存在しなかった風景 二万四千年の旅の果て
人間という生き物は、わたしにとって特別でした。
その複雑な気持ち、繊細な感情は、空と水に溶けて、私に流れ込んできます。
私が「わたし」という意識を持つようになったのも、きっと彼らのおかげなのでしょう。
大きな石が落ちてきて、恐竜の姿が消えていく様子を私は眺めていましたが、そこにまだ「わたし」は存在していなかったような気がします。
私は海です。
人間の数が多くなるにつれて、私に溶け込む記憶や感情も増えていきます。
どうやら地上には、わたしと同じようにして生まれたものが沢山いるみたいですね。
人間の意思から生まれた、人間の想いが凝り固まった存在……物怪?
同じ姿だったら、お話とかも、できるのかな?
試してみたけど、ダメだった。
わたしの言葉は、彼らには届かないみたい。
ざんねん。くすん。
また、船が星の世界へ旅立ちました。
いってらっしゃい。
凄いなあ。
わたしも、あの空の向こうに行ってみたいなあ。
人間の数が減っている?
でたらめでぐちゃぐちゃの思考が、なだれ込んでくる。
物怪のしわざ?
人間の想いが、人間を滅ぼそうとしているの?
いたい。
こわい。
どうして……?
遠い星から船がやって来ました。
彼女たちの姿は、人間に似ているけど、ちょっと違う。
でも、流れてくる気持ちは、変わらない。
はじめて、人間とお話をしました。
ちゃんとおしゃべり出来たかな?
……あれ?
いつの間に、わたし、こんな姿で、声も届くようになったんだろう?
まあいいや。
ダーリン、今夜は、年に一度しか会うことの許されない夫婦のお話をしましょう。
ごめんなさい、ダーリン。
わたし、嘘をつきました。
やっぱり、ひとりは寂しいよぉ。
この気持ちは何だろう?
あたたかい。
「わたし」に向けられた感情?
邪悪な巨人なのに、どうして?
ダーリン、わたしも、愛されていいの?
船が落ちてきました。
ひょっとして、この子、あのとき旅立った……?
帰ってきたんだ!
「おかえりなさい」を言ってあげたいけど、それはわたしの役目じゃない、ですよね。
わたしに出来るのは、送ってあげることだけ。
せめて、彼のもとへ辿り着けますように。
砂浜に、誰か来ている?
車椅子のおじいちゃんと、若い女の子?
でも、この魂の感じは……やっぱりあの人!!
女の子も、見覚えがあります。
――また、会えましたね。




