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②三話のつづき3

 


「……えっと、み――レンくん。やっぱりその……私じゃない方がよかったんじゃないかしら……。本当に、その……こういうゲームとか、全然やったことないですし。足を引っ張るのは目に見えていると思うの」

「ルナ、心配いらないって。お互いにリラックスしてやろうぜ。別に勝たなきゃいけないって訳でもないし、負けてどうこう言うやつは無視しときゃいいんだよ。……つーか、そもそも勝ちに拘って戦う気は最初から毛頭ねぇし」

「勝ちたく、ないの?」

「ああ、勝たなくてもいい。負けてもいいんだ」

「……む、最初から期待されてないというのも、……なんだかモヤモヤするわね。……たしかに、経験もろくにない初心者ですけれど……」

「何言ってんだよ? 期待してるに決まってるだろ? そもそも、お前を名指しで指名したのはオレだぞ。期待してないはずがないだろ」

「……え、その」

「確証はねぇけど、たぶん……ルナと一緒なら『楽しい』と思う。戦うなんて言ってるがゲームなんだ、楽しんでなんぼだろう?」

「……っ! なんだか、コッチの御堂くんって……」

「ルナ、呼び方」

「あ、ごめんなさい!」

「それと、現実とゲームの態度の差ってのは……その、なんというか……あんま自覚はねぇんだよな……悪い。気に障ったなら出来る限り戻してみるけど……?」

「そういうわけじゃないの! その……コッチのレンくんは、いつも以上に話し掛けてきてくれる、と言うか……。普段より優しいといいますか……」

「そうか? いやまぁ……たしかに普段、教室では無愛想だって自覚はあるが、ゲーム世界だからって特別優しく接してるつもりはないんだよな……。つーかそもそも、オレがこのゲームに誘ったようなもんだし、初心者であるルナに色々教えんのは当たり前だろ? そんだけだよ」

「……そっか」

「ちょっとソコの二人!! なぁにヒソヒソと話しちゃってんのさ!! 順番待ち中だからってイチャイチャする必要はないだろー! つーか、ルナたん独り占めすんなよレンレーン!」


 うるさいのが現れた。

 一応、ルナとのペアでタッグ戦にエントリーし、自分達の出番が来るまで待機していたわけだが、作戦会議という点で見れば2人でいてもおかしくないはずだ。

 つーか何気に、アインもノエルとタッグでエントリーしてしまっているため、今回は対戦相手になる可能性だってある。

 ようするに、敵になるかも知んねぇのに作戦会議に割って入って来んなよ……とは思ったりもする。


 まぁ、隠すような戦法とかがあるわけでもないし別にいいんだけど……。


「つーか、なんでお前までノエルと一緒に参加してんだよ……。オレと一緒でお前、PVPガチ勢ってわけじゃなかっただろ。しかも、わざわざオレと同じタッグ戦で……」

「んなもん、レンレンをボコるために決まってんじゃん解りきったこと聞いてくんなよ」

「……まさか、さっきのやつまだ根に持ってんのかよお前。アレはお前の自爆だろうが」

「ちっげーよ! いや違くもないけど、そんだけじゃないっつーの!!」

「他にお前から恨まれるような事したか? ……なんも思い付かないんだが」

「うっさいやい唐変木! レンレンのばーかばーか!!」

「ったく、ガキかよお前は……」


 意味がわからん。

 なんで、こうもわかりやすく不機嫌なんだよコイツ……。


「レンサンはもーーちょっとは、乙女心を理解するべきだと思いマース。ニブチンが許されるのはアニメの中だけですよー?」


 やれやれと呆れながら諭してくるノエルに、ほんのちょっとだけイラッときてしまったが……まぁ、その言い分には一理ある。

 だが、そう言われても……乙女でもないオレに、乙女心を理解するのは至難の技だ。

 オカマにでもなればいいのか? もしくは、ゲーム内のアバターだけでも女性型に変えてみるか? …………うん無駄だと思う。

 つーかありえねぇ……。

 世のソッチ系の方々を否定するわけではないが、オレにはハードルが高すぎる。


 乙女心……ねぇ……。


「わからんもんはわからん」

「……ヤレヤレデスネ」

「とりあえず、その小馬鹿にした顔一発殴らせてくれないか……」

「ソーユートコですよ!! ジェントルマンが、レディにボーリョクはタブーなんです! よくないデース!!」

「オレは基本的に男女平等主義なんだよ……たぶんだが」


 自信はないので断言はしない。


「どーせ、色っぺぇルナたんの前で良いカッコしてお近づきに~とか下心満々なんだろー。レンレンってば不潔~。や~らしぃー! あっ!! だからあんな意味のわからん前衛ハイエルフにして、わざとルナっちを危険な目にあわせようとしてんのか! ピンチを救って「やだカッコいい……ちゅきぃ」みたいな吊り橋効果狙ってんのかコノヤローウ!!」

「あーもううっせぇなコノヤロウ! いいから見とけっての!」

「ぶぅーぶぅー!!」


 あーホントうざい。

 この無駄に勘繰ってくる大賢者、むっちゃうざい……。

 そうこうしている内に現在おこなわれていた試合が決着したらしく、対戦ステージ周りが沸き立つ。オレが予想していた以上に観戦者は多いようだ。

 たしかに、昨日ランカとの話題にも出ていたPVPだが、ここまで流行っていたとは驚きである。

 過去、オレが現役でやっていた頃は、ダンジョンやメインクエストの攻略、武器やアイテムなどの厳選、未踏破エリアのマッピングとか……あとは、たまにある時期イベントの攻略なんかが主流で、プレイヤー同士で戦うなんてのは、ケンカか悪徳PKくらいなものだった印象だ。

 バトルに勝ったところで、経験値が貰えるとかメインシナリオが進むとかあるわけでもない。

 競い合い高め合うなんて言えば聞こえはいいかもしれないが、このゲームの敵って獣型のモンスターばっかりだから、人相手の立ち回りや駆け引きって……あんまり戦場じゃ使わないんだよね……。

 おっと、いちゃもんを付けようとかそういう話じゃねえぜ? ただ……オレ個人としては、あまり興味がないってだけだ。

 過去にそうでもなかったものが、今流行るなんてよくあることだよな。


 そういえばと、オレは会場の目立つ位置に張り出された対戦表へと視線を向けた。

 少しでもプレイヤー達のドキドキ要素を増やすためか、試合の直前までどのチームが選ばれるか明かされない仕様となっているので、一試合終わるたびにこうして対戦表を確認しなくてはならない。

 と言っても、今回タッグ戦にエントリーしたチームはオレ達を含めて16組しかいない上、すでに五試合が終了した。予選の残り試合数的に、いつ呼ばれてもおかしくはない確率である。

 これまで観戦した感じだと、参加プレイヤーのほとんどがウチの学校とは関係のない一般人ばかり、時刻が平日の夕刻という事もあってか、見るからにガチ勢……みたいな奴らは少ないみたいだ。この調子なら、初心者であるルナとのタッグでも一勝くらいは出来るかもしれない。

 先程ルナに言った通り勝利に執着するつもりはないのだが、たった一度の成功体験で……ルナにこのゲームをもっと好きになってもらえるかもしれない。今回のタッグ戦といい巻き込んでしまった責任もあるし、元々あった『ゲームは人をダメにする』みたいな固定観念を払拭するいい機会になるかもしれない……。うん、頑張ろう。


『さてさて! それでは、次の対戦に行ってみよう!! ヒァーーウィゴゥー!!』


 ちなみに、この大会の司会者兼実況の男……かなーーりテンションが高くて、若干ながらノリについていけてない。


『おぉーっと、今回初参加の初心者プレイヤーかなぁ~? 所属ギルドもない野良の男女プレイヤータッグ! レン、アーンドゥ、ルナ! 男の方はほっといて、女の子の方はなかなかの美少女だぁぁああああ!! コレはまさかカップルなのか!? リア充コンビが幸せ振りまきに参戦つかまつっちゃったのかぁああっ!!? 司会のお兄さんも軽く嫉妬しちゃうぞ少年コノヤローウ!』


 オレはむしろ、今の紹介で一気にお前へ対する殺意が沸いたがなコノヤロウ。

 そんな些事や周りの男からの罵詈雑言を華麗にスルーし、何故か若干顔を赤く染めたルナと共に対戦フィールドに上がる。ちなみに、野次の中に当然のごとく混ざり込んでいたアインはとりあえず後で一発殴る。


「…………その、えっと……」

「ルナ、周りが勝手に言ってることだから……。別に気にしなくていいと思うぞ」

「ですが、その……。レン……くんは迷惑なんじゃ?」


 そう言って、よくわからぬ視線を一瞬アインへと向けるルナ。

 もしかしなくても変な誤解をしとるのか、この娘は? いやまぁ、この数日、ベタベタくっついてくる千秋とされるがままだったオレって構図を何度も見てたわけだし、そんな誤解も仕方ないのか……?


「オレとアインは別にそういう関係じゃないぞ……」

「あ、その……ええ。そうよね! うん……知ってる。大丈夫……です」

「……」

「……」

「よし。ここで否定して無駄に勘繰られるのも面倒だし、いっそのこと『付き合ってる』ってていで参加してみるか? ロールプレイみたいなやつだ。「オレ達付き合ってまーす」って♪」

「え、えぇ゛っ!? 突然、何を言って――」

「ほら、ルナ。もっとくっ付かねえとソレっぽく見えねぇぞ?」


 ちょっとした悪ふざけのつもりで、ルナの腰へと手を伸ばし抱き寄せてみた。いつもオレが教室で見てきた委員長ならば、次の瞬間には手なんてはたき落とされて有無を言わさぬお叱りの言葉が出てくる筈なのだが……。


「…………あぅ……」


 おっと、顔を真っ赤にして黙りこんじまった……。


「あの、冗談だからな……? ゲームだからって何でもオレの言う通りにしなくてもいいんだぞ? 嫌なら嫌って言ってくれていいんだぜ」

「わか、わかってます! ……でもその、嫌ってわけでも…………」


 いつになく、否定の言葉が弱いなルナよ……。

 そこはちゃんと否定してくれないと――


『おぉーーっと!? これ見よがしにと、大胆にくっ付きやがったぁああ! これはいけない! この場の男性諸君をもろもろ敵にまわしたようなものだぁあっ!! かくゆう私も、あのリア充をぶん殴りたーーいっ!!』

「おいコラレンレーーン!!!! 誰に許可得て、ルナたんとくっ付いてんだオイ!? ばーかばーか! レンレンのスケベ親父!! 変態っ!」

「あんな可愛い子を……」

「……あの野郎、許さねえ……」

「……ヤロウ、ぶっ●してやる!」


 こうなっちゃう訳で……。

 この程度の事で、男連中のヘイトを稼いでも特にコレといった得もないんだよな。だから早く、平手打ちでもして否定してくれませんかねルナさんや。

 嫌がる素振そぶりくらいは見せてくれてもいいんだぜ?


「えっと……えっと、よ、よろしくお願いします!」

「何をっ!?」


 いけねえ。つい素でツッコんじまった。


『さぁ、着々とヘイトを稼ぎまくってるあの少年達と戦うのは~……? おーっと、コレは運が悪い!! 彼女にカッコいいところを見せられるかと思ったらそうはいかなーーーい! この初心者ペアの最初の対戦相手は、なぁぁああんとぉ! 今大会優勝候補の一角!! コイツらだぁぁあああっ!!』


 舞台に上がってきたのは……見るからに歴戦の戦士を彷彿とさせる、ガッチガチの上級前衛装備を身に纏った男二人。

 アバターの見た目通りの年齢ならば、30~40代くらいのおじさんペア。種族は恐らく二人ともヒューマンだろう、獣人やエルフなどといった特徴的な外観はない。

 そして、司会者が優勝候補と言うだけの事はあり、二人ともアバターレベル300を越えるベテランプレイヤーのようだ。隠しもせずレベルを公開している辺り、それなりに腕には自信ありっぽいな。


 というか、司会者がああまで持ち上げるってことは……それなりに有名人だったりするのだろうか? 残念だが、ゲームに復帰して日の浅いオレでは知るよしもない。


『なんとあの……記憶に新しい最悪のイベントと共に帰って来た、我らが英雄・ノワール様が再結成したと噂の新ギルド『終焉の剣』の創設メンバーにも選ばれた! オズ! アーンド、ギルバート!! この二人の武勇はもはや語るまでもないだろうっ!! 大小問わず様々なPVP大会で数えきれぬほどの伝説を残してきた、歴戦の猛者中の猛者っ!! 初戦で彼らと当たるとは運がない!』


 二人の登場で沸き立つ会場。

 やはり有名人だったらしい。

 さてと……そんな事より気になることが出来た訳だが……。帰って来たノワールが新たに設立したギルド? 『終焉の剣』? ……ふむ、知らんな。

 帰って来たってのが、先日のイベントオープニングの件でのオレだとするなら、身に覚えが無さすぎるどころか……、下手したら、あの六人を挑発するような感じにとられかねないのでは?

 しかも、オレが思ってるよりも広まってる情報っぽいし……。

 言い訳……考えとかないとな……。


「プレイヤー同士の戦いとは謂わば勇者同士の戦場、軽い気持ちで踏み入っていい世界ではないぞ……」

「モンスターを相手に簡単に勝てて調子に乗ったのだろうが、PVP(ここ)ではそう上手くはいかん。貴様に現実というものを思い知らせてやろう!」

「女、子供が相手とはいえ、容赦するつもりはない!」


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