三話のつづき1
「おーい、レンレーン! 君の愛しのちあきさんだぞ~♪ 待った? 待ちに待った? 待ち焦がれちゃった~!? もぉ~、らぶいなコイツゥ~♪」
「…………あぁ、お前か……」
「うわっ、反応うっす!? 何? どしたん? スッゴいテンション低いじゃん。……なんかあったの?」
噴水前のベンチで座ってたら、一人の少女が話し掛けてきた。
オレに合わせてか、初心者装備一式を身に付けているが、顔の形がどことなく千秋に似ている。と言うか、自分から「ちあきだぞ」って名乗ってたし、間違いなく千秋のアバターなのだろう。
髪型や髪の色、装飾品とか違う箇所も多いので、初対面からパッと見で見分けるのは至難の技だろう。
というか、オレ自身……リア友と一緒に『Re:GAME<ゲート>』をやった試しがないため、正直なところ千秋と合流出来る自信はなかった。
向こうが勝手に見つけてくれたので、そんな心配も杞憂に終わった訳だが……。
「…………はぁ、死にたい……死んでやり直したい。過去のオレを殺してやりたい……」
「うわぁ~……いきなり超ネガティブじゃん。古傷抉られた元ヲタクみたいな顔してるけど、この数時間でレンレンの身に何があったんだよ……?」
「……あぁ、まぁあながち間違いでもないな……。昔の恥態を昔の友人の手で全世界に晒されてな。しかも、オレの知らない内に……」
「うわぁ~うわぁ~、何ソレえっぐ!! 訴えてもいいんじゃない? たぶん勝てるよ?」
「……いや、もういいよ……どうせ手遅れだし……。そういや話は変わるが、チュートリアル後にあったオープニングって……どっかの動画サイトに上げられてたりとか……する?」
「ん? あー、あの、伝説的最強プレイヤー『ノワール』の戦闘シーン動画のこと!? とーぜんじゃん♪ むしろ実現可能な戦闘なのか検証動画とか、作り物かどうかの審議動画とか、果てには、高画質スロー動画とかMAD動画の素材にされたりとか……、もう大人気だよ♪ かくゆうワタシもファンだった……いや、今でも大ファンだしね!!」
「……うん……あ、そう……」
……終わった……。
マジで全世界晒しとか、公開処刑ってレベルじゃないだろ。
だからか?
だからなのか?
「…………なぁ、オレの目が節穴じゃない。もしくは、幻覚を見ていない……とするなら、……『アレ』はもしかして……アレか?」
「ん?」
さっき無理矢理見せられたオープニングムービーも確かにオレの精神的HPをガリガリ削ってくれたわけだが……、それとはまた別に……
オレを追い詰める要素が、この世界には充満していた。
出来るだけ直視しないよう避けてはいるのだが……やっぱり嫌でも視界にチラチラと入るわけで……。
妙に見覚えのある……黒づくめのロン毛野郎ども。
「そりゃリスペクトするユーザーも少なくはないさ! なんたって最強ギルドの最強ギルドマスタープレイヤーで、今は居ないんだよ? そりゃあ、真似するでしょ~♪ つっても、これでもだいぶ減った方なんだよ? 全盛期なんてもう……四人に一人は『ノワールだー』だったんだよ! 今さら真に受ける奴なんていないって~」
「……マジか」
「マシだ♪」
千秋を待ってる数分の間にも、同名同型アバター『自称・ノワール』さんを10人は見かけたが、昔はソレ以上だったのかよ?
いやまぁ、どんな風にゲームを楽しむかってのは個人の自由だけどさ……他人の名前を語るってどうなのよ?
「うおぉぉおおお! オレがノワールだぁああ! 最強のノワール様が帰ってきてやったぞ!!」
「ふん、何を言っている。オレはずっとこのゲームにいる。勝手にオレの名を語らないで頂きたいものだね」
「いやいや、アンタ等なに言っちゃってんの? ノワールってオレのことだしー! 寝言は寝て言えっての!」
「……偽者が揃いも揃って煩わしい。……本物はオレだ」
うわぁ……。おんなじ顔の男たちが四人で睨み合ってるし……。
てか、見てられないよ。
現実逃避とかじゃなくて、ただただ見てて辛いよ! 順調にSAN値削られてるよ!
逃げたい。今すぐにでも逃げ出したい!
「……ほんと、滑稽だよね~アレ」
「……? お前は真に受けないのか? アイツ等はないにしても、たまにはクオリティ高いヤツもいたりするだろ?」
「あ~、たまには……ね。でも所詮は偽者だしね~」
「……本物かも、とか思わない?」
「怪しかったら決闘挑んでボコるもん♪ ワタシなんかじゃ本物のノワールに勝てるわけないしね~。んで、偽者程度に負けてやるほどワタシも弱くはないしね♪」
「……意外と脳筋的な確認法なんだな……」
なるほど、どうやら見た目やステータスをいくら似せても、実力が伴わなけりゃ本物認定は貰えない、と。
そんで、まだ偽者が増殖してるってことは、本物って呼ばれる程の強者はまだいないわけだ。
逆に言えば、昔のアカウントを使っても……わざと弱者演じれば偽者だって思われるんちゃう?
あれ? ソッチの方がメッチャ楽じゃね?
「はいはい! あんなのは放っといて、早く行こうぜレンレン♪ 街の案内と、変更点や追加要素の確認でしょ? ちゃちゃっと済ませて茶でもしばこうぜ~。いい店知ってるんだ~♪」
「あ、おい……引っ張んなって……」
「時間は有限なんだぜ少年♪」
「……ったく……」
まぁ、一つの選択肢として……考えて置くことにするか……。
それから一時間程度、主要な店……アイテムショップ、鍛治屋、装飾屋なんかを見て回り、追加ステージや新機能とか、あとは最近の様子なんかをダラダラと話ながら過ごした。
一番オレが驚いたのは、『箱庭』メンバーの残り7人が、いまだに第一線で活躍している……ってことだ。
確かにレベルも実力も、群を抜いて特出してたアイツ等だが……、オレが止めてたこの3年でかなりの有名人になっていらっしゃるようで……。
千秋の話によると……
アイヴィを抜いた6人……ユーリ、バレッド、ロイ、アリス、ランカ、リィリアは、それぞれに新たなギルドを開設してそのギルドマスターになってるらしく、今やこのゲームの最大派閥を担っている六大ギルドと呼ばれてるらしい。
さらには、この7人……いやまぁ、ノワールも含めれば8人なんだが、……ちまたじゃ『英雄』って扱いをうけてるみたい。
つか、いまだに正規シナリオを完全攻略したプレイヤーは、この8人だけなんだって。……アレから3年も経つのに誰もクリア出来てないって……どうなのよ?
まぁ、話を戻すが……、そんな『英雄様』方が新しくギルドを作ります~ってなれば、当然人気も出る訳で、それぞれ数千人以上を抱える大所帯となってるらしい。
大人気の大手ギルドのギルドマスターになったってよ?
また随分と出世したもんだ。
ユーリのギルドは、統率のとれた堅実な騎士団風。
バレッドのギルドは、鍛冶師とか荒くれ者どもの集まり。
ロイのギルドは、情報収集やスキル開発とかインテリ系。
アリスのギルドは、自由度の高いほのぼのまったり系。
ランカのギルドは、女性限定の実力派で戦乙女集団。
リィリアのギルドは、治癒や補助系特化のサポーターギルド。
どのギルドも、このゲーム内で知らぬ者はいない程の巨大ギルドだって話だ。
ちなみにアイヴィだけは、自分のギルドも持たずに、フラフラと自由気ままに過ごしているらしい。
ゲーム環境なんて3年もすればこうまで変わる。
オレが帰る居場所云々なんて、ちっちゃいことで悩んでいた間にも、アイツ等はアイツ等なりに自分で新たな道を進んだのだ。
責めるのも、褒めるのも、悔いるのも、御門違いってもんなんだろう。