あなたの人生の物語
ここまでお付き合いいただき、まことにありがとうございます。
長きに渡る夜通しの物語は、これにて一区切り。
第三部の始まりをもって、平成夜伽話は完結と相成ります。
何故ならば第三部は、まだ観測されたことのない出来事。
故に、誰にも語ることの出来ない物語だからです。
題目表の全てを話し終えた語り部は「卒啄同時」の例を挙げましたね。
卵の中で脈動していた希望は「てをのばして」と願っていましたね。
つまり、あなたが雪融けの縁まで聴き届けたということは――
逃れ得ぬ絶望に服せず、未来を望んだということであり――
求めに応じて声を届け、手を伸ばしたということでございます。
母木孝助に手を伸ばされた兎は、膜を破って彼に並び立ちましたね。
ならば、あなたの声を受けた物語もまた、殻を割っているはずです。
もう、物語はこの舞台の上にはありません。
モニターの中に残ってはいません。
それは今や、あなたの傍にいるのです。
運命を選んだ男と、彼に愛された女たちが変えようとした世界が――
運命に選ばれた男と、彼を愛する女たちが守ろうとした時代が――
もうじき、終わりを迎えます。
あるいは、もう既に終わっているのかもしれません。
ですが、いずれとて同じことでございます。
閉ざされていた物語は、ついに枠を飛び出しました。
次なる時代も、あなたに寄り添い続けることでしょう。
あなたの言葉と足跡は、雨に溶け、川を流れていきます。
やがて海に記憶されて、新たな観測者を産むでしょう。
そして観測された結果は、人々の営みに干渉いたします。
また億千万の星々と共に語り継がれてゆくでしょう。
すなわち第三部は……「あなたの人生の物語」でございます。
故に、私にはそれを語るすべがございません。
とはいえ、ここで終わっては面白くないのも事実です。
そこでひとつ、あなたの人生について予言をして差し上げます。
いつかあなたは、過ぎ去った時代を懐かしむことでしょう。
在りし時代の名と共に、この夜伽話を思い出すでしょう。
そのとき、あなたはきっとこう言うでしょう。
「でもあの話……最後はどうなるんだっけ?」




