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喪失

 隣国ライアガシャは、私も何度か行ったことがあり、正式に入国するには少し遠回りをしなければならないことを知っている。


 なぜなら、魔の森と呼ばれる森が国境近くにあるからだ。


 魔の森とはその名の通り、危険な魔物がたくさん出没する。


 ──けれど。

「……?」

 馬車は先ほどから遠回りをする気配が微塵もない。直線的に進んでいる。このままだと……。

「あ、の」


 窓を開けて、御者に話しかける。御者は虚ろな目をしていた。

「これが……あなたのためになるなら」

 ぶつぶつと呟いている御者に聞こえるように大声で叫ぶ。

「あの! このままでは魔の森に突っ込むことになります! 早く方向を変えて──」

 私が叫ぶと、御者は私のほうを振り向いた。一瞬だけ目があったけれど、すぐに前を向いて、先程よりも馬車のスピードをあげる。


「……っ!?」


 どういうこと!?


◇ ◇ ◇


 式は順調に進んだ。

「では、誓いの口付けを──」

 私は、愛しい番の顎を上げ、その唇に触れようとした。

 その、瞬間。

「!?」

 しかし。幸福感に包まれるはずだった私の中に現れたのは、違和感だった。

「……なぜ」


 体を離そうとした時、力強く引っ張られ体勢を崩す。ぶつかるような格好で、唇が重なりあう。


 花嫁からの熱烈な口付けと同時に歓声と花火が上がる。


 けれど、私の中にはずっと抱えていた『番が側にいる』という多幸感が消え、残ったのは強い喪失感だった。

「……、スカーレット、君は──!!」

 誰なんだ。私の番ではないのか。これほど永い年月を共にしたのに、なぜ気づかなかったのか。


「私は、レナルド様の『番』です。そして、今日からあなたの『花嫁』でもあります」

 そういって、スカーレットが微笑む。


 違う、違う。番のはずがない。そうであるならば、この胸に空いた穴は何だというんだ……!!


 あまりの喪失に胸がちぎれそうになる。


 はやく、はやく見つけださなければ。──私の本当の、番を。

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