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四話のつづき3




 さて、完全に出遅れてしまったと後悔やらなんやらで、正直やりきれないんだが……

 正直に言うと、現状の把握は何一つ出来ていない。

 オレのいない間に、いったい何がどうなって……神獣級モンスター数匹から、アインが袋叩きにされていたのか。


 運がよかったのは、まだアインがやられていなかった、ってことくらいだろうか?

 いやマジで、……前もってアカウントを換えてなかったら、間に合わなかった。そこは自分を褒めてもいいと思う。


「テメェ等……よってたかって、人の友人をいじめるとか……。そんなに死に急いでんのか? あぁ゛?」


 落とした鳥も、壁に埋めた犬も、頭鷲掴みにしている馬も……神獣級だからって、やっていいことと悪いことの区別もつなかいもんかね? おい。

 つか、周りのプレイヤー達も、揃って棒立ちって……。


 女の子が泣いてるんだよ?

 なんで助けないんだよ?

 特に黒髪ロン毛野郎共! それでも『ノワール』かよ!?


「……残念だ」

「……ふぇ……」

「人の名を借りるだけ借りて、その実……やってることは、ただの傍観か。……くだらねぇ」

「……の、わーる……?」

「たった今戻ってきたばかりで、何がなんなのか全然把握できていないんだ。悪いんだが、説明頼めるか?」

「は、はい! あ、でも……その前に逃げないと! こんな状況じゃ――」

「問題ない」


 痺れを切らした『麒麟』が放電体勢に入った。だが、充電にかかる数秒を逃しはしない。

 魔法スキル『グランドクウェイク』で、『麒麟』の腹部下の地面から巨大な石柱を発生させ、一瞬で遥か上空まで吹き飛ばす。


 壁から出てきた『フェンリル・ガレフ』の、氷結状態異常付き咆哮を、魔法スキル『ヴォルカニックサークル』による業火の円陣にて相殺。


 いまだに地上でもがく『ネフティス』には、魔法スキル『アクアジェイル』の4重がけで、無理矢理に水の檻に閉じ込める

 それでも『ネフティス』の火力ならば、1分ともたず蒸発してしまうだろう。


「ほら、魔法だけでも5秒もっただろ? まぁ、ダメージにはならないけどな……」

「……す、スッゲェ……」

「時間を作る程度なら問題ないから、……見惚れてないで説明を頼むよ」

「は、はいッス!」


 その後、神獣3匹を片手間に捌きつつ、アインから必要な情報を聞き出した。

 イベント開始と同時に、空に大きな亀裂が現れたこと。

 聞き覚えのない『ゲームマスター』を名乗る男の声。

 亀裂から現れた5体の神獣級モンスター。

 ……そして――


「その『心臓』って役割を担ってるのが、あのドラゴンの近くにある鳥籠の中にいる女の子! 名前は……レンレン曰く……あ、アタシの友達なんですけど、ソイツがいうには『アルヴス』らしいです!」


 アルヴス……!

 ……そうか。

 今、この盤上に……いるんだな。


「あぁでも、アルヴスたんの戦闘能力は未知数なんで、もしかしたらムッチャ強い可能性も……」

「わかった。……説明ありがとな」

「お、お礼なんて……とんでもないッス! アタシだって、こうして守って貰っちゃってるわけですし……。とゆーか、すんげえ足手まといッスよねごめんなさい。こんなザコで申し訳ありません!」

「はぁ? 強くなきゃイベントに参加できないってルールがあるわけでもないんだし、前に出るのは勝手だろ? つーか、見てるだけのやつよりはよっぽどマシだと思うが……」

「……あ、うぇ……」

「それに――」


 オレはアインを小脇に抱えあげ、跳躍する。一瞬後には、その場所に凄まじい炎雷が迸る。

 跳躍先で待ち構える『フェンリル・ガレフ』の顎目掛け、先程と同じ『グランドクウェイク』を撃ち込む。

 いくら犬でも、顎を高速の石柱で殴り上げられれば……痛いだろ? 物理的に……。

 上を向いた犬の鼻を足場に、さらに跳躍し屋根の上へと飛び移る。


「お前は足手まといじゃない。……同じ目的があって、共に戦うんだ。そういうのは……『仲間』って言うんだよ」

「……あ、あ……なかま……仲間」

「パーティプレイだ。二人三脚……じゃあ、この戦力差は無理か。助っ人が欲しいところだが……」


 気は進まないが、言い訳ならばいくらでも出来る。

 オレは視線の先……英雄さまとやらに手を振った。


「おーい、役立たずの無能6人。やる気があるなら手貸せよー」

「「「……っ」」」

「いくらザコプレイヤーでも、1500レベル台が6人もいりゃ、女の1人くらい護れるだろー?」


 ん? なんか、6人の足元で魔法陣が光って……アレはたしか、転移スキル『テレポート』だったような……。

 ってことは、まさか……


 なんて考えている内に、それと全く同じ魔法陣がオレ達の目の前で輝き出す。

 そしてまぁ……あの6人が出てくるわな……。


「「「…………」」」


 つか、やっぱり睨まれるよな〜……。

 険悪な雰囲気バンバンと言うか、ピリピリ威圧感半端無さすぎて胃に穴があきそうだよ。


「君……本物なの?」

「オレ等に対してあんな態度をとるんだ。……少なくとも『本物』のつもりではあるんだろうよ……」

「だったらまず、一発殴らせなさい」

「そうですね。『本物』でも『偽者』でも関係なく、まずは何発か殴りましょう♪」

「話はそれからでもいいな?」

「仕方ありませんよねぇ♪」


 な、なんだコイツ等!

 なんで殴ることにそんなに拘ってんだよ!

 つかもうちょい状況を考えろよ!


「悪いが積もる話は後に――」

「「「逃げるなっ!!」」」


 鬼気迫る。

 そんな必死な顔で、感情を露にする英雄達。

 それだけの思いが、それだけの感情が……ココにあるってことなんだろう。

 だが……今はそれどころではない。


「戦闘中にする話じゃないだろ。つか、話したいことがあるなら……『本物』のノワール様ってヤツにしてくれ」

「……っ……何言って――!」

「オレは本物じゃない! ただ1人のプレイヤーとしてイベントに参加した偽者野郎だよ!」

「……てめぇ、この期におよんでふざけたこと――」

「悪いが急いでるんだ。……邪魔すんなよ」


 コイツ等の怒りも、わかる。

 だが、今は本当にそれどころではないのだ。


 アイツが……


 アルヴスが……すぐソコにいるんだ。


「力を貸すのか貸さないのか、さっさと決めろ。……やる気がねぇなら、黙って外野に戻れ」

「……アンタはっ」

「オレに力を貸すのが不満だってんなら、ソイツを守るだけでいい! あとはオレ1人でやる」


 我慢できなかったのだろう。

 ランカは握り締めた拳を、バレッドは踏み締めた脚を、オレへとぶつける。

 本気の拳と蹴り。

 激情を纏ったその一撃は、確かに重かった。


 ……だが


「ムカつくならそれでもいい。だが、戦場に立つなら……やるべきことくらい自分で考えろ」

「ノワールを殴って話をする!」

「バカは黙ってろ」

「いきなり共闘しろと言われましても……、ボク等だって機械じゃないんです! 割り切れない事だって……」

「なら下がって見てろ」

「…………」

「リィリア……。そんな寂しそうな目でコッチを見るな」


 あぁーもう!

 なんでこんな時に限ってグチグチと……

 話なら後でいくらでも出来るだろうが!


「……ノワール。約束しろ……。ちゃんと、話を聞かせてもらうからな……」

「……だから、オレは偽者なんだってさっきから言って……」

「「「ノワールっ」」」

「あぁ゛ー! わかったよ!! ちゃんと、後で時間を作る! 愚痴でもなんでも聞いてやるから!!」

「約束だ。反故にするなよ……」


 今の言葉に何を納得したのか……、突然、やる気を出した英雄達は軽く体を解すように準備運動を始めた。

 まったく……。聞き分けが良いんだか悪いんだか……。

 オレもなかば諦めムードで、おいてけぼり状態のアインを英雄達へと放り投げた。


「ソイツはオレの友達だ。……死なせんなよ」

「えっ! と……ともだちっ!? あ、あああアタシなんかがっ!? ともだちっ!?」

「違わないだろ?」

「ぅえっ? そうなん、スかね……」

「一応、保険は置いていくから……まぁ、精々頑張ってみろよ。英雄さん」


 保険。それは……

 召喚魔法『戦姫招来』により現れた、1体のNPC。

 きらびやかなドレスに純銀の甲冑を纏い、その手には神秘的な淡い光を纏う槍と真っ白な盾を装備している。

 流れるような淡いブロンドヘアーをなびかせ、深蒼の瞳がゆっくりと見開かれた。

 まさに、女騎士を思わせる見た目ながら、纏う空気は熟練の戦士を彷彿とさせる。


「あとは頼んだぞ」

『イエス。マイマスター』

「……お前らも、やれることをやれ。……期待してるぞ」





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