夕焼屋
小規模の設定変更をいたしました。
それに合わせて、作品の細部を修正いたしました。
もう前部をお読みになっている読者の方から見て、矛盾点があると思いますが、ご容赦ください。
立ち込める湯気と共に現れた、一杯のどんぶり。
褐色のスープを泳ぐちぢれ麺に、チャーシューの裏から顔を覗かせるネギの山々。
香ばしい香りに、唾液は洪水となった。
「はい、醤油ラーメンもどき一丁!」
そう、〈ラーメン〉である。
「「異世界にッ!ラーメンがあるゥゥゥゥゥーーー⁉︎⁉︎」」
「いや、驚きすぎだろ…」
カウンターで絶叫をあげて驚くカナとユウイチを、厨房で引き気味に見るいかついオッサン。
シュールだわ〜。
ここは、「ショールバード」の「カイナンストリート」に店を構える「大衆食堂夕焼屋」。
見ての通り、”異世界の料理”が食べられる店だ。
店長のキタガワが僕の前に、どんぶりを置く。
キタガワは、異世界人だ。
「まぁ、完全再現とはいかないが……。
はい、魚介ラーメンもどき一丁」
「待ってました〜〜。
––––でも、もどきは卑屈だぞ」
僕は、箸を手にとり、麺をすする。
うん、うまい。
メニューに載っている十数個もの料理を再現してのけたキタガワは、ハッキリ言ってすごい。
材料の代用品を探すために、世界中を旅したとか。
まぁ、材料を買い集めてるのは、ウチだけど。
「メッチャおいしいですよ!
あぁ、異世界でもラーメンが食べられるなんて……」
「そうだろう!
このラーメンは、うまい!コレ以外もうまい!
ゆくゆくは、この店を『クイントン編集』の観光パンフレットに載るぐらいデカく!」
たいそうな夢を語り始めたキタガワに、僕は現実を突きつけてやる。
「にしちゃあ、閑古鳥が鳴いてるな」
僕達以外の客がいない店内は、ここが繁華街である事を疑いたくなる程、静かだった。
「いや…今は、時間帯が悪いだけで……だけで、昼間は満席に–––」
「確かに、意識して食べてみると、なんか変…ですね。
なんだろ、粘り気がある?」
「いや、その前に値段でしょ。
ラーメンで、銀貨2枚。……6000円は高いよ」
カナとユウイチのピュアな追撃は、キタガワの心を抉る。
実際、世界中から買い集める材料は、値段はともかく輸送費がかかる。
ものによると、陸路を馬車で2ヶ月なんてのも。
味も、地球のものと違う材料で作るのだから、完全再現は不可能だ。
僕は箸を止めて、キタガワを見据える。
「キタガワ、…値下げはしないぞ」
「そこは慰めの言葉だろうがァアアアーーー!!!」
うぇ!汚ったね!唾飛んだ……。
料理人としてあるまじき蛮行!値上げしてやろ。
僕は、降り注ぐ汚物から間一髪で守り抜いたラーメンを持って、テーブル席に移動する。
すると、
「なっ!?夜の夕焼屋に客がいるだとっ!?」
粗暴な声に遅れて、扉のベルが来客をつげた。
荒々しい足取りで近づいてくる客に、僕は頭だけ向けて、相対する。
「–––と、思ったら、フィルと愉快な仲間たち、か」
「よぅ、ドゥー。最近どうだ?」
来店したのは、ラフな格好をした筋肉ダルマのヒューマンだった。
「最近ってもな〜、『ペイデマン』がきな臭いのはいつもの事だし…あぁ、俺か?俺は、こないだ『レネン』に行った。スゲェだろ!高級娼館だ」
「ハイハイ、女漁りは順調なご様子で」
「フィル、この人は?」
カナにそう言われて、僕は2人に紹介しようと口を開くが、ドゥーはそれを遮った。
「コイ––––」
「俺は、ドゥーロイグ。Bランク冒険者だ。気軽にドゥーって呼んでくれ」
「私はカナ、こっちはユウイチです」
ドゥーとは、かれこれ5年の付き合いで、腐れ縁のようなものだ。
ちなみに、異世界人では無い。
僕は、ラーメンのスープを飲み干して席を立つ。
「んじゃ、ごちそうさま」
僕は、キタガワに銀貨2枚を投げ渡し、カナとユウイチに「またな」と声をかけた。
そして、ドゥーに振り返る。
「ドゥー、”コレ”頼まれてた物な」
僕はそう言って、ドゥーに60センチ大の袋を示す。
なんの事かわからない様子のドゥーに袋を押し付け、僕は足早に店を出た。
ランク表
OR 領域の危機以上
S 国家の危機
A 都市の危機
B 町の危機
C 小村の危機
D 商隊の危機
E 死者発生の可能性あり
AR E以下または無害
引用 冒険者ギルド発行 冒険者マニュアル