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二話のつづき1




 朝のホームルームが終わり、早速転校生には恒例イベントと言っても過言ではない『質問攻め』が、千秋を襲う。……はずだったのだが……、生徒諸君が千秋の席に集まる前に、千秋が動いた。

 まっすぐにオレの席に駆け寄ってきたかと思えば、いきなり抱き着いてきやがった。


「レンレーン♪ レンレ~ン♪ 何だよ~、同い年だったのは知ってたけど、同じガッコの同じクラスなのかよぉ~。コレはアレか!? 運命の赤い糸ってやつ! リアルでも一緒とか嬉しいじゃぁ~ん♪ えへへ」

「……なぁ、周りの目も少しは気にしてくんない……? つか、ぶっちゃけ暑い。離れろ」

「そうつれない態度とるなよ~! アタシ達の仲じゃん♪ あと、周りは気にしない。そう決めた! 決めましたっ! 友達出来なくても、レンレンがいるからモーマンターイ♪」

「コッチの世間体とかも考えてくれませんかね……。柊さん」

「ちょっ、やめろよー! 今更、苗字で呼ぶとかやめろよー!!」

「……はぁ」


 オレは無理矢理千秋を引き剥がし、無視して次の授業の準備を始める。


「おいコラため息つくなよ」


 さてと、次の時間は数学だったな。

 予習とかあまりしなくてもいいタイプの得意カリキュラムだし、適当に読書でもして休み時間を潰すか。


「ちょっと! ちょっとちょっとちょっとぉお! なに読書とか始めようとしてくれちゃってんの? 暇ならアタシに時間使えよー! 構えよー!! ……無視とか寂しいじゃーん」

「……うるせぇな。折角の転校で新しい土地に来たんだろ? 新しく友人でも作って、ソッチで話せばいいだろうが?」

「コミュ障こじらせたアタシにリア友とかありえねぇ~……。てか出来るわけないじゃん! アタシ、伊達にボッチ人生謳歌してませんから!」

「胸張って断言すんな!」


 つか、なんでこんなにオレにベッタリなんだよ!

 友人関係抜きにしたら、オレなんてただの他人だぞ! しかも異性の男だ。

 初対面ではないとはいえ、女の子が、彼氏や家族でもない男にベタベタくっつくのはアウトだろ!

 お前の貞操観念どうなってんだよ!


 他の誰かに押し付けられないか……。そう思い、視線を巡らせるが、千秋の態度のあまりのギャップに、みなさん呆然としてらっしゃる。

 気を悪くする余裕もなく、ただ絶句しているらしい。しかも、千秋のせいでほぼ全員の視線を集めてしまっている。


 生殺しってやつなのか?

 視線が痛いっすわぁ~


「おぉ、御堂と知り合いだったのか? それなら、わからない事は御堂にきくといい。御堂もそれで構わないな?」


 あまりのベタつき具合に、先生までそんな事を言い出すしまつだ。


「……えっと、は、はい」

「わかりました」


 赤の他人なら確実に返事は「NO」だったが、千秋とはお互い知らない間柄でもない。

 むしろ、コイツの反応からして、まともに会話できる相手なんてオレ以外にいない気がするし。


「任されましたなレンレン! 頑張ってアタシの面倒見てくれよ~ダンナ~♪ まるで執事みたいじゃん♪ お嬢様になった気分~」

「話を飛躍させてんじゃねぇよ。校内の事とか勉強とかでわからないことがあったら聞けって言ってんだよ。それ以外は自分でやれ」

「つれね~……」


 そうこう話していると、三人の男女がオレ達のもとへと近付いてきた。

 一人は、オレの頼れる友人、蒼馬くん。いつも通りの優しい爽やかイケメンスマイルを崩さぬまま、颯爽と佇む。

 男のオレから見ても、カッコいいと思うほど様になっている。


 もう一人は、自称・オレの友人である千里さん。

 そして最後の一人、……黒髪ロングの綺麗な女の子。千秋や千里よりも遥かに女性らしい凹凸のとれた体。背丈はオレの鼻くらいかな? キチッと制服を着こなし、眼鏡越しにうつる瞳もキリッとしている。

 一言で表すなら、『真面目ちゃん』、もしくは『委員長』って感じだ。実際、彼女はこの学校の風紀委員長でもあるわけだし、あながち間違ってもいない。

 名前はさかき 瑠菜るな

 男子の噂では、この学年で1、2を争う美人さんらしい。ちなみに噂のもう一人は、別クラスのお嬢様らしいが……顔も名前も知らないし、今はどうでもいいか。


 要するに、このクラス屈指の美男美女が集まってきたわけだ。

 注目度は増すに決まってるわな……


「やぁ、柊 千秋さんだね。千秋ちゃんって呼んでもいいかな? ボクは仙堂 蒼馬。気軽に下の名前で呼んでね♪」

「アタシはね! アタシはね! 三枝 千里っていいます♪ ちさとちゃんって呼んでね♪ よろしく、千秋ちゃん!」

「私は瑠菜です。……榊 瑠菜。よろしくお願いします。……それと――貴女も女の子なんですから、あまり男子にベタベタくっつくのは良くないと思います。……こう、風紀的にも……」


 口々に自己紹介を始めた3人。

 一応友好関係は気付いておきたい。というのは他の生徒達とも同じなのだろう。

 ……ただ……


「……ど、どうしよう。レンレン……。見るからにリア充っぽい3人に絡まれた! どうしようやだ怖い」

「お前な……。向こうは『よろしく』って言ってるんだから、よろしくやってやればいいだろ?」

「『よろしくやる』ってなんか隠語っぽくない? レンレンえっろ! アタシ、もしかしてまたまた貞操の危機? レンレン助けてー」

「いい加減落ち着け!」

「はい」

「他の奴らはオレもあまり接点がないからなんも言えないが、この3人は……まぁ、いい奴だ……と思う」


 なんだろう。メチャクチャ恥ずかしい。

 おいコラ、3人とも不思議そうな顔でオレを見てんじゃねえ!

 そして千秋! この世の終わりみたいな顔やめろ!


「れ、レンレンが……レンレンがリア充に毒されちまった! 目を覚ませー! まだ戻ってこれる! ソッチはアタシ達には地獄でしかないぞぉー!!」

「……千秋」

「はい、黙りまーすはーい」


 なんでオレがコイツらのパイプ役にならにゃならんのかね~

 オレだって千秋程じゃないけど、人見知りだよ? なんだよ? なのにだよ!?


「すまんな……。見ての通り、『人見知りが有頂天突破した』みたいな奴でな。慣れてる奴には普通に話せる……っつーか、鬱陶しいくらいなんだが……」

「なんだよ~♪ テレんなよ~」

「……」

「おい、マジ顔やめろよおい! 泣くぞ? マジで泣くぞ!?」

「……まぁ、見ての通りだ」

「おい無視かよ」

「これが嫌なら近付かない事をオススメする。……それでも仲良くなりたいって言うんなら……」


 仲良くなりたいなら…………どうすりゃいい?

 いや、普通の人間なら、しつこく話し掛けてればその内心を開いて、仲良く――なんて事もあるかもしれないが、千秋の場合たぶん逆効果だもんな……。

 本人も前に言ってた事だが、あまり話し掛けられ過ぎると、ストレスで不登校になるかもしれない。触れるともなれば、例え同性でもアウトらしい。

 潔癖症とかではなく、ただただ他人に触れるのが嫌だという。

 舌打ちなんてされたら一生立ち直れない自信がある、と豆腐メンタルを断言までされたし……。

 ちなみに……何故かオレは大丈夫らしい。つか、千秋の方からくっついてきたし、今現在もオレを盾にして3人から隠れようとしてる。

 ちょっとわけがわからん。


 3人……いや、蒼馬や委員長はそうでもないが、千里だけは食い入るようにオレの言葉を待っている。

 そんなにコイツと仲良くなりたいのかね~


 ん~、オレがコイツとやったこと……


「――文通……かな?」

「……ぷっ!」


 千秋の野郎、吹き出しやがった。


「ぎゃはははは!! ぶ、文通!? 文通て!? 古っ! レンレン古っ!! いつの時代の話してんだよ~♪」

「んじゃ、コイツ等と連絡ID交換出来んのかお前?」

「はぁー? 無理ですけど、はぁー?」

「……なら、どうやってお前とコミュニケーションとればいいんだよ? 会話しようとしても、お前が無理だろ……?」

「無視でお願いします!」


 ホントコミュ力皆無だなコイツ……。

 3人も見るからに困惑してんじゃん。他の奴等も、遠回しにドン引きしてるし。

 だいたい、お前がオレにベタベタしてきたら、オレが目立つんだよ!

 オレは目立ちたくないの! ひっそり余生を謳歌したいの!


「……えーっと、まず最初に聞いときたいんだけどさ。煉斗と千秋ちゃんはいつから仲良くなったのかな? 少なくとも、ボクは煉斗から千秋ちゃんの事教えて貰ってないから、ちょっと興味ありかな♪」


 おっと、さすが蒼馬くん。

 こんな状況でも果敢に攻めた!

 オレの時と同様に『ちょうどいい距離感』を探っているのだろう。

 対する千秋は――。


「うわっ、初対面のくせに本人の了承もなく勝手に下の名前に「ちゃん」付けとか何様……。つか馴れ馴れしすぎじゃない? 他人相手なんだからちょっとは敬語とか使ったらどうなの? ……コレだからリアルイケメンってやつは嫌なんだよ。顔が良いからって、女が簡単に股を開くとか思わないでください。というかアタシに話し掛けないでくれます~?」


 真顔で流暢に全否定しやがったー。


「……あ……えーっと」


 ほら蒼馬くん固まっちゃったじゃん。なんか、場の雰囲気まで一気に凍り付いちゃったじゃん!

 なんか一部の男女は喜んでるけど……


「……あの貴公子がフラれたぞ!」

「あの子、可愛いけど蒼馬くんとは相性悪いみたい……やった♪」


 ……うん。オレは何も聞いてない。

 それより、問題はコイツらだ。


「悪い蒼馬。コイツも本心でお前を嫌ってるわけじゃないんだ。……えーっと、テレ隠し? ツンデレってやつなんだよ……たぶん」

「いやいやレンレン。コイツはない。ないわ~。アタシとの相性は最悪だって……。こんなのと仲良くなるくらいなら不登校になった方が万倍マシ――むぐっ、むぐむぅー」

「……すまん。コイツ悪いやつじゃないんだ。根はけっこういい奴なはずなんだが……。ホント……悪い」

「あはは……、いいよ。気にしないで♪」

「コイツとの馴れ初めだったか? お前には昨日話したらろ? ネットの友人。ソレがコイツ。付き合いは少なくとも3年以上はあると思う」

「へぇ~。でもまさか、煉斗に女友達がいたなんて、意外かも」

「……いや、昨日実際に顔合わせるまでオッサンだと思ってた……」

「え? そ、そうなんだ……」

「見た目は悪くないが、中身は……まぁ、色々と残念な奴だから」


 オレの右手に口を塞がれ、もがく千秋。

 だが、余計なことを言われても面倒なので、しばらくは我慢してもらおう。


「ねぇね、2人は普段どんな話とかするの? パッと見た感じじゃ、共通点なんてなさそうな気がするんだけどな~」

「……まぁ、ゲームの話題……とか」

「何のゲーム?」

「……それは……、『Re:GAME<ゲート>』……」

「『Re:GAME<ゲート>』!? アタシ知ってるよ♪ というかやってるよ♪ 見て見て~」


 そう言って千里が取り出した携帯端末の画面には、千里の操作するアバターのステータスが表示されていた。

 レベル30

 職業、剣士。

 その他ステータス、平凡。


「「…………ふんっ」」

「あーあー! 今二人して鼻で笑ったでしょー!! まだ、始めて半月くらいしかやってないんだもん。これくらいが普通でしょー」


 いや、確かに鼻で笑うってのは、やり過ぎたと思うが……、半月でソレか……。

 おいバカやめろ! こんな初心者相手に、ドヤ顔で携帯端末を見せようとするな!

 「かけた時間と労力が違う」って、自慢したいのはわからんでもないが、リア充相手じゃ、ゲームの高ステータスとかなんの自慢にもならないから!!


 千秋のアバター。

 レベル869

 職業、『大賢者』

 その他ステータス、レベル相応の高ランク。


 『大賢者』といえば、『魔術師』系派生の第1~第3ランクまでの全職業のレベルを一定値まで上げ、そうして獲得した職業を6段階進化させた、S級レア職業だったはずだ。

 多少やり込んだ程度じゃ、存在すら知り得ない職業だぞ。


 まぁ、獲得方法はオレが教えたんだけどさ……。


 このレベルまでくると、初心者は羨望より先にドン引きするわ。つか、千里も言葉を失って固まってんじゃん!


「まったく……。ゲームなんてやっていては、頭が悪くなりますよ?」

「……む? むーむーむー!!」

「な、なんですか?」

「あぁ、まぁ千秋の言いたい事はわかってるから、ちょっと黙ってろ」

「……御堂くん?」

「委員長。「ゲームは頭を悪くする」っての、取り消せとは言わねぇが、語弊がある……とは言わせてくれ。事実、ゲームをやってるオレがバカ扱いなら……オレ以下のお前ら全員『バカ以下』って事になるぞ?」


 今回の中間試験。

 廊下に貼り出された順位表には、1位の枠に2名の生徒名が記されていた。

 1人は瑠菜。真面目な性格通り、テストの結果も堂々と胸を張れる満点だ。

 そしてもう1人は……オレだったりする。

 むしろ、教科数の多い期末などでは委員長を押さえて、オレが学年1位を独占する事も少なくはない。


 そんなオレを『バカ』扱いするなら、オレ以下……つまり、この学年全員が『バカ』以下ということになる。

 別に煽るつもりはないが、言葉はちゃんと考えてから使って欲しいものだ。


「ゲームって娯楽は息抜きにはちょうどいいし、フルダイブ型なら色んな人間と交流を持つこともできる。翻訳機能は多国語の勉強に使えるし、歴史に沿ったクエストも少なくはない。それに……向こうでも学校設備とかあるはずだから、無理に現実で勉強することに拘る必要もない。……ここまで言えば、少しは納得して貰えるかな?」

「……そうね、言い過ぎたわ」

「まぁ、そうは言っても娯楽は娯楽だ。楽しむことしか考えてない奴は、勉強に結び付けようなんて思わねぇだろうし……、委員長の言うことも間違いではないさ。……ただ、そんな奴だけじゃないってこと」

「ええ、次からは言葉に気を付けるわ」

「それに、電脳世界で集まれば、時間とかある程度気にせず、気軽に集まって勉強会とか出来るしな」

「……。……そうなの?」

「海外の友人でも気軽に会える。……まぁ、そんな友人いないけど……」

「そっか。……だから、御堂くんと柊さんも仲がいいのね」


 ……ん?

 ん~……。

 いやまぁ、オレと千秋の間にこのゲームが深く関係している……ってのはあってるんだが、たぶん委員長の想像してるやつとはニュアンスが違うんだよな……。

 事実、オレは3年前から一度もログインしてないし。ゲーム内で知り合った訳でもない。


 昨日「ゲームはしない」と言ってしまった故に、蒼馬は少し不思議そうな顔をしているし……一応、事の経緯くらいは話しといた方がいいのかね……


 というわけで、話せる範囲で昨日あったことを説明した。

 『またゲームを始める理由』にかんしては、『楽しそうなイベントが始まるから』ということにした。

 「アルヴスに会いたいから」なんて言っても、誰もピンと来ないだろうしな。


「なんだ、やっぱり煉斗もWDLユーザーだったんじゃないか♪」

「3年前の話だ」

「でもでも! 御堂くん、また『Re:GAME<ゲート>』始めるんでしょ?」

「……まぁ、今回だけな……」

「そう……。御堂くんがやってるなら、私も始めてみようかしら……。あ、あくまで、一時的な勉強の息抜きのため……ですが」

「そうか、勉強でわからないところがあれば、直接教えあう事も出来るし……いいんじゃないか?」


 何故か、千秋の紹介からゲームの話題に変わってしまってるんだが……。

 千秋の場合、直接話す前に『アバターを通して』というワンクッションがあるほうが、少しは楽かもしれないし、ちょうどいいか?


 というわけで、どういう話の流れからか……、元々『Re:GAME〈ゲート〉』ユーザーだった、千秋、千里、そして蒼馬(コレはちょっと意外だった)。そして、新しく始める委員長と、数年ぶりに始めるオレを含めた計5人で、『オフ会』ならぬ『オン会』を開催する事となった。

 なんじゃそりゃ……。

 一応、『ゲーム内でなら……』と、千秋も渋々ではあったが了承してくれたらしい。


 朝っぱらから、とんでもない方向にばかり話が進んでいってる気がするんだが。……気のせいか? 気のせいじゃないよな?




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