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竜と、いうもの達

 本来、彼ら(勇者)が進むべき道を逆走しているエピラスは、デカルスから谷と樹林を一つづつ超えた先にあるノナークという街を目指す。勇者が魔王の城――つまりエピラスの自宅にたどり着くためには10の街を経由しなければならないのだ。


 デカルスは非常に小さい町だが、ノナークは周囲に無尽蔵と居る敵を防ぐために大規模な防衛兵器を敷いていて、それに比例して発展した街である。


 ――この世界に置ける敵とは、何もモンスターや自然災害だけでは無い。悪意を持って正義をなす人間も相応に危ないのだ。


「ここからは確か、谷を渡るんだったな」


 水音が聞こえるので、少しづつ降りて行かなければならない。既に小さな林に差し掛かっている二人は木の根や枝を器用に伝い、深い渓谷をおりていく。


「エピラス様、空気が変わりました」

「なんかに見られてるな……人じゃ無さそうだが」

「とすれば魔獣……この辺りは竜種の目撃もあるそうですよ」

「それ、どこ情報?」


 先程、あなたが道草食っている時に。とデカルスでの狼藉をここでも咎められてしまう。返す言葉もないと、かなり本気で落ち込むエピラス。


 ……自分たち以外のひたひたという足音がする。ずっとこちらを窺っているらしい何者かは近くまで来ているようだ。エピラスは振り返りながら河原の石を拾い上げると、ある一点目掛けて投げつける。アンダースローで飛ばした石は何にも当たらず落ち葉の上に転がった。


「当たらない。気のせいですか……?」

「いや、当たった」


 森の、何も無いように見えるところから長い舌が飛んできた。エピラスの心臓をひと突きしようと飛んでくるそれを、少しの重心移動で回避する。それを”舌”とすぐに見抜けたのはチェラルを見ていたからだ。


 そう、竜種という生物に共通するのは『人型、獣型問わず非常に長い舌』なのだ。本人も言っていたことがあるが、本当か分からなかった時に冗談半分でチェラルの舌を引っ張ったことがある。その時、引っ張っても引っ張っても伸びる舌には驚愕したものだ。


 その後ギアから物凄く怒られたが。そういう行為はセクハラにあたるそうで、竜種からも嫌われるそうだと教わった。


 が、今回の相手は見目麗しい娘などではなく、一片の感情も見えないギョロっとした目を持ち、長い舌と透明化する能力を備えた異形の竜である。


「なかなか……良い面だな、頭は悪そうだけど」

「ほとんどは人語を介せます! ……ですが、本人にその気がなければ一生人と話す事はありません」

「そ、そうなのか。悪い悪い。と言う事は、あいつは人と話すつもりが無かったって事か?」

「貴様! ここは俺の縄張りだ! なぜ入って来たか理由を説明してもらおうか!」

「喋れるじゃねえか」


 突然竜から渋い低音が響いた。こいつは人と話す事ができるタイプだったようだ、これは運が良かった。問答無用であれば始末するしかなかったので逃げの余地が出来たことにほっとする。


「いやーごめんね、知らなかったんだ。何か盗りに来た訳じゃない、通ってくだけだから勘弁してくれないか」

「厶、そうか……ならよかろう、だが不審な動きをすれば殺す」


 ご自由に、と適当に返答しながら木々を抜けて行く。その歩いている道すがら、相変わらず信頼されていないようで、いつでも攻撃できるよう背中のトゲが立っている竜が問うて来た。


「……貴様、竜種の娘を連れているのか」

「なんだ今更」

「貴様は恐ろしく思わないのか? 人ならざるものを」


 あー、とエピラスはため息をつく。カメレオンの怪物ならいざ知らず、ほとんどヒトと変わらない子を恐ろしいと思ったことは一度もない。その特性を個性と見るか悪性と見るかは結局の所、個人の気の持ちようなのだ。エピラスは前者の人間であり、さらに言えば彼女にはいつも感謝している。


「思わない。俺は何であろうと受け入れる」

「では、たとえばの話、貴様の最愛の者を奪った者でもか?」

「それは前提が違う、無理やりこじつけるのは辞めた方が良い……もっとも俺に最愛の人は居ない、けどな」

「死んだのか」


 いや? とチェラルの頭をポスポスと撫でると、「お前は妹みたいなもんか」と呟き、竜に話す。


「初めから居ない。俺はただの舞台装置、魔王だからな」

「……魔王だと? 貴様が?」

「ああ。訳あって放浪中だから看板は下ろしてるが」

「エピラス様は本来とても強い方なのです。あの武器さえあれば……」


 思わず止まってしまった竜を見た瞬間、チェラルの脇を抱えると加速する。別に魔法ではなく、純粋な筋力だ。エピラスは魔王と言えども種族は人間なので、その範疇は大きく逸脱していない。戦闘においては剣をよく使い、素手でも高レベルの数多をあしらい圧倒できる。『ヒト』という種族は道具を使用し魔法や能力に追いついてきた存在だが、残念ながらエピラスは証拠隠滅のための微弱な魔法しか使えない。


「何!?」

「お邪魔したぜ! 達者で暮らせよ」


 あっという間に木々の隙間に消えていった二人を見送るしか無かった竜は、静かに語る。


「勇者に近いものを感じたが、正反対な奴だったわ。戻ってくる時には命を取らねばなるまい、魔王であるならば………………」


 上手く逃げ切れたエピラスは傾斜が強くなっている事に気づいた。恐らく山に差し掛かっている。ここからはなかなか大変な登山が待ち受けているだろうが、楽しんでいこう。



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