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二年後…… ~利ノ段~

 今回は、化野学園を動かす四大派閥――通称、四方委員会の主要人物の登場回となります。

 登場キャラクターが多いことに加え、それらが一同に話し合う会議の様子ですので、そこそこ長くなっています。

 上手く書けたか自分でもドキドキですが、力は尽くしました。


 どうか、最後までお付き合い願います!




 時計の針は午後九時三〇分を回ったところ。間も無く深夜を迎える私立化野(あだしの)学園。

 いつもなら、全ての生徒たちは完全に下校している時刻……だが今夜は、暗く塗りつぶされた校舎の一室に、光が灯っている。

 締め切られたカーテンの僅かな隙間から明かりが漏れ出すその部屋は、会議室であった。


                 ・

                 ・

                 ・


 室内では、外が暗くなったことで、昼間より強く感じられる蛍光灯の光が天井から降り注いでいる。

 決して視神経に優しくない(たぐい)のそれを浴びるのは、ロの字を描くように組まれた長机を囲む四つの派閥――学園の中心組織たる四方(しほう)委員会の面々である。……が、面々と言ってもこの場にいるのは僅か数名だ。

 急な召集の上に時間も遅いため、各委員会の代表者と()()の当事者だけがここに集められていた。


 風紀委員長の御斎(おとぎ )千里( ちさと)は、伊吹からの証言を聞き終えると「次に環境管理委員会、一年の栂櫛(とがくし )( やいば)君」と、もう一人の関係者を指す。

「あなたは下校途中、今の話しの中にあった盗賊団の構成員と思われる男たちに追われる彼を偶然にも見かけ、その様子の異様さが気になり彼らを追跡した、ということで間違いないのね?」

 相変わらず睨むような御斎の視線。

「大体、そんな感じです」

 しかし、刃はさして気にした様子もなく言葉を返した。

 過去の話しとはいえ、常人には及びもつかない非日常を日常として生きてきた忍者にとって、脅しや凄みなど、どこ吹く風である。


 それを受け、御斎の眉が僅かに動いた――


 相手の性格や、それを構成するに至った境遇など知ったことではない。

 ただ、その上で一つだけ思う。


 目の前にいる一年生の態度が気に入らない、と。


「その後、路地裏で暴行を受けそうになっていたアルブレヒト君を発見。彼と暴漢との間に割って入り、乱闘に及んだ、と?」

 口調こそ静かだが、今度の問いは、質問というより詰問に近い雰囲気を帯びている。

「いや、乱闘ってほどでもないですけど……」

 やはり気後れしない、刃の回答を「もう結構。よくわかりました」最後まで聞くことなく、御斎はこれを切り捨てた。

 乱闘という()()でもないということは、それに近い何らかの出来事はあったということだ。

 それだけ聴取できれば、もう用はない。

「栂櫛君、あなたの処分は追って伝えます」では、次に――と、早々に次の議題へ移ろうとする風紀委員長の振る舞いに、刃の隣に座っていた伊吹が慌てて席を立つ。

「ちょっと、待ってください!」

 起立した小柄な少年に、御斎の眼が向く。

「……なにかしら?」

 要件を聞くための言葉ではない。風紀の虎(御斎)の目が言っている。


 黙って座っていろ、と。


 彼とて、逆らうことが得策ではないことくらい十分に理解している。

 だが、納得できない。

「刃くんは、僕を助けてくれたんです。自分が危険な目に遭うかもしれない……それを顧みずに来てくれたのに、処分だなんてっ……!!」

「そう……」と答えて、御斎は顎へ手をやった。


 話し合いが通じず、逃げ場のない空間で襲われたため、止む無く選んだ自衛という行為。

 なるほど、確かに一理ある。

 緊急避難や正当防衛とでもいえば、刃の行動には、正当性がまったく無いとも言い切れない。


「連行してきた男は、一部の構成員が流血する程の負傷をしたと証言しているらしいわよ」

 なら、その『正当性』を潰してやろう。

「刺突物が、手の平を貫通するような大怪我(おおけが)だ、と。――もし、それが本当だとしたら、少しやりすぎ(過剰防衛)ではないかしら?」

「そ、それは……」

 言葉に詰まる伊吹を、獣の如き攻撃性を秘めた双眸が見据えていた。

 張りつめた空気に、肌を刺されるような威圧感を覚える。

 重苦しい雰囲気に支配される会議室――

「ねぇねぇねぇ! アタシからもいいかな?」


 その場に、およそ似つかわしくない明るい声が響いた。


 ポニーテール状にまとめた髪を、さらに根元から(ひね)り上げ、それをいくつかのヘアクリップで留めるというアレンジは動きやすさを重視したものだろうか。頭の後ろから跳ねるバラけた毛先が、人好きのするタイプのつり目と相まって、活発な印象を与える。


 元気に挙手した女子生徒は、二年生の(まがり )龍姫( たつひめ)

 化野学園の現・生徒会長である。

 周囲の空気に飲まれることなく、むしろそれを弾き返す爛漫(らんまん)さでもって、鈎は伊吹に問う。

「伊吹ちゃんはさ、怖い人達に追いかけられたんだよね? それって、何人いたの?」

「えっと……たぶん七、八人はいたと思います」

「そんなに!? じゃあ、つまり栂櫛ちゃんってば、一人でそいつらをやっつけちゃったってこと?」

 (きらめ)く瞳を唐突に向けられ、刃は少し戸惑い気味に返す。

「そう、なるんですかね……」

 それを聞くや「すごいじゃん!」鈎は、わくわくを絵に描いたような顔を見せる「栂櫛ちゃんって強いんだねー。なんか格闘技とか護身術みたいなのやってるんだ?」

 武術の構え染みた身振りを交えての問いに、刃はこう答えた。

「いえ、()()経験はないです」


 嘘は言っていない。

 刃が(おさ)めたのは〝忍術〟だ。

 真っ当に生きる人間なら、生涯垣間見ることなどない人外の秘術である。

 定められたルールの上で勝敗を競い合う競技とは、そもそも次元が違う。


 ……もっとも、忍術やってます、などと正直に言えるわけもないのだが。

「何も習ってないの? でも、相手は大勢いたのに、どうやって?」

「どうやって、ってのは?」

「七、八人もいたヤンキーたちをどうやって追い払ったのかってこと」

 付近で容易に調達でき、()つ手に収まる程度の物を手裏剣の代用品として使ったのだが……やはり、忍術を使って、なんて言えるわけもない。


 さて、どう誤魔化したものか……


 暫し逡巡し、やがて刃は口を開いた。

「……文房具」

「うん?」

「持っていた文房具を投げました」

 これも嘘ではない。やったことをそのまま答えたまでだ。

「文房具を投げる……? それだけ?」

「それだけです」

「どうしてそんなことしたの?」

「どうして、って言われても……」そんなところまで突っ込まれても困る。

 どう答えたものかと、またも黙る刃……だが、思考にあまり時間をかけるわけにもいかない。

 不審を買われると厄介だ。


 一拍の後、考え至ったのは、とりあえず忍術とは関係ない方向で、テキトーなことを言って煙に巻くという方法だった。

 「不良って、勉強嫌いなイメージがあるじゃないですか。……だから学業に関係のある物をバラ撒けば退散するんじゃないかなー、と思って――」


 そこまで発して、刃は、改めて辺りを見渡す。

 なに言ってんだ、コイツー――そんな視線を独り占めしていた。

 ……少々、適当が過ぎたかもしれない。

 会議室は、先程までとは別な意味で膠着(こうちゃく)しており、隣にいる伊吹の頭の上にも「???」が踊っている。

 生徒会長にいたっては――


「あっははははははは!!」


 なぜか爆笑していた。

「なにそれ!! そんな、節分で鬼に豆撒くわけじゃないんだからっ……」一言、一言話すたびに笑う。「……で? 結局、そいつらはどうなったの?」

「動けない一人を残して、全員逃げました」

「マジで!? そんなんで追い払えるんだ? アタシも絡まれたら試してみようかな」

「鈎会長。不謹慎(ふきんしん)ですよ」

 ようやく笑いの渦から抜け出た彼女を、向かいの席から睨める紅い瞳があった。

 聞く者に気を引き締めさせる御斎の声に「あぁ、ごめんごめん」と軽く謝罪し、鈎は続けた。「聞いての通り、彼は暴力沙汰(ざた)は起こしていないみたいだよ?」

「まさか、今の笑い話で、疑いのある者を放免しろと?」

「そゆこと」

「冗談もそこまでにしてください。相手の命に別条は無いとはいえ、学園の生徒が傷害に及んでいるんですよ?」

「そのとき、持ち合わせていた学用品を咄嗟に投げたってだけじゃん。怪我したどうのってのは、単なる結果論でしょ?」

 身を守ろうとした彼らに、罪はない。そう主張する生徒会長に、しかし()は、なおも食らいつこうとする。

「投擲する際に、なぜ文具を選んだのかは、追及しないのですね」

 通常、学用品の一式は手荷物の中にしまってあるはず。それらを取り出す手間を考えれば、あまり現実的ではない方法に思える。

 それこそ、バッグ自体を投げるという手段もあったはずだ。

「さっき聞いたでしょ?」

 つまり、不良は学用品で退散する説。

「会長は、あんな間の抜けた理由を信じると?」

「信じるしかないじゃない。仮に嘘吐くならもっとマシなこと言うはずだよ。気が動転してよく覚えてないー……とかね」

「散乱していた文具は、一人の学生が所持するような量ではないという報告もありますが?」

 元々、そのつもりで(凶器として)持ち歩いていたのではないか。

 そんな含みを帯びた追及も「忘れ物をしたことを忘れて、同じ物を何度も買っちゃったんじゃないの? 栂櫛ちゃんってば、うっかりさんなのかもね」持ち前らしいよく回る舌で、しれっと躱す。


 御斎は『逃すものか』とばかりに追及を続ける。……が、それをのらりくらりとやり過ごす生徒会長。

 その後も続いた応答も、四度を追える頃には、さしもの風紀の虎もすっかり威勢を挫かれていた。


「……随分、彼の肩を持つのですね?」その言葉に、先程までの意気はない。

 攻撃性を失った風紀委員長に、(しか)して、彼女は言った。

「これでも生徒会長やってるからね。アタシの言葉で、善良な生徒を無実の罪から守れるなら、肩でも腰でも持つさ」

「善良、ですか」

「友達を見捨てず、暴力と戦うなんて、誰でもできることじゃない。それをやった彼は、十分に善良だと思わないかい、()()()()()?」

 最後の一言を聞くや、御斎の形相(ぎょうそう)が変わった。

「それが私のことを呼んでいるのだとしたら訂正してください! そして金輪際(こんりんざい)、二度と、そのふざけた名で呼ばないよう求めます!」

 今度こそ怒りを露わにしたアルビノの(おもて)に向かって、鈎は「まぁまぁ」と言った風に、手の平を振る。

「そう怖い顔しないでよ。何もアタシだって、キミと敵対したくて彼らを弁護(べんご)しているわけじゃないんだから」

「なら、どういうつもりよ?」苛立ちを隠そうともしない声で応じる。

 千里という名前故か、先ほど呼ばれた『ちーちゃん』というあだ名が大層気に入らなかったらしい。


「そこから先は、私から説明しましょう」

 ここまで、一連の様子を静観(せいかん)していた男性が切り出した。

 自身の体型に合わせて仕立てたと思われるスーツを、スマートに着こなす男は、この部屋の中において、ただひとりの成人――教師である。

 オールバックにセットした頭部には髪一本の(ほつ)れもなく、つい先ほど整容したかのような顔からは、清潔感を覚える。

 その姿は、一日の仕事を終えた教職員というよりも、出社したばかりのエリート商社マンといわれた方が自然な姿であった。

 御斎は、申し出た人物に目を向ける。

鳥居(とりい)先生」

 二学年主任教師にして、教職委員会筆頭教員代理の鳥居(とりい )日向( ひゅうが)は、向いの席に座る環境管理委員会の二人に問いかける。

「君たちは、文銭町(もんせんちょう)周辺で噂される盗賊団について、どの程度知っていますか?」

 先に答えたのは伊吹だ。

「もともと、この街に昔からある都市伝説の一つで、警察でも捕まえられない謎の多い集団だって聞いてます」

「では、栂櫛君は?」

「にんっ……げん離れした方法で盗みを働くとかなんとか」危ない……迂闊にも()()と口にするところだった。


 二人の答えを聞いて頷き、鳥居は言葉を継いだ。

「以前から、この街の噂になっていた盗賊団――名を〝ギゾク〟というらしいですが、スリのように死角に隠れた犯罪から、大胆な強盗行為まで行うこの窃盗グループについて、ほとんど確かな情報がありませんでした」そして言い終えてから、こう付け加えた。「……今日までは」

「今日までは?」伊吹が先を促す。

「話しは変わりますが……誠に遺憾(いかん)ながら、決して多くないとはいえ、我が学園にも素行の良くない生徒はいます。中には非行に走る者も……」

 長机の上で手を組み合わせながら、やや苦い顔になった鳥居は、ややあって口を開いた。

「盗賊団は、そのメンバーのほとんどが、十代半ばから二十代前半の年齢層で構成されています。――つまり、その多くが君たちと同じ学生だということです」

「話が見えてこないな……」首をかしげる刃から、疑問の声が上がる。「つまり、どういうことですか?」

 その問いに対する答えは、正面の鳥居に代わって、(はす)向かいからなされた。

「さっき、私たち風紀委員が捕縛した男は、その盗賊団――ギゾクの構成員だということよ」


 それは伊吹から聞いている。

 問題は、この緊急会議の議題だ。

 ほとんど小間使(こまづか)いに近い存在であるが、学園の(かなめ)たる四方委員会の一角とされる環境管理委員会。

 彼らと犯罪集団との間で起きた小競り合いについて。結果的とはいえ、手を下してしまった刃に対する何らかの処分は予定されていたようだが、お叱りや指導の類はなく、むしろ相手側の話しが主題となってきている。

 このことから今回の召集は、乱闘騒ぎが元で行われているわけではないことは理解できた。

 だがそうなると、いよいよこの会議の目的がどこにあるのか分からなくなってくる。


 そして、それを考える上で、刃にはどうしてもわからないことがある。

「そもそも、なんで風紀委員が盗賊団を引っ張ってきたんだ?」

 これを受け、鳥居の口が開かれた。

「御斎さん達は見回りの最中、偶然にもその場に行き会ったのでしょうが、そこで捕えた男こそが、盗賊団・ギゾクの一員であり――そして、当学園に所属する生徒、二年三組の浦宿(うらじゅく )七聖( ななせ)であるという確認が取れました」

「生徒が盗賊団!?」

 伊吹から驚きの声が上がる。

 鳥居は、その反応を予想していたように頷いた。


 彼の話しはこうだ。


 県内の有名校の生徒が、反社会的集団に混じって犯罪に加担している。

 不確かながらも、独自のルートから情報の入手に至った教職委員会は、その真偽(しんぎ)を確かめるために、以前から、活動の一環と称して、放課後の学区内パトロールという(てい)をとりながら風紀委員会に調査を依頼していたのだという。


「先生ってば、ちーちゃんとばっかり相談して、アタシ達には何も言ってくれないんだもんなー」

 それって依怙贔屓(えこひいき)なんじゃないかなー。いけないんじゃないかなー? と、拗ねた真似をして(はや)し立てる生徒会長に、鳥居は苦笑する。

「そんなつもりはありませんよ。生徒の生活態度の見直しを図るために街中を練り歩くといった活動を行う場合、風紀委員が適任、且つ周囲から見て最も自然であると考えたのです」

 あらゆる物事に対し、主体性を持って取り組むべし――『随処為主(ずいしょいしゅ)』の校訓を掲げる化野学園の生徒であれば、大々的に動いたところで不審を買うことも少ない。それを狙ってということだろう。

 鳥居の話しが続く。

「しかし、これは由々(ゆゆ)しき事態です。伝統ある我が学園から、犯罪に加担する者の存在が確認されてしまった」

 確かにマズいことなのだろう。だが、刃は思ったことを率直に口にする。

「それはもう警察の仕事なんじゃないですか? 高校生が気にしたところで、どうなるもんでもないと思いますけど」

 言いながら、会議の参加者一同に目を向ける。……その中に、悪い微笑みを浮かべる者を見た。

 生徒会長の鈎である。

「栂櫛ちゃん。これはね、ある意味チャンスなんだよ」

「チャンス?」

 今度は、鈎の対面に位置する御斎が、表情を変えずに言う。

「警察は、捜査が後手に回ってギゾクに関するまともな情報を持っていない。つまり、組織の正確な規模や主犯格はもちろん、その末端の構成員が、どの学校に所属しているかも不明――」

 続いて、机の上で手を組んだ鳥居が、こう締めくくる。

「これを逆手に取り、我々としては、今回の一件を()()()解決したいと考えているのです」

 ここまで聞いて、ようやく刃は合点がいった。


 学園内に、盗賊団の関係者がいる可能性を知った教職委員会。

 そこからの依頼で、わざわざ建前(たてまえ)を作ってまで放課後に見回りをしていた風紀委員。

 春休み期間中に、門限や外出の制限を掛けられる理由。

 警察への通報をしようとして、それを止められた訳。

 さらに、この時の不良生徒、浦宿を捕縛したことなど。


 ――つまりは、こういうことなのだろう。


「……あんたたち、このことを揉み消すつもりなのか?」

 眉根を寄せる刃に、生徒会長は明るい声色で答えた。

「人聞きの悪いこと言わないでよ。これも学園の平和を守るためなんだから」

「世間に知られる前に、都合の悪い真実を闇へ葬るのが、平和を守るお仕事かよ。……大した正義の味方だな」

 隣でとんでもない暴言を吐く友人に、伊吹が「ちょっと、刃くん!」と、彼の袖を強く引いて警告している。

 こんな皮肉を聞き流してくれない者が、この場にいるからだ。 

「口を(つつし)みなさい。あなたには事態の深刻さが分からないの?」

「いいんですよ」そこへ、鳥居の声がやんわりと割って入った。

「こんな話を聞いて、不快になるなというのが無理というものでしょう。栂櫛君の言うことは、もっともです」

 そして、鳥居は、最後に言った。「最後の一言を除いて、ですが」

「どういうことだ?」 

 刃の疑問に、鈎が「アタシ達は、正義の味方じゃないってこと」次いで、御斎が口を開く。

「むしろ()()()を行わなければならないわ。少なくとも、今回に限っては、ね」

 二人の言葉の終わりを見て、鳥居が続く。

「先ほど栂櫛君が言った、警察の仕事――確かにその通り。……では、警察がその役を担うことになれば、今後、その関係者が当学園に出入りすることになる、ということは分かりますね?」

 件の生徒について、学園内の素行や交友関係などを聴取する目的で訪れるであろう警察関係者を思い浮かべて、刃は相槌を打つ。

 その様子を見ながら「あまり歓迎できない来訪となりますが……」と、言い置いてから語り出した。

「創立、一〇〇年以上の歴史を持つ伝統校に通う生徒が、反社会的な集団と交際している――この事実が明るみになれば、学園を訪れるのは刑事、警察だけに止まらなくなるのです」

 事件に食いつく公僕(こうぼく)以外の人種と言えば……つまるところを伊吹が答える。

「次は、報道関係者が学園に押しかけてくる、ということですか?」

「そのとおり」静かな言葉で肯定する鳥居のあとに、陽気な声が続いた。

「アタシは、どちかってーと、尾ひれ背びれ付けては、茶々(ちゃちゃ)入れる外野(ギャラリー)のがメンドくさいと思うけどねー。……他校の生徒とかさぁ」

 さらに、虎の如き攻撃性を秘めた言葉が後を追う。

「もし来たなら、どっちも気の済むまで相手になるだけよ。――私たち風紀委員会がね」

 これらを聞いた鳥居は、またも苦笑いを浮かべた。

「知っての通り、化野学園は屈強な自治組織によって守られているわけですが、しかしそれが有効に働きかけられるのは、あくまで学園内に限られます」


 如何に、主体性を育むことに重きを置いた教育方針をとっているとは言え、生徒会も風紀委員会も、学園の中だからこそ、発言力やあらゆる権限持つことができるのだ。

 しかし一歩でも外に出れば、それらの力は、ほとんどの効力を失ってしまう。

 先の話しにあったように、出来ることといえば、委員会活動と称して見回りを行うのが精々である。まして、この街一帯となれば、手が幾つあっても足りない。


「学園内にいる間は、我々が手を尽くせばどうにかなるでしょうが……新聞、雑誌、テレビ。――そういった関係者が狙うのは、外へ出た生徒の一人ひとりです。そんな〝環境〟の中にあっては、()()()()()()()など送ることはできません」

 鳥居に見据えられながら、刃は誰にともなく言った。

「登下校中なんかを狙われたら、助けられるか分からないってことか……」

 確かに、そんな面倒は、大事になる前にさっさと()()()たいだろうな、と考えながら――ふと思い至る。


 ……あれ? どっかで聞いたな、この話。


 あまり良いとは言えない予感が、刃の頭を過る。

 だが、そういう当たってほしくないモノほど、当たってしまうのが世の常で……


「――そこで栂櫛君。盗賊団、ギゾクを退(しりぞ)けた君の手腕(しゅわん)を見込んで、()()()があります」


 ほれ、この通り。



「見事な『ふらぐ』回収に御座います。旦那様」



 化け刀は、今日もいらん一言で(あるじ)の気を逆撫(さかな)でてくれる。

 懐に収まるそいつ(幽御前)目がけて、刃は渾身のデコピンをお見舞いしてやった。




 ただ、爪が痛いだけだった……




 初めて多人数の会話に挑戦しましたが、いかがだったでしょうか。

 ご意見、ご指摘等いただけましたら是非参考にさせていただきます!



 次回、舞台は突如、銃弾飛び交う戦場へ。

 なぜこの二人がっ!?

 乞う、ご期待!



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