転生猫耳少女 フィル
ブックマーク、評価ありがとうございます。
日々の投稿の励みです。
これからもよろしくお願いします。
ユウイチの手招きにつられ、私は十字路を駆け抜ける。
警戒の色を浮かべて見る道は、すぐそこに危険が迫っているようで、恐ろしく思えた。
「撒けた…よな…」
「さっきの路地からは、だいぶ離れてる…はず。
とりあえず、どこかで一度休まない?」
「同感!つーか、お前ら体力ありすぎ。
一般人の持続力考えろよ。コッチはゼェゼェだぞ!」
図々しい文句にイラッときて、私達は振り返る
肩で息をする少女が壁に手をつけて、疲労感全開の目をこちらに向けていた。
「勝手についてきたくせして、文句言わないでほしいんだけど?」
「マフィアに追われてんだぞ!袋小路にでも入ってみろ!悲惨だろ!!
知らない町で追われたら、その町の人について逃げる!常識だろ?」
「「・・・・・」」
「なんか言えよっ!!!!」
お淑やかそうで可憐な外見とは程遠い、男勝りで図々しい性格に違和感を感じえない。
しかも、初対面の人にここまで言ってくる事も、私達を困惑させた。
この少女の事が、私達には全く分からなかった。
「とにかく、僕はこの町に来たばかりで全く道が分からないんで、ガイドよろしく!」
しかも、僕っ子。
さて、どうしようか。
「いくつか聞かせてくれない?」
「ん?…何?」
「なんで『クンラット団』に追われてたの?
何して怒らせた?」
「連中の事を探った。
情報は金になるし、気になる事もあったしな」
「え?…。『クンラット団』のことを?
子供なのに?」
「子供扱いすんな!人生経験だけなら、お前らの倍はあるぞ!」
「え…うん。
えっと…とどのつまり、あなたは情報屋?」
「いろいろ売ってる。食品から薬剤、武器に魔物の素材まで…。金になるものならね。
客の層も色々だけど、主なのは〈異世界人〉だな。お前らみたいな。」
その言葉に、悪寒が走った。
確かに、少女の言う通り私達は〈異世界人〉だ。
だが、それを知る人は限られている。
この世界において、〈異世界人〉というのは大きなハンデであり、危険を呼ぶ。
だから、私達は本当に信用できる人にしかその事を話していない。
だと言うのに、この初対面のはずの少女が、私達が〈異世界人〉だと知っている。–––知られている。
急に、この何も分からない少女が怖くなった。
「…その反応だと、図星?」
「どこで知った?」
ユウイチの手は、両手剣の柄に伸びている。
少女が笑った。
「とりあえず、自己紹介……。
僕は、〈転生者〉フィル。『ショールバード』で、「百貨店マタタビ」を営む商人だ。
…〈異世界人〉とは仲が良くてな、外見とか言動でだいたいわかる」
「…転生者?」
「日本人だぞ、元な」
「…もう一つ聞かせてくれない?
なんで空から降ってきたの?」
「筋肉ダルマのマフィアにブン投げられた」
更に分からなくなった。
★ーーーーー
その後、私達は〈冒険者ギルド〉に移動した。
冒険者ギルドには、常日頃から数多くの冒険者がたむろしており、ここに発砲しようものなら、百戦錬磨の冒険者の群れを相手する事になる。
マフィアもそれは避けたいだろう。
そういうことで、〈冒険者ギルド〉は、最も安全な場所なのだ。
「ん〜。お前ら、冒険者だっんだな」
ギルド併設の酒場で、ジュース片手に、フィルがそんな事を言ってくる。
とても呑気な声で、こっちまで力が抜けてしまいそうだ。
「今更か?俺らは、『獣の鈴』っつうれっきとしたパーティーだよ。
つーか、冒険者じゃなきゃ、武器もって町歩かねぇよ」
「フィルこそ、そんな成りで商人なんだね」
「それはさっき言ったろ。
まだ信用できないのか?」
信用うんぬんというよりも、未成年が商会を持って働いているという事に、違和感を拭えない。
それは、まだ18才の私達にも当てはまる事なのだが…。
自分が未だに日本の感覚である事に、どこか嫌気がさした。
「なぁ、フィル。さっき、魔物の素材も扱ってるって言ってたよな」
ユウイチが、神妙な面持ちで言った。
先程から何が考えている様だったが、それだろうか?
「ん、あぁ。
でも、メジャーなヤツは売ってない。
大手の方が安くなるからな」
「なら、大丈夫だね。––––カナ。”アレ”」
急に話をふられて、私はと惑いながらあるものをバックから取り出した。
「これ?」
テーブルに置いたあるものを見て、フィルは目を見開き、バッと取り上げた。
「これ!…〈ジャルード〉の角かっ!?」
〈ジャルード〉とは、森林地帯に生息する牛型の魔物。個体数が少なく、素材は希少価値が高い。肉は食用、骨は加工され武器防具に、角は宝飾品か”魔導媒介”に使われる。
「Cランクだろ!?よく倒せたな…」
「ヒドくない?そんな弱く見える?
まあ、ギリギリだったけど…」
私達にチートは無かった。
「でもなんで僕に?
大手に行けば高く売れるだろ」
「それが…行ったんだけど、買ってくれなかったんだよね。
なんか、『アルドラ』っていう最近出来た〈迷宮〉で、〈ジャルード〉が大量発生したらしくて」
「ナルホド、暴落しちゃったと。
もともと希少価値で高くなってた感じもあったし、しかた無い。
有り余ってたら、宝飾品も売れないだろうし」
「この角の奴も、『アルドラ』近くの『北の荒野』で討伐したからさ。その内の一匹なんだと思う」
「ん〜でも、これかなりの大きさだぞ?しかも、〈魔印〉付き。
まぁ、売り方次第で高くなるね。売れ!」
「え!いいの!?」
「〈ジャルード〉の角を、武器に加工する技術を作った奴がいてな。
ソイツから、あったら売ってくれって頼まれてんだよ。
金貨7枚でどうだ?」
金貨1枚=約5万円
つまり、この角に35万円近い値札がつけられたのだ。
お買い上げありがとうございました。
私は、ホクホク顔で7枚の金貨を受け取った。
私の脳裏に、ブラント物のローブや魔道具が浮かんでは消える。
「さてと、商談も終わったし、僕は宿に戻る。
連中が宿をみつける前に、『ショールバード』にズラからないと」
帰ろうとするフィルを、私は引きとめた。
一つ、案があったからだ。
「フィルは『ショールバード』に住んでるんだよね」
「ん〜そうだけど?」
「私達を帰りの護衛に雇わない?」
「アルドラ」
型 洞窟型
階級 Dランク
階層 全三層
魔物 ジャルード スライム マネリオット
誕生 3ヶ月前
所在地 バルディン公国 アーガン男爵領東部
誕生して間もない新生迷宮。
魔物の系統が統一されておらず、新生迷宮であることからも、初期不安定期にあると思われる。
人型の新種の魔物が発見されており、当迷宮の特異魔獣と思われる。高度な魔法を使用し、知能指数も高いため、注意を払う必要がある。
捜査班は、当特異魔獣を〈マネリオット〉と呼称している。
また、これ以上の成長は望めないと思われる。
引用 探索者協会 会誌