社会人、流行りの転生したぽいっす
気づけば、明るい場所にいた。
寝ぼけているのか、周りの状況がわからない。
目をパチパチさせていると、段々と周りの状況がわかってきた。
どうやらここは会社ではないらしい。
どこかの部屋のようだ。
周りを見渡すと随分と豪奢な作りの部屋である。
花瓶などの調度品が置いた人物のセンスと財力を感じさせる。
飾ってある絵もよくわからないが、引き込まれるような油絵だ。
小学生のときに美術館で見たクロード・モネの作品に似ている気がする。
ベッドもかなり大きい。
キングサイズというやつだろうか。
自分の身体が小さく見える。
そうやって周りの状況を見渡して確認していると、ある違和感があった。
部屋の隅に人型の物体があるように見えるのである。
というか、人だね。
寝ぼけた眼を凝らして見るとどうやらその人物は女の子で、さらにはメイド服を着ているようだ。
となるとあれはメイドさんなのだろうか。
メイドさんがいるような部屋に運び込まれる覚えがない。
俺の人生でメイドさんに関わるような事態が一度でもあっただろうか。
いやないね。そんな嬉しい状況一度もないね。
というか、女にモテたことなどない。
もちろん俺も社会人5年目の男だ。
彼女がいたことはある。
高校の時なんかは特に芋臭く、見た目なんかには1ミリも気を遣わなかったため、全くと言っていいほどモテなかったわけだが。
そのままの調子で大学で過ごした結果一度も彼女ができず、これはまずいぞと社会人として会社に入った後一念発起して身だしなみを整え会話を学び、努力した結果。
一応1度は彼女ができたことはある。
ただ、1年で破局してしまったが。
アレは俺が悪かったのだろうか…。
まあそんなことはいいのだが。
部屋の隅で姿勢よく立つその女性をよく見ると、透き通るような黒髪に、凛とした非常に顔立ちの整った女性だということがわかる。
あれ、あの人めちゃくちゃかわいいな。
正直俺のタイプど真ん中だ。
だけどこういうタイプは、あんまり俺のことが好きじゃないんだよな。
経験でわかる。
俺が好きな女の子は基本俺のことが好きじゃないんだ。
なんでだろうね…。悲しくなる。
大学で振られすぎて一時期神様を呪ったことがあるほどだ。
というか、こんなこと考えるようになったのも親が最近結婚はまだかと圧をかけてくるようになったせいだ。
ほんと勘弁してくれよ…。
そんな相手おらんちゅーに。
そして、肝心のメイドさんだが、
じっとこちらを見て、一言も発さない。
既にお互い認識しあってから数分も過ぎているのにである。
えっこわっ。
なんか喋れよ。
「あ、あの〜」
空気に耐えかねて、俺から話しかけてしまった。
「こ、ここはどこなんでしょうか」
「…?」
かわいらしく首をかしげて、疑問を浮かべるメイドさん。
仕草が可愛すぎるんよ。
なんだこの人、超かわいい。
あーマジでタイプだな。
なんてことを考えていると、そんなメイドさんが
「ご主人様、ここはどこと申されましてもここはあなたの家ベーカリー家のお屋敷ではございませんか。もしかして、馬に跳ねられたついでにそんな根本的な情報まで飛んでしまったのですか、哀れなご主人様。勉強したことも端からどこかへ飛んでいってしまう残念なおつむだというのに」
などと無表情のまま言い切った。
「………」
……………
…ん?
ん?
んんんん!?
なんかめちゃくちゃすげぇ罵倒してきてねぇか!?
初対面だよな俺たち!?
しかもご主人様?そんな間柄だっけ俺ら!
あ、でもこんな美人にそう言われるのは正直役得だなぁ…。
いや、じゃなくて!
ベーカリー家??いやどこ??
俺の家??どういうこと??
何を言っているんだこの人は。しかも表情は一切崩さない。
あ、でも心なしか満足げだ。久しぶりに罵倒できたわ〜みたいな達成感をかすかに感じる。
「えっと、あの、その、私たち初対面ですよね。ちょっといろいろ状況がわかってなくて、可能なら教えてほしいんですけども」
「…驚きました。ついに深刻なまでに脳味噌がいかれてしまったのですね。大丈夫です。いい脳外科医を知っております。しっかり診てもらいましょう」
「おいぃぃい!あんた初対面で、めちゃくちゃに罵倒するじゃねぇか!そこまで言われる覚えはないぞ!」
確かに美人に罵倒されるのは属性によってはかなり役得だが、生憎俺にMの気はない。
しかも、初対面でこんだけ人のこと罵倒できるこいつの精神性がわからねぇ!
一体どんな教育受けてきたんだ!
「……あの、ご主人様……」
「その〜さ、ご主人様ってのは俺のこと?あなたみたいな美人に言われるのはすごく嬉しいけど、生憎そんなふうに呼ばれる理由がないな。申し遅れましたけど、俺は梅村悠斗といいます。あなたは?それに僕の家って言ってましたけど、その僕はこんな家に住んでいた覚えがないのですが」
「…は?いやというか美人…?えっと…あの…」
困惑したような表情を見せたあとに、
急にもじもじとし始めた美人メイドさん。
めちゃくちゃ早口で言っちゃったからオタクっぽくてキモいと思われるかもなんて杞憂もサイドに。
なんだか赤くなって照れだしている。
なんだろう。めちゃくちゃかわいいな。
もうかわいいしか言ってないけど。
さっきまでクール系で無表情だったのに急に照れだすとか反則級にかわいいやん。
だが、それも数秒。
すぐに無表情に戻った。
「ご主人様。確認なのですが、ご主人様の名前は梅村悠斗様と申されるのですね」
「ああ、そうですけど。それが何か?」
「…そうですか。どうやらご主人様には【降りて】おられるようですね」
「【降りる】?」
なんだその言葉は。
よくわからんが、メイドさんは真剣そのものだ。
しかし、なんとも表情豊かなメイドさんだな。
結構無感情そうだなと思った第一印象とは裏腹に。
まあいい。
冷静になると、いろいろ思い出してきた。
そうだ。俺は確か会社にいたはずだ。
そして、デスマーチ真っ盛りでついに大台の誰も成し遂げたことがないと言われる五徹に手を伸ばしかけ…
そうか。そして、倒れたのか。
かつてないほど焦った顔で急いで駆け寄ってくる係長の顔を思い出した。
眠りかける前の最後の記憶はそれだ。
そのあとどうなったのか。
なぜこんなリッチっぽい部屋で寝ているのか、皆目検討もつかない。
「あなたは馬に轢かれて、10メートルほど吹き飛ばされて、このベッドに運ばれたのですよ」
「馬…?」
「そうです。我が主人、ラムレス・ベーカリー様」
「………」
いやどういうことだ?
現実が受け入れられない。
ラムレス…?
馬に轢かれた…?
一体どういうことだ…?
まさかとは思うが……。
「ご主人様自身も驚かれているようですね。どうにも違和感があると思いましたよ。今度のご主人様は随分と賢そうですね。なんとなく自覚はあるのでしょう?」
「……どういうことだ」
「現実をお認めください。薄々気づいているとは思いますが……」
メイドさんが口を開く。
やめろ。聞きたくない。
「あなたは前世で死んで、我が主人の肉体に【降りられた】のです」
どうやら、俺は死んでしまったらしい。
小説書くの難しいですね……
先の展開とか考えてると前に進めなくなっちゃいます。
非常にスローペースになるとは思いますが、読んでいただけると幸いです。