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②第二話『Punishment Game』



 さて、久々の邂逅……感動的な再会から数十分ほど経過した。

 リビングのソファーに深々と腰掛け脚を組むランカと……その目の前で、キッチリと正座するオレ……という形ではあるが……。


 そうしろと命令されたわけではない。

 だが、なんというか……そうせざるおえない雰囲気がある、と言いますか……。


「…………」

「…………」


 ぶっちゃけ、ランカさんの纏う空気が超絶ピリピリしてらっしゃるわけで……。下手な事を言ったら、確実に殴られる。コレ、経験談な。バレッドなんてしょっちゅう餌食になってたし。

 ここは、出来うる限り穏便に……間違っても、ランカさんの逆鱗に触れてしまわないようにしなければならない。


「……いつまで黙ってるつもり?」

「……あー……えっと、……悪い。言葉が思い付かなかった。言いたい事は腐るほどあるんだけどな。……何から言ったもんかと……」

「…………」

「ここで謝罪の言葉なんて吐いたら、お前……確実に殴ってくるだろ……? コレまでの経験上」

「どうかしらね」

「だからまぁ、下手な言葉で言い繕うつもりはない。ただ、一応悪かったとは思ってる……勝手に出て行ったこと」

「…………」

「頭を下げろっていうなら、土下座でもなんでもしてやるさ。殴らなきゃおさまらないってんなら、サンドバッグになってやってもいい。別に許して欲しいって訳じゃないんだが……ケジメとして、話くらいはしとくべきかなって」

「そう……」


 ランカは依然として空気を緩める事はない。

 やっぱり、怒りはあるだろう。

 勝手に消えて、数年も経って今更のこのこと帰ってきて、「おかえり」なんて言えるわけもない。

 一度失った信用は、きっともう取り戻す事は出来ないのだ。……オレは、コイツらを裏切った。その事実はけっして変わる事はないのだから。


「まず一つ、聞かせて」

「……なんだ」

「今、ココには私とアンタしかいない。他のメンバーと連絡がつかなかった……とは考えにくいのだけれど……?」

「そりゃ、お前しか呼んでないからな。お前が呼んでないなら他の奴らは来ないだろうよ。……むしろ、今回ランカは来てくれたからよかったが……他のメンバーはオレが呼んだところで来てくれるかどうか……はは」

「そう……私だけ、ね。一応、その理由くらいは聞いておこうかしら? もし、このギルド内で一番言いくるめやすいそう……とか、チョロいなんて理由だったら……わかってるわよね?」


 満面の笑みで指を鳴らすランカ。真面目に超絶恐い……。

 もちろん、ランカの言うような『楽そうな所から消化していく』的な戦略は微塵も考えていない。……むしろ……


「お前が一番チョロいとか、寝言は寝て言ってくれよ……」


 ……殴られた。


「何か言った?」

「そう言うところだぞ! 前から言ってると思うが言葉で返せないからって、すぐに手が出るのはどうかと思う! つか、こちとらリンク値最大に設定してるんだよ? ちょっとくらい手加減して殴ってくれませんかねぇ!? テメェの馬鹿げた筋力値でポコスカやられると、冗談抜きでメチャクチャ痛いんだよ!」

「正当な罰よ」

「過剰な暴力だよ!!」


 またパキポキと指を鳴らし始めた。というか、相変わらずその綺麗な笑顔が逆に恐いんだが……。

 ランカさんや……ちょっとは落ち着いてくれませんかね。


「そもそも、オレがお前を最初に呼んだのは…………アレだ」

「アレじゃわからない。ハッキリ言いなさい」

「……何つーか……、ランカなら……『ちゃんと怒ってくれる』って気がしたから、かな」

「……は?」

「だから、お前なら……オレの間違いをちゃんと叱ってくれる気がしたんだよ。他のアイツらじゃなくて、お前なら」


 もちろん、コレはオレの勝手な思い込みかもしれない。

 他の奴らだって、怒るとは思うが…………


 リィリアは……優しく「おかえりなさい」って言って迎え入れてくれそうだし

 アリスは何つーか、叱るってよりも一方的に駄々をこねるっていうか……要領を得ない八つ当たりみたいになりそうだし

 アイヴィは……ダメだ。いつも淡々としてるイメージしかないから、怒る姿が想像つかない。


 次に男性連中だが……


 ロイは難しい言葉でクドクドと小言ばっかりになりそうだし

 ユーリに関しては、逆に何も言わなそうだし

 あとはバレッドだが、アイツもちゃんと怒ってくれそうではある。ただアイツの場合……何だかんだで結局オレに甘いところがあるからな……弟みたいな扱いっていうか……。


 だが、ランカは違う。

 けっしてオレの言葉に依存する事なく、真っ向からちゃんと否定してくれる。そう言えば、昔から何かある度に突っかかって来るって印象だった。……まぁ、ただ単に嫌われているってだけなんだろうけど……。


 今は、許されて優しく迎え入れられるよりも……ちゃんと否定して不満をぶつけて欲しかった。

 そういう意味では、やっぱり適任者はランカしかいないと思ったのだ。


「ランカって、優しいけどメッチャ厳しいしな……はは」

「叱る……叱る、ねぇ」

「あぁ」

「……要するに、今のアンタはどんな罰でも甘んじて受ける……と?」

「えっと……死ぬほど痛いのは勘弁な。反省の前に再起不能になってちゃ、帰ってきた意味がないし……」

「そんな鬼を見るような目で怯えるのやめてくれる……? 普通に傷付くわよ」

「いやいや、鬼程度ならこんなビビったりしな―――はいすいません黙ります前言撤回します、だからその振り上げた拳を収めてください」

「口は災いの元よ♪」

「……肝に銘じておくよ……」

「それと、安心しなさい。……痛いなんて、そんな生温い罰は考えてないから……ふふ」


 うわぁ、笑顔で言い切りやがったよコイツ……。

 どんなエグい罰を思い付いたのか……いつもは見せない悪戯っ子のような笑みを浮かべるランカに、オレは内心恐々としてるわけだが。

 そんな事より、と……口を開いたのはランカだ。


「アンタが私を最初に選んだ理由は、だいたい把握したわ。……あっ、私が『最初』であってるのよね?」

「あぁ、他の奴らとはまだ会ってないよ。正真正銘、お前が最初」

「……ふ、ふぅ〜ん……そ」

「…………全員いっぺんに呼んで袋叩きにされるのは勘弁して欲しいしな……」

「なんか言った?」

「いえ、何でも」


 ついつい本音が漏れてしまったが、どうやらランカには聞こえていなかったようだ。……セーフ。


「それじゃあ、楽しいお仕置きの前に……まずは少し、真面目な話をしましょうか」

「……はは、楽しい……ね」


 すでに嫌な汗が止まらないんだけど……あれ、空調効いてないのかなぁ……。

 そんなオレなど無視して、ランカはまたソファーに深く座り直す。その際……たわわに実った魅惑の果実がたゆんと揺れたり、ホットパンツから伸びる肉付きのいい生脚がちょっとエロかったり、丸出しのお腹だったりと…………ぶっちゃけ視線のやり場にとても困る。つーかメチャクチャエロいんだけど

 昔はそんな事なかったはずなんだけどなぁ


「…………」

「いきなり明後日の方なんか向いてどうしたのよ?」

「……いや、その……ナンデモナイ、デス」

「あからさまに不自然ね。言いたいことがあるならハッキリと言いなさい。言葉無しに察してあげられるほど、私は有能じゃないの」

「いや、そんなにキニスルホドノコトジャナイトイイマスカ……」

「だったらなんで私から目をそらすのよ? なに? 視界に入れるのも嫌だってわけ……?」

「違う。そうじゃないんだ! これはむしろ、オレ自身の問題といいますか……。いや、お前に何も問題がないかと言われればそうでもないと言いますか……」

「ハッキリとしなさい」

「…………あのさ……あと1枚くらい羽織った方がいいんじゃないか? 正直、異性であるオレとしては……どこ見て話せばいいのか、困る」

「――っ!?」


 いやあの、そんなハトが豆鉄砲くらったみたいな顔で驚かれましても……オレは一般男子として当然の反応をしただけなんだが……。

 かと思えば、バッと体を抱き締めるように隠しコチラを睨んでくるランカ。……オレの気のせいかもしれないが、顔が赤面しているようにも見える。

 え? 顔が真っ赤になる程ブチ切れてるってこと!?

 悪いのオレなの!?


「何を今更のぼせたこと言ってんのよ! 3年前だって、コレに似たような服装だったじゃない!」

「そうだけど! そうだったけども! あの時は……あんま意識してなかったっていうか……。とにかく、女がそんなに肌を晒すもんじゃない!」

「心配性な父親みたいな事言わないでくれる? ……大体なによ……。あの時はいくら誘ったって…………微塵も反応してくれなかったクセに……」

「は?」

「何でもないわよ!」

「お、おう……?」

「それと、服装を変える気はないから! 目障りなら目でも閉じて話しなさい」

「別に目障りってわけじゃないんだが……」

「そもそも、たかがゲームアバターでしょう? 現実でこんな痴女みたいな格好しないわよ……」

「痴女って……自分でソレ言っちゃう?」

「自覚も無しにこんな露出高い服着たりしないわよ……。性能重視。そう、性能重視だから! あと動きやすさ! 私みたいな前衛職だとこういう服の方が戦いやすいのよ!!」

「無理矢理、理由をこじつけたな」

「うっさいぶん殴るわよ」

「わかったよ。黙りますよ……」


 こんな事を言いながらも、ちょっとはオレの目を意識したのか……両腕で腹部を隠すランカさん。まぁ、そんな事をすれば逆に両二の腕に挟まれたたわわな果実が更に強調されちゃうわけで……。

 視覚へのダメージはむしろ増した。コイツ、本当に無自覚なんだろうな?


 そうだ。ランカの言う通り、この身体はただのアバターなんだ! 偽物! 作り物! だからエロくない!

 落ち着けオレ。目の前のアレは偽物なんだ。惑わされちゃいけない。


 ……チラ


「………………」


 プイ。


 やっぱ無理だぁ! このゲーム無駄にハイクオリティだからモノホンっぽく見えちゃうんだよ! もうちょいCG感強めだったらこんなに意識しなかったのに!

 そうだ。話題を変えよう。

 違う事に意識をそらせば気にならない筈だ。アレだから! これはけっして逃げの姿勢なんかじゃないから……。


「こほん……それじゃあ話題を戻そうかランカくん」

「なによ、いきなり改まったりして……」

「いいから本題に入ろう! 本題、大事!」

「…………。わかったわよ」


 なにやら訝しげな目で睨まれたが、もう無視。

 自称一般男子であるオレにそんな事を気にしている余裕なんてない!


「まず、今の状況を簡単に説明するわ。もうアンタも知っていると思うけれど、……アンタとアイヴィを除いた『箱庭』メンバーはそれぞれに新しいギルドに所属してる。……というか、設立したって方が正しいわね」

「……あぁ。それは友人から聞いたよ。随分とデカいギルドにまで成長したらしいじゃねーか? 元仲間しては、誇らしいくらいだよ」


 ーーベキリッ


「ごめんなさい。手が滑ったわ」

「どう手を滑らせたらソファの肘掛けが粉砕しちゃうんだろうな……不思議だな」

「ええ、不思議ね。老朽化していたんじゃないかしら」

「あぁ、もういいよ……それで……」


 今の一瞬、先程までとは全く違う……ガチでブチ切れた時の本気の目をしてた。……何か、逆鱗に触れるような言葉を吐いてしまったんだろうか?

 偉そうに上から目線で褒めたつもりはなかったんだが……そうとられても仕方ないのかもしれないな。コミュニケーションってのは、やっぱり難しい。


「……アンタは、どうなのよ?」

「オレはまぁ……色々だよ。だが少なくとも、あの日以来ログインはしてない。この数年はご無沙汰だよ」

「…………そう」

「その間に、オレの真似事をするバカどもが量産されてるとは夢にも思わなかったよ……。他人の名前なんて語って、何が楽しいのかね?」

「そうね……」

「あはは、人ごとみたいに言ってくれてるが、元はと言えばお前らが原因だろうが……。オープニングであんなムービー流しやがって。一生もんの恥だっての!」

「悪かったわよ。でも、こうでもしないとアンタは戻って来ないんじゃないか……って、話し合った結果やむなく……」

「…………はぁ。なんつーか……はぁ」


 言いたい文句は腐るほどある。

 だけど、言えない。

 盛大に呆れたっていうのもあるが、それ以上に……そこまでオレを必要としてくれていた事が嬉しくもある。

 ちゃんと話し合ってから出て行かなかったオレにも非はあるし……。


「もう、それはいいよ。それより問題はこれからのことだ」


 もういい。気にしない。

 アレはオレじゃない誰か! オレとは関係ない赤の他人! だから恥ずかしくない!!


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