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第一話『Re:START』



「……ふぅ。粗方片付いたな。ノワール」

「あぁ」

「アイツ等は先にギルドに戻ったが、お前はどうする……?」


 ノワールと呼ばれた黒髪ロングの青年アバターは、今しがた激しい戦闘を繰り広げていた草原を見渡し、声の主へと視線を向ける。


「ユーリも先に帰っててくれ……。俺はいつも通り、もう少し残るよ」


 ユーリと呼ばれた銀髪の青年アバターは、「そうか」とだけ告げ、タウンにエスケープした。


「……」


 一人残った青年は近くの岩に腰を預け、浮遊ディスプレイで参加ギルドの一覧を開く。

 青年のプレイヤー名は『ノワール』。腰辺りまである黒髪とそれなりに整った容姿が特徴的で、イン率はそれなりに高い。

 役職は『神威』。近~中距離における戦闘職において、現在確認されている役職の中では最強だと言われている、超攻撃特化型のジョブだ。

 初期役職の剣士から28段階も進化させなければ手に入れることの出来ない超S級の役職でもある。

 レベルは1568。一応、『零雪の箱庭』のギルドマスターでもある。


 そして、この『Re:GAME<ゲート>』では、加盟ギルドが複数設定できる。

 例を挙げるならば、数十ものギルドを掛け持ちしているプレイヤーも存在するほどだ。

 さすがにギルドの建設は1プレイヤー1つ限りだが、ギルドマスター権限は複数所持可能で、2つのギルドでギルドマスターを務める者も少なくはない。

 他のプレイヤーが建設したマスター権限を、そのプレイヤーに譲渡すればいいだけだ。


 そしてノワールも、加盟ギルドの欄に『零雪の箱庭』とは違う名のギルドが1つ……記載されていた。



「…………」


 青年は無言でソレを見つめる。

 ギルド構成員、二人。

 ギルドレベル1、ギルドランクE。

 『零雪の箱庭』は、構成員8人でギルドレベルは1528。ランクはSS+である。


 その圧倒的な差をみせる2つのギルド主が、同一人物だと……誰が信じるだろうか?


 だがそんな事などノワールには関係ない。

 どちらも大切なギルドなのだ。


 だが……


「そろそろ潮時、なのかもな……」


 その言葉を噛み締め、ノワールは最後に目に焼き付けるように、みどりの生い茂る草原を見渡す。

 最後に見るこの景色を、忘れないように……。そして、このゲームでの、数年というかけがえのない日々を…………ちゃんと忘れられるように……。



《ギルドマスター権限を、プレイヤー名『ユーリ』に委譲しますか?》


「……」


《了承を確認しました。メッセージを送りますか?》


「……」


《ギルドメンバー全員にメッセージを送信しました》


「……」


《……三件の新着メッセージを受信しました。確認しま――五件の新着メッセージを受信しました。確認しますか?》


「……」


《メッセージはメニューバーからいつでも確認することができます》


「……さて」


《ログアウトします。拠点へ帰還せずにログアウトした場合、その探索で得た経験値、アイテム、マップ情報は破棄されます。拠点へエスケープすることをオススメします。拠点に戻りますか?》


「……戻るわけないだろ……」


《それではログアウトします》



……

…………

………………。



《………………新着メッセージを受信しました》




     ◇◇◇




「ねぇね、御堂くん。今回の中間試験の点数どうだった? アタシは5教科合計で462点だったよ♪ ね! スゴいでしょ! スゴいでしょ!!」

「…………」

「でねでね! テスト明け祝いに今から皆でカラオケ行こうよーって話になってね♪ よかったら御堂くんも一緒にどうかな?」

「…………」


 今日の授業で、中間考査の答案がすべて返ってきて、クラス内どころか学校内の空気がどことなく浮き足立っている。

 たった今オレに話し掛けてきた少女――三枝さえぐさ 千里ちさとも例に漏れず、高得点を獲れたことにテンションが上がっているのだろう。

 終業と同時にまっすぐオレの席へと畳み掛けてきた。


 めんどくさい。

 それが正直な感想だ。

 ただでさえテスト勉強や日常生活で疲れているというのに、何故それに追い撃ちをかけるような事をしなければならないのか……。

 まったく自慢にはならないが、オレは友人が少ない。できないのではなく、つくらないのだ。

 と言っても、ボッチの言い訳にしか聞こえないだろうが、事実オレには友人が限りなく少ない。

 人付き合いほど気苦労が絶えないものはないと思うんだよね。


 そして、この三枝 千里というクラスメート、オレの友人を勝手に自称しているのだ。

 見た目はいかにも元気っ子。今時の女子高生には珍しい、オシャレなどにかなり無関心なくせに、素が可愛いので男子からは色目で見られることもあるらしい。

 この前、聞いてもないのに勝手に愚痴っていた。

 自意識過剰だと言うつもりはないが、せめてオレ以外の奴に愚痴って欲しいものだ。


 さて、話が大分ズレてしまったが、どうやら今回も懲りずに遊びに誘いにきたようだ。


「行こうよカラオケ!」

「……断る」

「なんでさなんでさぁ~。行こうよ! きっと楽しいよ!」


 毎度の事ながらウザい。

 オレは助けを求めるように教室後方、正面から見て一番右奥へと視線を向けた。

 ソコにはオレの予想通りの光景、男女問わず数名の生徒から好意的に言い寄られ、嫌な顔一つせずに愛想よく対応するイケメンが一人。

 金髪ロングのサラサラヘアーな優男。容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能な完成された王子様こと、オレの数少ない友人の一人……仙道せんどう 蒼馬そうまくんである。

 オレの視線に気付いたのか、蒼馬は「ごめんね」と一言残し、迷わずオレの席へときた。


「やぁ、三枝さん。どうかしたのかな?」

「あ、仙道くん。聞いてよ聞いてよ! コレからカラオケ行こうと思ってたんだけど、御堂くん誘っても断るばっかりなんだよぉー! 仙道くんからも何とか言ってあげてよー」

「そっか、でもゴメンね。今日は煉斗、ボクとの先約があるから、残念だけどカラオケはまた今度にしてくれると助かるかな」

「先約? 御堂くんホント?」

「ああ、事実だ」


 さすが蒼馬くんだ! 困った時ほど頼りになる。

 実質、その「今度」も断るつもりだが、今それを口に出す必要はないだろう。

 ちなみにオレの名前は御堂みどう 煉斗れんとだ。下の名で呼び合うのは身内か蒼馬、あとは一部の人間だけなので御堂と呼ばれる方が多い。

 友人が少ないのだから当然か。


 千里はというと、どこか納得のいかなそうな様子だが、煉斗が事実と答えた以上、事実なのだ。

 残念だが引き下がって貰うしかないな。うん。


「じゃあ行こうか。煉斗」

「ああ」

「……ぶー」

「んじゃ、カラオケ楽しんでこいよ」

「ぶーぶーぶー!」


 なにやら恨めしそうに唸っていたが、全力で無視を決め込み蒼馬と共に教室を後にする。

 その際、蒼馬が相手をしていた取り巻きからも恨めしそうに睨まれていたが、無視だ。

 本当にめんどくさい……。




    ◇◇◇




「さてと、こんな感じで満足かな? 相変わらず、煉斗は人見知りが激しいね」

「悪いな。……助かった」


 学校から出て数分ほど歩いた所で、ようやく肩の力を抜くことができた。

 蒼馬もそれを見て安心したのか、苦笑を溢すしまつだ。


「社交的なお前と違って、オレに仲良しゴッコとかは向いてないんだよ。人見知りとかじゃなくて、他人とあまり関わりたくないだけだ」

「ボクはいいの?」

「お前はいいんだよ。めんどくさい奴等とは違うし、それに……」


 オレは言葉の続きを言う前に、蒼馬へと視線を向ける。

 目立つ容姿のくせにソレを鼻にかけることもなく、男女を問わずに平等に接するいい奴だ。

 平等に……深入りせずに、接してくれる。


 それはオレにとって、まさに望んだ関係だと言えた。


 蒼馬は多少オレの意見を尊重する節はあるものの、絶対的に優遇したりはしない。

 オレの行動や意見が間違っていると判断したならば、迷わずにオレと敵対するだけの意思がある。

 誰かに依存したりはしないのだ。


「お前は信用できる……」

「珍しいね、煉斗がボクをそんなに評価してくれるなんて。雪でもふるのかな?」

「そうだったか?」


 確かに、蒼馬はクラス内でもかなり目立つ中心的立ち位置にいるので、普段はあまり会話する事すらないのだが、ソレと信用云々は別だ。

 むしろ、蒼馬がクラスを良き方へと導いているようなものなので、オレはかなり楽をして過ごせている。

 クラスのまとめ役は重要だ。


「……そうかもな。普段あんまり話さねぇし、そう思われても仕方ないな」

「煉斗って普段はすごく無愛想だしね」

「当然だ。愛想良くする必要性を感じないからな」

「だろうね……。そう言えば、煉斗ってゲームとかする?」

「…………『WDL』の事か?」

「知ってるって事は、やったことあるのかな?」

「……」


 知ってる。当然だ……。

 元廃ゲーマーだったオレの主ゲームだった程なのだから。


 『WDL』、別名を『ワールドダイブリンクス』。

 『Re:GAME』のハードにして、完全フルダイブゲームだ。精神だけでなく、肉体すらも取り込む魔法のようなゲーム。

 脳のみに負荷をかける従来のフルダイブゲームとは、まず根底が違う。

 機体は携帯しやすい掌サイズで、電波環境下であればどこでも使用可能。

 さらに凄いのは、肉体すらもゲーム内に入るので、ゲーム内で食事すら出来てしまう。

 このゲームの普及により、ゲーム内に移住する者が後を絶たず、世界の人口は激減した。

 馬鹿馬鹿しいと思うものもいるかもしれないが、想像してほしい。


 死んでもコンテニュー可能。

 生きるのに必要な食費すらゲーム内で稼げる。

 頑張ればそれだけ目に見えて成長できる。

 知識がなくともやりたいことができる。

 理想の世界に住める。


 それらが可能な世界が現れたのだ。移住しない者の方がおかしいだろう?

 人間は貪欲なのだ。

 ソレを満たすには、この世界は狭すぎる。


 もちろん、現実を大切にする人間も当然存在する。

 むしろ人口が減ったことで、無駄な自然破壊が減り、地球も大助かりというものだ。


 継続ログインは一週間が限度だが、再ログインには一日程度置けばいいので、人生の8分の7はゲーム世界の住人となることが可能だ。

 だが、当然寿命が無くなるわけではない。

 継続ログインに限度があるのも、肉体のデータ化にかなりの負荷がかかってしまうが故に、現実に戻ってきた肉体に悪影響が出かねないからと言われている。


 不完全なゲームだ。

 だが、不完全故に、人間はそれに魅入られてしまうのだろう。


 そしてオレもまた、その中の一人『だった』。


「興味ないな……」


 そう……『だった』。

 過去にプレイして、はてには熱中し、現実さえ置き去りにしてしまう程の、重度な末期プレイヤー……だった。


 過去形である。

 今は違う。

 確かにリア充と呼べるほど充実した毎日を送っているとは、到底言えないが……、それなりの日常をそれなりに謳歌しているつもりだ。


「…………」


 実を言うと、この町はオレの地元ではない。

 去年の春、高校入学をキッカケに単身で上京してきたのだ。

 学生寮は定員オーバーだったため、母の親戚の家に厄介になっている。

 高校には特待生枠で入学した。学費の免除目的で死ぬ気で勉強した数日が懐かしい。


 とまぁ、綺麗にまとめるならこんなものか?

 事実は、数年自室に引きこもっていたクソニートなオレを腫れ物扱いする両親や元クラスメートの奴ら……その他全てから『逃げ出した』である。

 誰もオレを知らない。そんな環境で1から……いや、0からやり直すために、実家から新幹線で数時間もかかるような遠い町に引っ越したのだ。

 だからゲームからは卒業した。


 引きニート生活も引退し、今では立派に普通で一般的な高校生を『やっている』。

 だからと言って、勉学やスポーツに精を出す訳でもないのだが、まぁ目立たないようにヒッソリと過ごすつもりだ。


 蒼馬は目立つ見た目をしているが、オレはいわゆる『金魚のフン』的な立ち位置を自ら全力でキープしているので、校内で一緒に立っていたとしても目立つことはないよう努力している。主に影を薄くするとか……気配を消すとか……


 これぞ、この数年で培ってきた潜伏スキルの成せる業である。

 意外と自慢してもいいレベルだと自負している。


 そんなこんなで、今は『失った数年』を取り戻す……もとい、リアルに馴れるリハビリ中なので、ゲームにかまけている暇はないのだ。


「ふぅーん、そっか。現実で友達が作れない煉斗は、ネットとかで友達を作ってるとばかり思ってたんだけど……。邪推だったかな?」

「……む、別にネットの友人とゲームはイコールじゃないだろ。このご時世でも出会い系サイトとか、コミュニケーションサイトなんかは山ほどあるわけだし……」

「出会い系って……、煉斗の口からそんな単語が出るとは思わなかった」

「恋愛絡みじゃないからな……? ネットで知り合った……顔も本名も知らない友人なら……まぁ、一人だけ、な」

「そっちでも友達少ないんだね~」

「少数精鋭派なんだよ!」


 けして、ぼっちなんかではない! 違うからな!

 相変わらずの爽やかなイケメンスマイルで誤魔化してるみたいだが、同情してるの見え見えだからな!

 別に少なくて困ることもないからいいんだよ!

 体育祭の借り物競争で『友達』なんて札をひく……みたいな特殊な状況にでもならない限りは、問題ない。

 オレは自身にそう言い聞かせて、背中を流れる嫌な汗を「気のせいだ」と言い切ることで無視する事にした。


 人見知りとかじゃないし!


「それで、これからどうする? このまま帰る? それともゲーセンでも行って、ぱーっと遊んじゃう?」

「……オレも学生だし、遊びたいのは、まぁ……やまやまなんだが……」

「あれ? 本当に先約でもあったのかい?」

「あぁ、悪いな。さっき言ってたネットの友人と、今日初めてオフで会う約束しててさ……。お前の予定が空いてるなら、遊ぶのは明日でもいいか?」

「そういうことなら全然構わないよ♪ その代わり、明日はジュースの一本でも奢って貰おうかな~」


 冗談めかして笑う蒼馬に、「助かったよ」とだけ返し、オレ達はそれぞれの帰路についた。

 これから会う友人も、数年来の付き合いとはいえ現実で会うのは今回が初めてだったりする。

 年齢はお互いわかっているとはいえ、さすがに初対面の相手に対して学生服で会うというのも気が引ける。

 一度帰って、着替えるくらいはした方がいいだろう。……まぁ、気持ちの持ちよう的に。


 学校から自宅(?)までの距離はそう遠くない。徒歩で十~十五分程度、自転車なら五分とかからない距離だ。

 少し遠回りして近くのスーパーに寄ったとしても、三十分もかかることはないだろう。

 オレはポケットから通信端末を取り出し、メッセージを送る。


『スーパーに寄って帰ります。何か買って帰りましょうか?』


 簡潔な文だが、用件さえ伝わればなんの問題もないだろう。

 送信先は、宿泊先の家主二人。

 母の親戚である女性、歌穂かほさんと、その娘さんであり……学校ではオレの一つ上の先輩にあたる女性、美緒みおさん。

 父方は海外に単身赴任しているらしく、オレも正月やたまの祝日くらいでしかあったことがない。

 なんでも、かなりの重役なんだとか……。


 そんなこんなで、今は女性二人にオレを加えた三人で暮らしているわけだ。

 女性だけの家に男のオレが転がり込むのもどうかとも思ったりしたが……、二人は特に気にした様子もなく、むしろ快くオレを受け入れてくれた。


 さらには、父方にも「二人の事を頼む」なんて言われてしまった。

 こんなにも信用されてしまっては、邪な感情なんて抱けるはずもなく……、唯一の男手として、出来うる限り二人の力になれるよう努力している。……つもりだ。


 ちょうどスーパーに到着した辺りで、二人から返信が返ってきた。


「……醤油と油……あと牛肉、か」


 いつもどのメーカーの商品を使っているかは把握しているので、頼まれた商品はすぐに集まった。


「あとは、トイレットペーパーと米。……たしか、風呂用の洗剤もスペアが切れてたな……あとは」


 頼まれた商品以外にも、次々と買い物カゴに商品を突っ込んでいく。

 あの二人は、どうせオレに気を使って、嵩張らない程度に必要最低限の物しか頼まないと、おおよそ検討はついていたし……。

 勝手なお節介なのかもしれないが、コレで二人が少しでも楽になるのなら、この程度の買い出しは安いものだ。






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