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理不尽勇者  作者: 大北ガワ
6/7

6話

 ラキより少し年上の青年。しかし、人間のそれとは違う灰白色の肌。尖った耳。その姿はまるで伝え聞く、

「魔人・・・?」

 思わず口をついて出た言葉。それを聞いた途端、青年はラキのことをギロリと睨む。

「あんな下衆な連中と一緒にしないでもらおうか。不愉快だ。魔人の赤い目に対して、我々の目は青い。覚えておくんだな」

 嫌疑を晴らすための情報。隣のグレンがさらに補足する。

「お前が勘違いするのも無理はない。彼等ケムヒル族は、その見た目から魔人と一緒くたにされ、人間から迫害を受けたという歴史があるくらいだからな」

 グレンが誉めるような笑顔を浮かべる。ラキが何度も向けられてきたその笑みを、今はケムヒル族の青年に向けている。

「よくやってくれた、レルート。まさか彼女が、神之一撃カノンまで使えるようになっていたとはな・・・。下手をすれば魔石が消し飛んでいたかもしれん。礼を言う」

 レルートと呼ばれた青年は、「ああ」と言葉少なく頷き返した。

 タイミングのよすぎるモンスターの襲撃と、二人の会話。疑惑の答えは簡単に出た。

「さっきのモンスターは、その人が?」

 訊きながらラキは、ポーチから小瓶を取り出し、中の回復液をハーミットの頭部に振りかける。特に外傷は見当たらないが、念のためだ。時間を置けば、じきに目覚めるだろう。

「そう、モンスターを操る。それがレルートの特技だ。ちなみに、今回の計画を手伝ってくれているパートナーでもある」

 グレンは、剣を背中に戻す。戦いより話を優先するといことだろう。

「前回の戦争が終わってからオレは、魔王軍の残党狩りという任務に明け暮れた。とはいってもその実、魔人やモンスターを見つけても見逃すことがほとんどだった。そいつらが再び戦争を起こすことを期待してな。この隠し砦もその一つさ。先住人にはご退場願ったが・・・」

 ラキの脳裏を、砦内に放置されていた死体の数々がよぎる。

「任務の途中、偶然ケムヒル族の隠れ集落を見つけた。一部の人間しか知らないことだが、彼らが魔人と同じようにモンスターを操ることができることを、オレは知っていた。どちらも亜人、元をたどれば祖は同じなんだろう」

 不本意そうにレルートが顔をしかめた。グレンはそのことに気づいたが、構わず話を続ける。

「だが集落では病が流行り、ケムヒル族の全滅は時間の問題。そのとき、この計画を閃いた。オレは取引を持ち掛けた。病から助ける、代わりに計画を手伝え、とな。モンスターを操れる能力は大いに役立つ。そのために私財をなげうち、希少な薬をかき集めた」

 グレンの大きくてごつごつとした手が、レルートの肩を叩く。これまでの労をねぎらうように。

「彼は協力的でな、計画は順調だった。あえて人目につくところにモンスターを配置し、これみよがしにオレが斬る。そうすることで魔王軍復活と、オレの奮闘を人々に意識づけてきた。残すのは仕上げだけだ」

 祭壇の上で怪しい光を放っている魔石。それをグレンは軽くノックする。

「この中には、魔人の死体が保存されている。腐らないように、集めた魔石で魔力を注ぎ続けてな。こいつを魔王だということにして、王国軍に引き渡す。それっぽい結末を用意すればみんな納得するさ」

 グレンの語るシナリオは、勇者を理想の存在として思い描くラキにとって、とうてい受け入れられない話。眉間に刻まれたしわの深さが、ラキの苦悶を物語っている。

「こんなこと間違ってる。人を欺くことにばかり一生懸命で・・・、やったことと言えば自分の得になることばかりじゃないか。勇者っていうのは人々の希望の光だ! 欲や欺瞞の権化のことじゃない!」

 ラキの語る勇者のあるべく姿。目指す場所。反論したのはレルートだった。今にも襲い掛かってきそうな形相をラキに向ける。

「黙れ! ご大層な綺麗ごとを並べたところで誰が救える? 実際に我々を助けてくださったのは、グレン殿だ。勇者でも理想でもない。わたしには、現実を見ずに夢想ばかりを語るお前のほうがよほど矮小に見えるぞ、ガキ」

 レルートを警めるように手で制しつつ、グレンが一歩前に出る。

「別に納得してもらおうとも思わんが、邪魔はするな。台本のある戦争だ、人々を傷つけることはないし、血の一滴も流す気もない。損をする者もいない。あと少しですべてが丸く収まるんだ、黙って見ていろ」

 グレンが口を開く度、ラキの中のグレンがボロボロと崩れていく。そしてそれはもう、修復不可能なほどに粉々だ。

 剣を頭上に掲げ、ラキが奥義の構えを取る。涙で頬を濡らしながら。

「認めない・・・! 僕は、あなたを勇者とは絶対に認めないッ!!」

 涙の決別。それがラキの選択。敵に向けるのはもはや羨望ではなく、苛烈な闘気のみ。

 事ここに至っては、もはやグレンにも引く道はない。わずかばかりの無念さを顔に滲ませながら、両手で剣を取る。同じ流派の剣術を使うこともあり、構えは同じ。鏡に写したように二人は向かい合う。

「はァアアアアアアアアアア・・・ッ!」

「うォオオオオオオオオオオ・・・ッ!」

 同じタイミングで二人は飛び出した。剣から迸る闘気が太陽のように輝き、そして、閃光と轟音が全てを飲み込んだ。

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