社会人、権力の前に散る。
世の中は理不尽なことで溢れている。
「梅村、お前にはこれを任せたい。できるか?」
特に、世の中で一般的に言う「使われてる側」のやつらは特にそれを実感しているだろう。
「いや、無理っすよ!大体こないだも他の案件俺に渡してきたじゃないですか!流石にキャパオーバーっすよ!」
「だが、お前以外に任せられるやつはいないんだ…お前に任せるしかないんだよ」
「そりゃ軒並全員やめていきましたからね!働きすぎで半身不随だの、鬱病だの!こんだけ仕事やらされる部署ウチくらいっすよ!なんでこんな話まで押し付けられるんすか!」
「仕方ないだろう。上の指示だ」
また上の指示か。
現場のことを何もわかってやがらねぇ。
俺たちしがない中間管理職には、滅私奉公して死ねと仰せだな、こりゃ。
マジで納得行かねぇ…。
俺は係長に食ってかかるが、半ば諦め気味でいた。
食ってかかられた係長も果てしなく疲れた顔をして、それでも冷静に対応する。
うん、そうだよな。疲れるよなこんなん。
俺だって言いたかないよこんなこと。
かなりの勢いで食ってかかったが、これは係長が悪いわけではないのだ。
俺たちは、とある機械部品メーカーで働くサラリーマンだ。
サラリーマンといえば、社会人の代表格。
社会人と言って、思い浮かぶのはまずスーツを着て汗水垂らして働く俺たちサラリーマンのことだろう。
そんなサラリーマンである俺が所属するのは、一般的に言う生産管理の仕事だ。
この仕事はメーカーではメジャーな仕事であり、その仕事内容はというと一番主なものは納期の管理だ。
注文が入ったものを手配して、その調整を行う。
時には工場に指示をして、手配した部品を使ってまた新たな部品を作ってもらう。
この調整がすさまじく大変で、しかも日に何十件もあるから手に負えない。
例えばでいうと、友達と遊びに行く時にスケジュールを管理したことはないだろうか?
そのスケジュール管理は地味に辛かったと思う。
そもそも日程を合わせたのに、後からその日行けなくなったから別日にしてくれと言われて調整し直したら別の友達が行けなくなったり、なんて経験がもしかしたらあなたにもあるかもしれない。
それを日に何十件もやっていると考えてほしい。
しかも、相手は会社で遅れたらアウトな案件ばかりだ。
毎日胃がキリキリ、頭もズキズキ大変である。
生産管理というのは言ってみれば、全体の総括つまり司会のような仕事だ。
注文を受けて、その内容を確認して何が必要か判断して、それぞれの仕入れ先に手配をかけ、部品を納入する。
そんなゆりかごから墓場までを地でいくような部署であることもあり、日程の調整はもちろんのこと他にも多くの雑用のような仕事を押し付けられる。
それがまた非常に面倒くさいのだ。
自部署の仕事だけでもキャパなんてとっくにオーバーしているのにも関わらず、他部署の連中がニヤニヤ顔でこれもお願いと、そいつがやらなきゃいけない仕事を押し付けてくるのである。
よく殴らなかったと自分で自分を褒めてやりたい。
ただボコボコに言い返してやったけどな。
そいつが責任もってやるべき仕事は、そいつ自身が対応し解決すべきだろ。
自身の怠惰や無能を人に押し付けんなと言いたい。
そんなことで、こないだ営業のやつを追い返したら後日その追い返したやつの上司から俺の上司を通じて通達があった。
曰く、お前がやれと。
生産管理だから俺がやるべきだと。
言われた瞬間、フリーズしたね。
バチバチに言い返しても、係長も「上の指示だ」としか言わなかった。
当然そんな理不尽な押し付けは係長自身も反発したらしいが、上はいいからやれの一点張り。
せめて理由を教えてくれと言っても、はぐらされて終了だ。
あそこの部署が上との間にパイプがあるらしいぞという噂は本当だったんだろう。
経理の同期が言っていたことは本当だったようだ。
だからこそ謎に他部署に仕事を押し付けても文句を封じ込められるというわけだ。
やり方が汚すぎるのである。
せめて直接言ってこいよと思うが、しょうがない。
会社という組織では、上が絶対なのだ。
下々の連中は、無能であろうが上の命令を聞くしかないのである。
俺の上司の係長は本来きめ細やかな仕事で有名な人だ。
連絡はまめに、部下への指示もしっかりと理由をつけてわかりやすく、仕入れ先やらからの信頼も厚い。
そんな上司である係長を、俺や同僚の人たちは少なからず尊敬している。
そんな人がこんな雑な指示を出すしかないとは、一体上はどんな指示の出し方をしたのか。
激しく無能だ。死んどけマジで。
正直こんな話が最近は月単位で連日続いており、係長も俺も部署の同僚も皆睡眠不足で参ってしまっていた。
明らかな嫌がらせである。
理由は数ヶ月前に俺や係長が営業の課長があんまりにも仕事をしないもんだから、会議の場で指摘したからだろう。
恥をかかされたと思い、無駄にゴマをするのだけが得意なあの狸豚野郎は上に泣きつき、この事態になっているというわけだ。
おかげで、同僚は半分以上が心身の異常でやめていった。
残された俺たちも二徹三徹が当たり前になりイライラ度合いはマックスで尊敬している上司にも当たり散らかす始末、
当の係長に至っては、渋めのイケメン顔が今や骸骨かと見紛うほどのやつれ具合になってしまっている。
…クマすげぇなあれ。濃すぎるだろ。もう取れないんじゃねぇか?
そんなこんなで本日またも嫌がらせが発生しており、我々の体力リソースと精神リソースが消費されているというわけである。
マジ勘弁してくれ。
あの狸豚野郎、自分のせいで半年以上納期遅れてるのわかってんのか?
挙句俺らに嫌がらせかますってどういう神経してたらできんだよ。
一応会社の屋台骨だよ俺たち?
半分以上やめてるけど、今後どうするんだろうね?
知らないよまじで?そう簡単に新人も育成できるわけじゃないし、この仕事結構難しいからね?
残された者で仕事を回すのにも限界がある。
というか既に限界は超えているのだ。
そんな状態がわかっているはずなのに、どうにかなっていると錯覚している会社はどうにかしている。
給料もらって生活させてくれている会社だが、マジで潰れてしまえと本気で思った。
そんなことを思ったのが良くなかったのか。
「とにかくだ。現状任せられるのはお前しかいない。周りを見てみろ。新人の羽山に、四徹の佐藤、あとは嘱託の方ぐらいだぞ」
「俺も今日徹夜したら、大台の五徹ですけどね!…まあもういいっすわ。やりゃいいんでしょやりゃ」
「ああ、頼むよ。…本当にすまないな」
「係長のせいじゃないんで…。あーもう。あのゴミ共どうにかなんねぇのか!」
「そういうことは小さめで言え。あいつらが聞いたらまた嫌がらせが加速する」
止めないあたり係長もイライラが限界なんだろう。
にしても、よくこの状況で部下に真摯にできるな。
本当によくできた人である。
「一杯飲みにでも連れてってやりたいんだがなぁ」
「それはこの書類の山を片付けて、爆睡30時間かましたあとにでもお願いします」
「違いないな」
「自分うまい肉が食いたいですね」
「たかるんじゃねぇ。意外と係長でも給料安いんだから」
そんな軽口を叩きながら、流石に大台の五徹をかます前に一杯お茶でもと席を立った瞬間から。
俺、梅村悠斗の記憶は途切れてしまったのだった。
初めて小説を書きます。
めちゃくちゃ拙い上に、見切り発車です。
頑張って書いていくつもりなので、よろしくお願いします。