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影の一族 ~波ノ段~

やってきました戦闘会!

アクションは大好物ですが、果たしてそれを自分で書けるかどうか……

途中、解説などが入るため、若干長くなりますが、何卒、最後まで見てやってください!

 少年と老人。

 両者がぶつけ合った殺意は、密度を増して旋風(かぜ)となったか、押し寄せる〝波〟が、僅かな光源であった燭台の火を吹き消す。

 窓から差し込む月明りを残し、室内は再び闇へと返った――その直後、影蔵の手が幾つもの鈍い煌きを放った。


 ――戸隠流手裏剣術、乱打・穿ち雨。


 高速で回転する手裏剣は、名前が示す通り風雨の如く、刃へ殺到する。

 彼の目もまた、月光を反射して飛来する無数の凶器を見て取った。……だが、避けようとも身を守ろうとする様子もない――代わりに、その両手は胸の前で組まれ、奇妙な形を作っていた。



 印相いんそう

 手と指で様々な形を作る――印を結ぶことで、仏、菩薩、明王からの教え、悟り、加護を表す。

 一部の宗教では象徴的な所作とされているが、忍者にとって印とは別な意味を持っている。


 忍と呼ばれる者たちが、古来から歴史の影に潜み続けることができたのは、その呼び名が示す通り『忍ぶ』ことができたからに他ならない。

 人の世に紛れ込むために、異質な力を持つ者たちは、その力を隠さなければならなかった。

 そこで編み出されたのが、真言密教や修験道からもたらされた呪術的な手印。それに強力な自己暗示を加えることで、能力の封印と解放を使い分ける術だ。

 まるでスイッチのオンとオフを切り替えるかのように、異能を行使しつつも、それを巧妙に隠匿し続けたこの術を、世に忍ぶ為の術――総称して『忍術』と呼ぶ。



 刃は、ひとたび印を結んだかと思えば、その両手は素早く組み変えられる。

 瞬く間に数種類の印相の形を取ると、最後の印を結んだまま、刃は目を閉じた。

 そして、強くイメージする――


 迫り来る凶器の豪雨に立ち向かうために必要な力と、不要な力を。

 無駄を削ぎ、不足を補った、この瞬間に最も適した自分を。


 ――瞼の奥に意識を集中し、開眼すると、そこに広がっていたのは緩慢なる世界だった。

 こちらへ向かって飛んでくる無数の手裏剣も、向こうでそれを放った影蔵の様子も、目に映る全てがスローモーション映像ように流れる。


 ゆっくりと静かに流れていく飛刀の群れに飛び込んだ刃は、宙を舞うそれらを拾うように集めていく。

 間も無く、虚空からすべての手裏剣が消える。それと同時にスローモーションが終わり、刃の目に映る景色は、術を使う以前の光景に戻った。

「返すぞ」


 ――戸隠流手裏剣術・車返し。


 言うが早いか、刃は、今しがた拾い集めた手裏剣を投げ返す。

 投擲された十六枚の凶器が丸鋸のように回転しながら、今度は持ち主に躍りかかった。

「小癪な!」

 自らの技をそっくり返された影蔵は、忌々し気に吐き捨てながら片膝をついて屈む。

 その姿勢から腕を大きく振り上げ、掌を畳の上に振り下ろした。

 衝撃を受けたその一枚は、床板を離れて捲れ上がり、影蔵を覆い隠す壁となる。

 刃が投げ返した手裏剣は、そのすべてが吸い込まれるように、畳の盾に突き刺さった。

 この手並みを目にして、刃は独り言ちる。

「戸隠流体術、空掌・畳返し――まぁ、そう簡単にはいかないよな」

 ほどなく、白髪、白髭が畳の内から姿を現した。

「若造如きに、自ら放った得物をまんまと返されるとは……」

 そして、しわがれた声は、苛立たし気にこう付け加えた。

五体卍束(ごたいばんそく)(くらい)か」


 

 高速で飛来する十六もの刃物を素手で受け止めきる回避能力。さらに、そこから瞬時に返し技へと繋げる高等技術。

 精鋭部隊である中忍大将でさえ、これを出来る者はそうはいない。

 だが、年若い少年にそれを可能とさせたのが、戸隠流に伝わる体術のひとつ〝五体卍束の位〟だ。

 この術は、名前が示すとおり〝技〟ではなく〝構え〟にあたる。

 効果は、身体が有するいずれかの機能を低下させることと引き換えに、他の器官の能力を底上げするというもの。

 これにより、飛躍的に活性化された動体視力と瞬発力を得た刃は、先の離れ業を成しえたのである。

 


 数瞬の睨み合いの後、影蔵が口を開いた。

「益々の精進、関心したぞ。下忍頭如きが用いる小手先の技とて、こうも極まればなかなかに見応えがあるというものよ」

「そっちこそ、自分の獲物でポックリ逝くほど耄碌(もうろく)してないみたいで安心したよ。とても八十過ぎた爺さんが使う術とは思えなかったぜ?」

「戯け。儂に言わせればこの程度、忍術の内にも入らぬわ」

「そうかよ……」

 刃は再度、印を結び、複雑な形を数回作ると、またも目を閉じて瞼の奥に力を集中させる――ただし、今度は〝目〟ではなく〝眼〟に。

 そして、先程の影蔵と同じく片膝をついて屈んだ。 

「だったら――」

 手のひらを広げて、右腕を頭上高くに掲げる。

 それは、先ほど影蔵が見せたものと同じ動作だ。


 ――戸隠流〝忍法〟、空掌……


 「愚かなり。その技では敵を討てぬことを知らぬのか?」

 畳返しの術は、すぐに武器を取ることができない状況で用いる屋内専用の防護術であり、術者の傍の畳を床から剥がし、簡易的な盾として使用することを目的としている。

 本来、攻撃に使うような技ではない。それに、畳一枚をどうにかした程度で討てるほど、忍は容易い相手ではない。


 ――そんなことは分かりきっている。だからこうするのだ。

 そう語るかのように、刃は、大きく掲げた掌を叩きつけるように振り下ろした。

  


 ――百畳返しの術。



 畳が捲れ舞う。

 だが、それは一枚や二枚ではない。

 そこら中、見渡す限り――室内に敷き詰められていたすべての畳が吹き飛んだ。

「なんと!?」

 水辺から一斉に飛び立つ白鳥の如く、舞い上がる畳の群れの中で影蔵は驚愕する。

「これなら忍術って呼べるかい?」

 言葉の直後、刃の姿が畳の乱舞にかき消えた。

「むっ!?」


 影が左を駆け抜ける。


「どこじゃ!?」

「どこ見てんだよ、爺」


 しかし、声は右から聞こえた。


 「どこにおる!?」

 「目ぇ悪くなったんじゃねぇの?」


 されど、気配を感じたのは――


「後ろか!!」

 手のひらに収まる程度のナイフに似た両刃の武器――小苦無。

 懐から取り出したそれを振り向きざまに放つ。狙いは声の持ち主、その喉元。

「あたり」

 苦無を喉へ送ったにもかかわらず、刃の声は健在。声色にもなんの変化もない。

 それもそのはず。小さな、しかし侮りがたい戸隠の業物は、刃の体へ届くよりも前に、彼の人差し指と中指に挟まれていたのだから。

「馬鹿な!?」

 小苦無を飛ばした位置から刃の立つ場所まで、距離にして三メートルもない。

 影蔵も歳を取ったとはいえ、未だ忍軍の頂点に立つ者。その男が至近距離から投擲した飛刀は、たった二本の指に止められてしまった。

 そして、それを事もなげにやってのける戸隠刃。

 これで下忍頭など、明らかに役不足。

「……っ!? いかん!」

 ほんの一瞬――瞬き(まばたき)をする程度の間。呆然となる影蔵であったが、すぐさま体勢を立て直すべく動き出す。

 だが、目の前の怪物を相手に、この間は致命的であった。

 影蔵が後方へ飛び退くよりも早く、その首筋には苦無が当てられていた。

 当初の予定通りに後ろへ下がれば、皺の目立つ老人の首元から盛大に血が噴き出すだろう。

 頭領たる男の目をもってしても、刹那に動く少年の姿を捕えることは叶わなかった。

「勝負あったな、じいちゃん」

 例え見えたとしても、雷光と見紛う程の速さで迫る刺客など捌きようがない。

「ぐっ……おのれ、刃っ!」

 下忍頭如きに、元服前の小童に、これまで目を掛けてきたきた孫に、こうもしてやられるとは……

 影蔵は、悔しさに顔を歪めて呻く。

 さらに皮肉なことに、突きつけられる苦無は刃の喉を狙って投げたものだ。

 最初に投げた手裏剣と同様に、またしても持ち主に返される(てい)となっている。

「ここまでやれば文句はないよな? それとも――」

 再び、忍の眼となる刃は、先ほどの殺気を上回る冷徹さを帯びた瞳で、相手を見据えた。

「――この先を望むか? 戸隠影蔵」

 夜叉の如きその眼差しに畏怖を覚え、老人はただ息を呑むのだった。


あと二、三話で『其ノ壱』は終わりとなります。

次々回あたりで、主人公の相棒(?)が登場の予定ですので、それまでお付き合いくださいm(>_<"m)

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