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#01

 昼下がりの午後。

 中庭の草むらにごろんと寝転がり、初夏の暖かな日差しを浴びて、うとうととしているあたし。ああ、気持ちいいなぁ。なーんにも考えなくていい。お城での退屈な日常も、こうしているときだけは天国だ。今日は夜までここでゴロゴロしてようかな。

「あ、いたいた。エマ様ぁ」

 クレアの呼ぶ声。あたしはのろのろと起き上がり、クレアの姿を探す。いた。二階のバルコニーから手を振ってる。あたしも手を振り返す。

「マークさんからケーキを頂きました。よかったら、お茶にしませんか?」

 お、やった。ちょうどお腹もすいてた頃だ。「うん! 今日は天気もいいから、中庭で食べない?」

「判りました。では、すぐにお持ちします」

 クレアは部屋に戻っていった。マークさんのケーキか。楽しみだな。マークさんというのは、王室コックのデザート担当。城下にある大人気のケーキ店、イーストの元コックという経歴の持ち主で、毎食料理の後に出る彼のデザートは絶品! たまに、余ったケーキや試食のデザートを分けてくれる、とってもいい人。

「……エマ様、何度も言いますが、コックではなくパティシエ、デザートではなくスイーツです」

 いつの間に下りてきたのか、ティーセットを持ってあたしのそばに立ってたクレアに注意された。なんでも、コックだデザートだという言い方はもう古い、最近はパティシエにスイーツにと呼ぶのが流行りだとかどうとかで、以前から何度も説明されているのだ。

「……って、あたし、何も言ってないと思うけど」

「顔を見れば判ります。今、『コックのマークさんのデザートは絶品!』って思ってたでしょう?」

 む、心を読まれてる。

「別にコックと呼ぼうがデザートと呼ぼうが、マークさんのケーキが美味しいことに変わりはないでしょ? そんなことより、早く早く!」あたしはせかす。

 クレア、ため息をつきながら、ガーデンテーブルにティーセットを広げる。真っ白なティーカップとポット。そして、A~Eの文字が書かれた箱。

 ……はい? なんだ、この箱。

「さて、エマ様。当然簡単にケーキが食べられるとは思っていませんよね?」クレア、意地悪そうに微笑む。「マークさんから頂いたケーキは、一個だけです。二つに分けてもいいのですが、あたしは一人で全部食べたい。当然エマ様もそうだと思います。ですから、ケーキを賭けて、あたしと勝負です」

 うーむ。そう来たか。これは、最近のあたしとクレアのブーム。何かあるとゲームで対決するのだ。

「いいわ。その勝負、受けましょう」あたしも不敵に微笑んだ。

「では始めましょう。ここに、A~Eの五つの箱があります。ケーキはこの箱のどれか一つに入っています。残りの四つは空です。今からあたしが五つの証言をします。そのうち、三つは本当の証言で、二つはウソの証言です。よろしいですか?」

「……その証言から、ケーキの入ってる箱を当てればいいのね?」

「そうです。では行きます。


 1・ケーキはDの箱に入っている。

 2・Bの箱は空だ。

 3・Eの箱にケーキは入っていない。

 4・最初の証言はウソだ。

 5・二つ目の証言は本当だ。


 以上です。では、推理してください」

 クレア、自信満々に微笑む。解けるものなら解いてみろ、という顔。

 ……ふっふっふ。このあたしに、推理ゲームで挑んでくるとはね。返り討ちにしてあげようじゃないの!

 この手の推理ゲームは、証言を一つ一つ検証していくといいはずだ。三つの証言が本当で、二つがウソ。まず、1・2・3が本当で、4・5がウソの場合を検証してみよう。

 1が本当の場合、ケーキはDの箱に入っていることになる。他は空だから、2・3の証言も本当のことで、矛盾はしない。4の証言はウソだから、これも矛盾しない。

 でも、5は本当のことを言っていることになる。

 これでは、本当の証言が四つ、ウソの証言が一つになる。つまり、この組み合わせは間違いだ。

 …………。

 なんだか、めんどくさいな。

 この考え方だと、えっと……十通りも検証しないといけないのか。多いな。

 ……そうだ。発想の転換だ。

 A~E、それぞれの箱にケーキが入っていると想定し、一つ一つ検証していこう。これなら、五通りで終わる。

 ではまず、Aの箱にケーキが入っている場合。

 Dの箱にケーキは入ってないから、1の証言はウソ。2と3の証言は本当だ。1の証言はウソだから、4の証言は本当になる。同様に、5の証言も本当だ。

 つまり、本当四つのウソ一つ。Aの箱にケーキは入っていない。

 同じ要領で、B・C・D・Eに入っていると仮定して、


 Bに入っている場合。

 1・ケーキはDの箱に入っている。………×

 2・Bの箱は空だ。…………………………×

 3・Eの箱にケーキは入っていない。……○

 4・最初の証言はウソだ。…………………○

 5・二つ目の証言は本当だ。………………×


 Cに入っている場合。

 1・ケーキはDの箱に入っている。………×

 2・Bの箱は空だ。…………………………○

 3・Eの箱にケーキは入っていない。……○

 4・最初の証言はウソだ。…………………○

 5・二つ目の証言は本当だ。………………○


 Dに入っている場合。

 1・ケーキはDの箱に入っている。………○

 2・Bの箱は空だ。…………………………○

 3・Eの箱にケーキは入っていない。……○

 4・最初の証言はウソだ。…………………×

 5・二つ目の証言は本当だ。………………○


 Eに入っている場合。

 1・ケーキはDの箱に入っている。………×

 2・Bの箱は空だ。…………………………○

 3・Eの箱にケーキは入っていない。……×

 4・最初の証言はウソだ。…………………○

 5・二つ目の証言は本当だ。………………○


 全てを検証した結果、条件に当てはまるのは、Eの箱に入っている場合のみ!

「……フッフッフ、甘かったようね、クレア。この程度の問題で、あたしのケーキを阻めると思って?」

 あたしは勝ち誇ったように笑う。クレア、悔しそうな顔。この勝負、完全にもらった!

「ケーキは……Eの箱!」

 自信満々に箱を開ける! そこには、光り輝く極上の味! マークさん特製のケーキが……!

 …………。

 ……無かった。

「残念でした。ケーキはAの箱です」

 クレア、すごくうれしそうにAの箱を開ける。そこには、シルクのドレスのごとき純白の生クリームに身を包み、女王のティアラにあしらわれたエメラルドのごときイチゴの乗った、もはや芸術と呼んでもいいような、見事なショートケーキが一つ。

「じゃ、いただきまーす!」クレア、フォークで一口パクリ。「うーん、おいしい!」

 …………。

 な……なんでぇ!?

 Aにケーキが入っていた場合、一の証言がウソ、二から五は本当、条件に合わないはず。それとも、あたしの考え方が間違っていたの? もう一度検証し直す。ええっと、一の証言。ケーキはDの箱には入ってないから、これはウソだよね。二の証言。Bの箱は空だから、これは本当……。

「別にエマ様、間違ってませんよ。クイズの答えは、Eで正解です」と、クレア、幸せそうにケーキを頬張る。

 ……はい?

 Eで正解? じゃ、なんでAにケーキが入ってんのよ?

「だってあたし、最初に言いましたよ?『あたしは一人で全部食べたい』って。だったら、わざわざエマ様にケーキの入ってる箱を教えるためのクイズなんて、出すわけがないじゃないですか?」平然と言う。

 つまり早い話が。

 クイズとケーキは、何の関係も無いってこと!?

「そんなのサギだああぁぁ! 認めない! 絶対に認めなああぁぁい! よこせ! ケーキよこせ!」

 あたしは子ウサギに飛びかかるオオカミのようにクレアに襲いかかる。でもクレア、華麗なステップであたしをかわし、最後の一口をパクリ。

「ああ! あたしのケーキが……」

 目の前が絶望に染まる。お皿にはクリーム一つ残っていない。

「ふう! おいしかった! ごちそうさまでした!」満面の笑み。そんなクレアの笑顔を見ていると。

「……ま、クレアの幸せそうな姿を見てると、それだけで、あたしも嬉しくなってくるよ、うん」

「さすがエマ様。そう言ってくれると思いました」

「……なんて言うわけ無いでしょう」

 スイッチを切り替えた。もう、誰にもあたしを止めることはできない――。

「エマ様、顔が怖いですよ?」

「ふっふっふ……生まれてきたことを後悔しなさい、クレア。この世界で最も恐ろしい恨みは、食べ物の……それも、ケーキの恨みだということを、今からたっぷりと思い知らせてあげるわ」

 ズシン! 地響きを立て、一歩一歩近づく。さあ、この生意気なメイドをどう料理してくれよう?

「もう、エマ様ったら。冗談ですよ、冗談。ほら!」

 と、クレアはBの箱を開ける。するとそこには、高山の頂上に降り積もる純白の雪のような生クリームに身を包み、力強い大地の怒りを吹き出した溶岩のような深紅のイチゴをあしらったショートケーキが……!

「ああ! あたしのショートケーキちゃん!」

 飛びつく。フォークで切るのももどかしく、一口パクリ。口の中に広がる、至極の味わい。これこそ、マークさんのケーキ!

「うーん、お・い・し!」

 ほっぺたを押さえ、幸せを満喫する。

 あたし、料理だったら王室料理人にも負けない自信があるけど、それはシチューやおかゆなどに限った話。ケーキなんて村で作ることは無かったから(そもそも、デザートだスイーツだなんて概念が、村には存在しなかったような)、これだけはかなわない。特にマークさんの作るデザートはもはや宝物。こんなにおいしいものを食べられるなんて、お城に来たのもそう悪いことではなかったという気がしてくる。

「そんなに慌てないでください。取ったりしませんから」微笑むクレア。

「もう! 二つあるなら最初からそう言えばいいでしょ? クレアも人が悪いんだから」

「あら? 普段から退屈だ刺激が欲しいだ言ってるのは、どこのどなたでしたっけ?」

「ははは。あたしです。はい」

 顔を伏せるあたし。お城の生活は退屈そのもの。少しでも退屈を紛らわせようと、いつもこうやってクレアとゲームで対戦し、その結果に笑ったり泣いたり怒ったりしているのだ。おかげでそれなりに退屈はしないけど、今日のはさすがに、ちょっと卑怯だなぁ。ま、最終的にケーキを食べることができたから、良かったけど。

「ああ、おいしかった! ごちそうさま!」

 ケーキをぺろりとたいらげたあたしは、空を見上げ幸せを満喫する。あーあ、それにしても、平和だね。

 あたしがこのお城に来て、もう二年も経つ。

 来たときは、王妃に嫌がらせされるわ、陛下の暗殺事件に巻き込まれるわ、側室の立てこもり事件が起こるわで、本当に大変だった。でも、いざその事件が終わってみると、後は平和そのもの。何も無いのは良いことだとは思うけど、退屈なのはどうにもならない。

 ……なんて言ったら、騎士団の人に怒られるかな?

 確かにお城の中は平和だけど、外はそうじゃないのだから。

 ブレンダ騎士団とクローサーとの戦いは、まだ続いている。騎士団が派遣されている北の国・クローリナスでは、クローサーのゲリラ攻撃は日に日に多くなっていて、被害は拡大しているそうなのだ。それだけにとどまらず、国内でも、クローサー関係の事件は発生しているらしい。お城にいるとあまり実感がわかないけど、国の内外で、まだまだ混乱は続いているのだ。浮かれている場合じゃない。気を引き締めないとね。

 と。

「あ……陛下!」

 クレアが慌てて立ちあがった。見ると、中庭の向こう側の廊下を、ベルンハルト陛下と魔術師のアルバロ様、そして、近衛騎士隊長のウィンが歩いていた。あたしも立ちあがってあいさつしようとするけど、こちらに気付いた陛下、「そのままで良い。楽にしていろ」という感じで手のひらを向けて制し、そのまま三人で何か話をしながら行ってしまった。三人とも、すごく真剣な表情だった。

「はあ。陛下も素敵ですけど、ウィン様も負けず劣らず凛々しいですねぇ」クレア、うっとりした表情。

 騎士団には、思わず見とれてしまうような美形が多いけど、その中でもウィンは飛びぬけて美形で、メイドたちの間でも人気が高いのだ。

「そう言えば、帰還式、もうすぐですね」クレアが言った。

「へ? 帰還式?」

「クローリナスに派遣されている騎士団のうち、何隊か帰還することが決まったんです。その代わり、また何隊か新たに派遣されるんですけどね。帰ってきた騎士たちの労をねぎらうため、式典を行うことになったんですよ。……って、エマ様、知らなかったんですか?」

 クレア、呆れた顔になる。知らないとまずいことだったのかな? でも、知らなかったのは確かなので、あたしは素直にうなずく。

「ご側室なんですから、陛下の日程くらい把握しておいてください」

 クレア、やれやれというふうにため息をつく。フン、悪かったわね、側室らしくなくて。

「それで、エマ様は出席されるのですか?」

「うーん、どうだろ? 何も知らされてないってことは、呼ばれてないってことだから、出席しなくてもいいんじゃない?」

「そんないい加減な……ちゃんと確認取っておいてください!」

「へいへい、判りましたよ」

 あたしはちょっとだけすねて言った。あーあ。クレアとは話も合うし、一緒にいて楽しいんだけど、口うるさいのが玉に傷だ。もっとも、クレアに言わせれば、あたしに側室としての自覚が無さ過ぎるのだそうだけど。

「もし出席するんだったら、絶対あたしも連れて行ってくださいね」クレア、突然目を輝かせる。何だろ? 何かあるのかな? 訊いてみると、クレアはますます目を輝かせ。「ええ! 帰還する騎士団の、第四十五隊の隊長が、ものすごくカッコイイって評判なんですよ! これはぜひチェックしておかないといけませんから!」

 ……何だ、そういうことか。まったく、クレアも好きだねぇ。

 ま、イイ男を見るのは目の保養になる。今度誰かに、出席していいか訊いておこう。

「あ、ちょうどいい人が来ましたよ?」

 と、クレアが中庭の入口の方を見て言った。あたしもそちらの方を見ると……げっ! イヤな人が来た。すらっとした長身、腰まで伸びた美しい金髪、うらやましいほど整った顔、反吐が出るほど冷酷な性格。騎士団第八隊の隊長、鬼女おにおんなだ。あたしの天敵。

「エマ様、式典に出席できるか、聞いてきてくださいよ」

「ええぇぇ! 何であいつなんかに?」

「リュース様は帰還式警備の責任者なんですから、式のことは、あの人に聞くのが一番です」

「えー。ヤダよ。クレアが聞いてきてよ」

「……何でそんな露骨にイヤがるんですか。あたしはただのメイドなんですから、気安く騎士団の隊長に話しかけるなんてできません」

 ……そんなこと言って、ホントはクレア、鬼女が怖いんだろうな。

 ま、それも仕方ない。あの鬼女の気難しさは城内でも有名だ。ヘタに話しかけたら、「仕事の邪魔するな!」とか、怒鳴り出しそうだもんね。一応あたしは側室だから、いきなり怒鳴られたりもしないだろう。……いや、あの鬼女のことだから判らないけど。

「ねえ、ちょっといい?」意を決して声をかける。

「何でしょうか?」と、鬼女。言葉は一応丁寧だけど、態度はすごくぶっきらぼう。めんどくさそうにこっちを向く。

「……今度、クローリナスに派遣されてた騎士団の帰還式があるんだよね? それって、あたしも出席した方がいいの?」

「どちらでも良いと思いますが」鬼女はそっけなくそう言った。

 ……他に言い方は無いのか。ああ、やっぱりあたし、この人、キライだ。

 ま、いいや。もう慣れた。あたしはすました顔で。「そう。じゃ、出席するね。クレアも一緒に出ていいんでしょ?」

「別に構いませんが、ただ、警備の関係上、三日後に演習を行いますので、それには必ず出席してください」

「ん、判った」

 これ以上話してると胃に穴が空きそうだったので、あたしは早々に話を切り上げ、クレアのもとに戻る。

「クレアも出て大丈夫だって。ただし、三日後の演習には必ず出席すること」

「やったぁ! ありがとうございます、エマ様! ああ、四十五隊の隊長、どんな人なのかな? 楽しみです!」

 クレア、とっても嬉しそう。その隊長、そんなにイイ男なのかな。なんだかあたしも会ってみたくなってきた。

「……っと、そろそろあたし、戻りますね。お部屋のお掃除、しないといけませんから」

 クレアはそう言って、ティーセットを持って行ってしまった。

 さて、あたしはどうしよう? いつもはクレアのお掃除を手伝ってあげるんだけど、適度にお腹いっぱいで、なんだかのんびりしてたい気分。ま、あたしは一応側室だから、メイドに掃除を任せても別に構わないわけだ。もう少しお昼寝でもしてようかな。

 と、中庭の入口を見ると。

 帰ったかと思った鬼女、まだいた。何してんだろ?

 鬼女は、じっと、何かを見ているようだった。その視線を追うと……二階の廊下を歩いているクレアがいた。

 クレアを見てるの? 何で?

 かわいいから見てる? ……なんてことはあり得ないだろうな。あたしはひらひらのドレスで走ってるメイドなんかを見ると、「かわいいなぁ」と、思わず見とれてしまうことはよくある。でも、鬼女は絶対そんなタイプじゃないだろう。

 考えてみたら鬼女、何しに来たのかな?

 お城の警備は第一隊から第五隊の近衛騎士団が行っている。鬼女が隊長を務める第八隊は、反ブレンダ組織クローサー対策の部隊だ。国内で起こるクローサーがらみの事件を担当している。活動は主にお城の外なので、城内に来ることはほとんどない。

 なんて思ってたら、鬼女、あたしの方にやってくる。

「ねえ、ちょっといい?」さっきのそっけない態度とは違い、少しだけ砕けた言い方。

 出会ったときの鬼女は、さっきみたいな心のこもってないしゃべり方しかしなかった。でも、二年前の事件以来、時々だけど、今のように少しだけ親しげに話すことができるようになっている。

 ま、だからといって、別に仲良くなったわけじゃないけどね。

「どうしたの? 改まって」

「クレア・オルティスについて訊きたいんだけど」

 はぁ? と、思わず声を上げそうになった。まあ、クレアを見てたんだから、多分そうだろうとは思ったんだけど、それでもやっぱり意外だ。

「……何? 急に? まさか、突然メイドのかわいさに目覚めちゃった?」

 と、冗談交じりに言ってみるけど。

「仕事ぶりはどう? 真面目にやってる?」

 鬼女、全く相手にしてくれない。なんか調子狂うな。まあ、いいけど。

「もちろん。毎日ちゃんとまじめにやってるよ」正直に答えた。さっきみたいに一緒にふざけ合ったりすることはよくあるけど、仕事はちゃんとやってくれている。

「何か、気になるようなところは無い?」

「気になるところ……? 別に無いけど、何で?」

「……別に。無いならいいの。じゃあね」

 それだけ言うと、鬼女、行ってしまおうとする。

 このまま行かれたんじゃ、わけが判らない。「待ってよ。何かあったの?」

「何でもないわ、気にしないで」

 そう言われると、ますます気になってしまう。

 鬼女は対クローサーの部隊だ。お城に来ることは滅多に無い。何か無い限り、城内の警備は近衛騎士団が行うのだから。逆に言えば、何かあったからこそ来たのだろう。

「わざわざあたしと世間話をするために来たとは思えないわ。何かあって、あなたはお城に来た。そして、それはクレアに関係してるんでしょ?」

「…………」

「クレアはあたしの大切なお友達なの。何かあったのなら、教えて。お願い」

 鬼女、少し困ったような表情。言うべきかどうか迷っている、そんな感じ。

 あたしはただの側室だ。騎士団のことを、あれこれ聞くような立場ではない。騎士団の仕事は騎士団に任せていればいい。でも、それがクレアに関係しているとなれば、話は別だ。もし彼女の身に危険が迫っているのだとしたら、何としても助けたい。

「……あなたにこれを言うと、また面倒なことを言われそうでイヤなんだけどね」

 そう前置きする鬼女。何を言うつもりか知らないけど、面倒っていうのはお互い様な気がするんだけど。

 まあ、それはいいや。あたしは黙って聞く。

 と、鬼女は、あたしが想像もしなかったことを口にする。

「クレアは――クローサーの内通者の疑いがあるの」

「――――!?」



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