No.4 特殊なマナ
「一ツ聞カセテクレ」
ギラリと鋭い眼光がこちらに向けられる。
「オマエハ何者ナンダ」
そういえば、俺はイフリートの事知ってるけど、イフリートはまだ今の俺の事を知らないんだった。説明の配慮が足りなかった事に、頭をかかえる。
とりあえず自己紹介から始めて警戒を解いてみようと考える。まず、イフリートも知っている俺の事を話さなければ。
「うーん、エースって覚えてる?」
覚えてなければ即終了だが、覚えていれば超強力なカードを切る。
「エース、懐カシイ名ダ。我ヲ初メテ圧倒した奴ダ。アノ時ハ驚イタ」
覚えてくれていた。以前俺は、イフリートとレテウス神殿で手合わせをした事がある。記憶には無いが、どうやら圧倒していたらしい。
「デ、ソノ勇者エースガドウシタノダ」
よくわからないといった様子で、頭に?を浮かべだす。
「うん、じつはね、俺がエースなの」
俺はにかっと歯を出して笑う。
するとイフリートは、露骨に眉間に皺を寄せ始める。
「イヤ……似テナイ」
「待て待て待て」
俺も説明足りなかったけど、ツッコム所そこですか!?もっと色々聞いてくれ!説明して欲しい所あるだろ!
だらだらと説明するのも面倒なので俺は、一番重要な事を言う。
「俺さ、お前と戦ったあとの戦争でさ、死んだんだよね」
「第一次全面戦争カ」
「そう、魔王に殺された」
端的に、必要な所のみをくりぬいて話す。死んだことと、記憶を引き継いで、生まれ変わった事を。
「そんでさ、気づいたら生き返ってたんだよね。俗に言う転生?って奴」
ハハハと笑う。イフリートはまたまた露骨に眉間に皺を寄せ始める。
「昔カラ思ッテタ。オ前ヤッパリ人間ジャナイ」
いやまぁ、転生なんて普通有り得ない話だけど……まさか人だとすら思われていなかったとは。
「まぁ、とにかくだ、今はエイトって名前で通ってるから、そう呼んでほしい」
「ワカッタ」
なんだかんだで信じてくれてるみたいだ。イフリートは、素直に首を振る。
ベランダをちらりとみると、煙が消えていた。消火が終わったようだ。誰かが状況を見にくる前に、話をおわさなければ。
「すごい聞きたかったんだけどさ」
これは、本当にわからなかった事。
「なんでこんな所襲ったの?」
素直に疑問に思った事を、聞いてみた。
すると、ピクッと瞳だけをこちらに覗かせ、若干の曇り顔になりながらも、しょうがなくといった感じで返答をくれる。
「我ハ……操ラレテイタ……」
にわかには信じがたい、神獣が操られるだと。そんな事が出来る奴なんているのか?なんて思っていると、ふと魔王の顔がちらついた。
あっ……
もしかしたらと何かを察した。そして、イフリートもなにも言わずにこちらを見つめてくる。察したかとでもいいたげな瞳で。
「魔王か」
「ソウダ」
最悪だ。もう動き出していたのか。大きな戦争は起きてないから、恐らく裏で動いてるのだとは思うが。
「何モ出来ナカッタ……本当ニ強カッタ」
がっくりと頭を落とし意気消沈するイフリート。魔王もまた、更なる成長を遂げていそうだ。今でもたまにフラッシュバックする。あの、圧倒的な力が。
「でもさ、なんでここなの?襲うとしてももっと大きな所あるでしょ」
ここを襲うメリットが、まだわからなかった。
「中央区ヲ襲ウヨウ洗脳サレテタ」
「じゃあ危なかったのか。もう少しで中央区だからね」
「我ハ。我ト似タ魔力ヲ感ジテ少シ正気ヲ取リ戻シタ」
「ソレガオ前ノ魔力ダ、エース」
俺の魔力で?俺から似た魔力を感じる?神獣のマナは人間とは違い、強力かつ特殊なはず。
「恐ラクオマエハ我ラト同ジ力ヲ持ッテイル」
……えっ
どういうこと
突然放たれた、耳を疑う一言。
もう少し詳しい説明が欲しいと思った矢先、
ドンドンドン
扉が叩かれた。
「エイトさん、そちらの状況はいかがですか」
最悪だ。中に入られたら終わりだ。処理うんぬんだとぬかしてたのに何をやってるって話になる。
「早く逃げてイフリート。ベランダの窓から行けるはず」
耳元で囁く
イフリートは少し休んで回復した体をずるずると引きずると、ベランダの窓を開けた。
「早くっ、入ってくる前にっ」
俺は焦り始めるが、かのイフリート自身は、ベランダの窓を開け、こちらに背を向けながらなにかをやっている。何を───
するとおもむろにイフリートは後ろをふり返り。それと同時に、何かキラキラした物を放り投げた。
「我ノ予想ガ当タッテイレバ、ソノ石ガ役ニ立ツハズ」
「サラバダ、エース」
俺は扉側に落ちた宝石っぽい何かを拾う。それと同時に扉が開いた。
「失礼しますエイト様、状況を確認しに参りました」
黒服の男だった
「あっごめん、ちょっと落とし物」
そう言って、その赤い宝石のようなものをポケットに突っ込みながらベランダを向く。
既にそこにはイフリートの姿は無かった
「あの化け物はどうなされたのです」
黒服は当然の疑問とでも言うように、聞いてくる。
「大丈夫。土魔法で外に埋めといたよ」
そういうと、開いているベランダの窓を指差す。なんと都合のいい事だろうか。
「あなたの活躍で、けが人は多少出ましたが、最悪の事態は免れました。本当に感謝してもしきれません」
黒服は、深々と頭を下げる
「いいんですよ」
俺は、窓の外を見ながら呟くように、そう言った。
あっ、そういえば
「結局、エイトって言ってくれなかったな」
"元"勇者は、クスリと小さな笑みをこぼした。
そして、まだ俺は気づいていない。
リュックの奥深くに眠るプレートに、赤く、何か光が灯っている事に。