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私は誰

「この、国を……」

「あなただってわかっているでしょう? この国にいる限り、あなたはずっと私の妹だって」

「……それは」

 そんなこと、とっくにわかっていた。でも、それを姉から指摘されたことに驚く。姉は私のことなど、まるで、興味がないと思っていたから。

「ですが、どうやって?」


 この国をでたら、私はただのアオリになれる。番の妹様ではなくなる。けれど、それは同時に何の力も持たない小娘が、他国に放り出されるのと同義だった。

「馬車を用意してるの。隣国――ライアガシャまで安全に行けるわ。そこで、平民として暮らしなさい」

「……わかりました」

 私が頷くと、姉はほっとした顔をした。

 けれど、その顔は、私のことを案じているという風ではなかった。そのことに僅かに落胆しつつも、続ける。

「お気遣い感謝いたします。スカーレット様」


 私が深々と礼をすると、姉は、いいのよ、と頷いた。そして、ベルを鳴らす。

「この子を、ライアガシャまで送って頂戴」

 出てきたのは、御者だった。

 まさか、もう出立するの? まだ、何の用意もしていない。

「大丈夫。準備は、何もいらないわ」

 何も――……?


 姉は一度だけ視線を落とし、それから、微笑んだ。

「必要な物資は、後で送ってあげるから」

 そうはいっても、姉の結婚式に出席もしなくて、いいのかしら。仲が良くないとはいえ、姉の身内なのだし。

「結婚式には――」

「……参列しないで!」


 姉らしからぬ大声に、私は思わずびくりと体を揺らした。姉を見ると、姉は口元を押さえ呆然としていた。自分の失言に衝撃を受けているようだった。

 気を取り直すように、咳払いをし、姉は柔らかく微笑んだ。

「ほら、今日は私が主役でしょう。これ以上肩身の狭い思いをしてほしくないの」

 ……嘘っぽい。でも、そのことを指摘して、姉の機嫌を損ねるのも違うわね。だって姉の言う通り、――今日の姉は間違いなく主役なのだ。

「わかりました」

 頷くと、姉は私の手を握った。

「……元気でね」

「はい。スカーレット様もお元気で」


◇◇ ◇

「……これで、これでいいのよね。今度こそ、今度こそ私は」

「スカーレット様、如何なさいましたか?」

 今日は、竜王陛下の番であるスカーレット様と、竜王陛下の結婚式だ。

 スカーレット様の最後の仕上げに、化粧を施しにやってきた私は、若干青ざめているスカーレット様に首を傾げる。もしかして、これが最近噂の結婚式直前になって不安になる花嫁、というものだろうか。

「……いえ、何でもないの。ねぇ」

「はい」

 スカーレット様は、鏡を真っすぐに見ながら、私に問いかける。

「私はだぁれ?」

 奇妙な問いだ。そんなもの、答えは決まっている。

「あなたは、スカーレット様。竜王陛下の番にして、もうすぐ花嫁となられるお方です」

 私がそういうと、スカーレット様は満足そうに頷いた。

「そうよね。ありがとう」

 そこにはもう、先ほどの様に青ざめていた姿はどこにもない。凛とした、竜王陛下の花嫁がいた。


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