②二話のつづき5
◇◇◇
「もーーーっ!! やっと来たかよレンレェン! 遅いぞぉー。レディを1時間も待たせるとか、男の風上にも置けねえなコンチクショウ! 懲罰モンだぞー! 罰として後でジュース奢れよなぁ!!」
「遅れるから先に行ってろってメッセ送っといただろうが」
「レンレン居ないのに行くわけないじゃん!」
「いや行けよ!」
「やだよーだ!」
「……ほんと、なんなんだよお前……」
WDLへのログイン前に決めておいた待ち合わせ場所である喫茶店に、遅れてやって来たオレとルナを待っていたのは……すこぶる不機嫌な様子のアインただ一人であった。
奥まったテーブル席の角で、何杯目かもわからぬコーヒーをチョビチョビ啜りながら、オレ達2人を見つけるや否や、開口一番に大声でコレである。
ちなみに、他のメンバーは先に行くとメッセが届いた。その際の新たな集合場所もちゃんと把握している。
では何故、この娘だけは第一集合場所に待機しているのか……? 答えは単純――
「レンレンっていう盾も装備せずに、初対面のコミュニティーへ突撃する勇気なんてアタシにあるわけないじゃん。ちょっとは考えてよ!」
「お前これまでどうやってゲームしてきたんだよ……」
「そりゃまあ、掲示板とかで知り合ったりとか」
「そうだったな。オレもその例に漏れない出会い方をした覚えがあったよ……」
「むしろ……昔は、今ほど疑心暗鬼じゃなかったし」
「……どういう経験すれば、ゲームやっててコミュ障拗らせんだよ」
「え、聞きたい?」
「あ、いや結構です」
今一瞬、アインの目からどす黒い何かを感じ取った。
おそらく、過去の詮索とかは……やめたほうがいいな。うん。
地雷元とわかってて自ら飛び込むバカもいまい……。
前以てメッセージを送っていたとはいえ、遅れて来たコチラに非があるのは確かだ。
それに今回に限っては、ルナの初期設定とチュートリアルの他にオレの私情も絡んでこの遅刻なので、罪悪感もある。
「待たせて悪かったよ」と告げ、ちゃんと詫びておく。
つーか、これ見よがしに飲み終わったコーヒーカップを何個も積み重ねて放置しておくあたり……相当根にもってんなコイツ……。
こういう時は、どうこう言われる前に頭を下げておく方が面倒にならなくてすむ。
「待ち合わせに遅れてしまったことは、本当に申し訳ありません。でも、レンくんをあまり責めないであげて欲しいの! 元はといえば、私が原因で……。彼はソレに付き合わされただけなの。非は完全に私にあるわ。ごめんなさい」
「えっ、ちょお!? まままって! これはアレだから!! 夫婦漫才的なアレだから! そんな深々と頭下げないで大丈夫だから!? あの、えっと……レンレン!」
「……はぁ。ルナ、大丈夫だ。コイツ半分適当に言ってるだけで、本気で不満垂れ流してる訳じゃねえから」
「ほ、本当に?」
「……」(コクコク)
「つか、お前もお前だ。ルナのガチ謝罪にテンパったからって、一々オレに助けを求めんなっての」
「そういう反応が返ってくるとか思わないじゃーん! あー、ビビったぁ~……。つーか、なにこの可愛い生命体メチャクチャ萌えるんですけど! 色っぺえエルフ姉ちゃんマジ最高お持ち帰りしてぇ!!」
「え!? い、いきなり何っ!!?」
突然目の色を変えて鼻息荒くハァハァし出したアインに、ただならぬ雰囲気を察したか思わずのけ反るルナ。
端から見れば、女同士であるとはいえ明らかに不審者と被害者だ。
おい、ヨダレ垂らすなバカ!
「自重しろアホが」
「いったぁああ!! れでぃの頭をポンポン叩くなぁ! 脳細胞死んじゃうだろー! このこのー!」
「だったら他人に迷惑かけんなよな。ルナもドン引きしてんじゃねえか」
「えっと……だ、大丈夫。私は大丈夫よ!」
「ルナもコイツ相手に気なんて使わなくていいから……。付け上がるとセクハラしかねん」
「しねーよ!」
「説得力ねぇんだよ!」
「ふ、2人とも……ケンカはその……他のお客さんの迷惑になるから」
「……悪い」
「……さーせん」
確かにルナの言う通り、あまりに大声でやりとりしあうものだから、周囲の客から注目を集めてしまっていたようだ……。
しかも、迷惑そうにする客よりも……何故か、微笑ましいものを見守るような生暖かい視線を送る人が大多数を占めている気がする。
どちらにしても、居たたまれない。
おい元凶その1、なんで羞恥心で顔真っ赤にしてオレの背に隠れようとしてんだよ! オレだって隠れたいよっ!! 穴があったら入って引きこもりたいよ!!
ルナもどこか気まずそうにしてるし……。
「とりあえず……出るか」
「「……はい」」
◇◇◇
「そー言えばさ、ちょいと気になったんだけど旦那!」
「なんだよ」
「委員長の種族ってエルフだよね?」
「いや、ハイエルフだな」
「なにそれ上位種族じゃん羨まなんですけど! でも、エルフ系ってことは、基本ステはあんま変わんないよね?」
「あぁ、普通のエルフより脆いってくらいだな」
「……で、ジョブは見た感じ……前衛職っぽいじゃん?」
「『格闘家』だな。超がつくほど近接前衛だわ」
「…………」
「…………」
「バカなの?」
「……何となくツッコまれる気はしてたが、お前に言われるとホンットむかつくな!」
「いやだって変でしょ明らかに!! 『魔法剣士』とかならまだしも、なんでエルフに『格闘家』とかやらせてんだよ! おまえバカじゃねえの!?」
そう。
アインの言う通り、ルナはエルフで『格闘家』のまま、チュートリアルに合流した時から全く変わっていないのだ。
もちろん、変更は可能だ。
普通ならば、エルフという時点で『魔術師』や『狩人』といった後衛職に転職するべきだったのだろう。
普通ならばそうする。
「まぁ、見てろって」
「初心者相手にいい加減な知識埋め込むなよな!」
「いいから見てろって」
「あっさり死んでも助けてやんないからね!!」
「お前もしつこいな! 大丈夫だから見てろよ!」
「つーかつーか! 何気に名前で呼び合ってるけど、いつの間にそんな仲良くなったんだよお前らぁ!」
「アバター名で呼び合ってるだけだろ! てか、お前も『委員長』じゃなくてアバター名で呼べよ」
「う゛ぇ……!? あー……うぅ……、る、な……ちゃん?」
「はい。えっと、アインさん♪」
「…………」
「……?」
あ、目をそらした。
それどころか、あからさまにキョドってる。
「れ、レンレーン」
「いやなんでだよ! これまで野良でやってた時には、初対面のやつとパーティープレイとかしてたっつってただろ!? それと同じだろうが」
「リアルでの知り合いでそこまで仲良くもない人とのパーティープレイとか初めてだよ!?」
「2日前に4人プレイした時は大丈夫だったじゃねえか」
「アレはソーマとセンリだったから! 今回は……なんつーか、アレじゃん!」
「あの2人に対する印象がかなり酷い気もするが……、アレってなんだよ?」
アインにつられるように、ルナを観察する事に。
見た目の印象は先程説明した通り、綺麗な髪、整った顔立ち、女性らしい凹凸のしっかりした体つき、服装もほんの少し目を引く程度の露出である。
ゲームアバターなら、気にならない程度のエロさ――じゃなくて! 艶かしさ、っていうのか?
実年齢よりも大人びて見える色気があって、綺麗なお姉さんって印象だろうか。
リアルでこれなら……ちょっといけないコスプレ感があるかもしれないが、ゲーム世界だと常識の範囲内だ。
何を気にすることがあるのだろうか?
「……尊い」
「はぁ?」
「だぁかーら! 尊いの! かわゆいの! エロスなの! 眩しいの!!」
「意味わかんねえ」
「アレは汚せねえでしょ! 常識的に考えて!!」
「……頭いてぇ」
「確かにリアルでの性格はかなぁーーりドギツイし融通きかないしガリ勉生真面目ちゃんかもしんないけど、それを差し引いて余りある美少女ですよ旦那!?」
「本人目の前にしてよくそこまで言えるなお前……」
「アタシみたいな萌え豚クソ野郎がお近づきになろうなんて恐れ多いだろ!? 烏滸がましいだろ!?」
「ちょっと、や、やめてください。急に畏まらないで。私はそんな……アインさんが思っているような人間じゃ……」
「なんて寛大な乳神さま。ありがたやーありがたやー!」
「ちょ!? その呼び方は本当にやめてください!!」
なんなんだコイツ。
弄ってんのか、崇めてるのか、どっちなんだよ……。
ん? 何故か、ルナがコッチを見た。
顔真っ赤にして、オレとアインを交互に見て、……急に胸元を隠した。
別に胸元が開いているわけでもないのに、唐突に恥ずかしくなったのだろうか?
その見た目だと、エロいのはむしろスリットからチラチラみえる脚なんだが……。
いや別に? そういう目で見てるとか? そういうのはコレっぽっちもないですし?
露出度でいえばランカの服装で見慣れて免疫ついてるし!?
「あ、あ、あの……レンくんも! マジマジと見ないでください!!」
「え!? オレっ!?」
「やーいやーい、レンレンのムッツリすけべぇ~!」
「てめっ!? 黙れ元凶!! お前のせいでこっちにまで飛び火したんだろうが!」
「えっちぃ目でルナたんを見てたレンレンが悪いんだろぉ~!」
「ルナたんってなんだよ!! テメェの距離感設定どうなってんだ!? いきなり図々しいにもほどがあるだろ! あと、オレはエロい目なんてしてませんー」
「アタシはエロい目で見てたけどな!」
「威張って言うことじゃねえよバカ!!」
「バカって言う方がバカなんですぅ~」
「貴方達……ホントに仲が良いというか……悪いというか……」
呆れてため息をこぼすルナを引き連れ、オレとアインの口論(?)は待ち合わせ場所に到着するまで続いた。




