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二年後…… ~仁ノ段~

 作者の胃炎により、投稿に時間がかかっております(>_<)申し訳ありません。

 今回も、内容が短く、且つアクションまで至っておりませんが、アップさせていただきます。


 西校舎は、改修と増設を同時進行し、その在り様が一新された。

 改修工事を完了したのが、今から約半年前。その二か月後には増設工事を終えて落成に至っている。

 メモにあった、剪定するべき窓を塞ぐ枝は、そんな建て増しした新棟の一角で見つかった。


「これか……」

 三階建ての真新しい建築物。

 前面は、巨大な一枚板のようなガラス張りになっており、先進的でスタイリッシュな外観に仕上がっている。

 中側からは、透明な壁面を通して、日々変わりゆく天気や風景を楽しむことができるだろう。

 およそ高等学校とは思えない開放に満ちた佇まい――だが、そんな現代建築を前にして、どうしても目につく点がある。

 高い強度の合わせガラスで作られた壁。その二階部分にまで掛かる枝……というよりも、立木の半分ほどが壁面を覆っている。それも、建造物と密着するに近いかたちで。

 建物を造る場合、こうした障害物は事前に撤去するか、もしくは建築の妨げになるような物のない場所を選ぶのが一般的であるはず。

普請(ふしん)の衆の作事(さくじ)に、手違いが有ったので御座いましょうか?」

「でなければ、教職委員会が伐採の費用をケチったか、だな」

 これを剪定するには、大きな問題がある。

 木の全体面積のおよそ半分近くが建物に被っているということは、切り落とす枝の数が多い上に、幹近くの太い部分にまで手を付けなければならない。

 見上げて、刃が呻いた。

「……丸ごと切り倒した方が早いような気がしてきた」

「火術にて焼き払いましょうや?」

「よせ!! 建物まで(あぶ)る気か!?」

 印を結ぶかすみの様子を見た刃は、大慌てで彼女を制止する。

 新築の校舎に、燃え跡の一つでも残ろうものなら罰則ものだ。

 それに、火術とは読んで字の如く、火や爆発物を操る(すべ)。ここで使うにはいささか目立ちすぎる。

()れば、如何されまするか?」

「ここは、地道に小さい枝から()っていこう」

 刃は〝切る〟ではなく〝斬る〟と言った。

 かすみはその言葉の意味するところを察する。

「獲物は、()で良う御座いますか?」

「あぁ、頼む」

「御意」

 肯定の意味を持つ古い言葉で返事をすると、かすみの手は再度、印を結ぶ。

 それは先程、火術を使おうとした際に見せたものとは全く別の形を取っていた。


 ――妖法(ようほう)変化(へんげ)の術。


 かすみの姿が、(かす)んで薄れてゆく。

 瞬く間に彼女の姿が消え去ると、いつの間に手にしていたのか、刃の手には一口(いっく)の短刀が握られていた。


 それは、二年前――隠れ里を去る時に持ち出した戸隠秘伝の忍具の一つ、妖刀・幽御前(かすみごぜん)であった。


 刃は、手の内に納まる短刀に目を向け……「もっと長いやつに化けてくれ」と、話しかける。

 すると、懐刀ほどの小さな獲物は一瞬のうちにその長さと形を変えた。


 鞘から刀を抜き放つ。


 全長、およそ三尺。

 刃渡り、約二尺程度。

 四角の鍔と日本刀には珍しい反りのない直刀の作り。


 この特異な形状の刀を用いていたのは、侍ではない。

 かつて、時代の影となり、日ノ本の闇を駆け抜けた者共が携えた打ち物。

 ――名を、忍刀(しのびがたな)という。


「こちらでは如何に御座いましょう?」


 笛の音のように透き通った声が問う。

 それは、つい先ほどまで刃の隣にいたはずの、かすみの声であった。



 付喪神(つくもがみ)という伝承がある。

 大昔……まだ、一つの品物を世代を超えて、末永く使い続けることが当たり前だった時代。

 この国では、長い年月を経た道具に、神や霊魂が宿ると信じられていた。

 魂を得た物の具(もののぐ)は時に、神がかり的な力で持ち主の助けとなり、あるいは、その不可思議な術をもって人々に仇なしたとされている。

 多くの怪談、怪奇譚の中で語られる付喪神だが、全てが作り話というわけでもない。

 現に、ここにも()()のだから。


 かすみの声に「十分だ」答えた刃は、右手に握った忍刀を右袈裟、左袈裟へと軽く振ってみる。

「――さて、後は俺次第か。……上手くできればいいけど」

 忍をやめてからというもの〝コイツ〟を振る機会もめっきり減ってしまった。

「然りとて、頭領様をも退けるその御力を持ってすれば、技の冴えを取り戻すのに、そう時は掛かりますまい」

「簡単に言いやがって。お前には分からないだろうが、人間にとってブランクってのは、割と致命的なんだからな?」

 人目に触れれば、奇異なものに向ける視線を浴びていたであろう。何せ、物であるはずの刀に話しかけているのだから。

 だが、刃は()ではなく()に語りかけている。


 ――妖刀・幽御前。

 幾百年の時を経たこの刀こそがまさに付喪神であり、二年前の里抜けをした夜に、刃へ語りかけた姿なき女の正体。

 忌刀(いとう)かすみとは、この化け刀が(あやかし)の力で作り出した世を忍ぶ仮の姿なのだ。


「悪いけど、少し荒くなるかもしれないぞ?」

「心配無用に御座います。(なた)の如く、鎌の如く、(のこぎり)の如く、旦那様の御心の(まま)、存分に振るわれませ」

「そうかい。……それじゃあ、好きなように使わせてもらうぜ」 

 忍刀を逆手に構え直しながらそう言うと、刃は地を蹴って飛翔した。



 次は、姿形を変える妖刀・幽御前と元・忍者の栂櫛刃によるダイナミック伐採シーンをお届けいたします。

 対人戦ならぬ対物戦において、忍の技と忍具はどこまで威力を発揮するのか!?

 乞うご期待!!


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