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良い子と悪い大人のための平成夜伽話  作者: 橘圭郎
第一部 《魂萌え雀》
21/51

存在しなかった風景 二万四千年の旅の果て


 人間という生き物は、わたしにとって特別でした。


 その複雑な気持ち、繊細な感情は、空と水に溶けて、私に流れ込んできます。


 私が「わたし」という意識を持つようになったのも、きっと彼らのおかげなのでしょう。


 大きな石が落ちてきて、恐竜の姿が消えていく様子を私は眺めていましたが、そこにまだ「わたし」は存在していなかったような気がします。




 私は海です。


















 人間の数が多くなるにつれて、私に溶け込む記憶や感情も増えていきます。


 どうやら地上には、わたしと同じようにして生まれたものが沢山いるみたいですね。


 人間の意思から生まれた、人間の想いが凝り固まった存在……物怪?


 同じ姿だったら、お話とかも、できるのかな?

























 試してみたけど、ダメだった。


 わたしの言葉は、彼らには届かないみたい。


 ざんねん。くすん。











































 また、船が星の世界へ旅立ちました。


 いってらっしゃい。


 凄いなあ。


 わたしも、あの空の向こうに行ってみたいなあ。


 

































 人間の数が減っている?


 でたらめでぐちゃぐちゃの思考が、なだれ込んでくる。


 物怪のしわざ?


 人間の想いが、人間を滅ぼそうとしているの?


 いたい。


 こわい。


 どうして……?











































 遠い星から船がやって来ました。


 彼女たちの姿は、人間に似ているけど、ちょっと違う。


 でも、流れてくる気持ちは、変わらない。

 
















































 はじめて、人間とお話をしました。


 ちゃんとおしゃべり出来たかな?


 ……あれ?


 いつの間に、わたし、こんな姿で、声も届くようになったんだろう?










 まあいいや。


 ダーリン、今夜は、年に一度しか会うことの許されない夫婦のお話をしましょう。






































 ごめんなさい、ダーリン。


 わたし、嘘をつきました。


 やっぱり、ひとりは寂しいよぉ。

























 この気持ちは何だろう?


 あたたかい。


 「わたし」に向けられた感情?


 邪悪な巨人なのに、どうして?



























 ダーリン、わたしも、愛されていいの?





























 船が落ちてきました。


 ひょっとして、この子、あのとき旅立った……?




 帰ってきたんだ!


 「おかえりなさい」を言ってあげたいけど、それはわたしの役目じゃない、ですよね。


 わたしに出来るのは、送ってあげることだけ。


 せめて、彼のもとへ辿り着けますように。






































 砂浜に、誰か来ている?


 車椅子のおじいちゃんと、若い女の子?


 でも、この魂の感じは……やっぱりあの人!!


 女の子も、見覚えがあります。




 ――また、会えましたね。


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