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②三話のつづき4



 おい、仰々しいセリフを吐くのはそちらの勝手だが、何故その憎らしげなものをみるような視線はオレ一人だけをロックオンしているのでしょうかね?

 ようするに、調子に乗ってるのはオレ一人だけって言いたいわけか! ルナもアンタ等の対戦相手なんですけどね!? 男女差別ですか!? はいそうですか!

 そしてそのドヤ顔ちょっと腹立つんですけど……。なに『ふん、言ってやったぜ……!』的な雰囲気だしてんのかな! ノワールさまとやらに選ばれたってのがそんなに偉いことなんですかね……まったく……。


「あ、あの……レンくん。一つ質問してもいいかしら?」

「ん? どしたよ?」

「その……司会の人が言ってた……『ノワール』ってどなた様なのでしょうか? Noir……フランス語で『黒』を表す言葉だったと思うのだけれど……」

「…………。ちなみに、誰だと思う?」

「質問を質問で返さないでください……。黒……黒……、そういえば、この街に来てから同じような顔を何度も見た気がするわ。皆同じで、全身まっ黒の服を着ていたけれど、あの人達の事かしら?」

「おぉ……流石は委員長、素晴らしい洞察力だ」

「そんなに凄い人達だったの? ごめんなさい。正直、同じ顔がいっぱいで……少し……ほんの少しだけなのだけれど…………」

「ふむふむ」

「……気持ちが悪かったわ。何だか、遠目に見ると……黒いあの虫みたいで……」


 オレはもう盛大に吹いた。

 皆が引くのも構わず、全力で笑い飛ばしてしまったのだ。抱腹絶倒とはまさにこの事だ。

 もう腹を抱えて呼吸困難になりそうなレベルで爆笑してしまったのである。


 だって、数多くのプレイヤー達が憧れた『ノワール様』が、黒テカりするGと同じ扱いって……っ。

 観客席から膨れっ面でコチラを睨んでるアインには悪いが、これが笑わずにいられるだろうか!


「…………ひぃ、ひぃ……ぶふっ……。ノワールが……ぷっ……ご、ゴキ……ゴキブ……ぶふっ!!」

「ちょ、大丈夫!? ごめんなさい。私、変なこと言ってしまったかしら……」

「いや、謝らなくていい。むしろ最高だルナっ! もっと言ってやれ♪」

「……その、当人のいない場所で陰口を語るのは感心しないわ。……それに何の関わりもない他人の悪口だなんて……」

「……あ~……確かに、そりゃ性格が悪いな。散々爆笑した後に言うのもなんだが、オレも反省するとしよう。……G発言を撤回するつもりはないが……。いや、殺虫剤やホイホイで撃退できない分、Gよりもたちが悪いな。知らぬ間に増殖するくせに、威張り散らすだけで戦場に立つこともしないチキン野郎。アレのどこに憧れる部分があると言うんだか……」

「みど――レンくん。その、少し言い過ぎじゃないかと思うわ……。普段のあなたらしくもない……。もしかして、過去にその人となにかあったとか?」

「あーないない。別になーんもないよ……。ただ……あんな腰抜け野郎が『伝説の~』みたいな扱いされてんのが、少し癪に障るってだけだ。あと……同じ顔が増殖してて普通に気持ち悪いし、正直……アレがなければもっと素直にゲームを楽しめるのにな、と」

「気にしなければいいのに……」

「あぁ……ホント、気にせず無視出来たらよかったんだけどな……はぁ」

「…………今度は落ち込んじゃった……」


 若干、情緒不安定なオレを心配そうに見つめるルナ。

 なんで『ノワール』の話題が出る度に、こんな偏屈になりながら人知れずダメージを負わねばならないのか……。理不尽を嘆くにはかなり自分勝手に過ぎる気もする。

 そうだな……自重しよう。

 ノワールは他人、オレとは何の関係もない。

 心の中で何度も言い聞かせ、ふと対戦相手へと意識を戻すと……


「「…………」」


 無言で睨まれていた。

 嗚呼、そういえば貴殿方……ノワール信者でしたね。そりゃ、目の前で憧れの人をG扱いされた挙げ句……笑い飛ばされ貶されれば、仏の顔の三度目なんて既に越えている事でしょうとも。

 まぁ、簡単に言っちゃうと……言葉に出来ないほどオコでらっしゃる。

 そして困ったのは、対戦相手だけでなく……周りの観戦者達も反応が似たり寄ったりって所なんだよな。ちょっとこの空気アウェー過ぎない?

 オレは慣れてるからいいけど、ルナまで後ろ指をさされるような事態は避けたいところだ……。


「とりあえず、『ノワール』については後でアインにでも聞いてくれ、オレだと偏った知識を吹き込んじまいそうだし……。今は特に気にしなくていい。ルナはプレイヤー同士のバトルは初めてなんだから、肩書きどうこうよりも、目の前の戦いに集中しないと……あっさり負けちまうぜ?」

「……は、はい!」

「ふん、おかしな事を言う」

「それだと、集中すればオレ達に勝てる……と言ってるように聞こえるのだが? レベル100にも満たぬお前達ビギナーが、たとえまぐれでもオレ達に勝てると?」


 わーぉ、すっごい自信。

 たしかにレベル差で言えば歴然だ。向こうは300越え二人に対し、コチラはオレが62で……たった今さっき始めたばかりのルナに関してはレベル14である。

 アインとの合流前にほんの少しだけフィールドマップに出て、簡単な戦闘指南程度に軽くモンスターと戦った程度の実力なのだ。

 司会が言うように数々の伝説を残してきたのであろうベテランプレイヤー二人を相手にするには、明らかに実力も経験も不足していると言わざるをえない。

 バトル開始とともに全員のレベルが50になるとはいえ、対人戦の経験値が違いすぎる……。言ってしまうなら、完全な格上相手の勝負。

 さて……どうしようか。


「……ルナ」

「は、はい」

「さっき教えたこと、頭に入ってるな?」

「もちろん、忘れていないわ。その……上手くやれるかどうかは、自信ないけれど」

「大丈夫だ。相手がベテランって言うなら、むしろモンスターや初心者よりも戦いやすいと思うぜ? セオリーが体に染み付いてる奴ほど虚を衝くのは容易い」

「……わかりました。やれるだけ、やってみます!」


 そして、示し併せた通り……。

 オレ達は二人並んで、前衛まえへと出た。

 格闘家のハイエルフであるルナと、()()()のヒューマンであるオレ。二人して装甲ペラッペラコンビが、である。


『おーっとぉ!!? コレは意外! 女の背に隠れてイキリ散らすだけのクソ魔術師かと思われたレン選手! なんと、前衛へと出てきたぁあ!! このゲームの仕様を理解していないのか? はたまたただのバカなのか!? もしくは、やはり女の子の前でカッコつけたいだけのイキリストなのかぁああ!!?』


 なんで一々煽ってくんのかねあの司会者……。

 別にナメプしてるわけでも、イキってるつもりもないんだけどな。……むしろ、今使えるジョブやアビリティ、ステータスを考慮した上で、尚且つ……戦い慣れていないルナのサポートをしながら戦闘するとなれば、『魔術師コレ』の方がなにかと都合がいいのだ。


 レベル50縛りでも、最低限必要なバフ系や回復系の魔法を行使できるし、アビリティポイントの上限的な意味では使用できる数は限られるものの、攻撃魔法の種類も多岐にわたる。

 オレがどんな魔法を使うかわからない敵さんにとっては、警戒する必要が生まれるって事である。


 まぁ、言うまでもない事ではあるが……そんなオレのわかりきった弱点と言えば、ステータス的に物理攻撃力と物理防御力が低いこと。つまり、近接戦は圧倒的に不利である……といった事だろう。

 大ダメージを狙った魔法を放とうにも、詠唱にかかる時間は10秒以上。そんな時間棒立ちするなど「殴ってください」とアピールしているようなものだ。

 かといって、短時間詠唱魔法や無詠唱魔法などでは、有効なダメージは期待できない。

 さて困ったものである。


『両者出揃ったところで、さっそく試合を始めるぞー! せめて一方的なつまんねぇ試合にだけはならないことを祈ってるぜ! 少年少女よ! 死ぬ気で足掻いて見せてくれぇええ!!!』


 大変失礼な司会者の言葉を華麗に無視する。

 視界内で突如として始まるカウントダウン。きっとオレ以外の3人にも同じような景色が見えている事だろう。

 軽い深呼吸を一つ。

 急がず焦らず、ゆっくり息を落ち着ける。


 3…………2…………1…………


『試合! 開始だぁあああぁあっ!!!』


 始まった。

 当然とばかりに敵さん方は距離を詰めてきた。

 ガッチガチの西洋風鎧を纏い両手に同じデザインの直剣を持つ一人と、前者よりは軽装ながらも明らかな前衛職装備で腰に下げた刀を持って走る一人。

 オレの予想通りならば、双剣士系ジョブと抜刀士系ジョブってところだろうか……?

 オレとルナの初心者組と違って、試合開始まで己の使用武器を明かさなかった用心深さはさすがPVPのベテランプレイヤーと呼ばれるだけはある。むしろ、オレ達との対戦を見越して予め前衛職に設定しておいた……となれば、中々に侮れない洞察力だとも言える。

 隙の少ない連撃を得意とする双剣士は格闘家のルナへ、コンボ数は稼げないまでも一撃の火力と攻撃速度は剣士系随一の抜刀士は魔術師のオレを狙って一直線に。

 タッグ戦だって言ってんのに、わざわざ一対一に持ち込んで各個撃破するつもりなんだろうな……。勝ちに拘った戦略としては間違っちゃいないんだろうが、そりゃ相手を過小評価し過ぎでしょ。

 内心で呆れつつも、オレ達も行動を開始することにした。

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