噛み締めるように
「ん、んん……」
あれ、私──。
「!」
がばり、と体を起こし辺りを見回すと、そこは全く知らない場所だった。ただ、調度品などからここがとてつもなく豪華だということはわかる。
確か、魔の森で、大きな狼らしき魔物に出会ってそれで──。それで、意識を失ったのだ。
それがどうして、こんな部屋のふかふかなベッドの上に?
「もしかして、これが死後の世界?」
疑問に思って頬をつねると、痛い。けれど、死後の世界も死んだ人にとってはそれが現実だから、どちらかわからないわね。
うーん、と私が唸っていると、生暖かい感触がして、視線を落とす。
「!?」
すると、先程見た狼?が私の手を舐めていた。
「ここは、あなたのお家なの……?」
おそるおそる私が尋ねると、狼はくぅん、と鳴いた。……狼というより、犬っぽいわね。
そんなことを思いながら、頭を撫でると、気持ち良さそうに喉をならす。
かっ、かわいい~。
そんなに、動物とふれ合ったことがあるわけではないけれど、この子は間違いなく、可愛い。そして、いい子だ。
顔も撫でると、わふわふ、と鳴いた。私がその子に意識を持っていかれていると、急に部屋の扉が開いた。
「どうしたんだ、シュバルツ? そんなに急いで──」
シュバルツ。このこの名前かしら。そう思いながら、顔を上げると……。
「……え」
アシンメトリーな朱色の髪に、翡翠の瞳。間違いなく整っている顔立ちだった。でも、そんなことはどうでも良かった。なぜかはわからない。その人の顔を見ると、涙が零れた。
嬉しい。
悲しい。
でも、嬉しい。
様々な想いが私の中に渦巻いていた。
その人も、そんな私を見て、呆然としていた。
「…………」
何秒か、何分か、お互いを見つめ合う時間が終わったのは、わふっ! という元気な鳴き声がきっかけだった。
「あ、ああ。シュバルツ、この子のことが、心配だったんだな」
さすが、シュバルツだ。そういって青年は、狼?を撫でた。やっぱりシュバルツとは、狼?の名前だったようだった。
シュバルツは、嬉しそうに尻尾を振っている。
「それで、あなたは──」
青年がシュバルツを撫でるのをやめ、こちらを振り向く。
「アオリ・ウィルソンと申します」
私が、そういうと青年はまるで、噛み締めるように私の名前を呼んだ。
「……アオリ」