三話のつづき5
コレは、レンレンが帰還してくるちょっと前。
時間にしてみれば10分程度の短い期間でしかない。
喜劇でも悲劇でもなく、偶然でもない事象。
それはきっとそうなるべくしてそうなったんだと思う。
「……あぁ゛~……」
アタシは転移門付近のベンチでダラ~っと座っていた。
1人で! そう、1人でっ!!
戻ろうって言った張本人はいまだに転移門から帰ってこないし! イケメンは「ギルドから召集がかかった」とか言っていなくなったし! 残ったセンリちゃんって子もさっき落ちた!
要するにロンリーっすよ!
なんでこんな事になってるかなぁ~……
まぁ、悪いのは百パーレンレンなんだけど……
戻ってきたら文句の1つでもぶつけてやろう。……あと、あのロボ子は一発殴る!
めっちゃ可愛いし、むっちゃタイプどストライクな美少女だけど、一発ぶん殴る!!
「誰がブス専だ誰が……」
……あぁ
アタシが思い描いていたシナリオ通りなら、今ごろレンレンとばか騒ぎして……、クエストだって2人きりで楽しくパーティプレイ出来てたはずなのに……。
「なんで今のアタシはロンリーなのさー!! レンレンの浮気者ー! バカぁ~!」
2人だけで遊ぶ約束だったじゃん!
なんで、3人も増えてんだよ~……。
ずっと会えなかった分、いっぱい……色んなこと話したかったのに……。
あぁー、ダメだダメだ!
ネガティブモードになるなアタシ!
レンレンは裏切らない。
絶対、レンレンは裏切ったりしないから……!
「……あら? アインじゃない。そんな初心者装備で何やっているの?」
「ふぇ?」
突然声をかけられた。
人見知り全開で身構えるアタシをよそに、その声の主はアタシの前まで歩いてくる。
腰まであろうかという、ふんわりとしたロングの銀髪に紅の瞳。大人びた艶やかで真っ白な肢体を包むのは、肌露出の多い……漆黒のドレスを連想させる綺麗な防具。
つか、露出度高過ぎ。
胸元も背中もおへそも脚もガッツリ出とる! 女のアタシから見ても超エッロい!
ボンッキュッボンッのエロい姉ちゃんって印象を受けがちだが、性格は冷静沈着ながら時には冷酷な……文字通りの戦士である。
何を隠そうこのお方は、あの伝説の英雄8人の中の1人。
6大ギルドが1つ、『ヴァルキュリア』をおさめるギルドマスターでもある、最強格プレイヤーの1人――ランカさまである!!
ちなみに、今アタシが所属しているギルドはこの『ヴァルキュリア』だったりする。
レンレンに自慢してやろうと思ってたんだけど、まだ言うタイミングを探ってるんだよね~。
「ギルマスじゃないっすかぁ! こんなとこまで出てくるなんて珍しいですね~」
普段は執務室で書類仕事か、他5大ギルドとの外交、ギルドメンバーの育成、……と滅多に公の場に出てくることがないあのランカさんが……珍しい。
「人を引きこもりみたいに言わないでくれる? これでも一応、金銭を貰って『仕事』としてやっているの」
「あ、すいません」
「まぁいいわ……。それより、ウチのギルドには慣れた? アンタが入団してからもう2ヶ月は経ったけれど」
「そこはまぁ……ぼちぼち」
「聞いてるわよ。……アイン、パーティメンバーに気を使った接待プレイばかりしてるらしいじゃない? ボスのトドメも譲って、アイテム分配もレア物譲って、って……。野良でやって来た期間が長かったのもわかるし、連携に時間を要するのもわかるけれど……、何よりアンタが楽しんでプレイ出来ているかが大事よ」
「……はい」
「勧誘した私に恥をかかせたくないって理由で無理しているのなら、……抜けてくれてもいいのよ?」
「いやいや、無理なんて滅相もないですって! みんなイイ人ばっかりだし、ギルマスにも気にかけて貰えるし……。こんな恵まれた環境、滅多にないですって♪ 自ら手放すとかあり得ないでしょ!」
「……それならいいのだけれど」
ランカさんが心配するのも、まぁ……わからなくもない。
アイテム分配じゃ譲ってばっかだし、戦闘中も回復やバフ中心だし……
でもそれは、それが当然だと思ったからそうしてるだけ。
前衛を張ってる仲間達はアタシよりも、レベルも連携も経験も上。だからアタシは、最善の選択として『邪魔しない』を選択したまでよ♪
バフや回復なら連携の邪魔にもならないし、むしろ……熟練の連携を観察できる。役にも立てるで一石二鳥!
それに加えてレアアイテムを貰うなんて、流石に虫がよすぎますとも。
「アタシはちゃんと楽しめてますから、ギルマスも心配しないでくださいよ~♪」
「……、そう。ならいいわ。それにしても……どうしたのその格好は? 最弱装備な上に『剣士』職って……アインらしくないわよ?」
「あー、実はですね♪ えへへ♪」
アタシはまるで姉に自慢するように、今日の事をランカさん話した。
ランカさんは聞き流したりせず、ちゃんとアタシの話を聞いてくれた。……そこらへんは、レンレンと同じだ。
だからなのか、以前からの憧れも相まってか、アタシはすごくランカさんになついている。自覚してる!
レンレンみたいに、きっとリアルで会っても仲良くなれそうな……そんな気がする特別な人なのだ。
「……ふーん。熟練の初心者ね~……」
「あー! ちょっと疑ってるでしょー! 本当なんですから! 90レベ台のモンスター達を、まるであしらうかのようにポンポン倒していっちゃうんですもん。度肝抜かされましたって」
「レベル詐欺とかじゃないの?」
「ないですって、ステータスにフィルターかけてなかったですし、不正ツール使ったような違和感もなかったスもん! アレがレンレンの実力なんですよ♪」
「……レンレンね。アインがそこまで推すなら、一度は会ってみたいものね」
「あぁ~……、もうすぐ来るとは思うんですけどね~……。さっきから全然帰ってこないんスよね~。レンレン遅い!」
アタシが帰ってきてからかれこれ10分くらいは経ったぞー。
いつまで待たせるんだよ~……。
「なるほど……アンタがヘコんでんのも、その彼氏が全然構ってくれないから……ってわけね」
「……え? か、カレシっ!?」
「あら、違うの?」
「ちちち、ちがっ、違いますともさっ!! なに誤解してくれちゃってんですかねこの人は!?」
「でもアンタ……、今の一瞬、恋い焦がれる乙女みたいな顔してたわよ? ふふ」
「ちが、違いますからぁ~! そういうのじゃなくて……その、えっと……」
違う。
レンレンはそういうのとは違う。
違う……はず。
……違うよね?
だってあのレンレンだよ?
女のアタシ相手にも容赦ないし、ゲオタだし、一々細かいとこツッコんでくるし、いつも気だるげで友達少ないし……、ほらほら、マイナス要素ばっかじゃん!
好きになるところなんてどこにもないって♪
まぁ、顔は悪くないし……成績もトップクラスだし、多少……いやかなりスポーツも万能そうだけど……。いやいやそれだけでモテる男なんて今どき少女マンガにもいねぇーって。
だから、コレは好きとかそーゆーんじゃなくて……。そう! 単なる悪友!
友人以上、恋人未満ってやつさ!
だからきっと……『そういうの』ではない……はず。
「おいおい、あんまり部下をからかってやんなよ。そのうち愛想つかされても知らねぇぞ~」
「……バレッド、アンタと一緒にしないでくれる? また目をつけてた女がネカマだったって噂になってたわよ……」
「ぐわぁ~、やめろよ人の古傷えぐるの!! 人がせっかく忘れようとやけ酒かましてきたってのに……」
「もぉ~……、そのやけ酒にボクまで巻き込むのやめてくださいよ~。ただでさえお酒弱いのに……」
「いいだろ~? 全部オレの奢りなんだからよ~」
「ば、バレッドさまに、ロイさま! すげぇ……英雄揃い踏みじゃないッスか!」
赤髪ロングのダンディーなオジ様であるバレッドさんに、蒼髪短髪でメガネの似合う博識美少年のロイさん!
どっちも6大ギルドのギルマスであり、ランカさんと肩を並べる英雄メンバーですよ!!
バレッドさんもロイさんも、普段はギルドから滅多に出ないはずなのに……マジでどうしたん!
いや、そんなことより……
「あ、あの……サインください!」
「あ? あぁ~……、悪ぃ~な嬢ちゃん。オジサン達、生憎そういったサービスは行ってないんだわ……」
「……多少名前が有名になったからって、ボク達は芸能人じゃないからね。ご期待に添えられなくて申し訳ないんだけど……」
「……そう、ですよね……」
「そんなことより、連絡コードとか交換しない? オジサンいい店知ってるんだけど、この後一緒に食事でも――」
「あら? よくもまぁ私の前で、私のお気に入りにちょっかい出せたものね? なに、まだ酔ってるの? 一発殴れば少しは酔いも醒めるかしら……?」
「冗談よしてくれよ……。テメェの拳なんてもろに受けたら、オジサンの男前な顔が陥没しちまう……」
「バレッドさんは、もう少し懲りるという言葉を覚えた方がいいと思います……」
そんな時、また人混みの中から見知った顔が近付いてきた。
銀髪の超イケメンに、金髪の女神! そんでもって、元気溢れる黒髪ロングの超美少女!
『創皇騎士団』ギルマス、ユーリさん!
『神樹の癒し葉』ギルマス、リィリアさん!
『鳳凰の止まり木』ギルマス、アリスさん!
ナニコレやべぇよ、むっちゃ勢揃いしちまってんじゃねぇか!
ヤバい! これはヤバい!
明日、アタシ死ぬの!? 今この瞬間に、アタシ運すべて使い果たして明日死んじゃうわけ!?
あぁ……でもくそぅ……幸せだ!
さらにワガママが許されるなら、ココにアイヴィさんと……ノワールさまさえいてくれたら……。
流石に、高望みし過ぎか。
「騒がしいと思ったら、やはりお前達か……」
「あらあら、皆さん勢揃いされていらっしゃるようで♪ こうして6人で顔を合わせるのは、4ヶ月前の会議依頼ですね~♪」
「なんか楽しそうなことしてるの? 面白そーだからボクも混ぜてよー♪」
「おー、なんだなんだ? いけすかねぇユーリ様は、両手に花でモテる自慢かぁ? オジサンにケンカ売ってんのか、あぁ?」
「バレッドさん、悪酔いし過ぎですよ。それに、アレは両手に花というより……」
「……明日に控えた合同演習の打ち合わせをリィリアとしていた時……」
「突然現れたアリスがこう仰ったんです……」
「外に遊びに行こうぜー♪」
「「「……あぁ、やっぱり」」」
「ほらほら、ずーっと仕事ばっかじゃ疲れちゃうでしょ? たまには外に出てパーッと息抜きしなきゃ♪ 君もそう思うよね? お嬢さん♪」
「……えっ、えっ! アタシ!?」
うわわ……、いきなり英雄6人の視線がアタシ集まってきた!
空気扱いでもメッチャ幸せだったのに、まさかの巻き込まれたー。
「え、えっと……」
「アリスさん、他の方にいきなり話をふらない。困ってるじゃないですか……」
「ロイロイは頭固すぎだって~」
「アリスさんが柔軟すぎるだけです。……それより、皆さん揃いも揃ってこの場所に集まった……ってことは……」
「まぁ、十中八九……似たような目的があってのことなんでしょう」
「今回のイベント……ですよね」
急に真面目なトーンの話になった。
真剣な表情の英雄方……やっぱりカッケー……。
あーもう!
レンレンも早く帰ってこいよー!! レアすぎるイベントがリアルに起きてるぞ! 今! ナウ!
見逃したら絶対後悔するってー!