表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

本当の番

「……あ」

 随分と久しぶりに呼ばれたその名前。だからかしら。こんなにも胸が熱くなるのは。


 青年は、私に近づいた。そして──、私に手を伸ばしかけ、はっ、としたように手を引いた。

「俺の名前は、ルカニア・ライアガシャ」

 青年は──ルカニアは、気を取り直したようにそう名乗った。


 ゆっくりとまだぼんやりとする頭でその名前を反芻する。……ライアガシャ。それは、この国の名前だ。そして、この国の名前を冠するということは──。


 お、王族!?!?!?


 ◇ ◇ ◇


「……スカーレット」

 私が彼女の名前を呼ぶと、彼女は首を傾げた。

「はい」

「私の──番はどこだ」


 どれだけ気配を探っても番の気配が見当たらない。まさか、まさか、私の番は。

「なにをおっしゃっているのです? あなたの番はこの私」


 そう言って妖艶に微笑む彼女、以前なら抱き寄せていたはずの彼女が。なぜ、番ではなかったのか。


 あの予言は間違っていた?


 ウィルソン男爵家に私の番がいるという。

 いや、間違っていない。


 なぜなら、私はあの時確かにこの上ない、多幸感に包まれたからだ。あの多幸感は間違えようはずもない。


 だったら、なぜ──。


 本当は、一つの可能性が頭のなかにありながら、それを認めたくなくて否定する。


 けれど、『番』との初対面としてあの一面の銀世界が、私の記憶を呼び覚ます。


 私を見るなり、抱きついてきたスカーレットと。私を見るなり、怯えた表情をしたその妹。


 スカーレットとは反対の黄みがかった青の瞳。


 一瞬だけ目があったとき、私は。間違いなく幸福を感じたのだ。それは、スカーレットが抱きついているからだと考えていた。けれど、そうではなかったのか。


 私は、ずっと勘違いをしていた。

 スカーレットを城に召し上げてからも、多幸感は続いていた。スカーレットだけでなく、家族まで召し上げたのは、スカーレットの願いだった。


 すべてのピースが、はまる。

 早く、早く迎えにいかなければ。私の本当の番を。


 歓声の中、手を振っているスカーレットは、走り出そうとした私の手をつかんだ。その手は、微かに震えている。

「どこにいくのです?」

「番のもとに」

「あなたの番は、この私。そして、あの子は──死にました」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ