもしれないけどー」

「ああ、そうそう。その事で話があったんだ」


魔王が真面目な顔になった。

急にどうしたんだろう?


「君たちは『預言者』の『予言』に従ってここにやって来たんだよね?」

「? はい。そうですけど?」


じゃなきゃ魔王城なんか来ないでしょ。


「【世界は『魔王』によって形を崩すだろう。世界の安寧のために『勇者』を遣わせろ】って予言だよね? あの予言、人間の国ではどういう解釈されてる?」


解釈?


「えーっと? 私は『世界の安寧のために魔王を倒せ』って言われたけど? ねぇ? チカ」

「え。うん。そうだね。そう言ってたね」

「うーん。やっぱりそうなのかぁ」


困ったように笑った魔王は一口お茶を飲む。


優雅だなぁ。

所作が綺麗って言うのかな?

お茶を飲む動きすら絵になるってどういうことだ。


「何でそんなこと聞くの……聞くんですか?」


あっぶな!

ついタメ口で話しかけそうになっちゃったよ!


こっちは平民。あっちは魔族の国の王様。

タメ口なんか叩いたら不敬過ぎる。

『勇者』とか『魔王』とかの前に平民と王様だからねー。

そこは弁えないと。


「わざわざ言い直さなくてもいいのに。タメ口でしゃべっていいんだよ?」


イヤイヤ!

どう考えても良くないでしょ?!

王様にタメ口でしゃべる平民って、普通にありえないから!


「イエ。お気づかいなく……」

「……気づかいとかじゃなく、僕が君とは対等に話したいだけだよ。だからタメ口で話して欲しいな。……ダメ?」


うっ!

首をコテンと傾げてそんな困ったように微笑まれたら断れないだろうが!

この魔王あざとい! あざと可愛い!!

でも許しちゃう。

だって可愛いは正義だからね!!


「…………分かった。魔王、さんがそれで良いなら」

「魔王さん、じゃなくエルナって呼んで欲しいな」

「要求が増えたよ?! って。ん? エルナ? 女性名??」


この人、女の人だったの!?


「ううん。エルナは愛称。本名はエルナード・イル・バルバロス・センティス」

「長い……」

「ちょ、ラナ! 人の名前にケチつけないの!」


チカのツッコミが入った。

今まで黙ってたのに、こう言う時はすかさずツッコむんだからさすがチカ。

ツッコミの鬼!


「あはは。確かに長いよね。王族や貴族になるとどうしても名前が長くなる傾向にあるから、僕たちも呼びにくくて愛称で呼ぶことが多いんだよ」

「へー。そういうものなんだ?」

「そういうものだよ。だから気軽にエルナって呼んでね」


パチンっとウインクされた。

器用だなぁ。

ちなみに私はウインクできないので、あんなに綺麗なウインクできるの正直羨ましい。


「分かったよ。エルナ」

「うん。ところで、君たちの名前も教えてくれるかな? 『勇者ちゃん』じゃ味気ないし、そっちの彼にいたっては『フェンリル君』ってただの種族名だし」


それもそうか。


「私はラナ。ラナ・イクフォード。こっちはチカ」

「よろしくね。ラナちゃん。チカ君」


別にちゃんづけしなくても良いのになぁ。

そして何に対してのよろしくなのか謎だけど。


「で、話を戻すけど」

「? 何の話してたんだっけ?」

「ハァ。予言の解釈をどうしてわざわざ聞いてくるのか? でしょ?」

「ああ。そうだった。そう言う話だったね。……で、何で?」


チカがもう一度大きなため息をついたが無視する。

だってこれに反応したら絶対お小言言われるし。

面倒でしょ?


「当たり前の話なんだけど。当然この国、魔王国でも『預言者』は居てね。『予言』も把握してる」


それはそうだろう。

世界各地に『預言者』がいるんだから魔族の国にだけ居ないはずないよね。


「なんと言うか……。こう言ってはなんだけど、僕たち魔族の寿命は人間とは比べ物にならないほど長いだろう?」

「うん。そうだね」


魔族の平均寿命は500歳。

人間の10倍なんだから比べるのもアホらしいぐらいだ。


「だから人間の国では絶えて久しい文献やら歴史やらが、割とゴロゴロしてるんだよね」


それは、また、歴史家やら研究者にとっては夢の国だろうなぁ。


「で、問題はここから。ウチの『預言者』は当然魔族でね。寿命も長い。だから前の時の経験者が存命だったりするんだよね」

「前って……」

「先代の『魔王』と『勇者』。僕らの前の世代の予言だね」


凄いな!?

前の『予言』があったのって600年ぐらい前って聞いてたから、魔族側にも当時を知ってる人なんて居ないと思ってたよ!?


「彼らが言うには、人間は『魔王』という存在自体、正しく理解していないから『予言』も正しく理解できないんだろう。との事だよ」

「正しく理解していない? ……その言い方だと、『予言』そのものが間違ってるって聞こえるけど……?」

「そう。『正しい予言』はまず『魔王』の本質を正確に読み取る事から始まるんだけど、人間はそれをしない。イヤ。しないんじゃなくて、したくないのかもしれないけどね」

「どう言う事?」


まったく意味が分からない。

『魔王』を正しく理解することが『予言』を正しく読み解く鍵ってこと??


「人間から見た『魔王』のイメージを言ってみて?」

「えっ……」


本人目の前にして言ったらただの悪口になると思うんだけど……。

果たしてこの可憐な魔王、もといエルナに耐えられるのかな?

泣かれても責任取れないよ?!


「人間の『魔王』のイメージね……。端的に言えば『世界を破滅させる極悪非道、傍若無人、冷血非道な世界の敵』だね」

「ち、チカ!」


空気を読むことに関しては達人級のチカがこんなにあっけらかんと魔王のイメージを正直に言うなんて!?

な、泣いてない?


ソロ〜っとエルナの顔を窺う。

良かった。泣いてない。

苦笑してるだけだった。

はぁ〜〜〜。良かった〜〜。


「知ってはいたけど、かなり酷いイメージだね」

「や、でも、私は違うってのが分かったし、帰ったら必ずみんなに魔王はいい人だったよ!って宣伝しとくから! 誤解なんだよーって口コミで広めとくからね! 大丈夫! 美味しいお菓子をくれる人に悪人はいないもんね!!」


悲しそうに言うからちょっと焦って早口で捲し立てたら微妙な顔された。

なんで?


「……ラナちゃん。美味しいお菓子をくれる悪人だっているからね?」

「え?」


何を言ってるんだろう?


「やだなエルナ。何言ってるの? 美味しいお菓子をわざわざ用意してくれる人に悪人はいないよ〜。悪人ならそんな物用意する前に襲いかかってくるもん」


今までの悪人は美味しいお菓子を用意して来た事なんて一回もなかったもんね。

だから私は間違ってないはず!!


「………………チカ君。ラナちゃんっていつもこうなの??」

「………………そう」

「……よく今まで無事だったね……」

「………………うん…………オレもそう思うよ…………」

「……なんと言うか、その。……お疲れ様……」

「うん……まぁ……うん……」


ハァっと2人でため息を吐かれたんだけど!?

だからなんで?!


「まぁその話はまた後でじっくり話すとして、話を戻すよ?」

「また後で話すんだ?」


そこまで引っ張る話かな?


「大切な話だから。ね? チカ君」

「うん。そうだね。……エルナ」


チカが名を呼ぶとエルナは嬉しそうに笑った。


あれ? 

すごく仲良くなってない?

なんか寂しいんだけど〜?!


「で、その魔王のイメージが先行し過ぎてて世界の成り立ち……『魔王』の役割を理解してないから『予言』が歪んでるんだ」

「『魔王』の役割?」


って何??


「『魔王』の役割って言うのは世界中の魔力の調整。大気に漂う魔力量を観測して微調整するのが『魔王』の役割だよ」

「……それって、めっちゃ大事な仕事じゃないの?」

「そうだねー。失敗すると世界中がメチャクチャになるね。魔力が多すぎると魔物は暴走するし、少な過ぎると植物は育たなくなるしね。割と重要?」

「「いや! めちゃくちゃ重要だよね!!?」」


あははってノンキに笑ってるけどかなり重要な役目だよね?!

思わずツッコんだらチカと声が被っちゃった。


「……そういうのって神様がやってるんだと思ってたよ」

「んー。神様は結構ものぐさでねー。こういう面倒な仕事は割と地上の生き物に振ってるんだよ」

「それって丸投げって言うんじゃない?」

「そうとも言う」


うんうんじゃない!!


「神様がものぐさなんて……知りたくなかった……」

「まぁ、ものぐさって言うか、神様はお忙しい方々だからね。そういう細かい作業までやってられないんだよ。それに」

「それに?」

「微調整みたいな細かい作業になると、どうしても現地で作業をしないといけないし。そうするとずっと地上に神様が降臨し続けないといけなくなる。それは色々と弊害があるからね」

「あ〜。なるほど」


今の説明でどうやらチカは理解したらしい。

でも私はチンプンカンプンだよ?!


「えっと。よく分かんないんだけど……。地上に神様が居続けることの何がダメなの??」

「そうだねー。簡単に言うと神様は力が強すぎて地上のあらゆる物に影響があるんだよ」

「? それが問題なの??」

「ラナ。考えてみなよ。あらゆる物に影響する存在がその辺をほっつき歩いてみなよ? 動物も植物もどんな風に変質するか分かったもんじゃないんだよ? 普通の雑草や動物がモンスターになったり、川や湖がマグマ吹き出す溶鉱炉みたいになったり。常識で考えられないような現象が起こるって事だよ? 問題でしょ?」

「何それ?! そんな事になるの!!? 大問題だよ!!!!」


何その阿鼻叫喚の世界!!

そんな世界、嫌すぎる!!!


「まぁ、そうならないように神様たちは地上に降臨することを極力なさらないようにして下さってるんだよ」


グッジョブ! 神様!!

ありがとう! 私たちの為にこれからも絶対地上には来ないで下さい!!


「でもね、世界の微調整はしないままにすると、それはそれで世界が崩壊に向かう。だからその『魔力微調整係』として選ばれたのが『魔王』なんだよ」

「なるほどね〜」


本当にかなり重要な役目を負ってるんだね、魔王って。


「ん? 『魔王』が神様の代わりに『魔力の微調整係』をしてるって事は、『勇者』の役目は魔王討伐なんかじゃないよね? そんな事したら世界がめちゃくちゃになっちゃうし。なら『勇者』って、何??」


何のために存在するんだろう?


「『勇者』って言うのはね『魔王』の力と精神を支えるパートナーの事なんだよ」

「「パートナー??」」

「そう。簡単に『魔力の微調整』なんて言ったけど、世界中の大気に充満してる魔力を調整し続けるのって実はすごく大変でねぇ。心休まる日なんてないんだよ」


そう言いながらエルナは、ハァっとすごく疲れたようなため息を吐いてる。


そりゃそうだよね。

失敗したら文字通り世界が終わる仕事を1人でこなし続けるんだもん。

しかも世界中の魔力調整なんて、考えるだけで気が遠くなるほど面倒で疲れそう。


「魔力の扱いは自分の精神面が強く作用するのは知ってるよね?」

「うん。気分がいい日は魔力が安定して魔法が使いやすいし、反対に嫌な事とか悲しい事があった時は魔力が不安定で魔法が使いにくい」

「そう。それと同じで大気中の魔力を操作する時も、精神面でかなり成功率が違うんだ。そんな一気に大惨事になったりはしないけど、それが続くとちょっとヤバイ。だから『勇者』を手元に置いて『魔王』の心のケアをしてもらう。それが『勇者』の役目だよ」

「……それは『魔王』専属メンタルケア係って事? ……つまり……カウンセラー??」

「簡単に言うとそうなるね」

「…………何じゃそりゃーーーーーーー!!!!!」


苦笑いをしてるエルナとうるさいと言わんばかりに耳を伏せてるチカを前に私は立ち上がって絶叫した。


一つ言い訳させてもらうなら、私は悪くない。

断じて悪くない!!


だって、魔王城に来るまでに戦って来たのは何だったの?!

やりたくもない不慣れな戦闘を無理やりこなしながらのこの一年の過酷な旅は?!

全部、魔王エルナのメンタルケアをする為だったの?!

なら戦わなくて良かったじゃん?!

すんなり魔王城に来て魔王エルナと会えば良かったんじゃん??!

そしたらこんな苦労はせずに済んだじゃん!!!??


フーフー言ってる私に、いつの間にか席を立って側まで来ていたエルナがお菓子をつまんで私の口元に差し出しながら微笑んだ。


「って事でこれからよろしくね。僕の『勇者ちゃん』」

「〜〜〜〜ふんっ!!」


その微笑みがあまりに綺麗だったから私はもう一度叫ぶのはやめて、エルナの差し出したお菓子を勢いよく齧る。


じわりと程よい甘味が私の口内に広がった。


あー。

ささくれた心が急速に癒されていく〜。

やっぱりお菓子は最強だね!


甘い物でちょっと心が落ち着いたのでちょっと冷静になろう。


『勇者』の役目とか『予言』とか『預言者』の事とか、色々思うことはあるけど。

冷静に考えればもう『魔王』と死闘を繰り広げる必要がなくなったって事だよね。

それって実はラッキーな事じゃない?

だってこれからはこの美人で可愛い『魔王』と仲良くなって、この人の心を守るだけで良い。

もう死ぬかもと思いながら、凶悪なモンスターに突っ込む必要もない。

『心を守る』って具体的に何したら良いのか分かんないけど、少なくともガチバトルとかではないのは確か。


あれ?

どう考えてもメリットだらけじゃない?

なら、まぁいいか。


ここのお菓子は美味しいし、エルナは美人で可愛いし、少し話しただけだけど仲良くなれそうだもんね。

何も問題ない。


おー。

やっぱり冷静になるのは大切だねー。

モヤモヤもどっか行っちゃったよ。


咀嚼し終わったお菓子をゴクンと飲み込みエルナに笑いかける。


「こちらこそよろしく。『魔王様』。3食昼寝付きに美味しいおやつもよろしくね!!」


一瞬ぽかんとした顔をしたエルナが笑い出し、チカのいつものツッコミが魔王城の一室に響く。

そんな魔王討伐の結末も私らしい。のかな?



お疲れ様でした!

楽しんでいただけたでしょうか?

ちょっとでも楽しい気分になってもらえたら嬉しいです!!



少しだけ私的な話させて下さいね。

見たくない人はどうぞスルーしてね♪









実はこの話。

キーワードにあるようにGC短い小説大賞がキッカケでできたんですよねー。

募集要項だけ見て「へー」って言ってた。

なんとなく短編を思いついたので書いてみたら、あれ?できちゃったな??という事で。

応募する気はサラサラなかったんですが、なんか間に合っちゃったのでキーワードで入れてみました!(笑)



とういう事で、私的な話でした。

短!?(笑)



あ。後、面白かったよーって人は評価してくれると嬉しいです!

よろしくお願いします♪

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