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一話のつづき1




「ただいま戻りました~」


 玄関を抜けると、今でも少しドキリとしてしまうような、女性らしい香りがフンワリと鼻孔を擽る。

 一年以上世話になっているはずなのだが、相変わらず慣れない事の一つだった。

 慣れない……というよりは、飽きないって言う方がしっくりくる気もしないでもないが……。


「おかえりなさい♪」


 リビングからわざわざ顔を出して出迎えてくれたのは、歌穂さんだ。

 オレよりも歳上の娘さんがいるとは到底思えない程若々しく、見た目は二十代前半と言っても違和感がないほど綺麗な女性だ。

 だが、纏う雰囲気っていうのだろうか?

 落ち着いた佇まいや、時おり見せる母親としての顔を見た時なんかは、大人の女性なんだとつくづく実感する。

 凹凸のしっかりとした女性らしい体つきや、綺麗な容姿なんかも相まって、とても素敵な女性だと自信を持って言える人だ。


「あら? まぁ、わざわざ他の物まで買ってきてくれたのですか?」

「すぐに必要って訳じゃないですけど、ちょうどいい機会だったので、色々買っておきました。……もしかして、もう買っちゃってましたか?」

「いいえ、次の週末に買いに行こうと思ってたのですが……」

「ならよかったです♪」

「ふふ♪ ありがとうございます。凄く助かっちゃいました♪ けれど、これだけの荷物……さぞ重かったでしょう?」

「……そこはまぁ……一応、これでも男の子なんで」

「あらあら、ふふ♪ 惚れちゃいそうです」


 再度礼の言葉を残し、リビングへと戻っていく歌穂さん。

 リビングからは先程から食欲をそそる美味しそうな香りが、玄関まで漂ってきた。

 この香り……今夜はカレーだな。

 残念ながら、これからまた用事で外出しなければならないオレは、まだご相伴に預かる事は出来そうもないが……帰ったら絶対に食べよう。

 歌穂さんの作る料理は、かなり美味い。

 それはもう、外食など馬鹿馬鹿しいと思えて仕方ない程に、プロも顔負けなご馳走の数々である。

 素朴な料理でさえ美味い物だから、この家でおかわりをしなかった日はない。


 ……ぐぅ~……


 いかん!

 このまま突っ立ってたら腹が減る一方だ! 早く、この幸せ空間を脱出しなければ!!

 口元から垂れかけたヨダレを飲み込み、自身にむち打ち自室へと向かった。

 ちなみに、美緒さんは帰ってきていないらしい。中間試験が明け、部活動生はまた今日から帰宅時間が遅くなるのだろう。

 もし時間が合ったなら、帰りに迎えにいくのもありかもしれないな。



「煉斗さん? 何処かに出られるのですか?」

「すいません。ちょっと用事がありまして……。用が済んだらすぐに帰りますんで、……出来ればカレーは残して置いて貰えると嬉しいです」

「はぁい♪ 遅くなるようでしたら、連絡してくださいね」

「わかりました」


 適当な私服に着替えたオレは、歌穂さんに見送られ家をあとにした。




     ◇◇◇




 さて、意気揚々と家を出たのはいいが、外は夕暮れ時で茜色に染まっている。

 待ち合わせ場所は駅前近くの大通りにあるファミレスだ。

 さっき『席は確保した』ってメッセージが届いていたので、随分と待たせてしまっているかもしれない。

 遅れるとは伝えているが、だからといって待たせ過ぎるのもよくないわけで……

 そう思うと、歩く速度も自然と早くなる。


 と言っても、今から会う友人は……、自称『萌豚クソニート』で、美少女キャラ大好きのオッサン脳らしいので、あまりモチベーションは高くない。

 どうしよう……。会った瞬間、鼻息荒げて延々と語り出すようなオッサンだったら……。


 ダメだと言う気はないよ?

 人としてあってもいい一つの形だとは思う。……だが、仲良くなれる……だろうか?


「……つか、他人を見た目で判断してるオレも、十分最低……だな」


 だから友人が少ないのだろうか?


 ……

 …………

 ………………うん、ありえるわ。


 といっても、見た目のいい奴に近付くか? と聞かれて、素直に「うん」と答えられる自信はない。

 良くても、悪くても、ダメ?


 我ながら無駄にめんどくさい性格をしている。


 そんな事を考えている内に、約束の場所に到着してしまった。

 あとは中に入って、いかにもなオジ様を探し出せばいい。


「………………」


 のだが……


「いらっしゃいませ~♪ お客様何名でございましょうか?」

「……あぁ、えっと待ち合わせで、もうツレが先に来てる、筈なんですが……」

「それではごゆっくりどうぞ~」


 ……さて、ヤツはドコだ?

 夕食時なので、客数は少なくない。満席ではないにしても、ほぼ全ての席が埋まっているくらいには……。

 だが、七割近くは家族連れや数人での客だ。お一人様を探し出すのは難しくない。……はずなのだが……


 キャリアバリバリそうなサラリーマン男性。

 筋肉ムキムキなタンクトップのお兄さん。

 ボーッとメニューとにらめっこしているおじいちゃん。

 金属類のアクセサリーをジャラジャラ付けた、イケイケなギャル男さん。


 他に一人でいる客は、根暗そうな女学生くらいなものだが、オレが友人に抱くイメージと全く合致しないので、まずないだろう。

 少なくとも、一人称に『オレ』と使うような少女には見えないし。


 というわけで、選択肢は四つ。

 メガネか、ムキムキか、ヨボヨボか、チャラチャラ


「…………隠れオタクだとしても、この中に『萌豚』がいるようには思えないんだが……」


 そんな事を言っても、はやく見付ける他ない。いつまでも入り口付近で棒立ちってわけにもいかないしな。

 まずは情報の整理だ。


 年齢は30代。

 これでおじいちゃんは除外だ。というか、オタク文化に精通してるおじいちゃんとか……、いやまぁ、いるかもしれないけどさ!


 次に、一人称は『オレ』

 これはある意味三人全員に可能性があるが、友人はかなり砕けた性格だった。

 可能性がないわけじゃないが、サラリーマンさんはキッチリしているイメージだし、抜いてもいい気がする。


 あと二人か……。


 さぁ煉斗! 捻り出せ! 思い出せ! オレならアイツとの会話から、最良解を導き出せるはずだ!

 そういえば、運動は苦手とかなんとか言ってなかったか? 前回の体育祭で全く役に立たなかった……とか。

 タンクトォォォオオップ、最後に消えたのはお前かぁっ!! お前が役に立てないような体育祭があってたまるかぁああ!


 ということは、残ったのはチャラ男一人。


 ふふっ、我ながら自分の洞察力が恐ろしいぜ。名探偵を名乗ってもいいんじゃないか?

 というわけで善は急げだ。

 オレは喫煙席でタバコをふかして、周りの空気も読まず携帯端末片手に大爆笑しているチャラ男に近付く。


 ……あれ? ホントにコイツか?


「……えっと、つかぬことをお聞きしてもいいでしょうか?」


 数年来の友とはいえ、一応初対面なわけだし敬語で話しかける。最初から馴れ馴れしくされるのはオレだって嫌だしな。うん。


「あぁ~ん、なにアンタ? ひとが折角いい気分で話してんのに、邪魔しないでくんね? つか誰だよテメェ」


 そうだな、まず自己紹介が先だ。

 相手に名前を訊ねる時は、まず自分から名乗るのが当然だよね。

 けど何でだろう。こいつが萌豚さんなんて……なんか嫌だな。

 マナーも態度も悪くて、他人に対して無駄に高圧的。人は見掛けによらないというが、ネットではあんなにもイイ人……いいひと……いいひと? だったかなぁ……?

 口を開けば美少女キャラか、ゲームの話題しか出ないような人だけど……、少なくとも、こんなチャラ男みたいに周りの迷惑を考えないような人間ではなかった……気がする。

 すべて『嘘』だった……とか?


「えっと、オレは……レンレンです」

「……はぁあ? テメェなめてんの? オレのことバカにしてんのか? あぁ゛」

「いえ、えっと……この店で待ち合わせしてたんですけど、アナタは『MBKN』さん……じゃないですよね?」


 ……だといいな……。


「はぁ? んだそりゃ」

「正式名称……ココで言うんですか? ちょっと恥ずかしいんですけど……。『萌豚クソニート』さんですか?」

「…………」


 一瞬の静寂。

 ドコからか盛大に噴き出すような音と、「ガンッ」と力いっぱい台に頭突きをかましたような音がした。

 その後はクスクス笑う声とか……、目の前でわなわな震えるチャラ男とか……。

 というか、こんな人前でバラされるのがそんなに恥ずかしいなら、最初から追及なんてしてこなければいいのに……。

 言わされたコッチだって結構恥ずかしいんだよ?


「……ぶっ殺すぞゴラァ……」

「へ?」

「だぁれが、萌豚でクソニートだって!? ふざけんなゴラァ!!」

「へっ!? 違うんですか?」

「誰だか知らねえが、そんなクソ野郎とオレを一緒にしてんじゃねぇ! ぶっ殺すぞゴラァ」


 違うのか? それは


「よかったぁ~」


 堪忍袋が爆発寸前のチャラ男を前にして、言う言葉じゃないかもしれないが、ホントによかった。


「オレの友達がこんなクズ野郎じゃなくて、ホントによかった♪ 最低限のマナーすらろくに守れないとか、お兄さん何歳なんだよ? とか思ってましたし」

「…………テメェ」


 どうやらチャラ男もキレたらしい。

 というか、正論言われて言い返せないからって、洋食用のナイフを凶器にするのはどうかと思うな。

 大したリーチがあるわけでもないし、当たったら当たったで刃傷沙汰だし、良いことないよ?

 ゲーム世界じゃあるまいし。


「死に曝せやクソガキ!」


 ナイフを持った手を勢いよく突き出すチャラ男。

 その手を難なく避け、勢いそのままに右膝蹴りをチャラ男の鳩尾に見舞ってやった。

 驚くほどキレイにきまってしまった。

 チャラ男は机をひっくり返しながら、盛大にぶっ飛んだ。他にお客さんのいない方に飛んで行ったんで、周囲への被害はなかったが……まぁ、大騒ぎにはなるよな……。


「「「おぉおお~……」」」


 いや、おぉって何だよ!?

 目の前で暴力騒動が起きたんだよ? もうちょいパニックになるとか、騒ぎになるとかさ……

 誰か警察呼んで、オレが捕まっちゃう流れじゃないの?


 オレもついついカッとなって脚が出ちゃったけど、一応反省はしてるんだよ?

 そうこうしている内に、定員さんが出てきた。捕まるパターンか?


「きみ」

「……は、はい……」

「『助かった』なんて言っちゃ、店員失格なんだろうけど……、いち個人として礼を言わせてほしい。……あの客には店としても困ってたところでして。「客だ」なんだと威張り散らすわりに、ソフトドリンクだけで何時間も居座るような、困った客で。他の客の事も考えずに騒ぎだしたり……、問題のない料理にクレームをつけてきたりと……」

「……はぁ」

「それに今回、彼は当店のナイフを勝手に使って脅してきたわけだし……、店としては『正当防衛』という形で事態をおさめたいのだが……だめかな?」


 迷惑な客にお灸をすえただけ、ってことにしてくれるつもりなのか?

 いやまぁ、その方がオレは助かるが、……他の客はそうもいかんだろう。


「暴力騒動? はて、なんのことやら」


 さ。サラリーマンっ!


「ボクは、筋トレが忙しくて、ふんっ! 何も、見ていないよ!」


 タンクトップっ! お前まで……


「最近の若者は、威勢ばかりで他がなっとらん。……その点、お主は中々見所があるの~」


 おじいちゃーん!


 他のやつらも、なんか視線が生暖かい!


「お母さんお母さん! 見た? 今の見た!? スッゴいキック! ドカーンって!」

「そうね~、あのお兄ちゃんは悪者を退治してくれたんだね~」

「すっごーい!!」


 いやいや、キックって悪いことだからね! 現実で使っちゃアウトな行為だからね!? 絶対にマネしちゃダメだからな!

 ちょ、オイコラ! 拍手とかやめろ! 写真とか撮ってんじゃねぇ!


「あ……えっと……、ご、ご迷惑おかけしましたぁあああ!!」


 恥ずかしさと驚愕と、ほんのちょっとの罪悪感からその場にいられなくなり、オレは全力疾走でその場を逃げ出した。

 つか無理だろ! あんな『英雄大歓迎』ムードの中にいるとか……、なにその新手の公開処刑! 羞恥心だけで死ぬわ!


 店を抜け出し、走り続けること数分。店辺りから見てた人からすれば、食い逃げと間違われたかもしれない。

 だが、立ち止まるなんて勇気、ボクにはない!


 つっても、全力疾走で数分は流石にキツイ。休憩がてら、立ち寄った公園のベンチに座る。


「……あぁ~……そういや、MBさんに何も言わずに逃げちまったなぁ……」


 あの生温い空間に戻る勇気などオレにあるわけもなく、仕方ないのでメッセージを送っておく。

 今回は残念ながら会うことが叶わなかったが、きっと次の機会があるだろう。


 …………アレを見て、幻滅したりされてなければ……だけど……。

 そう思うと、やっぱり凹むな……


『悪い、ソッチに戻るとか不可能だ』


 送信


 リリリリ……


 まだ、送って三秒も経ってないんだが、返信早すぎねえか?


『滑稽ww』

『殴るぞ?』

『正義の味方ワロスww』

『本気で泣くぞ?』

『まだ登場して三分経ってないけど、カラータイマーなっちゃった?ww』

『どこぞやの超人と一緒にすんな!』

『んで? 今ドコよ?』

『日頭公園ってとこだけど? まさか来んの?』

『ここまで来といて『帰れ』はないっしょ♪ すぐ行く』


「…………」


 どうやら会えるらしい。

 嬉しいような恥ずかしいような……いや、やっぱ嬉しいか。

 何年も前から、オレの唯一の話し相手だった友人との初対面。

 話したいことは語り尽くしたような仲だが、会って話すのとはやっぱり違う。


 水飲み場で軽く顔を洗い、渇いた喉を潤す。


 さて、メガネが来るか、マッチョが来るか……まさか、おじいちゃんがくる事はないよな?

 御老人と盛り上がるとか、オレにはムリなんだが……

 メガネやマッチョも無理だけどさ~……


 そんなことを考えているとメッセージが届いた。


 ゴクゴク……


『よぉにぃちゃん、いいケツしてんなぁ~』


 ブゥウウウウゥゥ゛!!


「うわっ、ばっちい!」

「けほっ、ごほっ! お前なぁ!! ――っ」


 蒸せ返りながらながら、抗議的な面持ちで振り返ったオレは、言葉を失った。

 驚愕とか茫然とか以前に……、自分の網膜にうつった光景を、脳が正常に理解しようとしてくれなかったのだ。

 目を疑うとはこの事を言うのだろう。

 振り返った先……、公園入り口に立っていたのは――


「ハロー、マイフレンド! 今日はいい夕焼け空じゃあないか♪ こんないい日には、きっと素晴らしい出会いがある♪ とは、思わないかな~? 今みたいに、ね♪」


 仁王立ちで、片手に持った携帯端末で目元を隠し、空いたもう片方の手は腰に当て、偉そうに胸をそらす十代後半くらいの少女…………ふむ、痴女だろうか?

 人通りが減る時間帯とはいえ、外であんなにも堂々と恥ずかしい言葉を叫ぶとか……ちょっと危ない人なんじゃないか?


「…………」

「…………」


 黙って見つめ合ってたら、どんどん少女の顔が赤くなってきた。

 たぶんアレ、夕陽のせいじゃないよな?

 なんか、体勢そのままにプルプルと生まれたての小鹿並みに震え出したし。


「……な、何か言ってくれないかな? 無言で返されると困るっていうか……、アタシ超イタい子みたいでメッチャ恥ずかしいじゃあぁああん!!」

「……あぁ、やっぱり?」

「わざとか! わざと無視したのか! 初対面の女の子が羞恥のあまり悶絶死したとしても、レンレンは構わんと申すか、うーわ!」

「誰がどう見ても、アンタの自業自得だろうが……。つか、いきなり現れて自己紹介もなしかよ? 誰だよアンタ」

「え? うそ……、ここまで来てまだわかんないの? レンレン、鈍いにも程があるっしょ」


 いや、どう思い返したところで、オレにこんな奇抜な女友達はいない。

 馴れ馴れしくレンレンなどと呼んでくれてるが、……ん?


 ……

 ……まさか

 ……いや、そんなまさか……


 そんなオレを見かねてか、少女は手に持った端末をいじり出した。

 数秒後、オレの持つ携帯端末が振動と着信音を響かせた。


『レンレンさん、合言葉は?』


 そうだ。

 見た目もわからぬ相手だからと、初対面でも間違わぬように、オレ達だけの『合言葉』を作っていたじゃないか!


「……『今期の推しキャラは?』」

「断然、レヴィアたん! コレ絶対!」

「…………まさか……『萌豚』さん?」

「今日からは千秋ちあきちゃん♪ って呼んでくれてもいいぜ~。ソッチはどうする~? レンレンのままでいいの?」

「いや、すまん……ちょっと待ってくれ! ……今、頭の中で情報の整理が出来てない……」

「なになに~? 実際に会ってみたら、思ってた以上に可愛くて直視できないよ~、ってやつぅ?」

「……ふっ」

「オイコラ、今鼻で笑いやがったな童貞野郎」


 なんか一人で騒ぎ出したが、それを無視してオレは携帯端末を操作し、『萌豚』さんのプロフィールページを開く。


「……三十代」

「ピッチピチの高校生でぇす♪」

「性別……」

「こう見えて、実は……オニャノコなのでしたぁああ♪」

「眼鏡かコンタクトを付けないと前が見えないとか……」

「両視力2.0だよ~♪」

「身長は170センチ、体重は96キロ」

「身長は150ちょっとだったかな~、体重は……おっと、女性を相手にそんな野暮な質問をするもんじゃないぜ……少年♪」

「美少女キャラ好きのクソニート……」

「あ、ソレは事実っすわ」


 ……

 …………

 ………………おい


「ほぼ全部の情報がデタラメじゃねぇか! 逆ならともかく、オッサン演じる女子高生ってなんだよ! つか、ヒント全てがダウトって、わかるかんなもん!! ラスボスが伏線全無視とか、アニメやゲームならクソ認定ものだぞ!」

「あぁ……わかるわかる。物語上、ちょくちょく伏線っぽいシーンがあったのに、結局全く回収せずに無関係にソレっぽい新キャラ登場させて「魔王でぇ~す」とかいうやつでしょ~。「裏切りじゃないんです~」「皆のために仕方なかったんです~」とか言い訳つけて、無駄に人気の出ちゃった敵キャラも味方キャラにだぁいへぇんし~ん♪ ライバルって設定にしとけば「ピンチは助けるけど、味方じゃないんだからね!」とツンデレキャラになっちゃうと♪ 腐女子の脳内ではカップリングが捗る捗る……うへへ」


 なんか熱く語り始めたし……


「いや、オレの言いたいことはそういうことじゃなくて……。…………アンタ、女だったのか?」

「見りゃわかるっしょ! あっ、もしかして女に見えない!? 学校の制服以外でスカートはくなんてちっちゃい時以来だからな~。心配しないでね? 男の娘じゃないよ? 女の子だよ~?」

「安心しろ……どうみても女の子だよ」

「ん? じゃあさっきの質問の意図は?」


 オレは自身の手に持つ携帯端末の画面を、少女へと向けた。

 ページは変わらず、『萌豚』さんのプロフィール画面。


「三十代男って……書いてあるよな?」

「え、なに? もしかしてレンレンそんなの真に受けてたの? ウケる! 今どき情報社会ですよお兄さん♪ こんな誰が見てるかもわからないようなコミュニケーションサイトに、本当の個人情報をさらすとかありえないっしょ♪ てかそれドコのリア充よ」

「……おまえ、騙してたのか……」

「騙すなんて人聞きが悪いぞ! アタシ、プロフ以外でレンレンに「男です~」「三十代のオッサンです~」とか一言も言ってないぞぉ! というか、この前体育祭ってヒントも出したじゃん!」

「……てっきり、教師か、保護者かと……」


 あるだろ?

 生徒に混じって、有志として先生がリレーに参加するとか! 保護者参加型の競技とか!


「ソレを言うなら、この数年間一度もお前が女の子だなんて話は出てなかった筈だが?」

「言うわけないじゃん。アタシ達の会話っていったら、アニメかゲームの話題ばっかだし、身分さらすタイミングとかないっしょ。つか、聞かれたら言ったよ。聞かなかったのソッチじゃん!」

「…………」


 なんも言えね~。

 でも、プロフィールを真に受けるなって言われても……。じゃあ何のためのプロフィールだよって言いたい!


「だいたいさぁ、見た目が違うだけで中身はおんなじだよ? 「詐欺だ~」って騒ぎたい気持ちもわからなくはないけどさ、恋愛関係だったわけでもないし、貢いで貰った覚えもない。というか貢いで欲しい! お金ちょうだい!」

「話がズレてる」

「あ、ごめん♪ ソレにアタシが女だったからって何も問題なくない? もしかして、レンレンはオッサン期待してた? まさかのホモホモだった!?」

「んなわけあるかっ!」

「……ごめんね」


 急に反省したように大人しくなる少女……ちあきだったか?

 しゅん……と顔を俯かせ、物憂げな瞳をコチラに向ける。


 いきなりそんな「女の子」な顔をされたら、オレでもドキリとしてしまう。

 言葉はともかく、よく見ると見た目はそれなりにかわいい女の子なのだ。


 背中まで伸びたストレートロングの黒髪はサラサラだし、目鼻立ちは整ってて綺麗とうよりは可愛い系。

 体の凹凸は……まぁ恵まれてはいないかもしれないが、太ってはいない。むしろ、痩せすぎな気もする。

 まぁ、総合的に見れば十分美少女と言えなくもない少女だ。


「……ごめんね、レンレン……」


 ゆっくりと近付くその華奢な体に、段々と心拍数が――


「性転換にはお金がかかるし、年齢偽装手術はさすがに……」


 あ、うん、平常運転でいいっぽい。


「ソレに棒をつけてまでBLになりたいわけじゃないし……」

「てめぇ、この野郎」

「いって!」


 オレの小突きがちあきの額にヒットする。

 大したダメージもないくせに大仰に痛がってみせるちあき……さん。

 ……やっぱ初対面だし、さん付けはしとくべきだよな? オレのチキンハートじゃ、女子相手にいきなり下の名前で呼び捨てとかムリだし! ありえないし!


「いたぁい~」

「いい加減、BL疑惑やめやがれ! オレは健全だ。健全に女好きだっての!」

「女好きって……。そんな恥ずかしい情報を堂々と公言するのもどうかと思うな~アタシ。というか、アタシ今貞操の危機だったりする? 処女奪われちゃう流れ? きゃー、レンレンのえっち~♪」

「……はぁ」

「オイコラ人の顔見てため息つくなよ」


 あぁ、あの人だわ。

 間違いなく『萌豚』さんだ。この人。

 人をおちょくったような態度や台詞とか、無駄に口が達者なところとか、まんまだわ。


「そんなことより、レンレン」

「なんですか」

「敬語なんてやめろよ! 他人行儀じゃん! 寂しいじゃん! だからやめろよ! 気さくに話せよこのやろ~」

「…………んだよ」

「うわっ、超無愛想!」

「うっせ」

「まぁ、そんなことより~、場所変えて話さない~? 積もる話もあるだろうしさ~」

「はぁ? 誰もいないんだからここでもいいだろ?」

「……いや~、三徹明けのせいか……、夕陽でも直射日光が辛いんすわ。目が溶けそう。灰になりそう。死ぬ~」

「さっき「いい夕焼け」とかなんとか言ってなかったか?」

「方便だよ! 社交辞令ってやつ? 別に好きでもないけど、「綺麗ですね~」とか言っときゃ場が持つでしょ! つか行こ、移動しよ! 直射日光はお肌の敵だよ! 別に日焼けとかどうでもいいけど……。アタシの生命活動に関わるから!」

「わかったよ……、ウチ……はダメだな。適当に近くの喫茶店に行くか」

「何でもいいから、移動! 移動っ!」




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