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#06

 政務室の前には、普段の倍以上の警備の騎士がいた。昨日あんなことがあったばかりだから、警備が増強されるのも当然だろう。普通だったら、今この状況で、あたしなんかが陛下に会うことはできないはずだ。そもそも会う必要もないから。

 でも、陛下があたしを呼んだ。

 いったい何の用だろう? 考えてみても判らない。ただ、心の奥底にある小さな不安が、少しずつ、膨らむのだけは判る。

 トントン。リュースが扉をたたき。

「第八隊リュース・ミネルディアです。エマ・ディアナス様をお連れしました」

 そう言うと、中から、「入れ」と、短い言葉。あたしとリュースは二人そろって中に入った。

 政務室の中には、陛下とアルバロ様、そして、ウィンたち近衛騎士が四人。奥の机に座る陛下は、何か書類を書いているようだった。うつむいているからよく見えないけど、かなり顔色が悪い。たった一日で、すごくやつれたように見える。それも当然だ。エリザベート王妃が殺されたのだから。

 あたしは知っている。

 普段陛下は政務に忙しく、王妃と一緒にいることなどほとんど無いけれど。

 陛下が、どれだけ王妃を愛していたかを。

 そして、王妃がいかに陛下を愛していたかを。

 愛し合う二人を引き裂いた。あたしの、元婚約者が。

 陛下がペンを置き、こちらを見た。その顔を見ることができず、あたしは思わず目を伏せた。

 リュースが騎士団独特のおじぎをしたので、あたしもマネして頭を下げた。陛下は、ウィンを除く護衛の騎士に、退室するよう命じた。

 陛下は、いったいあたしに何の用があるんだろう? 護衛を下がらせたということは、護衛には聞かせられない話ってこと。つまり、それだけ重要な話ってことだ。

 陛下は護衛の騎士が退室したのを見届けると、ゆっくりと口を開いた。

「エマ、そしてリュース。今から重要な話をする。ウィンも、心して聞いてほしい」

 はは、と、リュースとウィンが頭を下げたので、私もそれにならう。

「三人とも、昨日はご苦労だった。特にリュースとエマ。そなたたちのおかげで、余の命は救われた。礼を言うぞ」

 普通だったらすごくありがたいお言葉なんだけど、あたしはその言葉を複雑な気持ちで受け止めていた。陛下の命を救ったのはあたしたちではない。王妃だ。その命と引き換えに、愛する人を護ったのだ。返す言葉を見つけられず、あたしはただ、黙って頭を下げた。

「ところでリュース、例の、クローサーの大規模攻撃に関する調査だが、その後進展は?」陛下はリュースを見た。

「はい。部下の調べにより、計画のかなり詳細な部分まで把握できております。必ず阻止して見せます」

 リュースの報告に、陛下は満足げに頷いた。

 しかし。

「その件で、そなたたちに話しておきたいことがある」

 突然。

 陛下の表情が変わった。

 ものすごく厳しい表情に。

 あたしの心の奥には、小さな不安がある。

 それが何かは判らない。陛下に呼ばれたとき、心の奥底に、突然生まれた。

 その不安が、今また、少しずつ膨らんでいる。

 理由は、まだ判らない。

「これは、そなたらのこれまでの働きを評価し、そなたらを信じているからこそ、打ち明ける話だ。心して聞いてほしい」

 陛下の言葉に、リュースとウィンは、かしこまりました、と、頭を下げた。

「リュース、そなたには申し訳ないのだが――」陛下はゆっくりと言葉を継いだ。「クローサーの大規模攻撃に関する調査は、打ち切る」

「――――!?」

 思いがけない言葉に、あたしもリュースもウィンも、言葉が出てこない。

 調査を打ち切る?

 なぜ、そんなことを!?

 今回のクローサーの攻撃は、この国を滅ぼすかもしれないほどの、大規模な攻撃なのだ。その調査を打ち切るなんて!

 ――――。

 さっきから心の奥底で膨らんでいた不安の正体に、あたしは、気付いた。

 まさか陛下は……?

 そんな!?

 とても、信じられない。

「それは……その……どういうことでしょうか?」考えが理解できないのだろう。リュースは陛下を見つめる。「私の調査に、何か不備でも――」

「いや、そうではない」リュースの言葉を制する陛下。「しかし、表向きにはそうなるかもしれん。すまぬが、それは認めてほしい」

「――――?」

 リュースは、ますます意味が判らないといった表情で、陛下とアルバロ様の顔を交互に見る。恐らく彼女は、まだ気が付いていないのだ。陛下が何を考えているのか。陛下のことを、そして、この国を、心の底から信じているから。

「陛下――」ウィンが静かに口を開く。「クローサーの攻撃は阻止しない――そういうことでしょうか?」

 はっきりと、訊いた。

 リュースが戸惑いの表情を向ける。

 そう。あたしも、それを考えた。その考え通りならば。

 陛下は、あえて、クローサーの攻撃を受けようというのだ。

「な……何を言ってるの、ウィン。そんなバカなこと、あるわけがないでしょう」

 陛下の前であることも忘れ、口調が普段のものに戻っているリュース。やはり、こんなことは考えてもみなかったようだ。そうですよね? という視線を、陛下に向けた。

 しかし、陛下もアルバロ様も、黙ったままだった。

「……なぜ、黙っておられるのでしょうか?」

 リュースは明らかに困惑していた。沈黙が表す意味を、理解できないでいる。

 陛下はウィンをじっと見ていた。ウィンも陛下を見る。それは、睨み合っていると言ってもいいほどの、鋭い視線の交錯。

 やがて陛下は。

「そうだ。ウィンの言う通り、クローサーの攻撃は、阻止しない」

 ゆっくりと、口を開いた。

「そ……そんな!」声をあげるリュース。「な……何故です!? 理由をお聞かせください!」

 陛下は大きく息を吐き出し、そして、視線をウィンからリュースに向けた。

「お主も知っての通り、クローサーの攻撃は、日に日に激しくなってきている。クローリナスでは多くの騎士が命を落とし、国内でも、ヤツらの活動は激しくなっている。このままでは、被害は増えるばかりだ」

「確かに、おっしゃる通りです。ですから、その被害を抑えるため、私たち第八隊がいるのです」

 リュースはそう言い切った。自信にあふれた瞳で。

 彼女はこれまで、何度も国の危機を救ってきた。あたしがこの城に来るずっと前から、彼女は国を護るために戦ってきたのだ。

「リュース。そなたの働きは、余もアルバロも、誰もが認めている。そなたのおかげで、何度もこの国は護られてきた。だがな、それにも限界はある。現に、エリザベートは殺された」

 リュースの自信にあふれた瞳が曇っていくのが判った。彼女はただ黙って、陛下の言葉を聞いている。

「勘違いするな。エリザベートが殺されたのが、そなたたちのせいだと言っているわけではない。ただ、根本的なことを解決しない限り、この悲劇は続くだろう。クローサーそのものを潰さぬ限り、戦いはいつまでも続くのだ。クローリナスは滅びているが、これはもはや、我が国とクローリナスの戦争なのだ。余はクローリナスを完全に制圧するつもりだ。だが、世論はこれを歓迎しないであろう。今でも騎士団や国土に多くの被害が出ている。戦争ともなれば、この上さらに被害が広がりかねない。それでは、国民の理解を得ることは難しい。さらには、他国の目もある。近隣の国から侵略戦争とみなされ、非難を浴び、場合によっては敵対されることも考えられるのだ。最悪の場合、近隣の国をも巻き込んだ、大きな戦争に発展しかねない。それだけは何としても避けなければならぬ。クローリナスに侵攻するためには、国民と、近隣の国が納得する理由が必要なのだ」

「そのために、クローサーの攻撃を、甘んじて受けると言うのですか!?」声をあげるリュース。

 陛下は、そうだ、と、頷いた。

 つまり。

 クローサーの攻撃を、クローリナス侵略の口実にしようと言うのだ。

 クローサーの攻撃、隕石召喚。一つの都市が消えてなくなるかもしれないほどの攻撃。

 それだけの攻撃を受ければ、国民の反クローサー感情は、イヤでも膨らむだろう。他国からも、報復やむなしという見方が強まるはずだ。

 ブレンダは、国民にも、他国にも認められた形で、クローリナスに侵攻できる。

 しかし。

 そのために、いったい何人の人が命を失うのだろうか?

 一つの都市が消える。その犠牲者は、数千、数万、場合によっては、数十万の規模になりかねない。

 それだけの犠牲を払ってまで、クローリナスに侵攻しようとうのだろうか?

 陛下があたしを見た。「エマ。そなたが何を言いたいかは判る。だが、これは仕方のないことなのだ。クローリナスでのわが軍の被害は甚大なのだ。このまま続けば、さらに多くの犠牲者が出る。そうなれば、余は国民に顔向けできぬ」

「陛下がされることは、国民に誇れることだとおっしゃるのですか?」ウィンが、怒りを抑えた口調で言った。

 陛下は、何も言わなかった。

 内心では、間違っていると認めている証。

 だが、それでも考えは変わらないのであろう。しばらくの沈黙の後、陛下は口を開いた。

「言い訳はせぬ。余がやろうとしていることは、正しいことではないかもしれぬ。だが、必要なことなのだ。このブレンダを護るために」

「私は、そうは思いません」ウィンは、きっぱりとそう言った。

 再び睨み合う二人。

 息がつまるほどの張りつめた静寂が、部屋の中を支配していた。

 どれくらい、静寂が続いたか。

 静寂を破ったのは陛下だった。大きく息を吐き出し。

「そうか。判った。ならば仕方がない。ウィン、そなたは今を持って、近衛騎士団長の座から外れてもらう」

「――――!」

 ウィンはもちろん、あたしもリュースも、言葉を失った。

 ウィンを近衛騎士団長の座から外す!?

 あたしがこのお城に来てからの二年間、彼は本当に優秀な騎士だった。命を掛け、陛下たちを護って来た。彼以上の騎士はいないとさえ思う。今も、陛下のためを思って――この国のためを思って発言したのだ。それなのに!

「陛下、それは……」

 リュースが何か言いかけたのを、陛下は遮るように、

「リュース、ウィン。そなたたちはこの国の騎士だ。そして、余はこの国の王。余に仕えることがそなたたちの使命。余に逆らうことなど、許されることではない」

 有無を言わせぬ口調で、そう言った。

 その言葉に、リュースとウィンは、ただ黙って頭を下げるしかなかった。

 陛下の視線があたしに向けられた。「エマ。そなたは騎士ではないが、側室である以上、そなたも同じだ」

 確かに陛下の言う通りだ。あたしはただの側室。陛下に意見したり、逆らったりするような資格は無い。

 でも。

 そのまま、はい、と頷くことなど、できるはずもなかった。

 そう。こんなことが、許されていいわけはない。

 陛下の気持ちは痛いほど判る。愛する人を殺され、黙っているわけにはいかないだろう。それに、確かに陛下の言う通り、現状が続けば、クローリナスでの死者は増え続けるばかりだ。

 だからと言って、目の前で国民の命が失われるのを、黙って見ているなんて、できるはずが無い。

 それが、結果的に多くの命を救うことになるとしても、だ。

 一人の命を犠牲にし、二人の命を救う。

 十人の命を犠牲にし、百人の命を救う。

 千人の命を犠牲にし、一万人の命を救う。

 結果的に救われる命が多いのならば、それは、間違ったことだとは言い切れない。

 でも、そんなの、あたしは認めない。

 それは、失われた一人の命、十人の命、千人の命から、目をそむけることだ。

 あたしはただの側室だ。しかも、何の役にも立っていない、今や名ばかりの存在。陛下に意見するような立場ではない。

 それでもあたしは、しっかりと陛下の目を見据え、決意を込めて言う。

「あたしは、そんなことは認めません。陛下。どうかお考え直しを」

 その瞬間、陛下の瞳には、明らかな失望の色が浮かんだ。

「そなたには、理解してもらいたかったのだがな……リュース、そなたはどうだ」

 陛下とアルバロ様、そして、あたしとウィンの視線が、リュースに注がれた。

 あたしはもちろん、リュースを信じていた。

 国を護る使命感が誰よりも強いリュースが、こんなことを認めるはずが無い。

 しかし――。

「陛下がそうおっしゃるのでしたら、私は従います」

 一瞬、耳を疑った。

 私は従います?

 陛下の言ったことを、認めると言うの?

 クローサーの大規模攻撃を、甘んじて受けると言うの?

 多くの命が失われるのを、黙って見ていると言うの!?

「リュース……あなた……どうして……何を言っているのか判ってるの!?」

 叫び、訴えた。

 あなたは、間違っている。

 命を護るために命を犠牲にするなんて、間違っている!

 そう、訴えたかった。

 しかしリュースは、心を閉ざしてしまったかのように。

「エマ。陛下の言う通りだわ。私は陛下の騎士。逆らうことは許されない。それに、確かにこのままの状態が続けば、多くの命が失われる。クローサーとの戦いを終わらせるには、ヤツらを殲滅するしかない。そのために国民や他国の理解が必要ならば、クローサーの攻撃を受けるのも、仕方が無いわ」

「仕方が無い……ですって……? 隕石召喚で、街一つが消えてなくなるかもしれないと言ったのはあなたでしょ? いったい、何人の命が失われると思ってるの? それが、仕方が無いですって!?」

 いつの間にか、涙があふれ出していた。悲しかった。裏切られた気分だった。

 リュースはこれまで、国を護るために最大限できることをしてきた。意見が食い違うこともあるけれど、彼女のおかげで、この国が護られてきたのはまぎれもない事実だった。

 そんな彼女が。

 罪のない国民を見捨てると宣言した。それが悲しかった。

「エマ。そなたに話したのは、間違いであったな……」陛下が残念そうな口調で言った。「やむをえん。リュース、エマを拘束せよ」

「――――!」

 言葉を失い、陛下を凝視するあたしとリュース。

 陛下はゆっくりと言葉を継ぐ。「このことが公になるのは避けたい。終わるまで、エマには地下牢にでも入っていてもらおう」

「し……しかし……」戸惑うリュース。

「リュース、これは命令だ」陛下は、リュースの言葉をピシャリと遮った。

 命令。その言葉に、リュースは逆らえない。

 あたしの方を振り向くと。

「エマ、ごめんなさい」

 目を伏せ、そう言った。

 そして、一歩近づく。

「やめて……リュース……こんなの……こんなの間違ってるよ!」

 祈るように訴えかける。

 でも、どんなに訴えかけても、もう、彼女には届かなかった。

 次の瞬間。

 彼女の拳が動いた。目に見えないほど、素早い動き。みぞおちに鈍い痛みを感じる。でも、それも一瞬。

 ――――。

 薄れゆく意識の中で。

 ――エマ、ごめんなさい。

 リュースの声だけが、何度も、何度も、繰り返し、聞こえてきた――。


 目覚めると、そこは牢獄だった。隅にワラが敷いてあるだけの、狭くて薄暗い部屋。窓が無く、正面には太い鉄格子。いつか王妃に閉じ込められた、あの地下牢だ。

 記憶をめぐり、気を失う前の、陛下の話を思い出した。

 そうだ。あたしは陛下の話に反対し、そして、リュースに拘束された。

 どうしよう? 早くここから出て、陛下を止めないと。クローサーの攻撃がいつ行われるのかは判らないけれど、そう遠くはないだろう。攻撃が始まれば、多くの命が失われる。それだけは避けなければならない。

 正面の鉄格子を握り、ゆすってみる。もちろんそんなことは何の意味もない。少し助走をつけて肩から体当たりしてみるけど、あたしの体がはじき返されるだけ。以前は王妃とシャドウの会話が聞こえてきたけど、今回は何も聞こえない。そしてもちろん、叫んでも誰にも届かないだろう。

 どうすればここから出られる? 考える。以前は、通信機を使って外と連絡した。ポケットを探ってみるけど、リュースにもらった通信機は見つからなかった。拘束されたときに取り上げられてしまったのだろう。以前使った指輪型の通信機も無い。もっとも、今回はウィンが助けてくれるとは思えないけれど。

 ウィン――彼は今、どうしているだろう?

 陛下の決定に逆らい、近衛騎士団長の座を失った。もしかしたら、あたしと同じく、拘束されているのかもしれない。

 どうしよう? どうすれば、ここから出られる? どうすれば、陛下を止められる? 考える。でも、何も思い浮かばなかった。

 と、そのとき。

 カツーン、カツーン。

 薄暗い廊下の向こうに響く足音。それが、徐々にこちらに近づいて来る。

 誰か助けに来てくれたのだろうか? もしかしたら、リュースが考え直してくれたのかもしれない。そんな淡い期待を抱き、鉄格子に顔を張り付け、廊下の向こうを見る。

 でも、現れたのは若い男の騎士だった。近衛騎士ではないけど、見覚えはある。たしか、第三十二隊のヴィタリーだ。あまり話したことは無いけれど。

「エマ様、お食事をお持ちしました」

 ヴィタリーは、鉄格子に取り付けられた食事受け渡し用の小さな窓に、食事のトレーを入れた。そして、立ち去ろうとする。

「待って、ヴィタリー! あたしの話を聞いて!」

 呼び止める。彼を説得すれば、ここから出してもらえるかもしれない。

「申し訳ありません、エマ様。話すことは禁じられております」

 背を向けたままそう答えたけど、あたしはそんなことは無視して。

「あなた、あたしがなぜ拘束されたかは知ってるんでしょ?」

 ヴィタリーは何も答えなかった。しかし、足は止まっている。あたしは続けた。

「陛下はクローサーの大規模攻撃を黙認しようとしている。それは間違いよ。多くの命が失われるのを、黙って見てるなんて。それが結果的にこの国のためになるなんて、あり得ない、絶対に。だから、陛下を止めないと」

 でも、あたしの言葉にヴィタリーは「申し訳ありません」と、小さく答えただけで、そのまま去って行った。

 だめか。まあ、当然だ。あたしの説得に簡単に耳を貸すような人を、監視につけたりはしないだろう。でも、他に方法が思い付かない以上、これに賭けるしかない。また食事を届けに来るだろうから、そのときもう一度、説得してみよう。

 とりあえずご飯は食べておこう。腹が減っては何もできない、が、あたしの持論。トレーを取る。パンとスープと水だけ。普段の豪華な食事と比べるとあまりにも粗末だけど、まあ、このお城に来る前の生活では、大体こんなものだった。特に不満はない。おいしくいただくことにしよう。

 と、またまたそのとき。

 バタン。

 廊下の向こうで、何かが倒れたような音がした。

 そして。

 カツーン、カツーン。

 また、誰かが近づいてくる足音。

 ヴィタリーだろうか? もう食事のトレーを下げに来た? いくらなんでも早すぎるよ。まだ手もつけてない。それに、さっきの倒れるような音は何だったんだろう?

 何かが起こる予感がした。息を飲み、現れる人を待つ。

 廊下の壁にかかげられたたいまつが、その人の姿を妖しく照らす。

 腰まで伸びた美しい黒髪と、妖艶な美貌。長身に白装束。そして、右腕の黒い籠手。

「エマ様。お迎えにあがりました」

 近衛騎士団のシャドウ・アルマだった――。



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