②三話のつづき1
◇◇◇
「それでは、紹介しマース!」
ノエルに連れられ移動すること数分、辿り着いたのは転移門前の広場。
ここまでですでに時間は夕刻の5時を過ぎてしまっている。いくら、部長や副部長から前もって説明があったとしても、こんなにも長時間待たされては他の部員が不憫で仕方ない。
合流してからは小走りである。
全力疾走しなかったのは周囲への迷惑を考慮して……というのもあるが、このゲーム世界にまだ慣れていないルナもいる。またはぐれでもしたら、それこそまた無駄に時間を浪費してしまう。
てな感じで、こんな時間になってしまったのだ。
……ホント、待たせた部員諸君には申し訳ない……。
「こちらの美少女3人組が、ソーマの……えーっと、classmate? でしたっけ?」
「まぁ、現実での話になりますがそうですね。右から、センリちゃん、ルナさん、そして……部長の陰に隠れちゃってるのがアインちゃんです」
「よろしくお願いしまーす♪」
「本日始めたばかりの初心者ですが、ご迷惑をかけぬよう精進いたします。下校までの残り数時間と短い期間ではありますが、何卒よろしくお願いいたします」
「…………」
「ほらほら、アインさん。Self Introductionデスよ♪」
「……ども」
三者三葉といえば聞こえはいいが、フレンドリーで愛嬌のあるセンリや丁寧で堅っ苦しいルナはともかく……アインよ。お前ゲームでも人見知り全開なのかよ……。
ツッコミとして出かけた言葉をあえて飲み込み、アインほど酷くはないが自分も人のことをとやかく言えるほどコミュ力に自信があるわけでもないので、静観を貫くことにした。
オレやノエルのように、キッカケさえあればアインも仲良く出来るのだろうが……それこそが難点と言えなくもないというのが……。
「そしてそしてぇ~。本日のSpecial Main Guest!! 我らが副ブッチョー、あのソーマを唸らせた我が校のDarkHorse! 聞いてオノノッケ、見てWARABE! さぁー、ご紹介しちゃいマースよぉ~? このGentlemanの名はレ――」
――ゴッ!
「レンサン……痛いデース。あんまりレディに暴力ふるうの……よくないデース」
「何を企んでいるのかはどうでもいいが、勝手にハードルを上げまくるのは違うよな? なぁ、ノエル部長さん……。オレの言いたいこと理解できるか……?」
「お、オーケーオーケー……怖いデスレンサン。怒らないで、Smileデスよ~。Smile大事。怒っちゃヤでーす」
「……たくっ」
オレとノエルのやりとりを呆然と見ている面々。
そりゃ困惑もするだろうよ……。オレだって、この空気の中で自己紹介とかホント勘弁願いたいわ!
でも、今日は待たせた負い目もあるし……体験入部と言ってしまった手前、不愛想に対応するというのも違う気がする。
諦めついでにコホンと一つ咳払いをはさみ、気を取り直して口を開いた。
「えっと……レンっていいます。ソーマとは現実での友人で、たぶんノエルの言ってたやつは身内贔屓からくる過大評価なんだど思う。何年か前にやってた時期があったんですが、一時期止めてて……数日前に個人的な理由で復帰しました。アバターは新規で作り直したんでルナやセンリ同様に初心者と同じ扱いで大丈夫です。よろしくお願いします」
まぁ、こんなところだろうか……。
嘘は何一つ言っていないし、わざわざノワールの事を話す必要もない。
だから、なんかこっち見てニヤニヤしてるアインは構わず無視。何を言いたいのか大体察してるけど、おそらく違うし否定するのもめんどくさい。
「それじゃあ、これで全員揃ったことだし……今日の部活をはじめようか♪」
口火を切ったのはソーマ。
こういうのって普通部長が言うものじゃないか?
「始めまショウ! レッツゴー♪」
あ、うん。察した。
部のまとめ役はお前なんだな……ソーマ。
「というか、ソーマ。俺らは一応体験入部って扱いなんだろ? 身の振り方はどうすりゃいい? 離れて見学でもしてればいいのか? 活動の邪魔するわけにもいかないだろ」
「レンサンやらないデス? そんなのつまんないデース!!」
「今ソーマと大事な話をしているから、いい子は向こうで遊んでような……」
「なんかあしらわれてマース!? しかも、子供扱いデース!!」
「心配しないで。今日はちょうどアレも開催してるし、体験入部って文字通り実際に体験してもらおうって思ってね」
「……アレって?」
ソーマが指差した先、転移門近くの巨大スクリーンに映し出されているのは、二人の睨みあう男性プレイヤーアバターと『週に一度のPVPイベント』という……わかりやすい広告が……。
いや、まさかとは思うけどさ……。
「プレイヤーレベルは50で固定、武器防具やアビリティ、スキルもレベル相応に制限をうけるけど……アバターレベルに左右されない、純粋なプレイヤースキルがものをいうPVP。今人気の単純な腕試しさ♪」
「……アレに、オレ達も参加しろと……?」
「もちろん賞品や賞金は個人で持っていって構わないよ」
「いやそういう問題じゃなくて。アインはともかく、他3人は初心者とかわらないんだぞ。……参加者の中にはベテランプレイヤーとかもいるだろうし、なんつーか……『わからせ』的な結果になったりしたら正直悲惨だぞ」
「あはは、流石に参加の強制をするつもりはないよ。ボクもそんな鬼じゃないんだから。でも、レンなら問題なく戦れると期待しちゃってるんだけどなぁ」
「……それこそ、過大評価だ。前にやってた時だって、PVPの経験はほとんどなかったし……数年のブランクだってある」
「この前一緒にやった時は、ブランクなんて感じさせないくらい戦れてたように見えたけど?」
「ソーマくんや……。最近のお前は珍しく食い下がってくるな。いつものお前らしくないぞ」
「それだけキミに期待してるってことだよ。レン」
ふふ、わかってないなソーマくん。
副部長である君に『期待される』ってことはつまり、ほかの部員全員から注目を集めてしまうってことなんだよ……。
おいアイン! ノエルの陰に隠れてるくせに笑ってんじゃねえよ! どうせ「アイツ、公開処刑くらってるよザマァ」とか思ってんだろお前!
よく理解できていないのであろうセンリとルナはポケーっとしているし、だいたい……ここで断るのも空気読めてないみたいで、なんかソーマに悪い気もする。
「……あぁ゛ぁぁぁあもう! わかった、わかったよ!! その代わり、期待通りの成果を残せなくても文句言うなよ!?」
「当然だよ。ありがとう、レン」
溜息交じりに受付へと向かう。
クエストを受けるときと同様に、クエスト受付で手続きを行う。
数日前は気にも留めなかったが、おあつらえ向きに『PVP受付』なんて項目が増えてる辺り、オレのいなかった数年の時を感じてしまう。
そして、項目に目を通していると……とある項目に目が留まる。
「なぁソーマ、一つ質問なんだが……」
「なに? どうかした?」
「今回受けるPVP、個人戦とタッグ戦ってのがあるよな……?」
「あるね。普通に一対一と二対二のバトルだけど」
「いや字を見りゃそれくらいだいたい察しが付くっての……。そうじゃなくて、今回オレが出るやつ……タッグ戦でもいいんだよな?って話だ」
「え? うーん……別にいいとは思うけど」
「まさかレンレン! あの毒舌ロボ子を使う気じゃないだろうなぁ!? ダメだぞ! アイツある意味チートみたいなもんだし、一昨日の戦闘でだって――」
「アイン♪ ちょっと黙ろうか……。何を口走ろうとしているのか、オレにはさっぱりわかんないけど……大賢者ともあろうものが契約違反はいかんよな?」
「はい今すぐ黙ります! だから、オカズ交換権だけはっ!! どうか御堪忍をぉぉおおお!!」
「……はぁ」
危なかった。
実際、イベント直前にロボ子こと『アウラ』と面識のあったソーマやセンリだけならばともかく、今この状況では他者の目が多すぎる。何がどういう経緯で、英雄様方に情報が洩れるかわからない以上……ノワールに繋がる迂闊な情報漏洩は避けたい。
まぁ……無駄かもしれないけどさ……。
それにそもそも、今回『アウラ』を使うつもりは最初からなかったのだ。
ほら、不自然に遮っちまったから他の連中ほとんどキョトンじゃねえか……。
「ロボ子……あー、あの時のサポートNPCの事か」
「あの指揮者って職業の強い子だっけ?」
「安心しろ。PVPって言ってんだからちゃんとプレイヤーと一緒にやるつもりだ。『アウ――コホンっ、あ……アイツは使わねぇよ」
「へぇ……あのレンが、パートナーに誰かを指名するんだ。あ、もちろんボクは駄目だよ? もう電学部副部長として個人戦にエントリーしちゃってるからね。といっても……そもそもボクを指名する気は最初からないんだろう?」
「ご名答。さすがっつーか、ソーマには何でもお見通しってやつなのかねぇ……」
「『なんでも』は知らないよ。キミが誰を指名するかまではわかんないし……。レンはボクの予想を簡単に上回ってきそうだから、ワクワクしてるんじゃないか♪」
「だからハードルを上げんなっての! 指名しづらいだろうが!」
「ごめんごめん」
それで誰にするの?という目で、ソーマは視線を今回の……他の体験入部メンバーへと向けた。
「わわわ、アタシは無理だよ!? 絶対足引っ張っちゃう! コレ間違いなしだよ!」
「センリー! 最初から逃げ腰でどうするデスカ!! ワレコソハーと名乗り出るくらいで丁度いいのデース!!」
「無理だよノエちゃぁん!」
「センリさんで無理なら……私なんて本日始めたばかりの初心者ですし論外ね。……ということは……」
消去法と言いたげに集まる視線はノエルとその背に隠れたままのアインへと……
「あ、もちろんワタシもNOデスよ? レンサンのご指名を断るのは心苦しいですが、レンサンの実力を見極めるためにじっくりネットリよーく観察デース! …………でもでも~、「どうしても~」っていうなら救いの手を差し出すのがHEROというものです! 「どぉぉぉぉぉおおおおおおおしても~!!」って言うならですがぁ」
「部長は目立ちたいだけですよね……」
「ソーマ! シャラップ!」
「ま、まさかレンレン……アタシの、この大賢者アインちゃんの力を借りたいと申すか!? も~お~♪ なんだよ~♪ そうならそうとハッキリ言っちゃえよなぁ~。まぁ! アタシってば、今回のイベントオープニングでも活躍しちゃったくらい? 選ばれし、ってゆーか? いやまぁ、レンレンがアタシに超ラブいのは今に始まったことじゃないし~。でもだからって、そんな都合のいい女ってやつになっちゃうのもなんか違うっていうか~。アタシに頼りたくなるレンレンの気持ちもよーく……よぉ~~~~~くわかるんだよ? でもでも~♪ ねぇ~――」
「オレと一緒に戦ってくれないか? ルナ」
「え、えぇっ!? わ……私、ですか?」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁあぁぁぁぁぁぁぁああああもぉぉぉぉぉおおおおおおおっっ!!!! そうだろうと思ったよ!! どーせ、アタシの事選ばないだろうなぁとか普通に思ったよ! だってレンレンだもん!! なんとなーーーーーく、察しはついてたよ!! DE・MO・SAッ!? それなら、今アタシを泳がせる必要なかったよなオイ!!」
「……はっ、マジ滑稽だったわ」
「そういうところだぞ陰キャ童貞野郎!! 女の子を辱めて楽しむなんて鬼畜の所業だぞコンチクショウ!! レンレンひどいっ!」
「テメェが勝手に勘違いして暴走したんだろうが! 自業自得だっての!」
「まぁまぁ……二人とも落ち着きなよ。それで、レンにご指名を受けちゃったルナさんはどうする?」
「……えっと……」
「誘われたからと言って必ずしも戦わなければならない、ってわけでもない。無理して受ける必要もないよ? レンだって強制はしないだろう?」
「そりゃまぁ……――って、オレを半ば強引に巻き込んだお前がソレを言うか……」
「ボクとレンの仲じゃないか♪」
「……はぁ……」
仲のいい親友と言えば聞こえはいいが、実際は……今現在アインがノエルを盾にしているように、オレも現実ではソーマを他人との壁代わりに利用している節もある。普段から借りばかり作ってしまっている手前、こういう場面では断れないってだけなのだ。
我がことながら実に情けない……。
チラリとコチラを見つめたルナと視線が合う。
見たところ緊張半分戸惑い半分って感じだろうか。
こんな時、ソーマのように異性でも関係なく優しく緊張を解きほぐす巧みな話術や甘いスマイルとか出来れば良いのだが……残念ながらオレにそんなエクストラスキルは備わっていない。
だからオレには頼み込むくらいしかできない訳で――
「頼むよ、ルナ」
「……わ、わかりました。よろしくお願いします! その……レンくん」
オレは堪らずガッツポーズまでとってしまったが、誰にもその意図など理解できなかったことだろう。




