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四話のつづき2




「ちょ、やべぇ……状況に着いていけてないのってアタシだけっ? つか、『アルヴス』ちゃんがレイドボスだってのは知ってたけど、あんなペット引き連れてるとか聞いてねえーし!! つーか、ランカさん達はこんな時に限って、なにネガティブスイッチ、オンしちゃってんのさぁーーっ!!」


 バケモン揃いの緊急事態だってのに、英雄さまがたが揃いも揃って落ち込んでるとか意味不過ぎんだろ!

 ていうか、現状マジ意味不過ぎ!

 安全地区の浮遊島でなんで戦闘イベント勃発してんだよー! しかも敵のレベルがおかし過ぎな上に、プレイヤー1人アッサリやられたよ! 瞬殺よ、瞬殺!!


 仕方ない。

 ココは一つ、本職の『大賢者』アインさんが華麗に爆撃魔法でまぶっ放して、皆の士気でも上げてあげようじゃない……か……。


「……あ、アレ?」


 …………


「……ちょ、オイ……」


 …………。

 イベントシーン中だからメニューウィンドウ開けねぇぇえええええええええええっ!!!

 ちょっと待てよ。コレもう戦闘パート入ってんの? 初心者装備でどうやって戦えっていうんだよバカぁあああっ!!


 ヤバい! これはシャレにならないって!


「……そうだ、バフだけなら英雄の皆さんにも力添えが――」

「無駄な事にMPを使うのはやめなさい」


 ……ランカ……さん……?


「見たところ動かなければヘイトを稼ぐ心配もないようですし、嵐が過ぎ去るのを待つように、イベントシーンが終わるのを待てばいいと思います」

「確かに、アレの相手はオレ等だけじゃ無理だわ♪ やめだやめ。アホらしい……」


 ……ロイさん、バレッドさんまで……っ


「それに見てみろ。……奴らの標的」

「『ノワール』さま狙い」

「要するに、本物がいないかかぎまわってるんじゃない? あはは、無駄な努力なのにね♪」


 ユーリさん、リィリアさん、アリスさんまで……

 なんで……

 なんでそんな、『虚しそうな』目で『諦めてる』んですか……っ。


 無視とか……違うじゃん。

 嘲笑とか……やめてよ……!

 『諦める』とか……アナタ達らしくないじゃん!!


 裏切るの?

 また、裏切られるの?

 憧れとか、希望とか……期待とか、アタシが勝手にしてることだけどさ……!


 こんなのって……

 こんなのって、なんか違うじゃん!!


 強敵が前にいるのに、戦わないなんて……そんなの……


「モンスターが、町で暴れてるんですよ?」

「一時的なものだ。イベントシーンが終われば、自然と消える」

「……待てば、勝手に終わる……って?」

「そうなるわね」

「……。……そうッスか……まぁなら、仕方ないッスよね……」


 挑んでも、挑まなくても、結果は同じ……って言いたいんだよね? そんなの、アタシだってわかってるよ……!

 それなら――


「……ランカさん。ごめんなさい……」

「……何の謝罪かしら? バカなことを考えているのなら、ギルドマスターとしてアンタを止めるわよ」

「はい、バカなこと……考えてます。だから、アタシ……脱退します!」

「……っ!」

「こんなチキン野郎の下で働くなんて、やっぱないッスわ♪ アタシは逃げたくないし……、少なくともレンレンなら、『楽しめ』って言ってくれる筈ですもん♪」

「……言ってくれるじゃない」

「逃げ腰なのは事実じゃないですか! アタシは……アナタ達がこんな根性なしだったなんて思いませんでした! ……こんなんじゃ、きっと『ノワール』だって、実は大したことないんじゃ――」

「言葉はちゃんと選べよ……」


 今の今まで黙っていたユーリさんが、急に目の色をかえた。

 いや、ユーリさんだけじゃない。

 他の英雄達も、嫌悪とかを通り越した……殺意でも押し付けるようにアタシを見ている。

 ……怖い。

 他人をここまで本気で怒らせたのなんて、初めてだ。

 一つ言葉を間違えれば、確実に殺される……そんな威圧感が確かにあった。


 怖い。

 怖いよ……。レンレン……。


 でも、アタシは……負けたくないよ……。


「そ、そんな顔したって……全然怖くないんだから! 腑抜けた英雄なんて、怖くないもん!!」


 モンスターに怖じ気づく英雄なんて、怖くないもん!

 あぁ……でも、足が震える……。


 なんでアタシ、英雄達を敵にまわすような暴走してるんだろ……。

 だって、6人の言ってることは何も間違ってないじゃん。被害を最小限にしたいなら、『動かない』がきっと正解なんじゃん。

 なんで、こんなこと……

 ……いや、わかってる。


 例え、それが最善の選択だったとしても……


「逃げるなんて、『楽しくない』じゃないですか!」

「「「……っ!」」」


 いつも、レンレンはアタシに聞いてくれた。

 「楽しいか?」って

 「楽しんでるか?」って


 だからはアタシはソレに、「楽しい」って、「楽しんでる」って応えたい!



「だから、アタシはアタシで勝手に楽しみます。ギルドに迷惑かけないように脱退もしますし、たとえ無謀でも挑んでやりますともさ! それじゃあ!」

「……っ、アインっ」


 アタシはランカさんの静止も聞かず、走り出した。

 レンレンだったら、きっとこうする。

 アタシの親友だったらきっと、こんな状況でさえ……楽しもうとするはずだから。


 だから、アタシも――


「それに……『クリア出来ないゲーム』じゃないんなら、ゲーマーとして挑んでなんぼってもんでしょっ!!」


 アタシの無謀に追随するプレイヤーは……やっぱいないか。

 くそぅ! もうヤケだ! 即死しても、明日の笑い話のネタにしてやらぁ!


 狙いは、あそこの美少女レイドボスであるアルヴスたん一択!

 他のバケモンなんて相手してる余裕なんてない。つか無理!

 バケモン達が『ノワール』を探し回ってる今しか、たぶんチャンスはないと思うし。


「自称『萌豚』の意地、見せたらぁぁああああっ!!!」


 ふっ、戦う理由?

 そんなの……ソコにアタシ好みの美少女キャラがいるからに決まってるじゃないか!


『…………』


 うおっ、嘘やん!

 さっきまで、あっちにいたやん麒麟の旦那! いつの間にこんな近くに!? ちょおい、フェンリルたんに背後をとられちまったよ! 挟み撃ち!?

 こんなか弱いおにゃの子を相手に、神獣さまは数匹でいたぶる気かー! 鬼畜め! つか、上からネフティスはんまで来ちゃった!? やべぇ、逃げ場ねー……


「あ、あはは……アタシってば超人気者じゃん」


 嬉しくね〜……


 バフで防御力と回避率を爆上げして、いっちょ前に剣なんて構えてみたけど……。

 剣、『鉄の剣』

 防具、『レザー素材の一式』


 勝てる?


 ムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリっ! 絶対百パー確実に不可能だろコレ!!

 レベル1で魔王に挑むくらい無謀でしょ!


「レンレーン、助けてレンレーン! 愛しのアインちゃんが絶体絶命だぞー。……やべぇ、怖すぎてチビりそう」


 つかアイツいつまで帰ってこないつもりなんだよ! いい加減帰ってこいよこの野郎!

 そんで……カッコよく、アタシを助けて見せてよ…………。


 『麒麟』が突進の構えをとった。

 『麒麟』はボア系とは違って、直線突貫中に何度も方向転換することが出来る。さらに、速度は目で追うことも出来ぬ神速。

 運良く『ジャストガード』でも出来ない限り……生き残るすべはない。

 後衛特化のアタシにそんな高等テク使いこなせるわけないじゃん!

 せめて、突貫の瞬間にどっかに飛び込めば……っ


 ……ピシピシ……


「……おぅふ……、足が凍ってらっしゃるやん」


 下半身が氷付けになってて、地面に縫い付けられちゃったよ……。

 コレは『フェンリル・ガレフ』の使うバインドスキル。むしろ、普段なら全身氷付けにするところを、脚だけって……いたぶる気満々じゃーん!

 誰かっ! 誰か助けをっ!!


 なんて考えも『ネフティス』の放った魔法『フレアサークル』が一蹴してしまう。

 効果はたしか、サークル外からの魔法干渉完全無効と、逆巻く爆炎による炎壁。


 モンスターのくせに、連携までして徹底的に潰しに来てやがる〜!!

 詰みじゃん!


「ここから挽回とか……無理じゃんかぁ……」


 もう、空元気も持たないよ……


 怖いよぉ……


 助けてよ……



 ……レンレン……!




「……よくやった」


「……っ!!?」



 声が、聞こえた。

 もしもそれが幻聴じゃないなら、アタシのすぐそばで……アタシの耳元で響いた声。


 一瞬後……

 『ネフティス』が落ちた。

 『フェンリル』は壁を突き破り、建物にめり込む。


 そして……


 『麒麟』の突貫を……片手で止めた……1人。

 漆黒一式の装備に身を包んだ、黒髪の青年。


「……う、うそ……うそうそ! ……うそだぁ……。あ、アナタ……はっ」


 コチラを向いた青年は、ニコリと微笑んだ。

 見間違えるはずがない。

 ずっと、ずっとずっと……憧れてきたんだから!


「……よう、無事か?」

「あ……あ、ぁっ……」

「おいおい、泣くほどビビってたのかよ……。……まぁ、それでも、……たった1人で、よくやった」


 違う!

 違うよぉ!!

 怖かったけど、違うの!

 アタシ……そんな理由で泣いちゃうほど弱虫じゃないもん!


 涙が出ちゃった理由なんて……そんなの、決まってるじゃん。


「ノワールが……、ノワールが帰ってきたぁ……っ」





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