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一話のつづき3




 ちあきを駅まで送り、そのまま携帯端末で一通のメッセージを送る。宛先は美緒さんだ。


『部活はもう終わりましたか? もし時間が合うようでしたら、今から学校に寄りますので一緒に帰りませんか?』


 送信。


 夏が近いとはいえ、さすがに19時を過ぎれば辺りも薄暗くなる。

 この町では物騒な噂を耳にすることはないが、女性が一人で夜道を歩くのはあまりよくない。

 美緒さんからの返信を待つ間も、少し急ぎ足で学校へと向かう。


 もしスレ違いで、先に帰っていたのならそれはそれでよし。


 返信が返ってきた。


『うん♪ 今ちょうど部活が終わったところだから、校門の前で待ってるね~♪』


「おっと……、校門前か。これはちょっと急いだ方がいいかもな……」


 校門前はギリギリ校舎外である。

 美緒さん程の美少女なら、たかが数分程度でナンパにあう可能性は十分ある。

 予定変更! 早歩きじゃ遅い! ここからは全力疾走だぁあああ!



 数分後。



 案の定、ソコには美緒さんに群がる3人のチャラ男が……。


「ねぇね、オレ等と一緒に遊ぼーよ♪」

「お嬢さん、彼氏とかいんの? いないならオレ立候補しちゃおうかな~」

「バカ言え、お前じゃ釣り合わねぇっての。そんなことより、これからカラオケ行かね?」


 金髪、大量のアクセサリー、鼻や耳にピアス、軽いノリ。

 オレには到底マネできない……もとい、マネしようとも思えない男が3人。

 普段なら我関せずで無視パターンなんだが、今回はそうもいかない。


「ごめんなさい。今、人を待てますので……」


 夜風にふんわりと揺れる髪、優しくおっとりとした声音。

 背丈は小さいながらも、その雰囲気や物腰は「お姉さん」と呼ぶに相応しく大人びていて……。

 誰に対しても分け隔てなく優しい博愛的なその少女は……、天城あまぎ 美緒みおさん。

 この学園の三年生でオレの先輩であり……大切な家族の一人だ。


 ここで見捨てるなんて選択肢は、もとから存在しない。


 走る勢いをそのままに、姿勢を低く保ち……美緒さんと男達との間を縫うように突き抜ける。

 すれ違い様に、美緒さんの腕を掴み引き寄せた。


「おつかれ~ッス」


 目の前を素通り、ナンパ相手をひったくり、そのまま逃亡。

 自分でも惚れ惚れするほどスムーズに出来た……けど――


「あの、煉斗くん? ……その、そんなに引っ張られると……」


 やっぱり、人一人を引っ張りながら走るのでは、一人で走る男達から逃げられるわけないわ。

 ただでさえ、美緒さんは部活で疲れているわけだし……


 なんなら、お姫様だっこで走るか?

 いや、無理無理。

 美緒さんをお姫様だっこするってだけなら、別に大丈夫だ。人目とかメッチャ恥ずかしいだろうけど、美緒さんが嫌じゃないならやれる!

 だが、そもそも人一人抱えて走るって、スピードは確実に今より遅くなる。

 囲まれたら、逃げるなんて無理だろ……。


「あぁ? テメェなんだよ」

「邪魔しないでくんね?」

「つか誰だよ」


 簡単に囲まれてしまった。

 こちとら人見知りだっつーのに、いきなり数人で囲むとかないわ~。 あっ、自分で人見知りだって認めちゃったよ……。


「……あぁ~……えっと……」


 さて、なんて言い訳しようか?

 兄妹? 姉弟? 彼氏の方がいいか? いや、畏れ多いな……

 こんなとき、歌穂さんのように『優しく諭す』ことが出来れば、大事にならずに済むんだがな。


 オレ、口下手だし。


「オレは……、コイツの兄貴だ! ウチの可愛い妹に手出さないでくれないかっ!」


 仕方ない。美緒さんは……お姉ちゃんって呼ぶには、ちょっと小さいし……、信憑性的には妹ってことにしよう。

 そして、ここでは久々に『お兄ちゃんモード』を発動するとしよう!


 説明しよう!

 御堂 煉斗『お兄ちゃんモード』とは、実際に実妹のいるオレが、妹の前でただただカッコつけたいが為に編み出した自己暗示……のようなものである!

 このモードのオレは、通常の三倍ほど肉体的忍耐力や、精神的打たれ強さが増すのだ。つまり、『痛くても泣かない』を行使する事が出来る!

 ちなみに、殴られて赤く腫れたオレは、連邦軍の赤きなんちゃらと……呼ばれてはいない。


 殴られるのはヤダな~

 交渉だけで解決しないかな~


 実態は、あいもチキンである。


「兄貴だぁ~?」

「なになに? おまえシスコンなわけ!? うっわ、キッモ!」


 初手からクリティカルヒットは辛い……


「妹ちゃんも、お前にベタベタされるの嫌がってんじゃね?」

「妹離れは早めにしとかねえと、ただただキモいっすよ~、オ・ニ・イ・サン。あっ、もう手遅れかー」

「君もこんなやつと一緒じゃ楽しくないでしょ~? こんなバカほっといて、オレ等と遊ぼーよ♪」


 もうやめて!

 外見は無表情気取ってるけど、内心はもうボロボロよ! ヒットポイントはとっくに0なんだよ! いじめないであげて!


 オレが無言を貫いて男3人に苛められいると、……今までオレの後ろに隠れていた美緒さんが、一歩前へと出た。


「あのね、煉斗くん……お兄ちゃん(?)は、バカなんかじゃないですよ。勉強も、スポーツも出来て、私やお母さんの事を大切にしてくれる……素敵な男性なんです♪」


 そっとオレの右腕を抱き締めて笑顔で告げる美緒さん。

 やばい。目茶苦茶嬉しい!

 一気にヒットポイントが全快するくらいに、超嬉しい!


 美緒さんの発言に、茫然とするチャラ男の群れ。

 返ってきた答えに不満を抱いたのか、実力行使で美緒さんの腕を掴むチャラ男A。


「いいから、コッチ来いよ! 相手してやるって言ってんじゃん♪」

「……いたっ……、は、放してください!」


 ……ブチン……


「お? 何だコイツ? ビビってブルってんじゃん♪ だっさ!」

「お兄ちゃんダッセ~」

「こんなのほっといて、行こうぜ~♪ ほら、兄の威厳をまもるためにも~♪ 小便漏らして泣きながら土下座してる兄貴なんて見たくないっしょ?」


 あぁ……もう、どうでもいいわ。

 誰も怪我せずに済めば万々歳だったんだが……、もういいわ。


 美緒さんを掴むチャラ男の腕を、掴む。

 さて……、オレの握力っていくつくらいだったっけ? 前の体力測定では、70~80くらいだったはずだけど……


 ……ギリ……ギチギチッ……


「いてっ! イデェ!! ちょ、何だコイツ!? ぐあ……っ! 腕……千切れるっ!!」


 あの時は、蒼馬の記録に合わせて……けっこう『手を抜いてた』からな~……。確か、鉄パイプをねじ切る程度の握力はあったと思うんだけど。

 そこまで筋肉のついてない男の腕を千切るのって……握力いくつで出来たっけ?


 ……ミキッ……ギリ……


「痛い! 痛いって!? テメェ放せよコノヤロウ!」


 ガクブルだったか?

 そりゃ、震えるだろ?

 人の家族に手出そうとしてるのを、目の前で見せ付けられたんだ。……当然、自称温厚なオレでもオコだよ♪

 激オコ過ぎて……殺意すらわくほどに……な。


「…………テメェ等、なに人の女に手出そうとしてんだ? あぁ? 死ぬの? 死にたいの? ……だったら最初からそう言え……」


 美緒さんの前とか、暴力問題とか……もうどうでもいい。

 防衛行動だ。

 人が嫌がってるのに無理矢理連れ回そうとした、コイツ等が悪い。


「……骨の1、2本は覚悟しろよ……?」




     ◇◇◇




 ケンカというのは、対等な相手同士でやることだ。

 殴りあいや、道具を使った暴力の闘争。怪我は必至で、ドチラも無傷ではすまない。

 だが、拳を交わさないと解り会えない者たちもいる。


 暴力はいけないことだが、友情を育むための一つの形だともいえる。



 イジメ、というのは……数人で無力な一人を追い詰める事を言うらしい。

 陰湿なイタズラから、集団での公開処罰。社会的にも『悪』とされる行為の一つだ。

 被害者を自殺に追いやるケースも少なくはない、らしい。




 ……では、一人で数人をズタボロにするのは、果たしてドッチに入るのだろうか?

 コチラは無傷で立ち、相手集団はボロボロで倒れている。

 こんな一方的な蹂躙は、果たしてケンカと呼べるのだろうか?

 向こうは途中で武器を使ってきたが、オレは終始素手のみ。コレで怒られるって……どうなの?


 あまりの弱さに、途中からキレていた事すら忘れていた程だ。


「ナンパするな……とは言わないからさ? 誘う相手はちゃんと選びなよ……。……次は、本気で折るからな?」

「「「……は、はいぃっ……」」」


 怯えてんのはどっちだよ……


 そして、3チャラトリオを撃退したオレは……とても、落ち込んでいた。


「…………」


 ずっと見ていた美緒さんが、スッゴい寂しそうな目でオレを見てるんだもん……。

 平和主義である美緒さんからしてみれば、今のオレはさぞ横暴にうつっていることだろう。

 やっぱり、嫌われたかな……

 後のから騒ぎに駆け付けた教師達に事情を説明し、こっぴどく叱られたが……幸い厳重注意だけで、停学や退学にはならずに済んだ。


 それから数分、家までの帰路を歩いていても……オレと美緒さんとの間に会話はなかった。

 そして、自宅が見えてきた時、……不意に、美緒さんが足を止め、オレの服の裾を引いた。


「煉斗くん」

「……はい」


 オレからは顔を見ることが出来ない。罪悪感とか、申し訳なさとかがない交ぜになっていて……美緒さんの顔を直視する事が出来なかった。

 叱りや罵倒を覚悟で目をギュッと閉じ、身構える。


「……怪我は、してない?」

「え? ……ま、まぁ」

「そっか。ならよかった~♪」

「……えっと……怒ってないんですか? 目の前であんなものを見せられたわけですし……」

「怒ってるよ~」


 そして、背伸びしてポコッと、オレの額を優しく小突く。

 痛くはないが……なんかこう、来るものがあるな。


「でもね……。煉斗くんが私の為に、そうしてくれたの……嬉しかったの。……助けてくれたって。……だから、少なくとも私には、煉斗くんを責める権利はないかな~って」

「……美緒さん」

「それにね……、煉斗くんが、本当は優しくて、素敵な男の子だって、私は知ってるもん♪」

「…………その……どうも」


 面と向かって褒められると……かなり照れるな。

 褒められるようなことしたっけ?


「あと……ちょっと不謹慎かもだけどね……。さっき、本当の煉斗くんを見たとき……ちょっとカッコいいな~って、ドキドキしちゃった……えへ♪」

「…………」


 あぁもう! 年上だけど……本当に可愛いなこの人!

 ドキドキしたって、それはコッチのセリフですよ! むしろ今現在ドキドキしてますとも! 現在進行形だよまったく!

 暗い夜道のおかげで、なんとか赤面した顔を誤魔化せてると思う。


「もうすぐ着くね♪ なんなら手でも繋いで帰ろっか~? おにいちゃん♪」

「……か、勘弁してください……。アレは咄嗟に思い付いた言い訳……と言いますか……」

「私、先輩でお姉さんなのにな~♪ 年下のおにいちゃんが出来ちゃった♪」

「……もしかして、気にしてます?」

「ぜーんぜん♪ 今日の私は煉斗くんの妹だも~ん♪」

「ちょっ! み、美緒さーん!」


 自然な動作で腕に抱き着いてくる美緒さん。


 今のオレは、きっと『リア充』なのだろう。……幸せ過ぎて、今すぐにでも爆発しそう。





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