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四話のつづき5

     ◇◇◇




 開戦の合図と言わんばかりに、高速の突進が襲い来る。

 白黒に発光する雷電を纏い、デタラメと揶揄するに足る豪速。

 目で追って対処するなど到底不可能な突貫に対し、唯一の対抗手段があるとするならば、『真正面から受け止める』しかない。

 中途半端に回避できたとしても、数秒と待たず方向転換した『二度目』がくる。

 跳んで避ける……なんてものは愚策だ。次に足が地に着くよりも、『麒麟』の往復の方が遥かに早い。

 空中で動けぬプレイヤーなど、『麒麟』にとっては単なる『狙いやすい的』でしかないのだ。


 だから、ランカはそんな愚を犯さない。

 防御系のバフをふんだんに受け、一時的とはいえ数十倍に強化された防御力をフルに活用する。

 先ほどノワールが顔色一つ変えず当然のようにやってみせた『ジャストガード』なんて、英雄と呼ばれたこの6人でさえ……不可能なのだ。

 至近距離から射たれるスナイパーライフルの弾を掴むくらい……いや、もしかするとそれ以上の難度を誇るかもしれない。


 なので、今重要なのは……通常のガードでどれだけヒットポイントを残すことが出来るか。……そして――


『……来ます』


 アウラの合図に間髪入れず、神馬の突貫がランカに襲い掛かる。

 轟音と爆雷の吹きすさぶ必殺の一撃。

 ランカはソレを戦斧で防ぎ、足場の悪い屋根瓦を盛大に削りながらも……その一撃を受け止めた。


 あとは……その場で『止められる』かどうか……

 ほんの一瞬、動きを止めるだけならばランカでなくてもいい。

 だが、その一瞬の停滞からどうすればこの神馬を怯ませ……一時的ながらも行動不能に出来るか? そう考えると……やはりランカでなくてはいけないのだ。


 この6人の中で一番……『筋力値』のステータスが飛び抜けて高い、怪力女でなければ……


 『麒麟』が停止した一瞬。その蹄が地に足をつける数瞬前。そんな一秒にも満たぬ時間で……ランカは盾代わりの戦斧を手放し前へと出た。

 『麒麟』よりも上。


 瞬間的に握り締めた右手の拳を振り上げ……


 ――……一閃。


「……チェエエストォオォオオオッ!!!!!!」


 英雄ギルド『零雪の箱庭』内でも最強の拳骨が『麒麟』の背に炸裂する。

 衝撃は一瞬。

 破砕音は遅れてやってくる。


 ――……バッゴォオオオオオオオオオオオォオン!!!!


 屋根を建物ごと粉砕し、それでもまだ衝撃を殺しきれず、一階の床すらも砕き、その地に直径十数メートルものクレーターを刻み付ける程の破壊力。

 通常ならば破壊不可能な建築物ギミックやステージの土台を、拳1つで……コレである。

 ……もはや一種のイレギュラーだ。


 それでも……それほどの一撃でさえも、『麒麟』のヒットポイントゲージは微動だにしない。

 無傷なのだ。


「バケモノね。……でも、もうマウントはとったわよ? 攻撃モーションに入るたびに、ぶん殴ってあげるから覚悟なさい」


 ダメージはなくとも、『止める』という目的は達したのだ。

 あとの問題は、コレがどれだけもつか……だが――


「まぁ、数分もあれば……アンタなら、なんとかしちゃうんでしょう? ……ねぇ……ノワール」




     ◇◇◇




「……こっえーなぁ〜……。本気の鉄槌は久々に見たが……、やっぱヤベェなぁ……あの怪力女」

『尻軽男さん。余所見しているしている余裕はありませんよ』

「……尻軽って……、せめて、チャラ男かオッサンにしてくんない?」

『……これ以上、時間を無駄にされるのでしたら、ヤリチ●野郎に格下げしますよ?』

「動く! ちゃんと指示通り動くから、これ以上酷くしないでくださいお願いします!!」

「……辛辣ですね……」

『戦場では口よりまず手を動かす。十時の方角から『フェンリル・ガレフ』、三時の方角から『ネフティス・ノヴァ』、来ます。……ふむ、一々呼ぶのに正式名称は長すぎますね。では端的に、次からは馬、犬、鳥と呼ぶことにしましょう』

「……おい、あのNPC滅茶苦茶だぞ……。誰か運営に報告しろって」

「無茶を言うな……」

「不可能でしょ〜」

「さて、次が来ましたねぇ」

「バレッドさん……諦めましょうよ……。ボク等が何を言ったって無駄ですって……」

「あぁああぁあ゛っ、クッソ、従えば良いんだろ!? わーったよコンニャロウ!」

「……。……ちょいロボ子……。アンタまじで何なのマジで! お荷物なアタシが言うのもなんだけどさ! ……プレイヤー相手なんだから、ちょいとは言動に気を付けるなりした方が……ねぇ?」

『そうおっしゃるのであれば、少しくらいわたくしを越える努力をしていただきたいものですね。わたくしよりも強くなったならば、言動の修正も視野に入れましょう』

「ホン……ット! 可愛くねぇ!!!」


 そう言っている間にも、燃え盛る不死鳥が口から紅炎を吐き出す。

 第一段階のブレスだ。

 深紅の火炎は水系の魔法でも相殺できない業火。

 炎熱耐性をMAXまで上げてもなお、『炎傷』の常時一定ダメージを受ける状態異常を余儀なくされる。

 だが、ダメージ率はあまり高くはなく、広範囲長時間低ダメージの持続型だ。

 即死する事はないし、持続回復スキル『リキュア』を使用すれば、時間ごとのダメージよりも回復量の方が上回る為死ぬこともない。


 だが、問題は第二段階以上のブレスである。

 『ネフティス・ノヴァ』には、全部で四段階のブレス技が存在するのだ。

 第一段階は『紅炎』、第二段階は『紫炎』、第三段階は『黒炎』、……そして最後は『白炎』。

 特に、『黒炎』以上になると破壊不可能ギミックまで、灰か炭かガラスくらいになるレベルなので……障害物などが利用できない上に、まともに受ければ即死だ。……笑えない。


 今現在は、リィリアのパーティ持続回復魔法『オールリキュア』での回復と、ロイの範囲内持続状態異常回復魔法『サークルリアライズ』により、ほぼ無傷で過ごせている。


『……ふむ、足止め程度ならばアナタ方のような無能でも多少は役立つようですね……。少々見直しました。評価を改める必要がありそうですね……』

「ん〜……、コレは素直に喜ぶべきなのでしょうかぁ?」

「いえ……、むしろ評価が上がったことでこれまで以上の無茶振りをされる……という可能性も……」

『それでは、そこの鳥は童貞メガネとリィリアさんにお任せするとして――』

「さっきより酷くなってませんか!?」

「あっ、わたくしは普通に呼んでいただけるのですね……」

『他5名はともかく、リィリアさんの回復能力や人格的人柄は評価に値すると、ただそれだけです。別にニックネームが思い付かないほど個性の少ない地味キャラだなんてこれっぽっちも思っておりませんのでご安心くださいませ』

「……、……そうですか」

『次に、あの犬の相手はムッツリ無愛想さんとバカさんでお願いします。ブス専さんは無駄に動かず、皆さんのバフに努めてください』

「……オレは、ムッツリ無愛想か……、もう文句を言う気にすらならんな」

「ボクなんて、シンプルにバカだよ!? ただの悪口じゃんかぁ〜」

「だからアタシ、ブス専じゃねぇし!!」

『はいはい。クレームは受け付けておりませんので、さっさと自身の持ち場についてください。わたくしは……そうですね……。一足先に、あの大きな土人形を片付けてくるとしましょう。マスターの邪魔になるといけませんし』

「「自由かっ!」」

「……今更だな……」


 イベントボス戦という一大バトルなのにも関わらず……戦場はもはやカオスだ。




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