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二年後…… ~留ノ段~

 ――そして、リザルト画面が映し出された。



 刃の手に収まる携帯ゲーム機にLOOSE、かすみの方にはWINと、それぞれの戦果が表示されている。


 KILL:4  DEATH:28


 あまりに酷いスコアに、刃は(しか)め面で溜息(ためいき)()いた。

 部屋着である黒いジャージ姿が脱力しているのは、本来、自宅で得られるはずの安息を吹き消す、落胆によってである。

「おまえさぁ、手加減ってものを知らないのかよ……」

 不服を申し立て、テーブルの向い側で座布団の上に正座する()()()を軽く睨む。

 黒い丸や十字という、一風(いっぷう)変わった模様が入った白地の着物に、紅色の帯。長い黒髪の和服美人――かすみは、微笑みながら答えた。

滅相(めっそう)も無き事。加減は致しておりまする」寒さなど感じないくせに、膝に掛けたブランケット。その上にゲーム機を持った手を置いて、一言、付け加えた。

「……楽しめる程には」

 ジト目を向け、刃は言う。

「……俺は、全然楽しくねぇんだけど?」

「かすみは、楽しゅう御座いますぞ?」


「「……」」

 仏頂面と、静かな笑いが、互いを見合う。


「俺をいたぶるのが、そんなに楽しいか?」

「ええ、とても」

 さも当然のように流れ出た言葉に、刃は、またも押し黙る。

 先程からかすみの表情が、それはそれは良い笑顔なこと。

 ゲームでの出来事とはいえ、(あるじ)に対してこの対応。友達同士でやったら、付き合い方を考え直されるレベルだろう。

 このやりとりにも、すっかり慣れてしまった――



 戸隠の里を抜け、『忍』から足を洗い、『人』として生き方を模索し続ける刃。そして、常に彼と共にあった妖刀・幽御前(かすみごぜん)であるが、人々の生きる世界において、この化け刀が一際(ひときわ)に興味を示した物がある。

 テレビゲームだ。

 ゲームで遊ぶことに対して、意味や生産性を見いだせない刃は、当初、これを捨て置こうとしたが、そこに待ったを掛けたのが、かすみであった。


「多くの人々が、この『げえむ』なるものに(きょう)じておりまする」

「恐らくは、『人』にしか分からぬ値打ちが在るので御座いましょう」

()れを(かい)するは、『人』へと至るに、必ずや役立ちましょうぞ」


 ――とかなんとか、それっぽい甘言(かんげん)で主を丸め込み、いち高校生にとっては大層な買い物をさせたのであった。



 以来、かすみは『げえむ』に()()()()している。

 文化、歴史、政治、経済、学問を含む一般常識等々……〝こちら側〟で使われる知識のほとんどをゲームで覚えたと言っても過言ではない。

 その中で、副産物と言うべきか、()()()()()まで生じてしまった。

「どうにかならないのかよ……その遊び方」

「これが、私めの『ぷれいすたいる』に御座います故」

 元々、才能でもあったのか。それとも、付喪神(人工物)という身の上がそうさせるのか。

 かすみがゲームを始めてから、その腕前は天井知らずに上達していった。

 それは、今でも伸び続けている。

 そんな高レベルのプレイヤースキルを有する、かすみが好むプレイスタイルというのは……相手を(てのひら)で転がすように追い詰めては、ジワジワと痛めつけるというもの。

 その時の気分によって、希望を与えた(上げるだけ上げて)後で、それを踏みにじる(徹底的に落とす)などのパターンもあるが、はっきり言って悪趣味の一言に尽きる。

 この妖刀は、兎にも角にも対戦相手の心を折りに……もとい、粉微塵(こなみじん)に破壊しようとするのだ。


 彼女の『ぷれいすたいる』による犠牲者筆頭たる刃も、ここへきて音を上げる。

「せめて、協力プレイができるやつにしてくれよ」

 それを聞いたかすみは、待ってましたとばかりに一本のゲームソフトを取り出した。

「なれば、こちらは如何に御座いましょう?」

 パッケージに描かれているのは、満月を背にして、刀を構える黒装束の男。

 筆を使って書いたような大文字のタイトルには、忍誅(にんちゅう )閃獄( せんごく)、とある。

 戦国時代に生きる忍者となって、身を隠しながら敵を(ほうむ)り去るというステルスアクションゲームだ。

「……おまえ、分かってやってるだろ?」

「はて、何の事やら皆目(かいもく)……」

 しれっと(とぼ)けるかすみの様子を見て、やってられるかとばかりに、刃は携帯ゲーム機をテーブルの上に放り出した。

 そしてまたも、しかし今度は、深く溜息を吐く。

「もういいよ……」

 ぽつりと呟くような一言の後、疲れたような顔つきとなり、それきり刃は黙り込んでしまった。

「旦那様?」


 主は何も言わない。目も合わせない。


 ゲームでコテンパンに負かされて、不貞腐(ふてくさ)れている。……ように見えるが、そうではない。

 理由は他にある。

「先の()り合いにて、御受けになられた(にん)のことで御座いますか?」

「あぁ……」

 ようやく口を開いたが、その声には、まるで覇気がない。

 刃は、どこを見るでもないぼんやりとした視線を虚空(こくう)に向けながら、先程まで開かれていた会議での出来事を思い返した。


                   ・

                   ・

                   ・


 ――話は、約二時間前に遡る。


 

 環境管理委員会、栂櫛(とがくし )( やいば)の腕を見込んで頼みたいことがある。

 教職委員会、筆頭教員代理の鳥居(とりい )日向( ひゅうが)は、この言葉の直後に、刃以外の者達に会議室からの退室を願い出た。

 生徒と教師。二人以外に誰もいない部屋の中、刃が聞いた。

「俺に、お願い……ですか?」

 鳥居は、頷いて肯定を示す。

「ギゾクの一員であった生徒、浦宿(うらじゅく)君から話しを聞き、彼以外にも当学園の人間が関与しているという情報を得ました」


 盗賊団・ギゾクは、いくつかのチームに分かれて活動しているという。

 即ち――スリ、置き引き、引っ手繰り、恐喝など、窃盗にも様々な種類があるように、それぞれを担当する部門と、それをまとめるチームリーダーが存在する。


 この複合組織のような窃盗集団を統括しているのが――

釜ヶ淵(かまがふち )継五( けいご)君。……(まがり)さんや御斎(おとぎ)さんと同じ、当学園の二年生です」

「よりによって、頭目(アタマ)かよ……」刃が呟く。「思ったよりも面倒なことになってるな」

 鳥居は、なおも視線を外さない。

 話は、まだ終わっていない、ということだ。

「釜ヶ淵君だけではありません。今、話した幹部的な地位にいる者は、いずれもこの学園に所属する生徒だというのです」

「主犯格、全員が化野(あだしの)の生徒!?」

 先程、伊吹を追い回していた男たちは、それなりの数で行動していた。あれが一味の末端(まったん)だとすれば、少なくとも、集団としての規模は(あなど)れない。

 さすがに、兵隊のほとんどは他校の生徒などが混じって構成されているはずだが、それでも主要人物のすべてが化野学園所属の生徒と聞けば、誰でも思い至る。


 もともと、この街で語られていた噂を着た何者か達。

 その出どころは、きっと――


「今回の盗賊団事件……もしかして、化野(うち)から始まったんじゃないですか?」

 問いに対し、鳥居は、ややあって口を開く。

「まだ、確定するには尚早(しょうそう)、と言いたいところですが……」

 苦い顔で言葉を濁すのも、当然だろう。学園の直接的な運営に携わる役に就いているのだ。生徒たちの安全――延いては、学園の利益を守るため、反社会的な集団やそれを追う警察、あるいは悪質な報道関係者との接触は、可能な限り避けなければならない。

 やや顔を伏せ、心中を乗せた重い声で、鳥居は続ける。

「ギゾクとの関わりどころか、当学園がその発生源である()()()さえ浮上してしまった。……これが事実なら、早急に手を打つ必要があります」

 日本の警察は、非常に優秀だ。今はまだ後手に回っているが、本腰を入れた対策の基に捜査が進められれば、イロモノの窃盗集団など櫛の歯が欠けるように、次々と検挙(けんきょ)されていくだろう。

 きっと近い将来、()()()(とど)めておきたかった醜聞(しゅうぶん)が、明るみへ出ることになる。


 そうなってからでは遅い。


 一拍、無言となった教師に、生徒が問う。

「……で? 俺に頼みたいことっていうのは?」

 その言葉を待っていたように、鳥居は(おもて)を上げた。

「君にお願いしたいことというのは、疑いのある生徒を探し出し、事の真偽を確認すること」そして……と、置いて、こう言った。

「事実であれば、(くだん)の生徒たちが、これ以上の反社会的な活動を行えなくすること」

 遠回しな言い方で提示した二つ目の条件に、刃から「具体的に、どうすればいいんですか?」と上がった疑問の声に、返されたのは「手段は問いません」という淡泊な一言だった。


 つまり、これ以上の罪を重ねさせない為なら、如何なる方法をとってもいいということらしい。


 言葉による説得はもちろん、腕っ節にものをいわせた実力行使や、親類縁者(しんるいえんじゃ)を人質に取っての脅迫まで――仮に生徒であっても、学園の利益を脅かす者へ躊躇(ためら)う必要はないと、そう言ったのだ。


 その本意を察した刃であったが、さして興味もなさげに「その後は?」と先を促した。

「君が持ち帰った成果と情報を精査して、今後の方針を煮詰めていきます。状況によっては、犯罪行為に手を染めた生徒を退学させ、当学園との関係を断たせることも視野に――」

「そうじゃなくて……」やや苛立ったような刃の態度から、鳥居は理解する。

 彼にとって、()()()()()は他にあったのだ。

「もちろん、今回も十分な報酬を用意させてもらいます。受け渡しは、この件が解決したら、すぐにでも」


 言葉の通り、刃がこのような〝仕事〟を受けるのは、今回が初めてではない。


 帰る家も保護者もない家出同然の少年が、辿り着いた見知らぬ街で生き抜くのは、容易なことではなかった。

 間もなく、暮らし向きが傾き出した刃――そこに声を掛けたのが、この鳥居という教師であった。



 ――学園の中核を担う四方(しほう)委員会として、もっとやりがいのある仕事をしてみませんか?



 以来、(いく)ばくかの金銭と引き換えに、こうした汚れ仕事を引き受けるようになった。

「高校生の委員会活動っていうより、ほとんど密偵だな」

 ぼやくような刃の言葉に「分かっています」という声が返される。

「これはもはや()()()()()が立ち入れる範疇(はんちゅう)を逸脱している。ですが……」出かかった言葉を飲み込み「……いや」彼は、言い直した。

「だからこそ、栂櫛君に頼んでいるのです」


 もしかすると、鳥居は気付いているのだろうか?


 一瞬、そんな考えが浮かぶ刃だが、だからと言って、どうということはない。

 例えそうだとして、この男は周囲に吹聴するような性格ではないだろう。

 故に、こう答える。

「俺は、貰うモンさえ貰えれば、それでいい」

 承諾(しょうだく)の意を示す刃に、鳥居はもう一つ表情を和らげ、「助かります」と礼を述べた。

「学び()の中とはいえ、ここも一つの社会。陽の当たる平和な場所であるためには、陰から支える者が不可欠です」



 君のような〝影〟の存在が――


                   ・

                   ・

                   ・


 力を落としたような様子の主に、かすみは言葉をかける。

「何故、御受けになられました? 斯様(かよう)に気の進まぬ()なれば、御断りするが(よろ)しゅう御座いましたのに」

 然して、刃は言った。

「受けるしかないだろ…… 『人』として生きていくためなんだから」


 生きるためには生活を作らねばならず、そのためには金が要る。

 だが、こんな委員会に入っていたら、アルバイトなどそうそう出来ない。

 仮に働くにしても、忍の働きしかしたことのない自分に……未だ、人を理解するに至らない自分に『人の世』に出て〝普通の仕事〟など務まるものだろうか。


 人には言えぬ、日の当たらぬ道を歩くが如き仕事を、つい先ほど受けたばかりだというのに。


「旦那様、何処へ?」

 席を立つ主に、かすみは声を掛ける。

 刃は、それに答えることなく歩み、内と外を隔てる窓を引くと、ベランダへ出た。


 春も半ばだというのに、少し風が冷たい。


 鉄柵(てっさく)に両腕を乗せ、身を乗り出すように、もたれ掛る。

 鉄筋コンクリート造りの地上七階建てマンションの四階。

 下を見れば、向かいの公園を彩る満開の桜。上に目を向ければ、星々の輝く夜空――中程であるが、ここから望む景色も、悪いものではない。


 地上の花でもなく、空の星でもなく。どちらでもない、どこか遠くを眺めながら「なぁ、かすみ」刃は、こんなことを口にした。

「俺はさ、『人』になれると思うか?」

「旦那様?」

「里を出て、人の世ってやつに踏み込めば、『忍』だった俺でも『人』になれると……幾つもの修行や任務を乗り越えた俺なら、才能に恵まれたらしい俺なら、簡単にはいかなくても決して出来ないことじゃない……そう思ってた」


 確かに、刃には天性の才能と呼べるものがあった。だが、それだけで大成できるほど、忍の世界は優しくない。

 来る日も、来る日も――心を打ち、体を鍛え、技を磨き上げる。

 己を一振りの刀と定めて、日々(たゆ)まぬ精進(しょうじん)を重ねる者でなければ、真の『忍』とは呼べないのだ。


 幽御前は、彼という男をよく知っている。何年もずっと傍で見続けてきた。

 彼が積み上げた研鑽も、踏み越えてきた困難も――そして、それが今、かえって徒となっていることも。


 淡々と、刃は語る。

「前まで、(あせ)りを感じることもあったけど、最近はそんな気も起きなくなってな。上手くいかなくても『ああ、こんなもんか』って考えて、納得できるようになっちまった」


 以前まで、持っていた『人』への執着。それが今では、限りなく小さく、弱くなっている。

 最も欲したものへ、かけた想いを忘れていく。そんな時に感じる漠然(ばくぜん)とした不安と焦り。

 そして、その焦りさえ忘れていくという虚しさ。


「『忍』を捨てて『人』になれなかった奴は、何になるんだろうな?」


 それは、自分への問い――本来、胸の内に留めておくつもりだった思いが、口をついて出てしまった。

 答えをくれる者など、どこにもいないし、期待もしていない。ただの独り言。

 ……になるはずだった。

 


 しかし、その独り言を聞く者は、案外近くにいたらしい。

「――旦那様」

 いつの間にやら、隣には見慣れた姿があった。

 (はかな)い程に美しい少女の黒い瞳が、刃の顔をのぞき込み、告げる。


「左様な事、どうでも良う御座います」


 うんざりした表情で、心底どうでもよさそうな声色で、そう言った。

 一瞬、ポカンとする刃であったが、すぐさま「あぁ!?」と眉間に(しわ)の寄った顔つきとなる。

「どうでも良い、と申しました」かすみは、改めて口を開く。「何やら思いつめた御顔つきにて、表へ出られるものでした故、いよいよ世を儚んで、身投げでもされるものかと思うておりましたのに」

 そこまで言って、今度は、かすみが溜息を吐いた。

「その訳が、斯様な些事(さじ)であったとは……」

 身投げなど露ほども考えていなかったし、そもそも回答を期待していたわけでもない。

「そうだな! お前にはどうでもいいことだよな! 下らねぇ話し聞かせて悪かったな!」

 刃は、口を滑らせたことを後悔しながら舌打ちし、()()()()()()美しい顔から視線を外すと、また向こうの夜に目をやった。


 そんな彼の肩を、一枚の布が包む。


 先ほどまで、かすみが使っていた膝掛けだ。

「ほんに、どうでも良う御座います」

 振り返ると、やはりそこには、見慣れた顔がある。


「『忍の世』であれ『人の世』であれ、旦那様が旦那様なれば、かすみにとって世は事も無し、と存じます故」


 さっきまで見せていた、意地の悪いものではない。

 温かな微笑みが向けられていた。

 それを見た刃は、思わず目を反らす。


 ……なんだか、ばつが悪い。


「はて、旦那様……如何なされました? 御顔が、(あこ)う御座いますぞ?」

「……なっ、なんでもねぇよ!!」

 より、顔を背ける刃を追うように、かすみが覗き込んでくる。……多分、分かってやっているのだろう。

 ――この差し出された手も。

今宵(こよい)は、(いささ)か冷えまする。御風邪など()されぬ内に」そう言いながら、手を差し出してきた。「さぁ、こちらへ――」

 握れ、という意味なのだろう。

 その意思に従い、刃の手が吸い寄せられる。

 だが、指先が触れるか否かというところで、その動きは止まった。

 そして、迷うような動作を見せた後、刃の手は、自らの手を引いた。

「……いい。自分で歩ける」

 改めて主の瞳を見た化け刀は、浮かべる微笑みの中に安堵(あんど)の色を交え。

「左様にて」

 と、一言返すのだった。



「されば、旦那様――」唐突にいつもの調子に戻るかすみ。「もう一局、御相手の程を願いたく」そして、これまた唐突に突き出される携帯ゲーム機。

「……まだやるのかよ」

 もう、腹いっぱいだという刃の表情を見て「なんの、まだまだ宵の口!」されど容赦なく、()()、とゲーム機を押し進めてきた。

「明日よりは春休みなれば、今宵は『徹げえ』(徹夜でゲーム)と参りましょうぞ!」

 近づけられる()()から逃れるように身を(よじ)って、眉を寄せる。

「おまえ、少し前まで、明日からお役目がどうの~……とか言ってなかった?」

 たしか、最後に部屋の時計を見たときに、午前一時を回っていたような気がするのだが……

其れは(御役目)其れ、此れは(遊び)此れ!」

 睡眠を必要としない付喪神は、なんのスイッチが入ってしまったのか「真に『人』へ至らんと思し召れば、両立してこそ、に御座います」このように、妙にハッスルしている。

「なんで、そんなに元気なんだよ……?」


 正直、無視して寝てもいいのだが、何となくそんな気にはなれなかった。

 妖刀(ゲーマー)瘴気()にでも当てられたのだろうか?

 刃は、幾度目かの溜息を吐く。

「わかったよ! その代り、今度は協力してできるやつだからな?」それと、念のため、釘を刺しておく「あと、フレンドリーファイアで俺のことPK(殺す)するのも無しだ」

「心得ております」

 かすみの笑みが胡散(うさん)臭いものに変わっていた。


 あ……これ絶対、殺る気だな。

 そんな警戒と覚悟を胸に、刃は夜の景色を後にした。

 

                    ・

                    ・

                    ・


 間も無く、丑三(うしみつ)つ時を迎える公園。

 照明塔の光に当てられ、夜に浮かぶ満開の桜の下に、一人の少女が姿()()()()()


 歩いてきたのではない――今、忽然(こつぜん)と、この場に出現したのだ。


 サイドテールに纏めた髪を揺らして、眼前に建つマンションを見上げる。

「あれが、戸隠流忍者……」

 窓が閉められ、カーテンの引かれる四階のとある一室に目を向けながら、少女はそう呟いた。




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