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No.6 試験の始まり

寒い。多分じき凍え死ぬ程に寒い

「うー。さぶっ」


 丸まって温まろうかと考えるも、半袖なせいで腕へのダメージが酷いことになりそうなので、結局起きることになる。


「あっれ、なんで布団かぶってないの……」


ピキン!と頭に電流が走り、右に90度頭を動かす。


「やっぱりなぁ」


そこには布団にくるまり蓑虫のようになったライカの姿があった。


 普段ならば間違いなくドキドキしてしまうシチュエーションだが、寒さで萎縮していた俺は冷たい殺意しかわいてこない。


「なーんて奴だぁっくしょん!!!」


 このままじゃ死を覚悟する事になりそうなので、風呂に入りに行くことにした。外はまだ暗く、中途半端な時間に起きた事は後悔しても(物理的に)しきれない。


「……可愛いけど腹立つなぁったくよぉ」


 愚痴をこぼしながらも、幸せそうに眠るライカをがっつり見ながら風呂場へ直行する。絶対にでた後布団剥いで床に落として俺がくるまって寝てやる。心の悪魔が俺に微笑んだ瞬間であった。


「あぁー。いぎがえるなぁぁぁ。」


 温かいシャワーをあびると、とげとげの頭はぺったりと本来の力を失っていくが、逆に自身の活力はぐんぐんとみなぎってくる。


 体の芯まで温まった所で

「今日は一日頑張るぞ」

 と気合いを入れ直し、風呂場を出る。この間なんと三分。


 特に何も起こらずに風呂から出てくる。お約束なパターンで行くとここで裸が見られてキャァア!とか無駄にでかい歓声を浴びせられて……いや、逆だな、俺が裸じゃダメじゃないか。


 そんな年頃な妄想をしながら、腰にタオルを巻いた状態で着替え始める。


「よく考えるとライカも昨日の夜こんな事を……」


 煩悩まみれながらも服を着る。前後逆になっていた事はビックリしたが。


「興奮したかい?」

「んなっ!」


 いつの間にかベッドの上で体育座りをする"奴"がいた。勿論布団にくるまったガッチガチの重装備で。


「起きてたのライカっ」

 

 当たり前だが今の俺は軽装備だ。勝てるはずがないので(何に?)しゅぱっと服を回し前後逆の上着を脱がずに直す。ここで思う。先に下を履いといて良かったと。


「ずっと見てたよ、最初から」

ニヤニヤしながら頬杖をつく。

「ええっ……本当に?」

俺はずりずりっと壁際まで後退させられる。

「 嘘かもしれない 」

「信じられないよ、とにかくあっち向いてて」

上着のボタンを閉めながら愚痴を吐く。

「あっ、それと」

キッ!とライカの装備に照準を合わせると、

俺はドカドカとライカのそばまで近寄って

「寒かったんだぞこんちくしょー!」

布団を全身全霊をかけて剥いだ。

「ぬぁっ、なぁんて強引なっっ!!」

「うるさいっっ!」

今日は朝早くから、両者共に元気だった。


─────────────────


「おーい、遅刻しちゃうぞー」


「んっ……」


 気づかぬ内に二度寝してしまったようだ。真っ暗だった外がいつのまにか真っ白に染まっている


「ふぁーぁ。じゃあ行きますか……」

 

 今度は俺が布団にくるまり、ライカはベッドの端でちょこんと座っている。

 

「今日は頑張ろうな」

「当たり前だろぅ!」

 

二人で合格を誓い合う。


受付のおばちゃんに


「昨日はよく寝付けましたか?」


 なんて質問をされたが、何て答えればよかったのだろうか。取りあえずはいっ!とだけ元気に答えておいたが……


 外は雲一つない晴れ空だった。気持ち空気が美味しく思える。


「おーっ!中々の晴天だなーっ」

「雲一つ無いねぇ~」


 これは絶好の試験日よりと言えるのだろうか、実技試験の内容次第ではいい方にも悪いほうにも傾きそうだが。

 

「なんかさぁ、ちらほら受験生っぽい子がいっぱいいるね!全員で今から選別かぁ~」

 

「……なぁ、ライカ」

 

 俺は、せっかく仲良くなった人と離れるのは絶対に嫌だった。

 

「絶対に、合格しよう」

「なに言ってんだよ、当たり前……だろ」


 俺の顔はいつにも増して真剣だった。それは、ライカのおちゃらけた口調を封じ込める程に。


 ライカの暖かくていつもその場を和ませる性格は、もはや神業だ。人にはろくになびかない俺も、ライカにはついて行きたいと、心から思っていた。

 

「そんな顔すんなよ。合格するんでしょ!」

 

 ライカはニカッと屈託のない笑顔を見せてくれる。本当に、ほんの少しの悪意すらもない、本当の、笑顔だ。

 

 うんっ、と俺は真顔で返すことしか出来なかった。

 

「ほーら、もうすぐつくよ」

 

 ライカは俺の袖を引っ張り、急いで学校まで駆ける。

 

「まっ、まって、まだ心の準備があっ!」


「なにを今更準備するのっ!いくよ」


 俺はライカに連行されていく。いやぁめぇろぉぉぉと狼の断末魔のような、悲壮感溢れる叫び声が一人悲しくこだまする。


ある程度進んだ所で

「うっ、うわぁ……」

ライカの足が突然止まった

「どうしたんだよ突然」

 

 俺は掴まれてた首の襟を無理やり引き剥がすと、ライカと同じ方向を向く。

 

「うっ、うわぁ……」

出てきた感想は、全く同じ物だった。

 

 人がわらわらと集まり、一つのコロニーが形成されている。とんでもない人口密度だ。

 

「こちらでプレートの確認を致します、確認してない方がおりましたらこちらへどうぞ」


 と、係員らしき人が叫んでいる。恐ろしいまでの声量だ。

 

「あー。人混みやばすぎだねぇー」


「あぁ」


こんどは俺がライカの前にたつと

「いこう」

手首を掴んで二人で受付まで歩いていく

「エイト君」


人ごみにもまれながら小さな声が聞こえてくる。


「何か私不安になってきちゃった……」

「馬鹿。お前が不安になったら俺まで不安になるんだよ、ニコニコしてろほら」


俺はライカの鼻をつまみ、持ち上げる

 

「あんまりしょんぼりしてっと豚にしちゃうぞー!」

 

「なっ、やめっ、やめろいっ!」


 腕をぶったたかれる、だがそれでいいのだ。緊張なんて、糞くらえだ。

 

「すいません、受付お願いします」

「ではプレートの提示をお願いします」

「はい」


二人でプレートを提出する


 「はい、エイト・ガルシアさんですね、席番は1769番です。この札をもって第三大教室まで移動してください」


 「えーと、あとはライカ・ベアトリクスさんですね、席番は1770番、あなたも第三大教室で試験です」

 

 人が多すぎるから来た順で並ばせているのだろう。俺たちはさっそく移動する。

 

「いやぁ、本当に多いな……」

「私達で1700ということは……何人受験者がいるんだろう……」

 

 ライカはあきらかに緊張でガチガチに固まりかけている。


 ここで俺は、少しでも緊張がほぐれるようにと話かける。


「ライカの性ってベアトリクスなんだね、滅茶苦茶カッコイいじゃん」

「いやぁ、それほどでもぉ~。そんなこと言ったらエイトさんのガルシアもカッコイイですよ~!」


 いい感じに一瞬で空気が和む。


 なぜかさん付けなのがきになる所だが、俺たちは多分喋る事で緊張がほぐれるタイプなのだろう。出来ることならこのままずっと話していてもいいのだが。


「ライカ、今日さこれ終わったら」

「うん」


「あっれぇ~。私語なんてくっちゃべってていいんですかぁぁ?」

いい感じの会話に赤色の異物が混ざり込む。


「あー……誰?」


 顔をしかめ、傾ける。こんな人見覚えないなぁとじーっと見るも、記憶領域から彼は検出されなかったようだ。知らない人という結論が出た。


「なに?俺の事知らんの?世間知らずも程々にしろよ二流君」


 俺以上にトッケトゲの髪の毛をさらにたくし上げながら赤髪は貶す。


「失礼な奴だ。俺は二流でもなければ世間知らずでもない」


 反論はしてみるが、証拠だなんだと訳のわからん言い返しをされたらきっと俺は何も返せないだろう。俺は口喧嘩が苦手だ。


「多少世間知らずな所はありそうですけど」

 そして最後にボソッと付け足すなよライカ……わりと傷つくんだよそういうの……


「ヴァルフレア家を知らないのか貴様らは、失礼なのは貴様らだ三流」


青髪がでてきた。貴様貴様うるさいなこいつ。


 二流からさらにランクダウン。その上取り巻きが二人増えた。


 よくいるチンピラって三人なことが多いって偏見を持ってるけど、本当なのかもしれないな。


「ヴァルフレア家はこの国の者なら誰でも知ってるイフリートが住まう神殿の管理者だぞ!その勉強不足の脳みそはどうにかしたほうがいいと思うぞ!今日の筆記は大丈夫なのかっ?」


今度は緑髪だ。


青髪 赤髪 緑髪

なんだこの光の三原色コンビは。目がチカチカするじゃないか。


「試験なのだから一流だとか二流だとかは試験結果で決めればよかろう」


俺は勝つ気しかしなかったから、そう答える


「ほぅ、じゃあ受からなかったらそいつはド三流で。受かったらクラス分けで前の奴が勝ちでいいな」


 クラスが前の方がいいらしい。

「クラスが前になるとどうなるんだ」


「はっ、そんなことも知らないのか、この学校は一クラス三十人の十クラスでわかれてんだ」

「で、そのクラスわけなんだが、合計点で決まるんだよ。筆記と実技のな」

「ここは完全に実力主義ってわけさ」


 光の三原色が一気にたたみかけてくる。やけに優しく教えてはくれるが。


 つまりその二つで高得点を取れば取るほど上のクラスに食い込めるということか。

 

「わかった。その提案、乗ろう」


「じゃあ試験の後に会おうじゃねぇか四流さんよ」


 そういって三原色は嵐のように去っていった。赤髪以外、名前すら名乗らずに。


 するとライカが口を開く。


「あの赤髪の人、ずっと私の事見てた……なんか怖い……」


「まじかよ、一目惚れでもされたんじゃないか?」


「嫌だ……」


 明らかに嫌そうな顔をする。確かにちらちらライカの方を向いてた気もする。


 まぁ、こんなことを言うのもなんだが正直言うとライカは可愛い。前世を含めてもトップ一,二を張り合えるレベルだ。しかも、張り合ってるもう一方は人ですらない。


「まぁ、もしもの時があったら頼れ、いくぞ」


 何かあったら俺が守るって意気込みで力を込めて言う。


「うん、そうさせてもらうよ……」


 城のような学校に入るとまず大きな柱が目に付いた。その下は掘りになっており人工的な川が出来上がっている。柱の外壁には幾多にも別れる道ごとに説明が書いてあり、俺らが向かう第三大教室は右上の道を進めばいいことがわかった。


よし


「頑張ろう!」

「おー」


 力はあまりこもってないが、頑張るという気持ちは込めたつもりだ。俺は、ライカと共に教室へと入って行った。


──────────────────


「どうだった?」

「俺は普通かな。ライカは?」

「うーん。微妙かなぁ……正直危ないかも……」

「まぁ、実技で頑張ればなんとかなるって」

「うん……」


 俺は手応えはあった。魔力に関する問題はわりと簡単だったし、歴史は選択問題だから何とかなっただろう!


 ライカも微妙とは言っていたがまだ挽回のチャンスはある。実技試験の内容次第ではあるかも知れないが。


 そして俺たちは、テスト後に伝えられた実技試験会場に向かっていた。


「あれじゃない?」


ライカは人ごみを指差す。


「後ろに見えるのは森かな?人が集まってるしおそらくそうだろうな」


 学校の裏手を少し歩いた所に試験管らしき人と受験者がわらわらと集まっていた。


「正門にいた人の量より多いぞこりゃ」


「そうだね……」


 俺は必死こいてライカの袖をつかみながら移動する。


「これにて筆記試験終了~っ!この五分以内にここに集まれなかった者は全員失格だ。帰れ!」


 黒髪でキッ!としたつり目の教師が大声で悪魔のような事を言い出す。


 これが学校の真骨頂!?俺とライカはギリギリの到着だった為か、顔を見合わせて苦笑いする。


 そして話し出さんと試験官は口に手を当てる。本当にこのままスタートするつもりだろうか。


「よーしっ!一回しか説明せんからよく聞け!今回の実技試験はここっ!アーチェの森での魔物討伐だ!」


「あと一分後にスタートするぞ!こういう仕事はいかにスピーディーにやるかが重要なんだ!」


 受験生全員が森に目を据える


 筆記の時に三千人はいると伝えられてはいたが、多分このスピードでここまでこれた人は半分かそれ以下なのではないだろうか。


 全員が、本気の目をしている。ピリッとした空気に全身の血液が荒ぶり、細胞の一つ一つが活性化していくのがわかる。


「魔物は沢山いるが死にそうになったらすぐ逃げろ。職員も多数配置してある。あと、魔物は体の目か耳を持ってこい、説明は以上だ!」


「じゃあ全員頑張ってくれ、ちなみに試験の制限時間は五時間!今からだったら丁度日がが

くれるギリギリぐらいだ!いくぞ、よーい、スタァァアァトッ!」


 あまりに展開が早すぎるが、死と隣り合わせの職業はスピードが命な事がほとんどだ。この試験は割と理にかなってるのかもしれない。


「いくぞ!ライカ」「うんっ!!」


 一斉に大勢の挑戦者が森を目指して走る。残り時間は五時間。


「今年はいっぱいいるねぇ。三百人しか合格出来ないのは可哀想だけど、せいぜいがんばってほしいねぇ」


 黒髪をなびかせて、試験管と呼ばれた女はつぶやいた。


そしてここにいる全員は知るよしもなかった


 歴代最高得点を越えるどころじゃない点数で合格する、一人の少年が現れる事に。

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