帝獣
帝獣……。
その名前は、聞いたことがあった。
「ライアガシャの命運を握る特別な、あの帝獣の……教育係、ですか?」
帝獣は、隣国ライアガシャのもう一つの王の形だった。
人の王が、知を。
帝獣が武を。
それぞれ担当して、国を治めているライアガシャ。
「……あぁ。どうやら、シュバルツは、あなたのことが気に入ったらしい」
「それは……光栄、ですが」
シュバルツは私が戸惑っている間も、体を擦り付けてきてとても可愛らしい。こんな可愛らしい子が、武を担当するとはなかなか想像がつかないけれど、それでもこの子は次代の王の一人なのだ。
「見ての通り、シュバルツはまだ人の形になれないんだ」
「!」
帝獣は、もちろん、その名の通り、獣の姿が本性だけれど、人の姿もとれるのだ。だからこそ、王たり得るのだけれど。
でも、それができないってことは……。
まだ、代替わりの時期ではないとはいえ、今後の政に支障が出るわよね。
「ですが、私は、……ライアガシャの人間ではありません」
私は、一応ライアガシャの隣の国のミドルバン出身だ。祖国に愛も執着もないけれど。
さすがに次期国王を教育する人が、他国の人間ではダメだろう。
「それは問題ないんだ。過去にも、ライアガシャ出身ではない教育係がついた例がいくつもある」
「そうなんですか……?」
そこまで詳しくは知らなかった。
「知っているかもしれないが、帝獣の成長には、愛情が必要なんだ。そして、その愛情が「誰」から与えられるかも重要で、シュバルツが気に入ったやつじゃないと意味がない」
つまり、だから、私でも大丈夫だと。
「……と、すまないな。あなたは目覚めたばかりだというのに。こちらの事情ばかり話してしまった」
「いえ、それは全く構いませんが……」
でも、帝獣の教育係なんて、そんな特別なこと……私に務まるかしら。
「そういえば、アオリ。あなたはどうして、魔の森に? 隣国のウィルソン家といえば、竜王の番の家じゃなかったか?」
ルカニアに言われて、姉のことを思い出した。
「……それ、は」
言わなくても、いずれはばれることだ。
ぎゅっと、手を握りしめる。
「少し、長い話になりますが、聞いていただけますか……?」
◇◇◇
私が話している間、ルカニアはずっと適度に相槌を打ちながら聞いてくれた。だから、とっても話しやすかった。
「そうか……アオリ」
ルカニアは、私の話を聞き終えると、ゆっくりと私の名前を呼んだ。
「……はい」
「ここは、ライアガシャだ。ミドルバンじゃない。だから……あなたは、他の誰でもないあなたとして、尊重される」
いつもお読みくださり、誠にありがとうございます!
もしよろしければ、ブックマークや☆評価をいただけますと、今後の励みになります!!