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一話のつづき4




 帰宅し、絶品カレーを五回おかわりしたオレは、さっさと入浴を済ませてしまい自室に戻る。

 ちなみに入浴の順番はオレ→歌穂さん→美緒さんの順番だ。

 男が入った後の風呂は嫌じゃないのか? 前に質問したら、歌穂さんは……


「食後の後片付けを済ませてから、ゆっくり入りたいので♪」


 美緒さんは……


「寝る前に入りたいかな~♪ あと最後だと、入った後にお風呂の掃除も出来ちゃうし♪」


 と言って、二人揃って順番を譲ろうとしないのだ。

 まぁ、脱衣した服を見られたくないとか、自分が入った残り湯に入られるのに抵抗があるとか……女性にも色々あるのだろう。

 仕方ない! うん、仕方ない!


 というわけで、一足先に入浴を済ませて、自室……といっても、間借りしてる客間なので私物は最低限な空間でゆったりしていた。

 あとは寝るだけだ。

 いつもなら、自主勉か読書にさく自由時間だが、……今日は――いや、今日からはそうもいかない。


「……はぁ、コレを使うのはいつぶりかね~」


 衣替えの季節以外でくらいしか扱う事のない、私物の入ったアタッシュケースを開く。

 衣服が綺麗に並ぶ、その一番端。

 パッと見は、指貫グローブとブーツ。ドチラも色は黒と赤のツートーン。

 それと一緒に少し形の歪な、サングラスがある。


 WDL第一世代の最初期端末。……いや、それよりも前、βテスト時に配布された……世界に十台とないレトロ品である。

 ネットで売れば、数百万は下らないだろう。


 ちなみに、第一世代は顔を覆うフルフェイスのヘルメット型。第二世代はサングラス一つ。

 最新型の第三世代は、携帯端末と遜色ない手持ち型だったはずだ。


 なぜオレがこんな貴重品を持ってるかって? βテスター時代から遊びまくっていたからに決まってんじゃん!


「所々劣化してるし、また始めるなら……買い替えるべきかね~」


 一人で愚痴りながら、それらの端末を装着していく。

 大人用に設計されていることもあって、現役時代はブカブカだったソレラも、今の体にはかなりフィットする。


「充電はやっぱ切れて……」


 ピッ

 キュイーン……


「ないんかい!」


 三年以上劣化せず、放電もせず、ちゃっかり充電満タンなゲームって……どうなのさ?

 エネルギー効率とか、そんな次元の話じゃないよな……。


「まぁ、いいか」


 深く考えても、わからんもんはわからん。

 それよりもゲームだ。

 データ、消えたりしてないよね?


「音声認証。……はダメだな、三年前から声変わりしてるし、オレだって認識するわけがない。確か昔設定したパスコードを通信端末にメモって――」

『リリーン……。音声認証確認。ユーザー名『レント』のログインを確認しました。音声をナビゲーションプログラムに自動移行します』

「……おいおい、声変わってんだろ……。なに認証成功してくれちゃってんの? 成長してないっていいたいわけ? 泣くぞ?」

『……ハロー、マイマスター。お久し振りです。先程の質疑応答ですが、わたくしがマスターのお声を聞き違えるとお思いですか?』

「ナビゲーションAIが質問に質問で返すなよ! てか、お前ら機械と違ってオレ等人間には変声期ってのがあってだな……。声変わりっていうの、わかる? 昔のオレと全然声違うだろうが」

『マスターはわたくしに、誤認、もしくは、認証失敗をして欲しかった、と?』

「そういうわけじゃないが……、普通そうなるもんだろ?」

『答えはNOです。わたくしはマスター専用のナビゲーションインターフェースであり、マスターの生体状況や成長後予測などを常時、仮定、推測、パターン別分岐配列、無数演算を繰り返し――』

「長い。わかりずらい。短く簡潔に頼む」

『マスターの変声を何万通りも予測し、マスターの声が予測値と一致したため認証成功しました』

「……人の声変わりを、何万通りも……って、お前暇なの?」

『マスターが使用しない間は、特にすることも、話し相手もいませんでしたので、端的に言うなれば暇でした』

「……あ、うん。……なんか……ごめん」


 コイツはナビゲーションAIの『アウラ』。

 βテスト機のみに搭載された、『自立学習進化型コミュニケーションAI』というやつらしく、各機に個々の高性能AIが組み込まれている。

 ちなみに『アウラ』という名前は、オレが勝手に付けた。


 機械音声で返ってくるのだが、設定上女性っぽい声に聞こえるが、性別はない。……まぁ、だから気兼ねなく話せているっていうのもあるのだが。

 『アウラ』とはβテスト時からだから、……もう、6~7年の付き合いになる。まぁ、後半三年は会ってないんだけど。


「未読メッセージは?」

『999以下エンドレス。1000件を越えていたため、古いものから自動的に削除させていただきました』

「……んじゃ、他のメッセージも全削除でいいよ。数年前のメッセージなんて今見てもしかたないし……」

『了承。……削除中、……削除しました。ただいまのメッセージは0です』

「よし、んじゃゲームを起動したいんだけど、ワールドダイブは可能か?」

『……答えはNOです』

「理由は? やっぱり壊れてたか?」

『失敬ですね……。本機でワールドダイブを行うには、最新のバージョンにアップデートする必要があるだけです。マスターのやるゲームといったら、どうせ『Re:GAME〈ゲート〉』でしょう? ゲーム側にもインストールデータを多数確認しました。本機のシステムアップデート後、自動移行にて『Re:GAME〈ゲート〉』の更新データをインストールするとなれば、完了予測経過時間は約21時間となります』

「長っ! そんなにか!?」

『YES。そんなにです。三年という月日を甘く見ないでください……。すぐに実行しますか?』

「……まぁ、明日のイベントには間に合うだろうし、リハビリが出来ないってのは少々痛いが……仕方ないか。そんじゃ出来るだけ急ぎで頼むぜ? ……相棒♪」

『……マスターの言葉から『期待』の意思を確認。……選択肢を提示します』

「……選択肢? ……って、何の?」

『マスターの応答によっては、インストール時間を一割短縮する確率が86%あります』

「不必要なデータは切り捨てるってのはなしだぞ……?」

『当然です』

「……聞こうか」


 データの取捨選択なしで、二時間も時間を短縮出来る……というのは、中々に美味しい話だ。

 勿論、不正ツールを利用するとなると論外だが……。チート嫌いなオレを相手に、『アウラ』がそんな話を持ち掛けるとは考えづらい。

 オレが協力することで早まる……なんて手法があるならば、是が非でも助力しようじゃないか!


『……報酬を要求します』

「……。…………はぁ?」

『マスターの好きなゲーム風に言い換えるならば、「クエストクリアにみあった報酬を要求させてください」です』

「……それで、どうなるわけ?」

『わたくしのやる気が増し、作業効率が跳ね上がります』

「お前、機械だったよなっ!?」


 モチベーションで作業効率が上がるって、人間味溢れるってレベルじゃないだろもう!


「……で? 何すりゃいいんだ? 課金か? バージョンアップか? メーカーに投資か?」

『……褒めてください』

「…………」

『褒めてください』

「二度言わなくても理解できてるよ! つかなんだよ、お前! 「褒めて貰う為に頑張ります」って、どこの子供だよ! お前本当にNPCかよっ!?」

『…………返答を要求します』

「褒めるよ! そんな要求されなくても、いくらでも褒めてさしあげますとも!」

『承認を確認』

「……いや、今更だけど……お前それでいいわけ?」

『これより処理を開始します。…………マスター、約束は守ってくださいね?』

「……ったく」


 確かに、オレと一緒に過ごした数年という長い時間で、膨大な『感情』例を学習して……自立進化していったといっても、果たしてここまで人間っぽい要求をしてくるもんか?

 『褒める』って行動が報酬としての価値を見出だすのは、互いに感情がある生物だからこそ成り立つ価値観だ。


 褒められたいから頑張る機械って……おかしいだろ?


 そんな思考を知ってか知らずか……、オレを放って『アウラ』は処理を開始した。

 サングラス越しにいくつものダウンロードメーターが並列稼働で、いくつも表示されている。

 画面に表示された完了待機時間は19時間。

 ……マジで頑張ってるらしい。

 オレはサングラスを放り投げ、ベッドに体を投げ出す。


 自主勉に手をつける気にもなれず、オレはゆっくりと瞼を閉じた。


「…………、もう、戻るつもりはなかったんだけどな……」


 また、始める。

 また、始まる。




 まぁ、更新やらインストールやらで、かなり出鼻を挫かれた感じはあるが……。

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