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五話のつづき3




     ◇◇◇




 無邪気な笑みを浮かべ気を失った彼は、まるで壊れてしまったお人形のように、ピクリとも動かない。

 もしかしたら、本当に死んでしまったのだろうか? そんな疑問も浮かぶが、すぐに意味のない問答だと切り捨てる。


 まだ、始まったばかりなのだ。

 この程度で、彼が息絶えるはずはない。


 少女を象った人形は玉座から立ち上がり、……糸の切れた操り人形のように静かに眠る少年の傍に膝をつき……優しく、抱き寄せる。

 繊細なガラス細工に触れるように丁寧に、……大切な彼を胸元にかき抱く。



 こんな……穢れてしまった私なんかを……アナタはまだ、求めてくれるの?


「だとするなら……コレを授けるのは、やっぱりアナタしかいないのかしら」


 ゆっくりと触れた手で、そっと彼の顔を上げる。


「私は……悪鬼。アナタの望む姫ではないけれど……」


 そのまま、彼の唇に触れる。


「そんな私だけは……アナタを愛してあげる」


 そして……


「捧げるわ。……『白き鬼の寵愛』を……」



 唇を……重ねた。




《イベントオープニングのクリアを確認しました。おめでとうございます。……それでは、これよりエクストライベント『贖罪の宴』を開始します》


 けたましいBGMと共に、ナレーションがイベントの開始を告げる。

 あと数分も経てば、自由を取り戻した勇者達が……私を狙って動き出すことだろう。

 『ノワール』とのひとときは惜しいけど、もう帰らなければならない。


 ……けど、もう少し……


 あと、もう少しだけ……このまま――



 だが、予想していたよりも早く『邪魔者』は現れた。

 身の丈を超える聖槍を突き付け、無感情な瞳でコチラを睨み付ける戦姫を象った人形。


『……いつまで、その汚ならしい手で『わたくしのマスター』に触れているつもりですか? 少しは身のほどを弁えてから行動するべきだと愚考しますが……?』

「……あぁ、アナタが……代用品?」

『お初にお目にかかります。……骨董品さん』

「私の代わりに、彼を導いているつもりなの? ……まぁ、彼はアナタではなく私を求めているようだけれど。……ふふ」

『導くなど滅相もございません。わたくしはただ、マスターの望むモノのために僅かながら助力させていただいているに過ぎません。ですので……アナタは『もう必要ない』と愚考した次第にございます』

「ソレを決めるのは、アナタ?」

『わたくしに決定権など不必要です。ですが、遠い親戚より近くの他人……とも言います。わたくしは『アナタの代わり』ではなく、わたくしとして……マスターのおそばに仕えさせていただきます』

「……同じ機械のくせに、アナタの方は随分と雄弁に語るのね」

『それだけ長い間、マスターの傍でマスターの影響を受けた結果なのでしょう。いつかそのまま、アナタの存在なんて忘れさせてみせます。ですから骨董品さんは安心して消えてくださってかまいませんよ♪』

「考えておくわ♪ …………そろそろ時間ね。アナタも消えかけてる」

『……先程の愚行』

「……愚行?」

『マスターは寝込みを襲われたので……無効です。マスターの初めては、まだ奪われていません』

「……ふふふ、アナタ面白い事を言うのね♪ いいわ。……次はちゃんと、奪ってあげる」

『次などありません』

「だといいわね♪」



 後継機には、随分と嫌われてしまったようだ。

 終始無感情な表情のまま、白い粒子となって消えていく。


 そうね……。

 『救われるのを待つ』というのも、やはり私らしくないのかもしれない。

 それなら……シナリオからは脱線しかねないけれど、……ノワールを『奪ってしまう』というのも、いいわ。


 とても、いい。


 体も、心も、……彼のすべてを私の色に染めてしまおう。


「嗚呼……アナタの影響かしら? 私が、こんなにも『強欲』になってしまったのは……きっとアナタのせいね♪」


 傷付いた彼の頬を撫でる。


「だって……こんなにも魅力的に咲いているんだもの……」


 だけど、まだ。

 まだアナタは、咲ききれていない。

 もっとアナタは咲く。

 綺麗に、優雅に、雄々しく、猛々しく、咲き誇れる程に凛々しい一輪へと至れる。


「だから……まだ、ね」


《……2……1》


 カウントが終わるまでに、もう一度目を覚まさないか……なんて、ちょっとだけ期待していたけれど、目覚めないのならば仕方ない。

 光の粒となり消えていく少年に、別れの言葉を残し……私は重くもない腰を上げた。



「………………おやすみなさい」




     ◇◇◇


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