迫る
先週は投稿できず申し訳ございませんでしたァァアアアアアアアア!!!!!!!!!
今回は、チョット長編にしたのでゆるして!!
予想はしていた。
「ゼペット」に所属してから、いつもこれだ。
あの”研究狂い共”は、いつも何かやらかす。
そんでもって、俺らに尻を拭わせる。
今回も、命令がおりてきた。
それは、回収任務。いや、奪還任務。
目標は、「ジャルードの角」。
『急ぎ対処するように』
なんて、偉そうに一筆そえて。
「ゼペット」の中で、俺らはどうなってるんだ?
犬か?
なんにせよ、この仕事が終わったら辞表をヤツらに叩きつけてやろう。
そう考えると、ほら、心は軽やかさ!
ただ、ひとつ。…予想外の事が起きた。
もちろん、物事にイレギュラーはつきものだが、その情報はあまりにも異様だった。
俺は、「マラトの町」で下請けのチンピラ共に、「獣の鈴」という冒険者パーティーを襲わせた。
「獣の鈴」は、不運な事にターゲットを持っていたのだ。
「獣の鈴」2人に対し、チンピラは5人。オマケに〈魔剣〉のプレゼント。
その上で、彼らは失敗した。
チンピラは全滅。〈魔剣〉も回収できなかった。
しかも、その原因はたった1人の少女だという。
話によると、その少女は「クンラット団」を挑発し、100人あまりの構成員を引き回しながら戦闘に乱入。
「そして、『獣の鈴』もろとも『マラトの町』からまんまと脱出!
その事について、どう思う?『クンラット団』”大幹部”殿」
「ファーレン…お前の仕事の邪魔をしてしまった事を、謝罪する」
そう言って、うなだれる様に頭を下げる大男。
名は、グローグ。
寡黙な「クンラット団」の傭兵部門を取り仕切る、大幹部の1人だ。
ここは、激しく揺れるごく一般的な乗合馬車の中。
乗客は俺達以外には1人もおらず、御者にも息をかけてある。
今は、「ルセンフ王国」東部、「リド=ディレル峡谷」を進んでいる。
「いや、そんなガッツリ謝って欲しかったわけじゃないんだが…」
「俺の責任だ。
もっとうまく部下を抑えていれば…。もっと俺が冷静になっていれば…」
「クヨクヨすんな。アンタは、責任感が強すぎなんだよ。
あの荒くれ者共を指揮できるってだけで、アンタはスゲェよ」
「ゼペット」のパシリである俺と、「クンラット団」の大幹部。
立場も性格も違う俺たちだが、出会った時から不思議と馬が合った。
不幸自慢じゃないが、苦労人という所に親近感をおぼえたのだろう。
「だが…いいのか?
奴がいるのは、『ショールバード』。『ペイデマン』の領地だ」
「ペイデマン」の名が出た途端、グローグの顔が険しくなった。
「ペイデマン」は、「ショールバード」の裏社会を牛耳る犯罪組織。
構成団体は100、総構成員は2万にのぼる、世界有数の巨大勢力だ。
「クンラット団」は、「ペイデマン」の下部組織にあたる。
つまり、“下”の「クンラット団」が、”上”の「ペイデマン」の領地で、抗争を起こす。
それは、
「下手すりゃ、反逆ってみなされるぞ…」
「わかっている。
『クンラット団』は強兵ぞろいだが、それでも地方の小勢力。
『ペイデマン』と戦争になれば、……結果は目に見えている」
「それでも、やると?」
グローグは、深く、重々しく頷いた。
「あのガキ(フィル)のおかげで、団のメンツは潰れた。
その償いをさせなければならない」
グローグの力強い眼光を、俺はどこか遠くの世界を見るような感覚で眺めた。
「それに…だ。
これは、俺のケジメをつけるって意味合いもある。
下劣な連中に攻め立てられ、『ペイデマン』に泣きつくしか無かった俺の、無力さに…」
グローグは、過去を眺めながら、続ける。
「ファーレン、俺達は仲がいい。だが、それでも陰の世界でいきる者同士、己の事情と組織の目的を抱え、互いに互いを利用している事に変わりはない」
……他にもあるって事、か。
俺達は、いざという時には、この関係を断ち切って銃口を向けあえる。
だからこその、ビジネスパートナー。
「アンタとは、仲良くやっていきたいな」
グローグは、耳の後ろを掻き、答えた。
「まぁ、安心しろ。
実を言うと、上にはもう話をつけてある」
「え?あんなに覚悟しましたカン出しといて?」
「あぁ」と答えられ、俺は気落ちする。
「『ロウ』のモモテさんが、首領に掛け合ってくれた。
系列は違うが、『ペイデマン』直参の中でも『ロウ』の格は高い。
『ジェノンファミリー』とも対抗できる」
「そのまま、乗りかえようって事か?」
「その方向で動く」
「…それ、俺にいっていいのか?」
「のちに知れ渡る事だ」
「それは、信ら–––」
「ええぃッ!まだあるのかッ⁉︎」
直後、馬車の中に光が差し込んだ。
「峡谷」を抜け、穀倉地帯にはいったのだろう。
揺れも徐々に収まってきた。
グローグは俺に視線を向けた。
「それと、モモテさんからだが、『うるさくするなよ』とのことだ。
この抗争、隠密性が重要になってくる」
「だからか!川下りじゃなくて、こんなボロ馬車使ってんのは!」
「オット〜〜!その言葉は見過ごせませんね〜〜」
そう言って、御者はノロノロと振り向いた。
見るからにチャラそうな、チンピラ風のエルフ。
タラコ唇で浮かべる薄笑いが不快だ。
「俺の側近のレキだ」
「どうも、レキっす。
コイツはオウ|(私)の馬車。整備も1日3回はしている自慢の相棒っす。
『ボロ馬車』は訂正してくださいっす」
俺がツッコミも訂正もする間もなく、その女は馬車に跳び乗って来た。
「ちょっと〜、いや、すごく遅い!遅すぎ!」
この旅一番の大揺れをひき起こしたのは、リヴ。
水色のローブを羽織った、魔人。
俺の相棒だ。
「んで、情報は集まったか?」
「ええ。噂にしたくないから、あんまり大きく動けなかったけど」
リヴの集めた情報を聞きながら、俺はある事に気づいた。
それを元にした作戦が脳内で組み上がっていくのを感じながら、この「仕事」の行く末をあんじる。
敵は、たった14歳の少女、フィル。
それと、「獣の鈴」。
「ゼペット」は「角」を、「クンラット団」は少女の命を狙い、同じ馬車に揺られる。
「ショールバード」は、目前に迫っていた。
乗合馬車
定期的な乗合馬車がでているのは、重要都市間だけね。今の時代、交通の主流は船だから。
大体、週に1本。農繁期になると2本ってとこ。昔は民営も多くて本数も多かったんだけど、今じゃ廃れて、官営が細々と繋がってるってカンジ。
ああ、そうそう、乗り心地は最悪だから。
引用 キヨコ談